第二十一話「シーラのばかあ!」+おまけ
「精霊病から話そうか」
シーラは頷き地面に腰を下ろす。膝の上でルーンルーンディースが横になると微かな寝息を立て始めた。
「稀に魂の結合が強い、主に相性が良い魂が人で言う双子の状態でこの地に生まれることがある。それが人同士なら良い。普通に人の双子として生まれ落ちるからな。だが精霊との双子の場合、精霊は物質世界では契約を経て受肉しない限り肉体は持てず、片割れの精神と結び付いてしまうのだ。その殆どの場合、先に人の方が命を落とす。マナを吸いつくされてな。おおよそ四、五歳程生きれば良い方だろう。もう、識れただろう。我らとラフィーナは繋がっておった」
比翼連理の片方しかない目が憂いて伏せ目がちになった。生まれを同じくし、長年連れ添って生きた半身の死が平気であろうはずがない。
「どうにもならんと知っていても、な」
シーラもいずれそうなる可能性があると聞かされていたが実感出来るものではない。事実、まだ生きているのだ。
フィールスの子であるなら才覚も才能もあった可能性もあるが、十二歳迄生き延びたのはマナの生成能力が人並外れていたのだろう。魔法の才能はともかく、素養もなく、ましてや訓練をしていたわけでもないシーラ自身が何故生き続けているのか、むしろ分からないこそ、恐ろしくもあった。
そしてこの違和感はなんだろう。
「賢いな、嬢よ」
「その通り、貴女の疑問は当然」
「私、何も言ってないのに、なぜ?」
「何故分かるか、という問いなら、その疑問は我らも当然至極に案ずるところだからだ。もう一つの意味なら、勿論、答えは出ておる。が、何故なのかは、我らにも分からん」
「えと、その答えになる理由がわからない、ということでしょうか」
雌雄が頷く。
シーラには、ふと思い当たることがあったが荒唐無稽な上に契約すら終わらせてない自分の浅はかさな推論なんておこがましい。
代わりに質問を投げてみる。
「マナを得られない精霊さんはどうなるのでしょう」
「人が何も食わず生きることが出来ようか」
「精霊さんたちは、その、亡くなると何処に行かれるのでしょうか?」
比翼連理は押し黙った。
嬢は何に気づいておる?
分からないわ。この答えは与えるべきじゃない
ベリアッドの娘、これは双子を超えるかもしれぬ
グランベリアの姫、我らにとっても姫になるやも
「今はこの言葉を預かりおこう。いつになるかわからぬが、もしかしたら嬢の子に返すかもしれぬ」
「それは、予言、ですか?」
「否、予感だ。さあ、いまは嬢、お主のすべきことがあるだろう」
「わ、私、何をすればいいのか、わからないです。何にもできないから」
「知らぬわ、甘えるでない」
シーラは謝罪の言葉を呟き、俯く。
「あなた、言葉が足りなさすぎよ」
「ニンゲンノコトバ ムズカシイ」
「その鳥頭に何を詰めようかしら。シーラ?」
「は、はい」
「うちの人が言いたかったのは」
「シーラのばかあ!」
シーラは固まった。
耳にしたのは、ずっと聞きたかった声。
耳にすれば心落ち着く声。
膝の上のルーンルーンディースを見ると、寝ぼけ眼で欠伸をしている。頬をつつき、あなたのお姫様が来たよと囁く。
妖精をそっと抱き上げ立ち上がる。
振り向くと子供のように泣いているシャイネリアと背を向けて立っているグラディアス。その握られた拳が閉じたり開いたりしている。妹曰く、兄の落ち着かないときの仕草。
「甘える相手は私らじゃなくってよ」
「何をすればよいか?分からぬなら聞けば良い」
シーラは顔上げた。比翼連理に笑顔を見せる。
「はい!えと、えと」
シーラが首を傾げる。
「あれ、お名前、えと、ひよ、ひよこれん、れんこん様!こ、このご恩は、えと、えと、晴らさでおくべきでしょうか?」
「巣に連れて帰るかあ」
「あなた!顔、顔!だらしない!」
比翼連理は飛び立つ。頃合いを見て元の体になり、ひと鳴きすると金属音が鳴り響き、巨大な影は空の月へと姿を消した。
「シーラぁ、ん?ちょっ!ぐほっ!」
勢いよく駆け寄って来るシーラを抱き止めるはずが、抱きつかれた勢いのまま二人は草むらに倒れ込む。
胸に顔を埋めるシーラを見てシャイネリアは困った風に頭を撫でた。胸のあたりがムズムズする。シーラが何か喋ってることに気づき、ほっぺたを両手で挟んで顔を上げさせた。
「ごべんなざい」
「あたしもごめん」
「あのね」
シーラは立ち上がるとシャイネリアを手を引いて起こす。
「わ、私、何も、出来ないし、すぐ泣いちゃうし。二人をすぐ困らせるし。こんな私なのに、なのに。それなのにずっと二人と、皆と一緒に居たいの!」
双子は顔を見合わせ微笑む。シャイネリアはシーラに手を差し伸べた。シーラはその手のひらにおそるおそる手を添えた。
「何度でも言うよ?ぼくらは君の傍に立つ双樹だ。でも僕らは二人だけでは育たないんだよ」
「あなたがちゃんと面倒みないと枯れちゃうわよ?」
「あたしが?」
「ああ」
「ええ」
「あたしでいいの?」
「君がいいんだ」
シーラは思いっきり二人に抱きついた。
「言えたよ、シャイニー」
「ばかね、言わなくても分かるわよ」
「あのね、怖いけど、魂結び、頑張る」
グラディアスは何時になく、本当に微かな変化だがシーラの口調に力強さを感じた。
「死にたくない、のもあるけど。それよりニアに会いたい。早く会わないといけないの」
双子は顔を見合わせる。
「どうしてだい」
「ニアが死んじゃう。彼女は私からマナを受け取ってない」
閑話休題。
翌日。
「ルーンちゃんから、魔法、教わったの!あのね、すっごく可愛い魔法!」
シーラは「ど、動物使い!い、いきます!」と言うと、たどたどしい歌に合わせて同じくたどたどしく踊る。シャイネリアもはしゃぎながらシーラと並び、息もぴったりに合わせてお踊りだした。
「ね?」
シャイネリアも楽しそうに笑うシーラにつられて笑う。
「ルーン自作のダンスと詩ニャ。でも、これ、踊りは必要ないのニャア」
きょとんとしていたシーラの顔が次第に紅潮し、熟れた林檎のような顔色を両手で覆いしゃがみこんだ。
「死にたい」
グラディアスは声を押し殺し顔を背けた。「可愛すぎだ」の小声がシャイネリアには聞こえてしまい、妹が「ニャ?ニャ?」と近づいてくる。
「よ、寄るな!」
「にゃにゃにゃにゃ? ニャにが可愛いのかニャア?」と兄に詰め寄る。
「し、しるか!」
「にゃにがあああぐぼはぁぁ!」シーラに抱きつかれ、体が「く」の字で吹き飛ぶシャイネリアは人外の悲鳴を上げた。
「シャイニャンかわいい!!」
「し、シーラ、シャイニーは、もう、魂抜けてる……」
「シャイにゃああああん!」




