表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
12/57

第十二話「すまない。本になってた」

 カナンは激高するだろうと予測したヴァイケルの顔が、案外慎重な面持ちである事が意外に思えた。王室を覆そうというのだ。剣を王に捧げた騎士ならば、謀叛と聞いて黙っていられる訳がない。カナンは王宮内の離心も想定以上に進んでいることを改めて実感した。


 現在、グランベリアの王位は空位となっている。シーラの父、ベリアッドは公式には妻を娶らず、継承者の血を世に残すことなく崩御した。ベリアッド・ファーングラムは世襲によって即位したわけではなく、一介の軍人であった。

 先々王は戦神と呼ばれたベリアッドをいたく気に入り心酔した。ベリアッドの父が不明である事を理由に、「神に等しい力を持つベリアッドが王族以外の者とは思えない」という歴史上初の王族の養子縁組が組まれた。


 だがそれに不平や不満を溢す者はいなかった。「不敗の戦神」の名は他国に知れ、大いなる盾になることは自明の理だった。


 その偉大なる王が倒れ、慌てふためいた元老院と呼ばれる八人の宰相は大宰相であったファラスを臨時に施政を行う者として司政官に任命した。なにしろベリアッド王の右腕と呼ばれていた男だ、誰よりも先王の思想を受け継いでいるに違いない。


 恐怖と圧政による統治の始まりだった。


 ベリアッド王を神のように敬っていたファラスは、亡き王に恥じぬ力を求めた。国庫に眠る財源を軍に費やし、肥大した軍を維持するために他国にも手を伸ばした。農民に重税と兵役を課し、他国から略取した人々を奴隷とし自国の生産力とした。


 グランベリアは大陸の悪逆国家。周辺国家が連合したのは当然の事であったろう。だが「英雄王の剣」と呼ばれるファラスは、名に恥じぬ程の知略、調略をもって、不敗国家の名を世界に知らしめた。だが既に国内からも声は小さくとも救いを求める声が出始め、不満が募っていく時勢である。


「こんな世だ。だから兄上にも戦ってほしかった!陛下が亡くなる前に何があったというのです!私を王宮から追い出すように蟄居させ、ご自身は姿を消してしまわれた。兄上と私ならばファラスを倒すこと造作もないことなのに!なのに。久方ぶりに姿を現したと思えば……ずいぶんとお幸せになられたようで」

 フィールスはすまなさそうに頭を下げた。

「すまない。本になってた」

「謝ったって!今苦しんでいるのは民たちなのですよ!  我々には彼らを庇護する義務があるんです。それを放棄して本になってた?え、読んでた?どっちでもよいですが、昔の兄上から伺える言葉とは思えませぬ!」

「いや、本当に本になって店先で売られていた」

 イエッタは場の雰囲気から不謹慎だと思いつつ、苦笑した。

「主人の言っている事は本当なの」


 そう言って、事の顛末を初めから話し始めた。

 他人に成り済ます為魔法を発動したところ本に錬成され手違いで書店へと売られてしまう。読書家のイエッタは高価な本を買えず眺めるだけでもと毎晩足げに書店「パープルバロウ」に通う。だがショーウインドウに並べられた勝手にページがめくられる本を完読したその夜、奇跡を垣間見る。

 

双子の子供はその話が好きなようで、椅子から身を乗り出して話を噛みしめるようにうっとりとする。目をつぶってイエッタの話を聞いていたカナンは、聞き終わった後、大きな溜息をついた。


「あなたほどのお方がファラスの手に堕ちるとは」

「賭けだった。ベリアッドの戯言に乗った振りをして王室を去り、ファラスを外から監視するつもりだった。ところが、だ」

「ところが?」

「私達はファラスが玉座を狙っていると思っていた。だがな、それはなかったんだ。奴はベリアッドに心酔していた。いや神聖化していたのだな。そこでほっといても安心だと踏んだんだ」

「なら何故にあなたの術式を組み換えてまで?下手すれば自らの命を落とすほどのリスクなのに」

 魔法の仕組みが分からないヴァイケルとシーラにグラディアスが解説をした。


「本に変身に使われた呪文、メタモルフォーゼはね。精霊魔法ではなく、儀式魔法なんだ。僕らは詠唱を行い、契約した精霊に力を借りて効果を発揮する。言い方は嫌いなんだけどインスタント魔法という奴もいる。即効果が発揮するからね。儀式魔法は準備に数か月かけ、呪文の力を魔法陣に組み込んでいくのさ。これはシーラも知ってる「ライラックの茨の門」通称ゲート、とかね。当然、術者の精霊の力が入るわけなんだけど、インスタントを例えて言うならば手を貸す。だけど儀式魔法は心身削るほどのものなんだ。呪言と精霊によって組まれた術式は、他人が触れれば精霊エネルギーがそのまま自分に還ってくる。全身の痛点を引っぱり出されて切れない鋸で引かれるくらいの痛みだと聞いてるけど、想像も出来ないや。んで大抵精神が壊れる。なのに危険を冒してまで書き換えを行ったんだ」


 フィールスはグラディアスの言葉が終わってから口を開く。

「その辺りは問題ではない。要は私と同位か上位の精霊の力を借りれば、な。恐らくファラスに手を貸している奴がいるのだろう。問題は私の精霊を押さえた理由だ。ここで疑問だ。何故私を本に換えてまで生かす必要があったのか。私が死ねばヴォルケイノとの契約が切れフリーになる。新たなる候補者を擁立して手駒にすればいい。見当もつかない。私自身か精霊か、それとも」

「両方か。どっちにしろ問題じゃないですか。兄上と同位となれば十二大精霊を持つ誰かと敵という事に」

「ああ、そしてそいつが私の術式を利用して精霊を抑えている。当然、そいつも精霊を使えない状態だろうな」


 カナンは椅子にへたり込んだ。ただの上位魔導士のファラス程度ならなんとかできるつもりだった。容易に近づける相手ではないが物理的な障壁、奴を取り巻く軍隊を排除出来ればいいだけの話だ。それは正規軍と称しシーラと共に旗を掲げればよい。正直な話、利用できるものならシーラでも利用する。そこまでの覚悟があった。だが、敵に最上位の魔道師がいるとなると話は別だ。一人なら良い。そうでないなら?


「つまり。これはグランベリアの話だけではない。我々、魔導士界の戦争に成り得るのだ」

「ラグナレクに次ぐ第二次精霊戦争ですか」

 暫く沈黙が続き各々が情報を整理する。


国家間の戦争なら想像は出来る。精霊戦争?益々場違いな世界に踏み入れてしまったとシーラは項垂れる。

 横目で双子を見る。

 二人は退屈しのぎに丸めた紙をぶつけ合っていた。危うく吹き出しそうになり、自分の二の腕をこっそりつまんで耐え忍んだ。二人には未来より今が大事なのだろう。

 たぶん。


「ファラスの背後に誰が?」

「分からない。我々は普段、交流を持たぬからな」

 それまで押し黙っていたヴァイケルが口を開いた。

「話を聞いていただけで頭痛がする。が、なんとなく分かる。要は司政…ファラスの背後に誰かいて、そいつらがこの国を蝕んでいる、って事なのか?そしてそいつも魔法…を使うと」

「大凡は合っている」

「二十年前にヨグという男が仕官された」

 目を伏せていたカナンがふと頭を上げた。

「ああ。そいつなら私も知っている。うだつの上がらない男だった。ただ根回しが上手くてあっという間に出世したな」

「そのヨグは今や元老院を取り仕切る大宰相だ」

「おかしな話だな。元老院は殆ど世襲なのに。だがあいつに精霊の匂いはなかった」

 グラディアスがびくりとした。左頬についた傷のなぞる。

 フィールスもそれを見て気付いた。

「空虚の精霊使いか。唯一存在を悟られないとしたら、奴しかいない」

「存在を喰らう精霊?あれは我々の世界でもお伽噺では?」

「我が愚息を見て欲しい。これでもロータスを使う」

 カナンはグラディアスを見て感心した。流石はフィールスの血、この若さで十二大精霊とは。

「あ、あたしだって!」

 取り残された感があったシャイネリアは慌てて父親に視線を送った。自分から言うのは自慢になりそうで嫌なのだなと、父親は察し、

「娘は四兄弟の精霊たちを使う」

「ああ、それは見ましたが…酒好きな連中のようで」

「ち、ちがうの!」

 フィールスは笑い、娘を手で制した。

「実はその精霊たちとは契約を交わしていない」

「ばかな!」

 思わず声に出た。それは有り得ない事なのだ。契約しなければ人の話など聞くような相手ではない。精霊はかねてより人を避ける。人と契約するのは、より高位の存在へと昇華するためのマナを得る為だ。

「彼らは友達なの!」

「まさか、そんな人間が存在するなんて」

「ち、珍獣を見るような目で見ないでください……」

「契約する精霊は、風の王エーンヴァルー」

「契約じゃなくて、ヴァルはお友達です!」

 なるほど。風の精霊達に愛されているのはそう云うわけか、とカナンは納得した。

「つまりは、だ。ロータスを使っていたにも拘らず、それに追いつき痛手を与える事が出来る魔導師は同じ十二精霊でも、距離すら喰らう空虚『ローグ』しか考えられないのだ」

 ロータスは光の精霊で最速を誇る。それに追いつける精霊は存在しない。だが全てを喰らうローグにとって空間すら障害にはならない。

「兄上のヴォルケイノ。私のアスロティア。ロータスにエーンヴァルー」

「四柱はここにいる。敵は最悪で八柱。だが、お互い相殺しているから、それぞれ一柱は引かれる事になる。それとローグは確定で敵だろう」


「あー。シーラ様のニアもいるよ」

 グラディアスの言葉に慌ててシーラが口を挟んだ。

「わたしは精霊なんて…魔法もちんぷんかんぷんで…教えてもらってもちゃんと出来るかどうかなんて。でもでも、それを使って人を…傷つけるなんて…」

 フィールスはグラディアスを見た。

「そうなんだよ。ロータスがニアが傍にいるのを見たって」


 フィールスは懐かしい名に目を潤ませた。

「そうか。ニアがまだいるのか。安心しなさい。その精霊は一番優しい精霊だ。人を傷つける力なんてない。守護の精霊なんだよ。ベリアッドが神懸かりの強さを見せていたのは他でもないニアが守っていたからなんだ。もちろんあいつは元から人外の強さだったがね。最強の剣が最堅の楯を持っていたようなものだ」

「そう……なんですか」

 見えない精霊を探すように辺りを見回す。だがやはり姿は見えず、少し寂しくなった。

「シーラ。明日からシャイニーから精霊語を習いなさい。君さえよければ、だが」

「うんうん。私が一番適任だし!」

 グラディアスは妹に舌を出されて「なんだよ」とだけ言って決まりが悪そうに余所を見た。

「私は、今出来ることをやりたいと思います。いえ、やらせて下さい」

 シャイネリアはシーラの手を取って引っ張り上げた。

「早速、行きましょう!私の部屋でね!あーん、夢だったの!妹とベッドでなんか語り合うのって!」

 シーラの返事も待たずにシャイネリアは呪文を唱えた。二人は宙に浮き、風にふわりと吹かれたかと思うと、突風にさらわれた。シャイネリアの笑い声と、シーラの悲鳴が徐々に消えていった。


ブログ掲載時から加筆し推敲してますが、書き始めた当初より方向性変えたため辻褄が合っておらず齟齬が出ている次第であります。にも関わらず読んでいただけてる事に感謝に絶えません。誠にありがとう御座います。

 完結までノープラン、ノープロットで楽しんで書いていきますのでお暇なときにでもお読み頂けるように、プチプチ潰すよりは暇つぶしができるマシなものが書けるよう精進していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ