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ドリーと冬の夜のうたうたい

作者: 笹ノ葉

企画のためだけに、かいたやつ。

ぶつぎり状態に終わってます……。


テーマにちなんで、流れ星のお話。

 




☆☆


『こんいろじゅうたん およいでみよう。



すいすい すいすい遠くまで。


ずうっと ずうっと果てまでも。



ぴかぴかひかる 河の方へ。キラキラ まばゆい星の水辺へ。


さあ すすんでいきましょう!


迷うことのないように!



ひだりへ みぎへ まっすぐと!


くらいおそらに あんなにかがやくところまで!


大丈夫 仲間たちがみているよ。


お月さまもみているさ。』






 ーーどこからきこえてくるのだろう。



 リズミカルに歌う声。

楽しげに、けれどもどこか寂しい音色が真夜中の町に響いていた。

みんなはとうに寝静まり、町の灯も全てが消えているのに。



ーー誰が歌っているのだろう。



 黄色い隊服を着たオモチャの兵隊を動かしていた手を止め、ドリーは急いでカーテンを開けた。

 2階にある自分の窓から町の様子をじっくりと見渡すように、窓に張り付いて、ガラスごしの町を食い入るようにみつめる。



ーーあれ?誰もいないや。


 こんなに賑やかにきこえてくるのに、ドリーの目に映るのは黒色に塗りつぶされた、いつもの見なれた静かな町。


 いつもとちがうことと言えば道路や地面には、今日のお昼に降った雪が積もっていて真っ白に染まっているくらいなもので。

けんめいにさがしてみても、不思議なことに、ひとっこひとりいやしない。


 けれどもドリーの耳にはきこえてくる。

軽快な音楽とリズムの良いこの歌が。


 ドリーは気になった。

とても、とても気になった。



『こんいろじゅうたん およいでみよう。



すいすい すいすい遠くまで。


ずうっと ずうっと果てまでも。



ぴかぴかひかる 河の方へ。キラキラ まばゆい星の水辺へ。



たどりつくまでは かえれない。


たどりつくまえには もどれない。


さあ すすんでいきましょう!


まようことはないように!



ひだりへ みぎへ まっすぐと。』



 ぴぃ、ぴぃ、ぴぃたらりらら。

 ほぅ、ほぅ、ほぅりろりろろ。


 いつの間にか、体がリズムをきざみ、複数の歌声とともにドリーらつられるように歌い出した。



「すいすい、すいすいとおくまで……ずうっと、ずうっととおくまで!」



 少しズレてしまっても、気にしないで小声で歌う。

怖さなんてふきとんで、ドリーは楽しくなってきた。



 ドリーは歌が好きなのだ。

ーー学校の友達にはいえないけれど!


 ドリーは歌が好きだった。

ーー《軟弱者》と言われたけれど!



 彼が通う学校は年長組以上しか音楽の授業がないところ。

だから年少組のドリーは音楽の授業をしたことがないのだ。

 年長組の音楽の授業は、ドリーの目にはキラキラ光って見えていた。

 冬の休みで学校がないので、テレビで流れる音楽の番組をかじりつくように見ていたけど、まだドリーには全然みたりない。


 明日はどのテレビ番組を見よう?

それとも動画で見ようかな。

 夜寝る時間がなんだかもったいなくて、今日みたいにお父さんやお母さん、弟がぐっすりとねむっている真夜中に明日への思いをはせている。



 5歳の誕生日にお父さんがドリーにプレゼントしてくれた、お気に入りの黄色いブリキの兵隊と一緒に考えていたら、ワクワクしてしまって目がぱっちりと開きとんと眠れなくなるのだ。

明け方からお昼前まで寝て、お母さんに起こされたら家のお手伝いをして、それから直ぐにテレビや動画に夢中になって……。



 ドリーは学校が休みになった翌日からそんな日々を過ごしていたけれどら真夜中に歌が聞こえてくるなんて日は今までに一度も体験したことはなかったのだ。




 ーーああ、なんだろう!なんだろう!?


 怖さなんてもはや少しもないドリーは必死に外へと耳を傾ける。


 ぽぅ、ぽぅ、ぽぅぴろれろろ。

 ちろ、ちろ、ちれらろりれれ。



『ひだりへ みぎへ まっすぐと!


あっちへ こっちへ ななめへと!』



 ぴぃ、ぴぃ、ぴぃたらりらら……

 ほぅ、ほぅほぅりろりろろ……


 ゆっくりとリズムが遠くなる。

少しずつ歌が遠ざかり、ちょっとずつ音楽が小さくなっていくのがしばらく聞いていたドリーには分かった。

 今はまだ聞こえてくるけれど、さっきよりも歌声が遠いのが、ドリーにはわかってしまった。



「ああ、まだききたいのに。だれがうたっているのか、わからないのに!」


 ーーこのままじゃあ、うたがとおくにいってしまうよ!


 居てもたってもいられなくなり、クローゼットに掛けてある、ふわふわジャケットと帽子をつかみ、大慌てでドリーは着替えた。


 そおっと扉を開け、寝ている皆が起きないようゆっくり、ゆっくりと階段を降りる。

玄関の前でかがむと、にゃあと鳴くたれ耳がチャーミングな小さい家族専用の玄関がある。


 玄関と言ってもドアノブのないたてよこ程のただのアルミ板。

買ったばかりの青い長ぐつをはいて、ドリーは頭と体を小さく折り曲げながら、地面を這って前に進み小さな玄関の外に出た。



「ふう、この玄関やっぱり、ススキちゃんには大きいや。」


 リビングの定位置で遊んでいるか、寝ているであろう子猫のススキちゃんが家に初めて来たときに、お父さんが張り切って作った玄関だけど、小柄なドリーくらいの人間の子供ならばギリギリ通れてしまう。


 お母さんもドリーも見たとき、ススキちゃんには大きいなぁと思ったけれど、お父さんがとても嬉しそうだから、2人は言わないことにした。

いまだに玄関はこのままだ。



 立ち上がったドリーは、地面についたときに、雪に触れた手をジャケットではらう。



『こら、服はタオルじゃないのよ!』

とお母さんに怒られたのを思い出したけれど、あの歌が部屋で聞いたときよりも大きく!はっきり聞こえてきたのが嬉しくなり、すっかりドリーの頭からは抜けてしまっていた。



 ……ぴぃ、ぴぃ、ぴぃたらりらら。


 ……ほぅ、ほぅ、ほぅりろりろろ。



 ドリーが思っていた通りに、あの軽快で不思議な音楽はどんどんと遠ざかっているようだった。



「あ、あっちのほうからきこえる!」


 しん、と静まるドリーの町を音楽が通り過ぎるのだろうか。

音楽とともに聞こえる歌声が、町の入り口にあたる東の森の方角に向かっていくのがドリーには分かった。



 歌を追いかけて、ドリーは走った。


 ざくざく ざくざく。


 雪をふむたびに音がなる。


 ざくざく ざくざく。



 知らずリズムを刻みながら、ドリーは町をかけぬける。


 ーーはやく、はやく!おいつかないと!


 なにかにつき動かされるように、いっしょうけんめい、過ぎ去る歌をおいかけた。

 真夜中に家をぬけだすなんて、お母さんが聞いたらとんでもなく怒るだろう!


 クラスの斜め前の席問題児と呼ばれているデュークたちがされたような、こわいこわいお仕置きをされるかも!


 ……けれど、今のドリーは気にもとめないのだ。

夕方になると、とたんに不気味になる森に入ってしまっても怖くもなんともない。


 ただ、ただ、不思議な歌をおいかけていく。

そう、今のドリーには“歌声と音楽の元に辿り着き、間近で聴く”ことに夢中になっているのだ。


 白い息をもくもく、吐きながら森の奥へとしばらく進んでいると、いつの間にかたくさん聞こえていた歌声は減っていき、音楽ははるか遠くへ行ったのか、小さく小さくなって。


 しまいには、ドリーの耳には聞こえなくなってしまっていた。

歌っていただれかは、もうどこか遠くに行ってしまったのだとあきらめて足を止めようとしたけれど、ドリーはふと気づく。



 ーー歌がまだきこえる!


 初めて聞いたときよりも、声はずっとずっと小さくて。ずっとずっと少ないけれど。

たしかに、まだ聞こえてくる。


 足を速めたドリーは、今度は歌が近づいていることに気づいて、そこへといきおい良く飛び出した。


「はあ、はあ。おいついた!」


 ドリーがとびたしたそこは、開けた場所だった。

青白い月の光がふりそそぎ、真っ白な雪が反射して、この場所を照らしている。


 それにすごく明るい電球が置かれてあって、あまりのまぶしさにドリーは思わず目をそらした。


「わあ!まぶしい!どうしてこんなとこにライトが?」


 ドリーが思わずつぶやくと光がさっきよりも強くなった。


一段と強く光った後に、光は見つけたときよりも小さくなって、ドリーか見つめられるくらいな明るさになった。




「ダぁれ?」


 ドリーじゃない、だれかの声がきこえた。辺りを見回してみても、ドリー以外はいない。

他には小さくなった光があるだけだ。

 じっと目を凝らして光を見ると、どうやらふわりと空中に浮いている。

周りの雪は、降ったばかりのようにあとなどてんで見当たらない。


「もしかして、今きみがしゃべったの?」


 ドリーがライトでもない不思議な光に話しかけると、光が強弱をつけながらドリーへと近づいてきた。


 光りかがやくそれは、近くでみると、とんがりがいくつもついているとうめいなガラス玉のようなモノだった。


「そうだよ、ねえ、キミだぁレ?」


 言葉が返ってきたことにとてもドリーはおどろいた。

不思議な光はドリーのまわりをくるくる飛びまわる。

 こちらのことに興味があるようだ。

ねえ、ねえ、といいながらくるくるまわる。


「ぼ、ぼくはドリー。ドリー·ノロン、西シーダのまちからきたんだ!きみは?どこからきたの?」


 ドキドキしながらも、ドリーも不思議な光に興味をかくせない。

くるりとまわる光のガラス玉はなぜだかとても温かく、ドリーのまわりだけのひえきった空気を暖めている。


「ドリー、いい名前だねドリー!


ボクにもいい名前がついているのサ!一番星サマからつけてくださったとってもいい名前がね。


……でも、ながくておぼえられないんダ。

だから、ボクのことはリシューってよんで!夜空の西国からボクたちはやってきたのさ」




 ドリーの自己紹介に不思議な光、リシュー同じようにこたえてくれた。

「うん、わかったリシュー。ねえ、リシューはお空からきたの?もしかして……お星さまなの?」


「お空に住んでいるボクらをそう呼ばれることもあるよ。そういうドリー、君はもしかしてニンゲンかい?」


 そうだよとドリーがいうと、嬉しそうにリシューがとつぜんはね回った。


「やっぱり!!そうだと思った。ニンげんはボクラのことを〈お星さま〉と言うんだって、お月さまがいっていたとおりだ。

ところでドリー、君はどうしてこの森にきたの?ニンゲンは夜になると皆眠りについてしまうのに」


 はね回るリシューの言葉に、ドリーはここに来た理由をはなした。

とつぜん真夜中に聴こえてきた歌を、追いかけてきたのだと。



「どうしてもきになったんだ。お母さんたちに怒られちゃうけど、もっとあの歌をききたくて。ねえ、リシューは知ってる?むこうにいってしまった、その不思議な歌のこと」


 ドリーのはなしに、リシューの光がいちだんとつよくなった。




「もしかしてその歌は、こんな感じではなかった?」


 そういうとリシューの白い光が、青や赤、黄色に緑と、ころころ色が変わりだす。

 そして、なんと不思議なことに楽器の音色のような音が、リシューの星のような体からながれだした。



『こんいろじゅうたん およいでみよう。


すいすい すいすい 遠くまで。


ずうっと ずうっと 果てまでも。



きらきら光る 河の方へ……』



「ああ!そう、その歌!その歌だよ!」



 音楽はとっても小さくて、鳴っている音は少ないけれど、部屋で聞いたあの歌そのものだった。


 ドリーは思わず光るリシューをつかんだ。

いきなりつかんできたのにおどろいてしまいリシューは歌をぴたり、とめた。



「わわっ、びっくりした」


「あ、ごめんね!うれしくて……でも、その歌しってるの?」



 ドリーは手袋をしている手をでつかんでたリシューをはなした。

大丈夫だよとリシューがドリーにふわり近づいた。



「ええとね、この歌は、ボクらが旅をするときの歌なんだ!空から空へ飛びながらこの歌を歌い続けるのさ。旅をするときには毎回、旅が終わるまで歌うんだ。

だから今夜も皆と歌っていたんだけど、君にも聞こえていたんだね!」


「とってもいい音楽だね!きらきらしてて、うっとりするよ。

ぼくこれ好きになっちゃったみたい。これ、なんていう名前なの?おしえてほしいなぁ」


 冬の真夜中に聴こえていた不思議な音楽はリシューたちの旅の歌なのだと分かり、ドリーはとってもうれしくなった。



 ーージャズでもポップスでもない、お星さまの歌だったんだ!


 なんだか、ドリーはなっとくした。

どうにも、現実味がないくらいに美しく、すばらしい歌にきこえたから。

やっぱり、普通の歌ではない特別なモノなのだとドリーは確信した。


「この歌のことを〈月へのあいさつ〉ってボクらは呼んでいるよ。

ああ、うれしいな!ボクらの歌がニンゲンの君にも届いたなんて、とってもステキじゃないか!」


「お星さまの歌。ぼくにも教えてほしいんだ!……だめかな?」


 どきどきしながら、恐る恐るドリーはリシューにきいてみた。

この歌を、この感動をわすれないように覚えていたいと思ったのだ。


「もちろん、こんな夜中に家を抜けだしてまで、追いかけて来てくれたんだもの!きっとお月さまも一番星さまも許してくださるなは違いないよ。

 歌はね、歌って覚えるのがいいのさ!さあ、ボクと一緒に歌いましょう!」


 そう言い終わると、リシューからまた音楽が流れはじめて、さっきみたいにカラフルに光りだす。



 ぴぃ、ぴぃ、ぴぃ たりららろ。


 ほぅ、ほぅ、ほぅ りろりろれろろ。



『こんいろじゅうたん およいでみよう。



すいすい すいすい遠くまで。


ずうっと ずうっと果てまでも。



ぴかぴかひかる 河の方へ。


キラキラ まばゆい星の水辺へ。



さあ すすんでいきましょう!


迷うことのないように!



ひだりへ みぎへ まっすぐと!


くらいおそらに あんなにかがやくところまで!


大丈夫 仲間たちがみているよ。


お月さまもみているさ。



こんいろじゅうたん およいでみよう。



すいすい すいすい遠くまで。


ずうっと ずうっと果てまでも。



ぴかぴかひかる 河の方へ。


キラキラ まばゆい星の水辺へ。



たどりつくまでは かえれない。


たどりつくまえには もどれない。



さあ すすんでいきましょう!


まようことはないように!



ひだりへ みぎへ まっすぐと。


あっちへ こっちへ ななめへと。



にじいろ かがやく 河をわたり


千里をおよぎ さいはての国へといたるまで!



すいすい 遠くまで。


ずうっと ずうっと果てまでも。』




 ぴぃ、ぴぃ、ぴぃ ろりろろ。


 ほぅ、ほぅ、ほぅ れれろるる。







 軽快な音楽と不思議なリズムに乗って、ひとりと1つ星が歌う。

つたないリズムで楽しそうに歌っている、真夜中のうたうたいらを、月だけがひっそりとみつめていた。




 いつまでも、歌う彼らを。


 いつまでも、いつまでも。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] 歌声を追いかけて。 何となく宮沢賢治を連想しました。 楽しく読ませていただきました。
2022/01/21 19:42 退会済み
管理
[良い点] 面白かったです。 願いをかなえてもらうのではなく、歌を教わるというのは斬新ですね。
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