第三十二話 二人からのお手紙
私がAランク冒険者となり、様々な依頼をこなし始めてから早くも三ヶ月程経ち、もうレインとアリアがいない生活にも慣れてきました。
朝起きてから朝ご飯を食べ、今日も冒険者ギルドへ行こうと思っていると、リビングの窓をコンコンと叩く音がしました。
「ん?なんでしょう、もしかして学園の使い魔ですかね?」
窓を開けると、そこには受験票などを持ってきてくれた時と同じ鳥が口に封筒を挟んでおり、私に気付くとその場に封筒を置きペコリと頭を下げました。
「あぁ、やっぱりそうでしたね、運んでくれてありがとうございます」
「ヒュゥイ!」
私がお礼を言うと大きく一鳴きし飛び去っていきました。届けてもらった封筒を見ると、案の定ガルレール学園からのもので、母さんへと書かれていました。
「!まさか、二人からの手紙でですか!ふふっ、どんな内容なんですかね?」
封筒の中から折られた手紙を取りそれを広げて読みます。一枚目はレインが手紙を書いており、二枚目の方はアリアが書いていました。自分の子どもからの手紙に思わずワクワクしてしまいます。
『母さんへ
母さんは元気にしていますか?俺たちは毎日学園で元気に過ごしています。同年代の子たちと同じことをして学んでいくのはとても新鮮で楽しいです。アリアなんかは毎日元気過ぎるくらい元気で、良い意味でも悪い意味でもクラスの中心的存在になっています。
俺たちSクラスは優秀な人たちが集まったクラスだそうで殆どの人が貴族で、平民の人は少ないですが、仲良くしてくれる人が多いです。中でも、マークという子とはとても仲良くしています。今度の長期休みで母さんにお願いと言うか伝言があるのですが、それはアリアの方で伝えます。母さんに会えるのを楽しみしています。
レインより』
レインは学園の方で楽しく過ごせているようです。それを聞いて私はどこかホッとし、レインからの手紙から目を離し、今度はアリアの手紙を読みます。
『お母さんへ
お母さんは元気にしてますか?私とレインはとても元気です。クラスに入ってから毎日が早く過ぎていって、皆んなと一緒に過ごすのがすごく楽しいです。魔法の授業なんかはほとんどお母さんから教えてもらったのが多かったので、特に困ることはありませんでした。
クラスの全員に話しかけたけど、何人かはまともに口を聞いてくれませんでした。でも、その中でエレーナちゃんは違って私ととても仲良くしてくれます。エレーナちゃんはこの国の王女様で入試成績が私の次だったらしいです。
それで、今度の長期休みなんだけど、エレーナちゃんのお母さんが、お母さんに会いたいって言っているらしいので、休みになったらガルレール学園まで来てください。そこから案内してくれるって言ってました。久しぶりにお母さんに会えるのを楽しみにしています
アリアより』
「........」
アリアの手紙は、最初の方は微笑ましくて笑いながら読んでいましたが、最後の内容で一気に固まってしまいました。見間違いだと思い何度も読み返してみますが、もちろん内容が変わる事はなく同じ事が書いてあります。
アリアが言うエレーナちゃんとはアリアたちと同い年の第三王女様で間違いありません。そして、そのお母さんが呼んでいる....つまりこの国の王妃様が私と会いたいと言っているということです。
「な、なんでですか!?自分の娘と仲のいい子の母親を見たいからですか、それとも二人が首席と次席を取っているからそれについての文句とか.....全く予想がつきません」
しばらくの間、家の中をうろうろしながら理由を考えましが、何も思い当たるものがなかったため諦めて割り切る事にしました。
「まぁ、分からないものを考えてもしょうがないですし、先に出来ることをやりましょうか、何か手土産が必要ですよね.....王妃様が喜びそうなもの、あれにしましょうかね」
私はアイテムボックスからエリクサーを取り出して、それを比較的綺麗な箱に何個か詰めて、アイテムボックスではなくいつも使ってるのとは違うアイテム袋に入れます。
エリクサーはどんな怪我でも瞬時に治す事ができ、怪我をしてすぐなら欠損部位も治すことが出来ます。他にも、化粧水のように肌に塗るとお肌が綺麗になったりと女性には嬉しい効果があります。
「持ってくものはこれでいいですね、後は着ていく服ですか.....昔着ていたものを出しましょう、王妃様の前に出るのなら下手なものは着られませんからね」
服もアイテムボックスから何着か取り出し、時間を掛けて選んでいきました。前世では、女性が服を選ぶのになぜそんなに時間が掛かるのか分かりませんでしたが、今なら理解する事が出来ます。
ある程度今出来るうちに準備を終わらせて、その日は冒険者ギルドに行かずに終わってしまいました。
ガルレール学園が長期休みに入るまで後一週間ほどありますが、今から不安です。
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それから一週間が経ち、ガルレール学園の長期休みの日になりました。
私はいつもよりも早く起きて準備をし、レイン達に会う用意をします。それから用意を終わらせて持っていくもの、服装をチェックし、家を出て王都へと向かいます。
王都へと着きそのまま学園に行きます。学園に着いて、しばらく校門の前で待っていると、数ヶ月ぶりとなる我が子の声がしました。
「母さん!」
「お母さん!」
声のした方は顔を向けると、レインとアリアが笑いながら手を振って走ってきました。その姿を見て私は自然と笑顔となり、手を広げて走ってきた二人を受け止めます。受け止めた時に、別れた時と比べて微かに大きくなっていることを肌で感じ、感慨深い気持ちになりました。
「ふふっ、レイン、アリアお久しぶりです。元気そうで安心しました」
「母さんも元気そうでよかったよ、俺たちちょっと心配してたんだよね」
「そうそう、私たちがいなくなってお母さん寂しくしてないかな〜って」
「もう、たしかに寂しかったのは事実ですが、それでダメになってしまうお母さんではないですよ」
「えへへ、お母さんの匂いやっぱり落ち着く....」
「アリア、一応ここ学園の前だよ?」
アリアが私の腕の中で顔を埋め、顔を少し擦りながら匂いを嗅いでいると、横にいたレインに注意されていました。そして、お互いに再会を喜んでいると横から二人とは違う、少し芯のある声がしました。
「あの、お話中すみません、迎えの馬車が来ているのでいいでしょうか?」
そこにいたのは、どこかで見たことのある薄い紫色の髪を持った、レインたちと同じくらいのとても綺麗な女の子でした。
「あ、はい、大丈夫ですよ。もしかして、あなたは....」
「はい、アリアやレインと同じクラスのリゼミア王国第三王女、エレーナ・リゼミアと申します。いつも二人にはお世話になっています。今日は母の我儘を聞いてくださりありがとうございます。私もお会い出来るのを楽しみにしていました」
「ご丁寧にありがとうございます、私はレインとアリアの母のシェリアと言います。こちらこそ二人がお世話になっています。今日はよろしくお願いしますね、エレーナちゃん」
エレーナちゃんがとても丁寧に挨拶をしてきたので、私もそれならって丁寧な挨拶をしました。エレーナちゃんはとても落ち着いていて、アリアとは全く逆の印象を受けます。
「お〜い!ちょっと待てよ三人とも!俺を置いていくな!」
「あ、マークのこと完全に忘れてたわ、ごめんなさい」
「忘れてたって.....少し離れたら全員いなかったから探したんだぞ!見つかったからよかったけどさぁ」
私がエレーナちゃんに挨拶をすると、学園の方から赤髪の男の子が走ってきてエレーナちゃんの前で止まり、何やら文句を言い始めました。マークと呼ばれたこの子は、おそらくレインの手紙に書いてあった友達で間違いないでしょう。
マーク君とも挨拶をするために二人の会話に少し割り込む形で入ります。
「あの、もしかしてあなたがマーク君ですか?」
「え?誰.....あぁ!レインのお母さんか!初めまして、俺の名前はマーク・ミルドリッヒ!これからよろしく頼む!」
「えぇ、よろしくお願いします。私は二人の母親のシェリアと言います」
「いや〜レインはまだしもアリアのお母さんとは思えないな、なんというか気品が違う」
「マーク....あまりそういうこと言うものじゃないわよ?」
「そうだそうだ!私はちゃんとお母さんの子どもだよ!」
「あ〜あ、アリアにそれは言っちゃいけないよ、マーク」
「え、ちょ、ごめんって俺が悪かったよ!」
もう私を置いて四人で楽しそうに会話している姿を見て、ずっと見ていたい気持ちになりましたが、そういうわけにもいかないため私が四人に声を掛けます。
「はいはい、そこまでにしましょうね。話すのはいいですが、もう馬車が来ているのでしょう?」
「そうでした、もう迎えの馬車がもう来ているので行きましょう、こっちです」
エレーナちゃんに案内してもらい五人で少し道を歩くと、豪華な高級そうな馬車が置いてあり、執事のような方が馬車の前で綺麗に立っていました。
「ジョセフ、待たせたわ、もう出発出来るかしら?」
「勿論でございます、エレーナ様。皆様、どうぞ馬車にご乗車ください」
ジョセフさんがそう言うと、エレーナちゃんがまず馬車に乗り、その次にアリア、マーク君、レインと続いていき、残りは私だけになりました。
「あなたがシェリア様ですね、お待ちしておりました。私執事をしております、ジョセフと申します。どうぞよろしくお願いします」
「はい、初めまして、シェリアです。今日はよろしくお願いします」
「王妃様もあなたと会えることを心待ちにしておりましたよ」
「あはは、なぜ王妃様が私と会いたいのか分からないのですがね.....」
「それは、私の口からは言えないのです。王妃様に黙っておくよう言われたものですから」
「そ、そうなんですね」
ジョセフさんと軽く挨拶をして話してから私も馬車に乗ります。これから王宮に向かい王妃様とお会いしますが、まったく予想もつかず不安ばかりです。
私も、横で楽しそうに話している四人のように気楽に行きたいものです。




