第二十七話 入学準備 後編
「制服はこのお店ですね、とても大きいお店ですね。なんというか貴族用という感じがします」
「ほんとだね、でも前にもこんな見た目のお店入ったことあるけどね」
「あぁ、あったねそんなこと。あの時は緊張したな〜」
「ふふ、これからもこういう所に沢山来るかもしれませんよ」
目の前の建物はルクスの街で寄った服屋よりも大きく、中も少し豪華な装飾で彩られていました。看板を見るとお洒落なフォントで『フェルゴール』と書かれていました。それは二人が今着ている服と同じ、私たちがよく利用するお店の名前と一緒でした。
「フェルゴール、ですか。ルクスの街にもありましたね、もしかしてここが本店なのでしょうか?」
「フェルゴールっていつも行ってるとこの?」
「王都に本店があったんだな、道理であの店が高い訳だよ」
「え、あれは高いのでしょうか?」
「はぁ、ずっと思ってたけど母さんの金銭感覚っておかしいよね」
「うん、それは私もそう思うよ.....」
あの金額が高いのかどうか疑問に思っていると二人から呆れられてしまいました。物価は基本的に確認はしていたのですが、前の感覚が全く抜けていないようです。
二人の視線から逸らしながらお店の中に入ります。カジュアルな服からドレスのようなものまで、さまざまな種類の服があり、色々と目移りしてしまいます。
「いらっしゃいませ、本日はどうされましたか?」
早速女性の店員さんに話しかけられたので、来た目的を簡潔に話します。
「今日はこの子たちのために、ガルレール学園の制服を用意してもらいたいのです。お願いできますか?」
「ガルレール学園に....合格おめでとうございます。ただいま用意をさせていただきます、採寸を行いたいのですがお子様を預からせてもらっても大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ありません。レイン、アリア私は外で待っていますから終わったら呼んでください」
「は〜い」
「わかったよ」
二人はしっかりと返事をしてから採寸をしに行きました。私は特にすることはないのでなにをしようかと思っていると先程の店員さんがこちらに来て言いました。
「よろしければお母様も服を選んではどうでしょうか?入学式に出るのでしたらなにかご用意しますよ」
「え、私の服....ですか?そうですね、でしたらお願いできますか?」
私は現在持っている服で入学式に行こうと思っていたのですが、せっかくなら新しい服で二人の晴れ舞台を見たいと思いお願いする事にしました。
「畏まりました。それでは採寸を行いますのでお母様もどうぞこちらへ、お子様は別の者が測っておりますので、お母様は私が測らせていただきます」
店員さんの後に続く形で私もお店の奥に行き、レインたちはいなかったですが少し広めの試着室に入りました。中に入ると店員さんがメジャーを持っていたので測る前に聞きました。
「今着ている服は脱いだ方がいいでしょうか?」
「いえ、着たままで構いませんが、そのローブは脱いでくださると助かります」
「分かりました、今脱ぎますね」
言われた通りフードを取りローブを脱ぎます。それから脱いだローブを綺麗に畳んでから近くに置き、店員さんの方を向きました。
「はい、脱ぎました。あの、大丈夫ですか?」
「え.....あぁ!大丈夫です、すみませんとても綺麗な方だったもので、今測りますね」
固まっていた店員さんは私に声をかけられてから動き出し、メジャーを使って私の腰まわりと胸まわりを測りました。
すると何故か急に下を向きブツブツと呟き始めました。
「腰まわりはこんなに細いのに、胸まわりはすごく大きい.....同じ女として羨ましすぎるっ!私はこんななのにっ」
「........」
今のは聞かなかったことにしました。確かに彼女の胸は平均的に見ても小さい気がしますが.....
「それでは、採寸が終わりましたのでサイズが合う服をお持ちいたしますね」
「は、はい、お願いします....」
店員さんはそのまま店の中へと行き、しばらくしてから服を両手に何着か持って、こちらに戻ってきました。
「お母様のサイズですとこの辺りの服になるのですが、お気に召すものはありますでしょうか?」
「そうですね.....と言っても主役はあくまでも子どもたちですからあまり目立つものはダメですよね」
「それでしたらこちらなんていかがでしょう?目立つ色でもありませんし、お母様にとても似合うと思いますよ」
そう言って彼女が手に取ったのは、薄い灰色のワンピースで腰の部分を布で締めるタイプのものでした。私は早速そのワンピースを受け取り、その場でそれを着ました。
鏡で見ると変に目立つこともなく私にも似合うものだったため、私はこれにする事を決めました。
「いいですね、気に入りました。これでお願いします」
「畏まりました。では、こちらを準備しますので隣の試着室へ行ってください、お子様がいるはずですので」
「分かりました、ありがとうございます」
レインとアリアが隣にいると言われたので、着替えてから隣の試着室へと向かいました。私が試着室に入ると二人はちょうど試着をしているところで、鏡で姿を確認していました。
「レイン、アリアどうですか?ちゃんと着られましたか?」
「あ、お母さん!見て見て、どう?」
「アリア、急にそんなに動いちゃダメだよ」
私に気付いたアリアがこちらまで来て、その場でくるりと回り、そんなアリアをレインが注意していました。
二人は黒色のワイシャツの上から白色のブレザーを着て、下は白色のズボンとスカートでした。これからを見越してなのか少し大きめのものを着ていて、二人ともとても似合っていました。
「二人とも、とても似合っていますよ。なんだかいつもとは違う雰囲気を感じますね」
「えへへ、そうかな〜」
「これ着るとなんか意識が変わる感じがするよ」
「お二人のサイズも測り、ご覧の通り試着もしているので、あとはお母様の確認だけなのですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、問題ないです。用意してくださりありがとうございます」
「いえいえ、これが仕事ですから。お二人とも制服を脱いで私に渡してくださいね」
それから、レインとアリアは制服を脱ぎそれを受け取った店員さんは別の場所へと行ったので、私たちもお店の元の場所に戻りました。
「そういえば、隣から母さんの声が聞こえたけど、母さんも何か買ってたの?」
「そうですよ、二人の入学式に行く際の服を買わないかと言われたので、私もサイズを測ってたんですよ」
「え!お母さんも?どんな服を買ったの?」
「あまり目立たない薄い灰色のワンピースですよ、あなたたちが主役なのですから」
「私もお母さんの姿見たかったな〜」
「どうせ入学式の時に見れるから大丈夫だよ」
しばらく話しながら待っていると、先程私の服を用意してくれた店員さんが制服とワンピースを持ってやって来ました。
「お待たせいたしました。こちら制服とワンピースになります」
「ありがとうございます。代金はいくらになりますか?制服はお金がかからないのですよね?」
「はい、そうですが一応確認のため合格証明書を見せて頂くことは可能ですか?」
教科書を買った時に代金はいらないと言われたので聞いたのですが、どうやらこっちではきちんと確認が取れてからではないと無理らしいです。
なので私は、アイテム袋から二人分の合格と書かれた紙を取り出して店員さんに渡しました。
「大丈夫ですよ、少し待ってください.....はい、こちらがその紙です」
「ありがとうございます、確認させていただきます。レイン様にアリア様ですね.......っ!しゅ、首席に次席合格!?兄妹で!?」
「あぁ、やっぱりそんな反応になるんだね」
「んふふ、なんだか嬉しいね!」
「はっ!すみません取り乱してしまいました。お二人ともとても優秀なのですね、ありがとうございます確認が取れたのでもう大丈夫です」
「あはは、そんなに驚かれる事なのですか?」
さすがに連続でここまで驚かれると気になってしまうので聞いてみることにしました。
「それはもちろん、首席や次席は殆どが高名な貴族の方がなれるものです。稀に他の方もいるらしいですが数は少なく、それに兄妹で首席と次席を取るだなんて聞いたこともありません」
「なるほど、そうなんですね。だからそんなに驚かれたんですね」
首席や次席を殆どが貴族が取ると聞いて不思議に思うと同時に納得もしましたが、驚く理由は理解しました。やはり私の息子と娘はとても優秀な子たちらしいです。
「はい、それにしてもこれからのお二人の活躍が楽しみですね。制服の代金は大丈夫ですが、お母様のワンピースの方の値段は金貨一枚になります」
「分かりました......はい、金貨一枚です。今日はありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「いえいえ、これが私どもの仕事ですから。またのお越しをお待ちしております」
私のワンピース分の代金を支払ってから制服とそれをアイテム袋に入れお礼を言ってからお店を出ます。
「ふぅ、とりあえず教科書と制服は買えましたね。どうですか二人とも、お腹は空きましたか?」
「う〜ん、少しだけ.....」
「俺もだね....」
「では、ここで何かを食べてから家に帰りましょうか。行きますよ二人とも」
辺りが少し暗くなってきたのでレインとアリアにお腹が空いてないか聞くと空いていると言ったため、私は二人を連れて飲食店でご飯を食べてから帰りました。




