第二十話 母対子
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対面してから、母さんの雰囲気が変わった。いつも俺たちに接してくれるあの優しい母さんじゃなくて、まるで別人のような、俺たちを敵として見ている者のように感じる。
「お母さん、本気だね。いつもと全然違う」
「うん、ちゃんと俺たちのためにやってくれてるんだ」
「どうしたんですか、二人とも。早くかかってきて下さい」
あまりの変化に息を呑んでいると、母さんから早く来いと言われてしまった。アリアに視線を向け、お互いに頷き合うと俺は一気に母さんへと掛けた。
後ろでは既にアリアが魔法の準備をしており、俺のサポートをする様に動いている。
直線で近づき剣を横に振るうが 母さんはなんてことないように横に避けて、そのまま蹴りを入れてくる。
咄嗟に蹴りを剣で受け止め、身体にも魔力を流して耐える。
(流れるように反撃してくるっ、やっぱり身体の動き方が全然違うな)
「やぁッ!!」
そのまま俺に追撃をしようとした母さんだが、横からアリアの火と風の魔法が来たことで後ろに下がった。その隙を突いてもう一度母さんとの距離を縮め、剣を握っている手と剣自体に思いっきり魔力を流し、全力で剣を振り下ろした。
しかし....
「ふっ、やりますね。あそこから詰めてくるなんて」
「結構渾身の一撃だったのに....くっ」
「まだまだ、ここからですよ!」
あっけなく受け止められ弾かれた後、俺と母さんの打ち合いが始まった。アリアも魔法を撃ち続けているのだが、母さんはその魔法を一つ一つ相殺しながら俺と戦っている。
ガキンッ、ガキンッ
時々フェイントを入れながらの攻撃もしたが、全く通用せず段々と追い詰められてきた。そろそろまずいと焦り始め、額から汗が出てきた時アリアが声を上げた。
「全然当たらないっ、もうこうなったら、火水風土光闇、その他諸々全部いけーーっ!!」
アリアは当たらな過ぎて痺れを切らしたのか様々な属性の魔法を展開して撃ち込んできた。
「こんなに一気に異なる魔法を....成長しましたねアリア」
母さんの意識がアリアの魔法へと向いたので、すぐにそこから離脱し、アリアの方へと下がる。母さんはそこから一歩も動くことなく魔法を見据え、右手を上げると周りをシールドのようなものが貼られ魔法を防いだ。
「アリア、助かった。あのままだったら多分やられてた」
「それは良かったんだけど、あの魔法全部防がれたのはちょっとショック.....」
「そんなに落ち込まないでください。普通の人なら今の魔法を全て防ぐというのは容易ではないですよ」
項垂れているアリアに母さんはそう言うが、正直それは慰めにはならないと思う。
「アリアこの後どうしようか?何やっても通用しない気がして何も思い付かない...」
「ん〜いっその事二人同時に近づいて攻撃してみる?前よりこれ使えるようになったからいけるよ」
「来ないんですか?こないならこちらから行きますよっ」
「やばっ、アリア!二人でいこうっ」
「う、うん!」
今度は母さんから攻めてきたため、アリアの提案どおり二人で迎え撃った。主に俺が母さんを押さえ、アリアが隙を見て槍で攻撃をしている。常日頃二人で練習し、コンビネーションも悪くはないと思うのだが、それでも攻撃を当てることはできず、母さんは俺たちの攻撃を全て見切って応戦している。
「くっ、これならどうだ!」
「私もっ!えいっ!」
「なっ!」
俺は剣に火を、アリアは槍に雷を纏わせて攻撃をした。俺たちの隠し技に母さんは一瞬面食らった顔になり慌てて攻撃を身体を捻って避けたが、避けた先にアリアが雷の魔法を速攻で放ち母さんを森の奥まで吹き飛ばした。
「はぁ、はぁ、やっと当たったよ」
「まずは一撃、だね」
やっと与えられた攻撃に俺たちは顔を見合わせて笑った。
二人で喜んでいると、母さんは既に起き上がっておりこちらへ無傷の状態で歩いてきて、笑って言った。
「まさか、あんな攻撃方法を習得してるなんて驚きました。よくもやってくれましたね」
「ッッッッ!」
「ヒッ.....!」
俺はその笑顔に言いようのない恐怖を感じ、震え上がり身体が動かなくなってしまった。
(なんだ...あれ、怖い、あれは何?)
アリアも俺と同じように感じたようでガタガタと身体を震えさせている。
さっきよりも凄まじいスピードで動いたのか分からないが、気付けば母さんは俺たちの目の前におり、光のない冷徹な目で俺たちを見ていた。見られている間、まるで死神に見つめられているように感じた。
「か、かあさ......ぐはッッ!!!」
「レイン!っっきゃっッ!」
母さんに話しかけようとすると俺は蹴り飛ばされ、アリアは魔法で攻撃をくらっていた。一瞬で意識が刈り取られてしまいそうな、さっきとは桁違いの威力の蹴りだった。
「どうしたんですか、二人とも、そんなのではその辺の魔物さえ倒せませんよ」
「くっ、いきなりどうしたんだよ....」
「いいから来て下さい。今のあなたたちならあれが出来るはずです。私を本気で殺すつもりで戦って下さい」
「殺すって....でも、お母さん....」
「やらないなら、私が先にやりますよ」
その言葉を聞いて、母さんが嘘ではなく本当にそう言ってる事が分かった。こっちが本気でやらないと、殺られる。
(なら、俺も本気で挑まないと)
俺は剣を取り、立ち上がって母さんに立ち向かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もっと、もっと魔力を込めて、鋭く正確に....
しかし、俺の攻撃は母さんには全く当たらず、逆に俺は母さんの攻撃を受けている。ダメージは増えているが勢いは劣ることはなくひたすらに攻撃を続けた。
「レインが頑張ってる.....私も....」
「ふっ、はっ、やぁぁぁ!!」
(たとえ、今は届かなくても...!いつか絶対この人に追いつきたいっ!いや....)
「絶対に母さんに追いつくっ!!!!」
胸の中でそう想い口にも出して、ひたすらに剣を振っていると、右手にあの時と同じ感覚が蘇ってきた。まさか、と思いながらも母さんを鋭く見据えあの時と同じように魔力を流すと、白い光が剣を包み込みその光を纏った。
「できた!これなら...はぁ!」
「くっ、流石ですねレイン。しかし、まだまだですよ!」
母さんはそう言うと、さっきよりも攻撃が激しく、そして鋭くなった。
「神気を使ってこれか.......!アリアっ!」
「っ!な、なに?!」
「アリアも本気で戦え!俺に出来たんだ、アリアにも絶対出来るっ!母さんのようになりたいんだろ!だから....!」
俺はまだ横で座り込んでいる妹に半ば怒鳴るように言った。アリアはしばらくの間その場で動かず、視線を地面に向けていたが、途端に何かを決意した顔になって立ち上がり、手のひらを母さんに向けた。
「そうだよね....私は、綺麗で優しくてかっこよくて、なんでもできる、お母さんのようになりたい!だからっ、いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
その瞬間アリアの手からあの時と同じかそれ以上の光が迸り母さんに向かっていった。母さんは身体を地面すれすれまで下げてそれを躱し、バク宙をしながら離れた。
「レイン、ありがとう!レインが言ってくれたから私も使えたよ」
「それならよかった、よし、アリアこっから反撃だ!」
「うん!」
アリアも神気を使えたことでこれから巻き返そうと構え直し母さんの方を向くと、母さんは下を向いてプルプル震えていた。
「アリアも神気を....よかった、心を鬼にした甲斐がありましたぁぁぁぁぁぁ!」
「......は?」
「......え?」
なんと母さんは、さっきまでの姿が嘘のように俺たちを見て大泣きしていた。
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「つまり、俺たちに本当の意味で本気で戦わせるためにあんなことしたの?」
「はい....」
私は二人が神気を使えるようになったところで我慢しきれず泣いてしまい、現在二人になぜあんな事をしたのか話しています。
「二人が武器に魔法を纏わせて攻撃した時、微かに神気を感じたのでどうにかして引き出したいと思ったんです」
「だから、あんな感じだったんだ、ほんとに怖くて泣きそうだったんだよ?」
「うん、あれは確かに怖かった。二度とあんな母さん見たくない」
「ほんとうにごめんなさい!ふたりとも!私もとても辛かったのですが、あなたたちの為にと.....」
二人の顔を見て、罪悪感に駆られ思いっきり抱きしめました。涙が止まらず、また涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまいます。
「いいんだよ、母さん。結果的に俺ら神気使えるようになったし」
「そうだよ、元のお母さんに戻ったんならそれでいいよ!」
「うぅ、でも私はあろうことか二人を魔法や蹴りで飛ばして怪我まで.....私は母親失格ですっ」
「ちょっと、母さん...」
「これは重症だね、あはは」
それから一時間ほど二人を抱きながら泣いて、慰めながら過ごし、私が少し落ち着いたところで辺りも暗くなっていたので、家に戻り話を続けます。
「二人の前で大泣きしてしまい、申し訳ありません。傷は大丈夫ですか?痛みませんか?」
「お母さんが回復魔法使ってくれたからどこも痛くないよ」
「俺も問題ないよ」
「それなら良いのですが、レインとアリアはもう神気をすぐに使えるのですか?」
二人はそれを聞くとそれぞれ手のひらを出し、そこに微量ではありますが神気を出し、にっこりと笑って言いました。
「できるよ、ほら!」
「お母さんのおかげでね!」
「いえ、私ではなくそれは二人が頑張ったから出来る様になったんですよ」
私は二人を誇りに思います。まだ小さいのに努力を惜しまず壁を乗り越えていく、私にはもったいない子どもたちです。
「今日の晩御飯は、先程のお詫びと言ってはなんですが、二人の好きなものを作ってあげますよ。なんでも言ってください」
「ほんと!じゃあ私オムライス!レインは?」
「俺は、そうなだな〜前食べたハンバーグが美味しかったからハンバーグで!」
「オムライスにハンバーグですね、分かりました。今から作りますので手を洗ってテーブルをキレイにして待っていて下さい」
二人の食べたいものを聞き、台所に行ってエプロンを付けてから料理を開始します。
(それにしても、私に追いつきたい、なりたい、ですか....とても嬉しいです。いつまでもあの子たちの目標である母親でいないといけませんね)
料理をしながら私は二人が言ったことを思い出し、自然と笑顔になり、これからの二人のことを考えました。
これで一章は終わりです。
ここまで書けたのも読んでくださってる皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
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