第十九話 新しい力
私が二人に神気のことと、実は女神であった事を話した日の翌日、私たちは特に変わることもなくいつも通りの朝を過ごし、今は家を出てレインとアリアがよく魔法などの練習をしている場所にいます。
「では、今から神気の扱い方を説明します。しっかりとよく聞いて分からないところがあったら遠慮なく言ってくださいね」
「了解、母さん」
「なんか、ドキドキする」
「真剣にやることは大切ですが、そこまで身構える必要はありません。正しい使い方をすれば暴走なんてとこはあり得ませんし、二人なら出来ると信じています」
レインの方は神気を使いこなすという強い意志のようなものを感じるのですが、アリアはどちらかというと不安の方が強そうでした。
神気は確かに一歩間違えれば文字通り身を滅ぼすような力ですが、私はレインとアリアの二人ならきっと正しく使ってくれると信じています。
その後、二人に現在神気をどの程度感じる事ができるのか知るために質問をします。
「レインとアリアは今自分の身体の中にある神気を感じる事ができますか?」
「私はあんまり感じない、あの時は身体から流れるように出てきたのに...」
「俺もそんな感じ、なんとなく何かがあるって事ぐらいしか分からない」
「やはりそうですか。おそらくあの時は二人がお互いを助けたいと強く願ったため、神気がそれに応えたのでしょう」
これは少し苦労するかもしれませんね。無意識的に出来たものは今度自分でやってみようとしても中々上手くいかないものです。
なので、魔力を教えた時と同じように、まずは神気というものがどのようなものなのか実際に見てもらうために手に神気を集めます。最初は魔力を集めた時と変わらず球体のようなものが出てきましたが、次第に白く輝き出し周りにバチバチと雷のようなものが出始めました。
見た目は魔力と同じように見えるのですが、その実エネルギー量が全く違います。特にこれはかなり神気を圧縮しているので、これをそのままその辺に放ったら辺り一帯が消えて無くなってしまうほどの威力を秘めています。
「見えますか、これが神気を圧縮して集めたものです。この状態を保つのにかなりのコントロールと集中力を必要とし、私でも長くは持ちません。ですので、あなたたちは間違っても今はまだこれをしないで下さい」
「魔力に見えるけど、全然違う.....なんていうかすごい威圧感を感じる」
「それになんか、神々しいって言うのかな?つい見惚れちゃう」
「一応神の力ですから、そう見えるのかもしれませんね。ふぅ、とりあえずいきなりは無理かもしれませんが神気を使えるよう頑張っていきましょう」
手に集めていた神気を消しながら私は二人に実際にやってみるよう言いました。
それからしばらくの間レインとアリアは神気を出そうと集中をし始めましたが、案の定魔力を使った時のようにすぐ出来る様になるということはなく、私の目の前でレインは目を瞑って眉を顰めながら、アリアはう〜う〜唸りながら今も続けています。
「やはり、難しいですか。レイン、アリア一度休憩を挟みましょう。お昼ご飯を食べてから再開して午後も頑張りましょう」
「分かった....」
「うん.....」
二人のテンションがかなり下がっています。これでは出来るものも出来なくなります。どうにかならないですかね、この子たちにできることは....
家に一度戻り、三人でお昼ご飯を食べます。ちなみに今日のお昼はサンドウィッチです。あらかじめ作っておいたものを机で項垂れている二人の前に置き食べるよう言います。
「どうしたんですか、まだ午前中だけやっただけでしょう?そんな状態にならなくても....」
「いや、そうなんだけど、魔力の時とは違って全くあの時のようにできる気がしないからこうなってるんだよ母さん」
「私もおんなじ〜、もうよく分かんない。コツとかないの?お母さん」
「コツですか、そうですね....二人は普段どのようにして魔法を使っていますか?」
アリアがコツを聞いてきたので、まず魔力をどのように使って魔法を使用しているのか聞きます。
「魔法は身体から魔力を伝わせて、あとはお母さんが言ってたように使いたい魔法のイメージをしてから使ってるよ」
「俺も同じ」
「神気は魔力に似ていますが、違うものというのは先程言いましたよね?神気は身体に流れているのではなく宿っています。ですから、使うときはもっと深く自身の魂から出すように意識するといいかもしれません」
ここまでくるとかなり感覚的なところが多いので説明が難しいですが、二人は何かを理解したらしく真剣な顔で考え始めました。
少しの事しか言ってないのにそれを理解して更に自分で考えるという事は当たり前のようで当たり前には出来ることでありません。ずっと言っていますが、本当に優秀な子たちですね。
「そっか、宿ってるものだから考え方が少し違うのか」
「もっと深く、自分の魂から....」
「自分で考えてて、偉いですよ二人とも。でも、考えるのもいいですが今はお昼ご飯を食べちゃいましょう」
「そうだね、よし食べよう!」
「いただきま〜す!」
さっきとは打って変わってサンドウィッチを食べ始めた二人を見て微笑ましく思いながら、私もサンドウィッチを食べました。
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暖かい日差しが照りつける中、とてもピクニック日和だと呼べる昼下がりに、レインとアリアが午前に引き続き神気の練習をしています。
「何かあるのは分かってるんだけど.....」
「頭がモヤモヤするよ〜、なにがいけないんだろう?」
再開してから三時間ほど経っているのですが、二人はまだ一度も神気を出せたことがありません。午前とは違って何かを感じてはいるそうなのですが、形となってはいません。
「二人とも大丈夫ですか?かれこれ三時間は経ってますよ」
「うん、大丈夫だよ母さん。ちょっと疲れただけだから」
「私も疲れたけど、大丈夫だよ」
「そうですか....今日は一度やめにしませんか?別に一日で出来ないといけないというものでもないですから」
二人があまりにもストイックに行っていくので一度止めることを提案したのですが、レインもアリアも顔を上げてまだやるという気合のこもった瞳で言ってきました。
「やだ!まだやる!このまま終わりにしたくない!」
「俺もだよ、母さん。まだやりたい」
「そこまでですか、分かりました。今日はとことんやりましょうか」
「ありがとう、母さん。あの時のようにできるまで......そうだっ!母さん、お願いがあるんだ!」
「え?お願いですか?一体どうしたんですか、レイン?」
「いきなりどうしたの?」
「思い出そうとして出来ないなら、もう一度あの時のように戦えばいいんだ!だから!母さんには、俺たちと戦って欲しい」
レインが思い付いたように言ってきたことは、私を驚かせるには十分なものでした。確かに、出来た時のことを再現すれば同じ事ができる可能性がありますが、それは模擬戦ではなく実戦形式で行わなければなりません。
つまり、この子たちと本気で戦わなければならないということです。
「レイン、それはちゃんと言っている意味が分かってて言っているんですね?」
「もちろんだよ、母さん。アリアもそれでいい?」
「え〜っと、戦うってことは、お母さんと模擬戦じゃなくてちゃんと戦うってこと?」
「そういうこと。それならもう一度神気が使えるかもしれないし、俺たちにも良い経験になる思うんだ」
「ん〜そう聞くとそれがいい気がしてきた、ちょっと不安だけど...」
レインが少し熱く語ったことで、アリアもそちらの方がいいと思い始めたようです。私としては二人同時で来てくれた方がやりやすいですし、すぐに終わるということもないと思います。
「私は普段、あなたたちにかなり甘いと自覚していますが、その二人が望むのであれば私は真剣に戦うことについては構いません」
「あ、お母さん自覚あったんだ....」
「ほんとね.......それじゃあ母さん、お願いするよ」
「はい、分かりました。武器はこちらを使って下さい」
本気の戦いということで、いつも使っている木剣ではなくレインには真剣を、アリアには槍状の杖を渡します。剣をもらったことでレインたちも意識を変えて私から距離を取ります。
「私は今からあなたたちのお母さんではなく、一人の敵です。遠慮しないで本気で倒すつもりで来てください」
今の私の瞳はとても自分の子どもを見ているようなものではないでしょう。そんな目で見られた二人は蛇に睨まれた蛙のように身体が動かなくなりましたが、頭を振って戦闘を行う構えをしてきます。
「じゃあ、行くよ!母さん!」
「せっかくやるなら全力で!!」
いいですよ、来てください。そしてあなたたちの神気を見せてください。
読んでいただきありがとうございます。
あと一、二話で第一章が終わる予定です。




