第十六話 初めての実戦
太陽が元気よく地上を照らしている日、私は今日も今日とてレインとアリアに魔法と戦い方を教えていました。
冒険者登録をしてブラックミノタウロスのごたごたから早くも一年ちょっとが経ち着々と二人の試験の日が近づいて来ました。
子どもの成長とは早いものでレインとアリア、二人の身長などが去年よりも上がっており魔法や身体の使い方も上手になっています。私が教えたことをスポンジのごとく吸収していくので教える側からしてもかなり楽でした。
冒険者のレベル的に言えば少なくとも贔屓目なしでDランクレベルはあると思います。ちなみに私はあれから空いた時間のみ冒険者ギルドの方に行っていたのでランクは変わらずCランクのままです。アントンさんやソフィさんなんかは早くランク上げて欲しそうでしたが..........
さて、十分戦える力も付いたことですしそろそろ実戦経験が必要ですね。本当はもっと早くに経験させるつもりだったのですが、二人にもしものことがあってはと心配だったので今までやってきませんでした。なので今日は二人には頑張ってもらいましょう。
「レイン、アリア今日は練習ではなく、実際に魔法などを使って魔物と戦ってもらいます」
「え、魔物?いいけど、大丈夫なの?母さん?」
「うん、私も大丈夫だけど、お母さんは平気なの?」
「え〜っと、それはどういう意味でしょう?二人とも」
あれ、これから頑張ってもらおうと思っていた二人に何故か私が心配されています。どういう事なんでしょう、私過去に何かしましたっけ?
「だってお母さん前に私たちが魔物と戦いたいって言った時珍しく慌てて私たちのこと止めて来たじゃん」
「あれから魔物はダメなんだなーって思ってたんだけど」
「........」
そんなことがあったんですか.....ん〜確かに一度だけレインたちにそんな事を聞かれたような気がします。もしかしてその時の記憶消したんですかね。まだ記憶に関する魔法は使えないんですけど.....
「そ、それはもう過去の話です!今のあなた達ならランクの低い魔物を倒すことは造作もないはずですから、そろそろ実践経験を積みましょう」
「なんか怪しいなぁ、まぁ魔物と戦えるからいっか。それで何と戦うの?」
「今回は初めてということなのでゴブリンとコボルトにしようと思います。二人ともどんな魔物か覚えていますか?」
「えっと、たしかゴブリンが緑色の皮膚をもった子どもくらいの大きさの魔物で、知能が低くて見た目が良くないんだっけ?で、コボルトが........?」
「ゴブリンと同じで小柄でこっちは犬のような見た目をしている魔物。人と犬の間のような身体だから二本足で立ったり物を持ったりも出来るから注意が必要なんだよね」
私が二人に戦わせる予定の魔物について聞くとアリアは少し悩みながら答え、レインは自信を持って答えました。答え方に違いはありますが、二人が言ったことはちゃんと合っています。私が以前教えたことをしっかりと記憶していたようですね。偉いです。
「はい、レインとアリアどちらも正解です。ゴブリンは知能が低く、コボルトは少なからず知能があります。ですがその分ゴブリンは力が強いので気を付けてくださいね」
そう言いながらしゃがみ、二人の頭を撫でます。レインの髪は男の子らしく少し硬いですが、反対にアリアの髪はとてもサラサラしています。
「ちょっと母さん、くすぐったいよ」
「お母さんに撫でられるの好き~」
レインは少し恥ずかしそうに、アリアは笑顔で私を見てきます。あぁ私の子供たちは世界一可愛いです、ずっと撫でていたいです。名残惜しいですが話を続けるために手を頭から離し、笑いながら言います。
「もしも二人の身になにかあったら私が全力で助けます。ですからレインもアリアも遠慮はしないで全力で立ち向かってみてください」
「分かったよ、母さん!」
「私も!全力でやる!」
二人の元気な返事を聞いて私もうなずき転移魔法を使って別の場所へと移動します。私たちが住んでいる森にゴブリンレベルの魔物はいないので戦うには別の森に行かないといけません。
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「さて、着きましたね。ここから遠くないところにゴブリンやコボルトがいるはずなので自分たちで探して戦ってみてください私は見えないところから見ていますので」
そう言って母さんは一瞬で消えてしまった。もう驚かないつもりだけど相変わらすごいなぁ。
「お母さんいなくなっちゃったね、これからどうする?」
妹のアリアがこれからの行動を聞いてきたが、近くにいることが分かっているからそれを探すしかないだろう。
「母さんは近くにいるって言ってたから魔法を使って探そう。アリアお願いできる?アリアの方が広く探せると思うから」
「分かった、探査の魔法だよね。ちょっと待って集中するから」
アリアは目をつぶって魔法を使い始めた。アリアは俺よりも魔法が得意だからこういったことはアリアに任せてしまおう。俺ももっと魔法が上手くならないかな?母さんは俺には剣の才能があるからそこを伸ばすと良いって言ってたけど、もっと派手な魔法使いたいよなぁ。そう考えているとアリアは終わった様で俺に話しかけてきた。
「探した感じだとこのまま真っ直ぐに行くとゴブリンが四体いて、左の方に行くとコボルトがいるよ、数は分かんなかったけど......」
「それだけ分かれば十分だよ、まずはゴブリンの方にいこうか。走るけど大丈夫?」
「大丈夫、レインほどじゃないけど私も身体強化できるから」
アリアは俺とは違い魔力を身体に流したりするのが苦手だ、そこはアリアには負けないと思っている。なんかいい感じにバランス取れてるよね俺たち......
そこから森の中を少し走ると何かの声が聞こえてきたからアリアに目配せし止まる。
「俺がまず手前のやつを攻撃するからアリアは残りの二体を攻撃して。それで倒せなかったら一度下がって立て直そう」
「分かった。いつでもいいよ」
それからさっきよりも足と剣に魔力を流し一気に駆けて剣を振るう。
(こういった人型の魔物は首を切れば倒せるって母さんが言ってた)
そのままイメージ通りゴブリンの首を切り反転しながらもう一体の首も切る。
「グッ!ガァ!!」
気づかれてしまい深くは切ることができず、後ろに下がられてしまった。でも、こうなった時の対応はもう考えてる。俺は腕に魔力を大量に流し、そのまま振りかぶって剣を投げる。
「グガッ?!ガッ!」
ゴブリンもまさか剣を投げてくるとは思っていなかったようで、そのまま躱されることなく首に当たり動かなくなった。
「よし、完璧!」
「レイン、こっちも終わったよ。問題なし!」
アリアの方を向くとすでにゴブリンは焼けて死んでいた。どうやら炎魔法を使って倒したようだ。俺も使えば良かったかな?投げた剣を回収しながらアリアの方に向かった。
「お互い大丈夫だね、それじゃこの調子でコボルトの方も行こう!」
「いいけどレイン、お母さんに武器を投げて攻撃するの剣がなくても戦えるようになってからって言われてなかった?」
「うっ、たしかにそうだけど、さっきのはあれが一番いいと思ったから多分大丈夫だよ....」
そうだった前に母さんにそんな事を言われてた。後で怒られるかな....あれ、そういえば俺ら母さんに一度も叱られた事ないな?じゃあ大丈夫かな?
それからまたアリアに探査魔法を使ってもらいコボルトの位置を確認して森の中を走った。コボルトの数はさっきのゴブリンと同じだったため作戦も同じにした。
「じゃあさっきと同じようにダメだったら一度下がろう」
「うん、分かった。気を付けてね」
アリアと分かれコボルト二体の方に向かっていき、今度はゴブリンの時とは違い母さんに教えてもらった隠密魔法を使いながら攻撃をする。まだ母さんほど気配を消す事はできないけどコボルトたちは気付いていないためそのまま剣を振るう。
「ワウンッ?!」「ガフッ?!クゥ.....」
母さんが言ってた通りこの魔法はすごいな、相手に一切気が付かれる事なく攻撃が出来た。隠密魔法のすごさを実感しながら魔法を解除してアリアの方を見ようとすると、横からもう一体のコボルトが飛び出して来た。
「ワン!ガアッ!!」
「え、もう一体?!どこから!」
「レイン!!」
やばいこのままだと攻撃が当たってしまう。避けなきゃと思っても身体が動き出すよりもコボルトの攻撃の方が早い。間に合わないと思い、受けるのを覚悟すると.....
「レインから離れて!!」
「キャウンッッ?!.......ガクッ」
「......え?」
アリアの手から光ような白い閃光が迸り、コボルトを貫き飛ばした。
(なんて速さと威力なんだ、一瞬しか見えなかった)
「今の.....なに?」
アリア自身も何が起きたのか分からないようだった。一体何が起きたんだ?
お互い呆然としていると今度はアリアの後ろから少し焦げた後のあるコボルトがアリアに向かって牙を向いた。
「アリア!後ろ!避けろ!」
「え........っ!!」
(まずい今度はアリアが!どうすればいい、そうだ母さんがきっと助けにきてくれ...........って違うだろ!俺がアリアや母さんを守るって決めたんだ、だから絶対アリアを助ける!)
どうすればいい、そう考えると剣を握っていた右手から感じたことのない力を感じた。
(なんだこれ、でもこれならもしかして.....)
それからその力を魔力を流すのと同じ要領で剣に流し、コボルトに向かって力を流した剣を振るう。するとさっきのアリアと同じように光のような白い閃光が剣を纏いリーチを伸ばしてコボルトを一刀両断した。
ズバンッッ
「........」
「........」
本当にできちゃった、なんなんだこれは。ピンチを切り抜けたというのに俺とアリアは無言でそこに立ちすくしてしまった。するとそこへ母さんが来た。
「二人とも.......今のは.....まさか、いえ....そんなはずは」
どうやら母さんにとっても予想外だったようで、いつもの優しい顔をひどく驚かせている。でも母さんは今のことを何か知っている反応をしている。
「とりあえず、二人ともお疲れ様です、見事な動きでしたよ。最後のはどういうことか分かりませんが、ひとまず家へ帰りましょう」
「う、うん。そうだねお母さん」
「帰ろう、疲れた」
未だにあの力の感覚が右手に残っている。すごい力だった。
あれがなんなのか分からないけど、もっと強くなるためにはあれをしっかりと使いこなさなければならないと俺は無意識に感じた。
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