第十三話 初依頼
誤字報告ありがとうございます。
王都を出て近くの森まで来ました。ギルドを出てから誰かしらに絡まれると思っていたのですがそんなことはなく普通にここまで来ることができました。
「ですが、視線は多かったですね。興味を示すように見る人や好色のようなものもありましたが、特に敵意はありませんでしたし」
私の予想ではもっと積極的に絡んできて少し面倒くさいことになると思っていたのですがね。そういえば以前別のところで助けたあの四人の冒険者、確かライア君たちでしたっけ.....は元気でしょうか。これでもう死んでいたとかだとさすがに思うところがありますね。
さて、いちいち歩いて探すのも大変ですし毎度おなじみの探査魔法を使って探しましょうか。
早速探査魔法を使い、あたりを探ります。森の少し奥のところにフォレストウルフの反応がありました。
「あ、いました。結構数が多いですね、三十二体ですか。群れで行動するそうですがこれはかなり規模が大きいですね。他の方が出会って交戦する前に倒しましょう。あれでは新人や中級者の冒険者はきついでしょうからね」
フォレストウルフたちがいる場所まで森を駆け、魔法の準備をします。魔法は風魔法を使ってエアカッターにでもしましょうか。これで半分は減らしたいですね。
そこから風魔法を飛ばし、頭を飛ばします。
「キャウン?!」「ガッ?!」
うまく当たったようですね。ですが半分はいかなかったようで残り二十一体になりました。仲間がやられているのを見て他のフォレストウルフたちは周りを警戒し始めました。魔力を探っている訳でも無さそうなので隠密魔法を使って気配を完全に消しながら近づきアイテムボックスからロングソードを出して攻撃します。
(このぐらいの魔物なら隠密魔法を使ってしまえばこっちのものですね。この調子で倒していきましょうか)
隠密魔法は自分の気配を消す魔法で、使いこなせば先程のように完全に気配を消し攻撃が出来ます。しかし一応魔法であるため魔力までは完全に消せず、魔力を探られると割と簡単に見つかるのである程度レベルの低い相手ではないと通用しません。
「さぁ、どんどん行きますよ!加速して切り返して切る!」
加速魔法も使ってフォレストウルフの周りを縦横無尽に移動しながら、時に直角に切り返したりと連撃を放っていきます。その結果、風魔法で攻撃してから一分も経たないうちに三十二体いたフォレストウルフを討伐することができました。討伐した数は冒険者カードに記録され依頼達成の報告をする時に使われます。
「特に疲労もないですし、囲まれた時にはかなり有効な立ち回りですね。今度レインにも教えてあげましょう」
周りに転がっているフォレストウルフの死体をアイテムボックスではなく持ってきたアイテム袋に入れます。今のところこの魔法を使っている人に会ったことがないのでトラブルを避けるためにこのことは秘密にしています。
「これで十分ですかね、ギルドに戻って依頼の報告をして帰りましょうか」
私が王都に戻ろうと踵を返すと何か大きな気配が近くに出現しました。
「これは、かなり大きな力を感じますね、一応見に行ったほうがいですね」
近くに人の気配はないので誰かが襲われていると言う訳でもないでしょうからそこまで急がずに気配を消しながら移動します。
感じた気配のところに近づけば近づくほど強い魔力を感じ少し周りがピリピリしています。これはBランクか、もしくはAランク相当の魔物の魔力です、さらに放置が出来なくなりました。
「まさかいきなり現れるなんて、今日依頼を受けておいてよかったです」
魔物にも冒険者と同じでランク付けがされていますが、それの基準が魔物と冒険者では違います。魔物のランクはもしAランクだった場合倒すために最低でもAランク冒険者が三人必要です。中には単騎で討伐できる人もいるでしょうが世界的な基準はそれです。そして、そもそもAランク冒険者はそこまで数はいないのでこんな森でAランクの魔物が出たら少なからず被害が出てしまいます。
「ここでこの魔物を放置したら必ず怪我人や最悪死者なんかが出てしまいますから、ここは私が対処しましょう」
さすがにAランクの魔物だった場合今使ったロングソードでは少し戦いにくいので目を瞑り胸に手を当てます。そして胸から剣を抜くようにすると私の手には剣の柄が握られ別の剣が出てきました。
取り出した剣は白色をベースとした剣身に光っている水色のラインが入っている丁度私の髪や瞳の色と同じ色合いをした神秘的な剣で、私の愛剣です。この剣はこの世界では存在しない物質で出来てる剣で所謂神器のようなものです。どんなに私の魔力を全力で流したとしても壊れる事なく、切れ味も凄まじいものです。私が女神になったときからあった剣でどうやら私の身体の一部らしいです。
「おひさしぶりですねカエルム、また力を貸していただきますね」
私はカエルムを持って強い魔力反応のある場所は向かいます。Aランク級の魔物がいるせいか他の魔物の気配が一切しないので遠慮なく森の中を駆けます。ある程度まで行くと明らかに場の雰囲気が変わり重苦しいプレッシャーに包まれました。
そして目の前に凄まじい魔力を放っている魔物がいました。体長は五メートルほどと大きく直立して二本の脚で立ち手には大剣が握られています。皮膚は浅黒く目は金色、そして牛の顔をして立派な二本の角を持った魔物が私に対して明らかな敵意を向けています。
「これは....ミノタウロス!ですが肌が黒いのなんて初めて見ました。突然変異でしょうかそれともミノタウロスに似た全く別の魔物なんでしょうか?」
「ブモォォォォォォ!!」
私が目の前にいるミノタウロスについて少し考えているとミノタウロスがこちらのことなんて知らないと言わんばかりに大剣を振って来ました。明らかな奇襲ですが落ち着いて横にズレて躱します。
「そちらがその気なら私も本気で行きますよ。あまり時間をかけていられません。はっ!!!」
「ブモッッ?!ガッ!」
身体に魔力をながして、剣にも魔力を纏わせながら一気に近づき剣を振るいます。ミノタウロスもそれに対抗して持ち前の反射神経と魔力で反応して私の攻撃を受け止めましたが、剣にさらに魔力を流し押し切ります。そして、弾き飛ばして後ろに体勢が崩れたミノタウロスに雷魔法を撃ち込み痺れさせ、動きが止まっている隙をついて剣に流していた魔力を収束そして圧縮させることで剣身が蒼く輝き高周波ブレードのようにさせます。
そしてミノタウルスに向けて剣を振り下ろします。
「ブモォォ.....ドスン」
「さようならです、ミノタウロス。ランクはAの下位といったところですか。新人や中級者でも無理ですね」
倒したミノタウロスを見て私はそう言います。たしかに魔力量や威圧感は凄かったのですが、魔力の使い方や持っていた武器の扱いなどがあまりなっていなかったので苦戦はしませんでした。他の方ならそうもいかないと思いますが...
「これも回収して今度こそギルドに戻りましょうか。これだけの気配だったので気付いている人もいるでしょうから早く戻りましょう」
テキパキとミノタウロス(黒)の死体をアイテム袋ではなくアイテムボックスに入れて王都に戻ります。その際カエルムも私の身体にしまいます。
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王都入り口の門に着くとどこか騒がしい様子でした。どうしたのでしょうか、やはりあのミノタウロスの事ですかね。王都に入ろうとすると門の前にいた衛兵さんに話しかけられました。
「おい、あんた依頼のために森に行くって言ってたよな大丈夫だったか?」
「えぇ、大丈夫でしたよ。もしかしてあの大きい気配のことですか?」
森のことを言っていたので十中八九ミノタウロスのことでしょうが一応聞きます。
「あぁ、高ランクの冒険者たちが森に強大な魔力を感じたから誰も近づくなと言っていてな。それの対応を今してるんだ」
やはり高ランクの方は気付いたようですね、現れたことに気付いたという事は私が倒して消えたことにも気付いているのでしょうか?なんかまた一波乱ありそうな気がします。
「そうなんですか、お疲れ様です。私は一度ギルドに依頼の報告をしてきます、では」
そういって衛兵の方に別れを告げギルドへと戻ります。ギルドに入ると先程よりもギルドが騒がしくなっていました。ここでも対応しているのでしょう。様々な冒険者の声が聞こえてきます。
とりあえず私は報告をするためにソフィさんのいる受付へ向かいます。
「ソフィさん、戻りました。依頼の確認をお願いします」
「あ!シェリアさん!よかったご無事だったんですね!確認しますので冒険者カードをお願いします」
冒険者カードを渡し確認してもらうと、ソフィさんは目玉が飛び出そうなほど目を見開き私を見てきました。
「え、あのシェリアさん.....これってどういうことですか?」
はて、なにか問題でもありましたかね?冒険者カードで確認するのは確か依頼内容と討伐した魔物の名前......あっ
「倒した魔物のところにブラックミノタウロスがあるんですけど.....」
「あはは、えっと、それは〜」
私としたことがやってしまいました、冒険者登録をした初日でAランクの魔物を倒すなんて普通じゃありません。あぁもうこの場から逃げてしまいたいです。
「ブラックミノタウロスはAランクの魔物で同じくAランクの冒険者パーティが戦って倒せるような相手なんですよ!!それをシェリアさんはどうやって....もしかして一人で倒したんですか?!!!」
ソフィさんが大きい声を出すから周りの冒険者に聞かれてしまいました。信じられなような目で私を見てきます。
『え、ほんとにあいつがやったのか』『信じらんねぇよ、嘘だろ』『でも冒険者カードに書いてあったんだよね?ならほんとなんじゃ』『いきなり気配が消えたのはそのためか....』
もう諦めるしかありませんね。はい認めましょう。
「は、はいフォレストウルフの討伐をしたと近くに大きな気配を感じたので、被害が出る前に私が交戦して倒しました.....」
そう言うと、ソフィさんはしばらく無言になってから
『えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』っと叫びました。
レイン、アリア。お母さん少し大変な目に遭いそうです。




