第七話 兄の気持ち
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アリアにお母さんと言われた日の翌日の朝、私は昨日アリアに言われたことについて考えていました。
「無理をしている、ですか。たしかにアリアに比べてレインはおとなしいというかとても五歳とは思えないほど大人びていますね。自分の気持ちを隠しているということでしょうか」
考えながらいつも通り朝食を作っているとレインとアリアが起きて来ました。私が何も言わなくても朝食の時間にはしっかり起きてくる。本当にいい子たちです。
「おはようございます、レイン、アリア」
「シェリアさん、おはようございます」
「おはようお母さん!」
「えっ......アリア今お母さんって....」
「うん、昨日の夜お話ししてお母さんって呼ぶことにしたの」
「そ、そうなんだ....よかったなアリアお母さんができて」
「何言ってるんですかレイン、あなたのお母さんも私ですよ?」
そうです、アリアのお母さんが私なのならその兄であるレインのお母さんも私なのです。その意味も込めて言ったのですが、レインは気まずそうに目線を逸らしながら
「えっいや、俺は.....」
と言いました。
やはりレインも私が気付いていないだけで、何かを抱えているようです。私がしっかりとこの子のことも母親として見てあげなければいけませんね。
「無理はしなくていいですからね、いつかそう思ってくれたらでいいですから」
「は、はい.....」
「レイン、お母さん、早く朝ご飯食べよう?」
少し気まずい空気になりましたが、アリアが間に入ったことでその空気もなくなりました。アリアに気を使われてしまいましたね。それからはいつも通り三人で朝食を食べました。
朝ご飯を食べ終わり片付けようとすると当たり前のようにレインが食器をまとめて持っていこうとしましたが、持っていく前にアリアに食器を取られてしまいました。
「うわっどうしたアリア、食器なら俺が持ってくよ」
「だめっレインは最近色々と考え込んでるから今日は私がやる。レインはじっとしてて」
「えぇ!?ちょっと待ってよアリア!」
アリアはそのままレインをおいて洗い場まで行ってしまいました。昨日の夜でなにか吹っ切れたのでしょうか、今日はアリアがとても積極的です。あんな風にレインももっと素直になってくれたらいいのですが。
それから昼を過ぎて夕方になりました。そろそろ夕飯の準備をしなければと思っていると、近くにアリアがきて私に話しかけてきました。
「お母さん今日はお願いがあるの」
「お願い?なんですか?なんでも聞いてあげますよ」
「今日はお母さんに料理を習いたい!私も美味しい料理を作りたい!」
アリアは料理を教えてもらいたいそうです。アリアが自分から料理を習いたいと言うなんて、あぁなんか泣いてしまいそうです。
「料理ですか、いいですよ。いくらでも教えてあげます。アリアだけではなんですからレインも一緒にどうですか?」
「え!俺もですか....でも俺は」
「いいから!レインも一緒にお母さんと料理しよう?」
「アリア......わかったよ、やるよ」
アリアに言われた事でレインもやることに決めたようです。やっぱりこういう事は全員でしなければいけませんからね、アリアナイスです。
「では何を作りましょうか?三人で作れて楽しくできるもの.......うん!餃子にしましょうか!」
「餃子?」
「お母さん餃子ってなに?」
「餃子というのはですね、小麦を原料とした皮で肉や野菜などで作った餡と呼ばれるものを包んで焼いた料理のことですよ。焼く以外にも茹でる、蒸す、揚げたりしたものなんかもありますね」
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餃子なら材料を切る事も教えられますし、その後の皮に包むというところで楽しくできます。皮は大変なので私が作って材料を切ったり、混ぜたりはアリアとレインにやってもらいましょうか。
「いまいち想像できないです」
「う〜ん、私もよく分かんない」
「まぁ、そうですよね。私は皮を準備しますので二人には材料を切るのと切った材料を混ぜるのをお願いしますね。それと手も洗って来て下さい」
「は〜い」「わかりました」
それから私は豚肉、キャベツ、ニラなどを出して二人に切ってもらいました。指を切らないように横でしっかりと見ながら教えてあげます。
「レイン包丁を持っていない手はこのように丸めるんですよ」
「はい...難しいです」
「アリア手前に引きながら力を入れると切れやすいですよ」
「うん.....ほんとださっきより切れやすい」
材料は全て切り終わり、今はその材料を混ぜています。二人は切るのにかなり苦戦していたようですが最初はこんなものですね。これから上手くなっていけばいいんです。
さて、二人が切った材料を混ぜている間に私は皮の準備をしましょうか。アイテムボックスから小麦粉を出しそれをボウルに移し塩を入れ、水も入れます。それを菜箸でまぜ、手で混ぜながら捏ねます。生地に弾力が出たら丸くし寝かせるのですが、ここでは魔法を使います。加速魔法を生地自体にかけて時間を早くします。
そのあとは生地を均等に分け手で薄く伸ばすように丸くして完成です。
「二人の方はどうですか?混ぜられましたか?」
「うん、終わったよ」
「混ぜ終わりました」
「ではそれを皮に包みましょうか、まず私がやりますからそれを見ながら二人もやってくださいね」
私は餡をスプーンで取り皮に乗せ両端を合わせて折るように包みました。
「はい、こんな感じです。二人はどうですか?」
「合わせて折るのが難しいです。形がきれいにならない」
「私もお母さんのようにきれいな形にならない」
「最初はそんなものですよ、少しずつ慣れていきましょう」
それから三人で餡を皮に包み、全ての皮に包み終わりました。あとは焼くだけですから早速焼きましょうか。
火魔法で火をつけそこにフライパンを置きました。フライパンが十分熱くなったら油を入れ、そこに餃子を円を描くように置きました。少し焼いたら水を入れ蓋をします。
「レイン、アリアお皿を出してくれませんか?」
「うわ〜いい匂い、早く食べたい」
「アリアお皿出すから手伝って」
しばらくしてから蓋を開けて焼けているのを確認してから火を止め、お皿に移しました。うん、とても美味しそうです。テーブルの上に餃子を置くと二人も少しワクワクしたような感じで餃子を見ています。それから三人で椅子に座り、食事の挨拶をしました。
「二人ともお皿ありがとうございます。では、食べましょうか、手を合わせて」
「「「いただきます!!」」」
「わぁ!これすごく美味しい!」
「ほんとだ、皮がモチモチで美味しい...」
「三人で作ったものですからね美味しくて当たり前です!」
しばらく三人で餃子に舌鼓を打ちながら楽しみました。
気が付けばあっという間に餃子はなくなりお皿だけが残りました。
「とても美味しかったですね。また作りましょうか。」
「うん!私もまた食べたい!」
「俺もまた食べたいです」
私がまた作ろうかと言うとレインとアリアはそんなことを言って来ます。確かに美味しかったのもそうですが、三人で料理をするというのもとても楽しく良いものでした。餃子じゃなくてもまた作りましょう、三人で。
その後は後片付けをしてお風呂に入り、時間を見るともう二人が寝る時間になっていました。
「お母さん今日はもう寝るね、おやすみなさい」
「俺も寝ます。餃子美味しかったです。おやすみなさい」
レインとアリアが私に向かっておやすみなさいを言ってきましたが、今日はまだレイン話したいことがあるのでまだ寝かせることはできません。
「あ、レインは少し待ってください。アリアは別に大丈夫ですよおやすみなさい」
「俺ですか....?」
「わかった、じゃあレインおやすみ」
レインはとても驚いており、どうして俺?という顔をしてます。ですが昨日アリアと話してからレインと話すことは決めてました。そうです、私から歩み寄らなければいけないのですから。
「レインひとまずここまで来てくれませんか?」
「わ、わかりました」
まずレインを私のそばまでこさせて目線を合わせるために膝を床に着けて話します。
「レイン、単刀直入に聞きます。私ではあなたの母にはなれませんか?」
「え?」
「あなたはいつも私から一歩引いていますよね?私はそんなに信用ならないですか?」
「いや!そんなことはないです!シェリアさんのことは尊敬してるし信用してます、けど」
「けど?」
私がその先を聞くとレインは下を向いて自分の手を強く握りました。そして絞り出すように声を出し話し始めました。
「それでもやっぱり怖いんです。また捨てられないかって、アリアを守らなくちゃって思って、捨てられないように頑張らなきゃって、だから....」
そこまで言って私はレインを抱きしめて頭を撫でました。
「あなたは凄い子ですね。まだ子どもなのに妹を守るために自分は我慢してたった一人で頑張って、ほんとにいいお兄ちゃんです」
レインは固まって黙ったままですが、私は構わずそのまま続けます。
「辛かったでしょう、苦しかったでしょう、今でも苦しんでいるかもしれません。でも、今は私がいます、あなたが妹を守るように私もあなたを守ってみせます。だからもう無理をしないで、母である私を頼って下さい。本当に今までよく頑張りましたね」
私がそう言うと、固まっていたレインは私を抱きしめ返して来て泣きながら私に言ってきました。
「おれっっおれっ、今まで辛かったしッ、苦しかったしッ、泣きたかった!けど、もっと頑張らなきゃって思って.........俺ももっとアリアや母さんと笑いたいッ!楽しく過ごしたいよッ!!」
「ならこれからでも遅くはないです。もっと三人で笑って楽しく過ごしましょう。安心してください、ずっと私がそばにいます」
「うんっ!うんっ!母.....さん!母さん!」
それからしばらくレインは今まで溜まっていたものが全て流れるように泣き続けました。そしてそのまま泣き疲れてしまったのか『母....さん』と言いながら寝てしまいました。
やっとレインとも家族になれた気がします。
私はそのままレインを二階の部屋へ連れて行きレインをベッドの上に寝かせました。その時アリアが私に向かって笑顔を向けて来たので、私も笑い返しました。
あぁ、なにか二人と胸のなかで繋がったような気がします。
なんとなくですがこれからもっと楽しくなる予感がしてきました!
読んでいただきありがとうございます!




