よわよわドラゴン5
すっかり周囲は真っ暗闇になり、明るい場所は火を焚いているこの場所だけだ。
落ち葉や枯れ木を定期的に入れて火を消さないようにしている。
できればかまどを作りたいが、かまどを作るには型を整えるために粘土が必要だ。
粘土も川に面した地層から出てくるので、太陽が昇ったら粘土のある場所を探してみよう。
「それにしてもこの場所以外は真っ暗だな……この辺りの周囲には誰もいないのかもしれないな……」
フクロウの鳴き声が時折聞こえてくるが、それ以外は殆ど無音に近い。
多少穏やかな風がなびいて木々の枝がゆっくりと揺れる音ぐらいだ。
あとは焚火の中に入れた枯草や枯れ木が燃えながらパチパチと音を立てている程度だ。
静かだ……とても、静か……。
「……ドラゴンに生まれ変わって初めての生活か……人間の時に楽しんだアウトドアよりも大変だな……」
人間のころの記憶では、時折アウトドアでキャンプをしたり登山をした経験がある。
その時は現代の基準で出来た製品を使って楽しんでいた。
数日遊べばまた仕事。
それでいて体を動かすことは楽しかった。
だが、今ではもう一人で何から何までやらないといけない。
今はまだ大丈夫だが、これからお腹が空いてくれば自分で食料を調達しなければならない。
いくらドラゴンの体が丈夫だからといっても飲み水に関しては川の水を直飲するわけにはいかないので、煮沸処理をしてから飲む必要がある。
今燃やしている枯れ木の燃え残った炭を使い、水を飲めるようにするろ過装置を作ることも考えている。
「知識を使って生活しなきゃいけないからなぁ……スローライフを送るにせよ、サバイバル生活にしろ……甘い見通しは立てないほうがいいな」
おまけにこの身体はドラゴンだ。
人間の時より大きなものを持てたり、空を飛べるという利点はあるが、人間などからは討伐対象になっていると巣にいたときに他のドラゴンから聞いた。
つまり、人間とばったり遭遇でもしたら殺されるリスクがある。
それだけでもドラゴンに転生してしまったのはかなりデメリットが大きい。
「……それにしても、今後どうしようかな……」
そう呟いて焚火に枯れ木を入れていた時であった。
ふと、外でガサッ……と何かが動く音がした。
誰か外にいるのだろうか?
ここで動くべきか、それともこの場にとどまっているべきか……。
盗賊だったら殺されるかもしれない。
傍に置いてあった斧を手に持って、何時でも不測の事態に対応できるように態勢を整える。
ガサッ……ガサッ……。
間違いない。
誰かが歩いて近づいてきている。
音からして二足歩行かな……?
そこまで重圧のある足音ではない。
むしろ警戒してゆっくりと歩いている感じだ。
しかし、ゆっくりと歩いていても地面に生えている雑草に当たってしまうせいで音をかき消すことはできないようだ。
(誰だろう……なるべく穏便に済ませて欲しいものだが……)
建物の前で足音が止まった。
きっと中を覗きに来たのだろう。
美女はいないぞ。
出来損ないのドラゴンが一匹いるだけだが。
ここは思い切って隠れている相手に話しかけてみるのはどうだろうか?
こちらは弱いとはいえドラゴンの端くれだ。
もし相手が襲い掛かってきたとしてもゴリ押しで殴れば勝てる可能性がある。
……いや、勝てるのかこれ?
ドラゴンでも最弱と言われて「よわよわ(笑)」って扱いだしな……。
でも、すぐ近くにいるなら声をかけてみたほうがいいだろう。
挨拶は大事だと漫画でも言われているからな。
それに、
俺は外にいるやつに聞こえる声量で言った。
「……そこにいるのはわかっている。ここに入ってきて姿を見せてくれないか?」
俺の言葉が通じたのか、素直に人影がゆっくりと現れた。
視線の先に現れた人物を見て俺は驚いた。
入ってきたのは女性だったのだ。
袖が破れかかっているボロボロの服を着て、虚ろな目をしている。
それに、女性は褐色肌で赤い髪の毛と頭の上にぴょこぴょこと大きめの三角形の耳が動いていたのだ。
世にいうケモミミ属性というやつだ……。
そして女性は、俺の姿を見るなり「ヒィッ」という声をあげてそのまま倒れてしまったのだ。




