よわよわドラゴン4
―ベキッ、ベキベキベキッ!
たった今、俺は木を切り落とした。
これから作る木は建物の一部となるだろう。
高さは3メートル以上ありそうだ。
高木でくねくね曲がっておらず、真っ直ぐ生えている。
ありがたいことに、こうした木は非常に重宝する。
しかも、周りにはこうした木が沢山生えているので、伐採し過ぎなければ問題なさそうだ。
これを6本ほど切り落として同じ長さに揃えておく。
そこまで胴が長いわけではないので、斧で長さに合わせるように切り落とす。
それから先程引っこ抜いた芯がしっかりとしている雑草を木と木の間に蝶々結びでもいいので結んでおく。
これを何度も繰り返せば網目のように、ネット状の膜が出来上がる。
この草の膜の上に、落ち葉などをこの上に乗せておけば雨はある程度はしのげるはずだ。
……ゲリラ豪雨クラスの雨に関しては流石に防げないと思うけどね。
「屋根用の木はこれでよし……虫よけのため、後で火を焚いて煙で掛けておくか……さて、いよいよお待ちかねの空積壁でも作りますか……」
これから作る空積壁は、小石などを積み重ねて壁を作る作業だ。
日が沈むまでには外壁だけでもしっかりと設置していきたい。
拠点の近くには小川がある関係で石が大量にある。
この石を壁の素材として使わせていただく。
なるべく丸っこい石ではなく、平べったい漬物石とかに使えそうな大きい石を選別して選ぶ。
そして小川から空積壁に使えそうな平らな石を持ち運んでいく。
何度も、何度も……。
両手いっぱいに石を抱えて往復していく。
大きい石から小さい石まで……千差万別だ。
ドラゴンの俺が納まる家のサイズにしたいからね。
少々大きめに作る必要がある。
「まず大きい平らな石を敷き詰めてから……その上に石を置いていくんだっけか?やってみるか」
平べったくて大きな石を地面に置いて、外壁となる位置を決めて木の棒を使って線を引いておく。
ちょっと曲がっているかもしれないが、定規がない以上これが精一杯だ。
高さは2メートルより少し高め……。
広さは四方で三畳分(約5.4メートル)ほど必要かな?
中で焚火をしながら座ったり寝るスペースは確保したい。
線を引いた後をなぞるように四角形になるように順々に石を並べていく。
外壁側の石を並べたら、今度は内側にも同じように並べていく。
一列だけではなく、二列並べると空積壁は崩れにくいとサバイバルガイドブックで書かれていたのを思い出したからだ。
その分石積み上げる際に必要な石の量も増えてしまうが、誤差の範囲だ。
足りなければ小川から持ってくればいい。
外壁側の石を積み上げた時点で、まだ石が足りないとなったのでそれから石を拾いに小川まで何度か往復する。
大きな石で積み上げた際に、隙間があれば小石をどんどん挟んでいき、出っ張っている部分は石をカンカンと叩いて押し込んでいく。
―トントントン……
「ふぅ、思っていたよりも地味なうえに積み木を重ねていくみたいな感じだな」
まるで積み木をしているような感覚だ。
一見柔い構造のように見えるかもしれないが、こうして石を積み上げても隙間にも石を詰めていれば崩れるリスクを減らす上に、平らな状態を維持することができる。
夕方までに外側だけでなく、内側の壁も作り上げることが出来た。
高さは俺の頭よりも少し高めであり、広さも焚火をする場所を考慮しても寝れるスペースはある。
これで拠点の壁は完成だ。
四方を石の壁で囲み、出入口の部分だけ空いている。
ドアも欲しいが、それだと時間がかかるので今日はひとまず外壁を優先した。
これで拠点となる建物が完成した。
石を積み上げたシンプルな四角形の家だ。
某ブロック組立ゲームだと30秒もあれば出来上がりそうな家だが、現実では何時間も掛かってようやく完成だ。
思っていたよりもドラゴンの身体が大きいせいか、すこし窮屈に感じる。
だが、これ以上時間をかけていると夜になってしまう。
ひとまずこの広さで過ごしてみてからあとで調整をしてみよう。
「もう夕方だな……では、早いとこ屋根を作って火を起こさないと夜になってしまう。急いで屋根を作るか……」
気がつけばもう夕方だ。
壁を作る前に完成させておいた木と木の間に芯がしっかりとした雑草で網目状に縛ったものを天井に設置する。
サイズもピッタリだ。
この上に雑草などを敷き詰めて屋根として活用する。
ただし、このままでは虫も寄ってくるので、火を焚いて煙で追い払う必要がある。
持ってきた石を円形状に並べて拠点の真ん中に設置する。
そこに枯草や枯葉を詰め込む。
そして枯れ木の中から、棒状の枝を取り出して斧で樹皮を剥がし、切り込みを入れてから火起こしをする。
「さて……昔ながらの方法でやれるかな……?」
力任せで棒を回転させるよりも、上から下に素早く回転させ続けることが重要らしい。
でないと摩擦で手に水ぶくれが出来て痛いからね。
とにかく速度、速度を稼いで回転させよう。
棒を持って上から下に回転させたらまた戻って上から下に……。
何度も何度も繰り返し回転させていると、うっすらと煙が見え始めた。
種火が出来上がった合図だ。
「よし……頃合いだな、ここに種火を枯草に移して……ふぅーっ、ふぅーっ……」
火起こしで出来た種火がうっすらと赤く光る。
枯草や枯葉の上に種火を落としてから、出来上がった種火を消さないように、慎重に息を吹きかける。
ドラゴンは肺活量があるので慎重にやらないとせっかくの火種まで消してしまう。
種火はゆっくりと枯葉や枯草に燃え広がり、音を立てて燃えていく。
―パチっ……パチパチパチ……
「よし、いいぞいいぞ……これで焚火が完成だ」
一先ず、これで火も確保できた。
これで煙が屋根に行き届いているので虫も寄り付かないだろう。
暗くなっている中で、焚火をしている場所だけはオレンジ色の明るい光に灯されている。
一人だけど、この光は俺を包み込んでくれるように温かい。
自分一人だけで頑張って作った拠点。
椅子の代わりに平たい大きめの石を設置して座る。
時折焚火に枯草や枯葉を入れて種火が消えないようにしばらく見守っていた。