よわよわドラゴン3
この場所で仮設拠点を作るにしても、本拠点にするにしても、道具が無ければ拠点を作ることはできない。
ドラゴンの身になっているとはいえ、弱い上に力もないので道具に頼らないと生きていけないのだ。
なので洞窟で暮らしていた際に、集めていた道具の中から今後の生活で使えるであろう必要最低限の物をかき集めて布に包んできた道具の力を借りるというわけ。
さて、布を広げて拠点作りに使う道具を見てみよう。
・斧(人間から奪い取った物資の中で価値がないと判断されて捨てられていた)
・物差し(上記と同じく、価値がないとして捨てられていた)
・破けてボロボロの布切れの束(人間が身につけていたと思われる……服の残骸を集めたもの)
・以上の道具を包んでいた布
……この四つだ。
うん、これしか使える道具が無かったんだ。
これでも斧と物差し、それから布切れの束があるだけいい方だろう。
斧であれば木の枝を切り落とすこともできるし、物差しがあれば拠点を設計する上で地面に線を書くことができる。
とりあえずはこれらの道具を使って拠点を作ることにしよう。
人間の頃にアウトドアやサバイバル生活をしているドキュメンタリー番組を見ていた事もあってか、やるべき事に関しては理解しているつもりだ。
「さてと……これらの道具を使いたいのは山々だが、まずは地面に生えている雑草を引っこ抜く作業から始めるか……」
拠点を作ろうとしているこの場所には雑草が沢山生えている。
最初にすることは雑草を抜くことだ。
もし、俺が今インターネット動画配信サイトでこの光景を実況していたら、画面全体に「草」の文字が溢れていただろう。
ネットスラングにおける「草」は爆笑することを意味しているが、これは2010年代後半から言われるようになった。
何とも懐かしいな。
そうした事は覚えていて、なぜ自分の名前を忘れてしまっているのかは分からないがね……。
「この雑草も生きていく上で必要な道具として使ってあげないとね……。材料は雑草一本でも無駄には出来ないからなぁ……貴重な資源だよ」
雑草もこれから生きていく上で必要な道具に生まれ変わる。
何故ならこの辺りに生えている雑草は茎の部分が長くてしっかりとしている。
こうした雑草の茎は結び目に使う紐やロープの代用品として使う事が出来るし、屋根の材料にもなる。
また、雑草を乾燥させておけば火にくべる際に必要な燃料にもなる。
なので、余すことなく使える物は全部使ってしまおう。
茎が長くて紐などの代用品として使用できそうなのと、乾かして燃料にする二つのグループに分けて、それぞれの場所に取った草を分けて置いておく。
手を動かして雑草を引っこ抜いていると、思っていた以上に簡単に草が抜ける。
地面は雨上がりの後みたいにぬかるんでいるわけではないので、本来であれば草を引っこ抜く際にはそれとなく力を加える必要があった。
だが、そこまで力を入れなくても草が抜けるのは嬉しい事だ。
人間の時は鎌や芝刈り機などを使って草刈りをしていたが、ドラゴンだと素手で引っこ抜くのが一番手っ取り早く済むのかもしれない。
「やはりドラゴンということもあってか……そこまで力を入れなくても根っこからズバズバ草を抜くことができるのがいいなぁ。ほとんど手づかみでどんどん取っているけど」
俺に魔法があれば……一気にファイヤーブレスでも口から吹いて燃やしながら除草できるかもしれないが、残念ながら魔力皆無のドラゴンにはそんな余力もない。
だから人間っぽい感じでやらないといけないのだ。
コツコツと努力しなければならない……。
当たり前の事だが、魔法で全て解決していたらきっと楽な道を歩んでいけたかもしれないな。
「さてと……草むしりもこんなもんだろうか……」
一時間ほどで、約5メートル四方の草を抜くことができた。
気がつけば、引っこ抜いた草も山のように盛り上がっている。
茎が長い雑草と、燃料用にする草……うーん、こうしてみると本当にこの辺りは草が多いんだなと痛感するよ。
雑草も抜いたことだし、ここに簡単な小屋を建てるとしよう。
「ふぅ……さてと、木をこの斧で切り倒すか……」
斧を手に取って、すぐそばにある倒木の枯れ木を見てみる。
枯れ木とはいえ、そこそこ大きい木で枝も真っ直ぐ伸びていてしっかりしている。
木の根元の部分が落雷でやられたのか、根元が割けていて焦げ付いた跡がある。
シロアリでやられたわけじゃなさそうなので、これならここに木材を使った拠点造りをしてもよさそうだ。
というのも、もしシロアリにやられていたら、木で出来た建物を作っても数か月で他のシロアリが入ってきてやられてしまう。
よく避暑地で建てられている別荘用のログハウスがシロアリ被害に遭いやすいのも、シロアリが住み着いている森の近くだからという事もあるからね。
時間があれば、あの枯れ木を使おう。
木を使って簡単な家を建てようとしたが、ふとした疑問が脳裏を過った。
「いやまてよ……木だと周りを粘土質の土を使った壁を作らないといけないなぁ……だとしたら沢山木を切らないといけないし……石を使って壁を作ったほうが簡単に作れるな……」
木だと耐久性やら、壁に使う際に粘土が必要になってくる。
平べったい石を積み重ねて積んでいけば壁になるし、後で木や落ち葉を天井に敷けばいいんじゃないか。
コンクリートブロックとかで組みこむ際に使われる空積壁。
これを石で代用してチャチャっとやってしまったほうが木で作るよりも耐久性に優れている。
何より俺でも出来そうなやり方だ。
「そうだな……木だと色々設計とか考えないといけないし……空積壁なら屋根の部分だけ予め作っておけば問題ないな!よし、空積壁で決まりだな」
……それが一番やりやすい方法だろう。
では、拠点づくりに必要な木をさっさと切り落としてから石を集めることにしよう。
「それじゃあ近くにある細長い木から切っていくか……よいしょっと……!」
俺は斧をゆっくりと構えて、近くに生えている細長い木の根元部分に斧を振りかぶっていく。
切れ目を付けてから、コン、コンと斧を打ち付ける。
無心になって斧を振りかぶって打ち付けていく。
コン、コン、コン……。
……辺りには鳥の鳴き声と、俺が斧を打ち付ける音だけが響いていた。