よわよわドラゴン2
何はともあれ、晴れて自由の身になれたこともあって、今の俺はとても気分が良い。
どんなことでも挑戦できるような気がする。
だけど、いくら自由になれたからと言って調子に乗って天狗になってはいけない。
「最初から強くて魔法で何でも解決できるキャラクターだったら苦労しないよなぁ……転生前に流行していたチート系主人公や実はスゴイ才能があったのに追い出された系主人公じゃないし……俺には人間の頃の知識こそあるけど、それがこっちで役立つのかは分からないし……おまけにドラゴンは人間の討伐対象生物だから、人間に見つかったら殺されるかもしれないからなぁ……」
この身体に生まれる前に人間頃に培ってきた知識は持っているが、全て万能というわけではないし、俺みたいな存在は中途半端だから一人で静かにしていたほうがいいのだ。
決して目立ってはいけない存在……。
何故なら人間たちからは敵性生物として討伐対象となっているし、モンスターの中でも上位種と見なされているので、人間に見つかれば一大事だ。
「……そう考えるとこうやって空を飛んでいるのも危険かもしれない……飛行する高度を低くして川沿いに進んでみようか……」
周囲がどんな状況が把握する為に高度50メートルぐらいで飛んでいたが、もし人間に見つかったらマズイと思い、森の合間を縫うように流れている川に沿って低空で翼を羽ばたいて飛ぶことにした。
危ない、危ない……。
もっと早く判断すべきだったな。
もしこの場に長老がいたら判断が遅いと言われて頬をペシンと叩かれていただろう。
ドラゴンの一族から追放された事で、これからは俺自身の知恵と力で生きていかないといけない。
そして、自分の身体は自分で守らないといけないのだ。
ドラゴンの中では非力かつ最弱と言われても差し支えないぐらいに弱いのだ。
たぶん人間でも頑張れば俺を素手で倒せると思う。
そのくらいに魔力もないし力もないので弱い。
「自由になったとしても、これからどうやって生きていくべきか……。生活する上で必要な道具を持って来ているけど……。頼れる相手もいないから本当に大変なのはこれからだなぁ……」
一族からいじめられていた影響も相まって、人間の頃の名前も思い出せないし、何よりもこの世界にやって来てからは名前すら無かった。
だからいつも「お前」とか「ごくつぶし」とか「糞雑魚野郎」とか……仲間扱いすらしてもらえなかったね……。
まぁ、もうこれに関しては済んだことだ。
後は自分で行動して、自分で物事を進めて行こう。
力がなくて弱々(よわよわ)しくても知識があればどうにか生きていける筈だからね。
「弱々しい……まさにそれなんだよなぁ……弱々しいドラゴン……よわよわドラゴン。俺には名前が付けられていないから、名前をどうするかってなったら『よわよわ』にでもしようかな。覚えやすいし」
よわよわドラゴン……と言われてもしょうがない。
いっそうのこと、名前を「よわよわ」にでもしようかな。
よわよわ……文字数は四文字だし、名前も覚えやすい。
ドラゴンなら名前に濁音を入れれば厳つい感じが出るけど、厳つくないし弱いから「よわよわ」でいいかな。
「それにしても……本当に辺り一面大自然だなぁ……」
それにしても体感時間で二時間以上川沿いを飛行しているが、今だに森を抜ける気配がない。
道路も見当たらないし、俺が進んでいる方向にはあまり人は住んでいないのかもしれない。
……であればかえって好都合だ。
万が一人間に遭遇したら確実に戦闘が始まるだろうし、そうなったら太刀打ちできずに死んでしまうだろう。
ふと、翼を動かしている場所がピキピキと痛み始めてきた。
「いてっ……このまま飛び続けるのもいいけど……流石に体力的にきついかな……そろそろ降りて拠点を作らないと……」
多分これは筋肉痛だろう。
まだ飛び続けることはできるが、無茶をし過ぎて身体を壊してしまったら元も子もない。
ただでさえ弱いのに、飛行が出来なくなったらそれこそ緊急時の脱出手段が無くなるのでマズイ。
俺はどうにか拠点を作れそうな場所を探していると、川からほんの少しだけ離れた場所に木々が開けているのを見つけたのだ。
「おっ、あの辺りがよさそうだな……日当たりもよさそうだし、あそこにしようか」
スーッと降りて開けた場所に着地する。
ドシンと着地した時の衝撃がやってくるが、ドラゴンという事もあってかそこまで着地した時の痛みはなかった。
降りた場所の周囲をじっくりと見てみよう。
地面は草が生い茂っており、またすぐそばには枯れている倒木もある。
そしてここから歩いて直ぐの場所には小川が流れている……。
拠点を置くには丁度いい場所だ。
洞窟から持ってきた道具を包んだ布を持っていた左手から降ろして、ここに拠点を作る事にしたのだ。
「さてと……それじゃあ仮設でもいいからまずは拠点を作ってみようか」




