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事故物件不動産  作者: 路明(ロア)


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23/96

臼越市根連1-8 築40年/戸建 臼越駅徒歩15分/仲介

「危険って?」

 住宅用マンションの一室に、備品を置いただけの会社事務所。

 十五月 礼二(もちづき れいじ)は、家の見取り図を見た。

 事故物件として売りに出されていた戸建ての家のものだった。

 近所に住む老人が持ち主だったが、不動産を通じて一時貸して欲しいと交渉した。

 二階建て、四部屋とダイニングキッチンの家を、お化け屋敷に改装して客を呼ぼうという、礼二の経営するイベント会社の企画だった。

「どの辺」

 雇ったばかりの女子大生のアルバイトに尋ねた。

「二階のベランダから落ちそうになった人が何人かいて」

「ベランダ?」

 見取り図のベランダの位置を見る。

「ベランダ、出られないようにしてなかったの?」

「してあったんですけど」

 アルバイトは言った。

「聞いたら、スタッフに案内されて、こちらが順路だと言われたって」

「誰。そんな案内してんの」

 礼二は眉をひそめた。

「誰もやってないって言うんですけど」

「そんな訳ないでしょ」

 礼二は言った。

「そもそも、何で案内なんてしてんの。遊園地の大っきなお化け屋敷じゃあるまいし、要らないでしょ」

「そうなんですけど」

 アルバイトは言った。

 事故物件とは聞いていたが、全く気にしていなかった。

 オカルト話はどちらかといえば好きだが、実際にあるかと言われれば、眉唾だと思っていた。

 この家に関しては、事故物件だということが、むしろいい宣伝になると思った。

 もしかしたら本物が紛れているかもと期待するのか、客の入りは中々良かった。

 会社を大きくしたいという野心はさほど無いが、面白い企画を立ち上げ話題を作るというのには興味があった。

 駅から程よい距離。

 広めの殺風景な土地のど真ん中にポツンと建つ、建て売り風の家。

 周囲を他の住宅に囲まれて、あまりすっきりとした陽当たりの時間帯は無かった。

 晩夏という季節柄、建物の周囲は寂しい地味な雑草だけになり、外に居れば時おり涼しいというか寒々とした風が吹き抜ける。

 雰囲気も中々いいと思っていた。

 ベランダへ続く窓の塞ぎ方をもっときっちりとして、順路ではないとはっきり分かるように表示すれば良いと思った。

 誰が間違えた案内なんかしたか知らないが、ミーティングで注意しておけば。

 玄関口のチャイムが鳴った。

 アルバイトがそちらの方を見る。

「お客さん。出て」

 見取り図を見ながら礼二は言った。

 玄関口に行き、暫くしてアルバイトは戻って来た。

「華沢不動産って言ってますけど」

 礼二は顔を上げた。

 お化け屋敷用に借りた戸建ての、仲介をした不動産だ。

 そういえば、定期的に様子伺いに来るとか言っていた。

「ああ……お通しして」

 礼二は言った。

 アルバイトに案内され入って来たのは、黒いスーツの若者だった。

 持ち主との交渉の所から対応してくれた担当者だ。

 事故物件担当、華沢 (そら)と書いた名刺をその際にくれた。

 十五月(もちづき)という礼二の名字を、一発で読んだので印象に残っていた。

 礼二よりも十歳は歳下だろうか。

 二十五、六歳といったところか。

 童顔だが、表情の感じは落ち着いていた。実際はいくつなんだろうと思い、初対面のときはまじまじと顔を見てしまった。

「お忙しいところ失礼致します」

 不動産屋は言った。

「いや……大丈夫です。座ってください」

 そう言い、礼二は飲み物を出すようアルバイトに目配せした。

「お構いなく」

 不動産屋は言った。

「何か物件に関して問題はありませんか」

「えっと……特に」

 礼二は言った。

 アルバイトが何か言いたそうにこちらを見たが、別に言う必要は無いと思った。

「あの家は、何があったんでしたっけ」

 椅子を引きずるようにして座り、礼二は言った。

「集団自殺です」

 不動産屋は言った。

「随分、淡々と言いますよねえ」

 礼二は苦笑した。

「普通は隠すもんなのに」

「今どき隠しても仕方ありませんから」

 不動産屋は言った。

「ああ、ネットで書いちゃいますからねえ」

 アルバイトが緑茶を運んで来た。

「ちなみに死亡者はどんな?」

「最終的に亡くなったのは、男性と女性が一人ずつです。男性は、持ち主の方のお孫さんですが」

「ああ、成程……」

 礼二は宙を見上げた。

「あとの人は、命は取りとめた?」

「ええ」

 不動産屋は言った。

「その後自殺し直したりはしてないんですか?」

「詳しくは知りませんが、多分」

「へえ……」

 礼二はもう一度宙を見上げた。

 アルバイトの女子大生と目が合った。

「結構そんなもんなんだ」





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