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3分読み切り短編集

過去には戻れない。

作者: 庵アルス

 挫折を味わったことのない人などいるのだろうか?

 私は、時々そんなことを思う。

 そんなときは、あぁ、自分はなんて駄目な人間なのだろうと自らを責める。

 次第に、たぶん最初から無理だったのだと、正当化して甘やかす。

 そうしてしばらく経って、ふとまた挑戦しなければ⋯⋯という気持ちになるのだけれど、過去の失敗が頭をもたげて、一歩踏み出すことができない。

 昔はよかった。

 なんでこうなったのだろう。

 そんな、とりとめもないことを考える。

 昔はあんなに輝いていた⋯⋯過大評価でも、以前の自分は誇らしく思えた。

 全ては、過去の栄光。

 昔の私と今の私は違う、昔の私には戻れない。

 あの頃の君が一番よかった――――そう言われても、私は戻れない。

 挫折を何度も味わって、立ち向かうことすら諦めてしまっている。

 逃げてはいけないと、頭ではわかっている。

 数ヶ月前、医師から言われてしまっている。このままでは危険だ、と。

 その瞬間は、危機感があった。愛する子供と夫がいる。彼らを悲しませるような真似は、できないと。

 医師からの指示に従い、私なりに生活を改めてようとした。

 けれど、成果は見えない。数値に改善が見られないのだ。

 どうして、こんなに頑張っているのに⋯⋯。

 不安を紛らわそうとして、医師の指示を放棄した。

 ストレスは身体によくない、我慢は身体に毒だと言いながら、また挫折しようとする自分を認めてしまっていた。

 諦めの残骸が、我が家にはたくさんあった。

 形から入ろうとして買い、タンスの奥に眠るスポーツウェア。

 紐を結んだだけのウォーキングシューズ。

 味が気に入らなかった置き換え用ドリンク。

 邪魔になって仕舞ったきり、埃を被ったダンベル。

 ごろ寝布団と化したヨガマット。

 痩せたら履こうと買ったものの、その間に流行り廃れたスキニーパンツ。

 それらすべてが、私を恨めしそうに見ている気がする。

 でも、もうなにもしたくない。今のままでいい。

 甘い物もお酒も、もう我慢していられない!

「パパー、またママがお菓子食べてるー」

「ほんとだねー、ダイエットはどうしたんだろうね?」

「健康診断、今度はやばいかもって慌ててたのにね」

「来年は引っかかるんじゃないのー?」

 夫と子供が聞こえよがしにそう話している。

 私は負け惜しみにも近いが、叫ばざるを得なかった。

「ダイエットは明日からー!」

2020/12/28

エアなわとびとか、踏み台昇降とかよくやっていました。

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