もう、1人じゃない。きっと。
後少しで終わります!
是非最後までお付き合いください!
あれから暫くして。
結局ホワールウィンドは戻ってこなかった。
ずっとフレイヤは距離を取ったままだし、
ロトランドの現統治者...デュークさんのつけてくれる稽古もずっと剣術の稽古ばっかりだ。
剣の能力がうまく使えていないとかなんとか言ってたくせに。
あの日からあと数日で半年経とうかという日。
その日は少し特別だった。
なんでも、件の能力の指導が今日から始まるのだ。
「今日からフェアトラークの能力の使い方を教えようと思う。君はこれまでその剣を〝距離“を調整する能力として使っていた。しかしその剣の能力は〝空間“を操る能力だ。使いようによっては凄まじい斬撃を繰り出すこともできるだろう。これから教えるのはそういった使い方だ。」
いつも稽古をつけてもらう時の場所である、現統治者の屋敷の裏で稽古が始まった。
かなり広いスペースがあるため建物はそうそう傷つかないだろう。
言われてみればそうだ。
空間を操れるのに俺はこれまで距離しか操作してこなかった。...そしてさらに言えばこれはだいたい感覚でできた。本当に俺は人間じゃないんだな...
「はい。」
首を縦に動かし了解の意を示す。
「じゃあフェアトラークを構えろ」
いつも通り数本のナイフが飛んでくる。
斬撃...?どんな感じなんだろう。
大体のイメージでやってみる。
フェアトラークの柄を両手で持ち、飛んでくるナイフをじっと見つめる。ナイフがいつの間にかスローモーションのように見えるようになっていた。
フェアトラークであたりの空間を薙ぎ払う。
その空間を複数コピーするようにイメージし、それをナイフの進路上にコピーする。
綺麗に成功した。
騒がしい金属音を立てながら、進路がぐちゃぐちゃになったナイフが地面に落ちていく。
「上々だ。...不快かもしれないが、流石有翼人だな。」
俺は自分の背中に目を向ける。白く、大きな、鳥のような翼が生えている。
この間ホワールウィンドが何処かに行ってしまった時、フレイヤはこれを見て複雑そうな顔をした。それはそうだろう。神話にしか出てこないような存在が目の前にいて、ホワールウィンドが直前に親の仇と言っていたのを聞いてしまった時に大体何があったのかは察したんだろう。それからフレイヤは俺からずっと距離を取っていたが、今日はいつもより近い。
「どうしたんだ?フレイヤ」
俺がそう言うと、フレイヤは肩を一瞬ビクッとさせて、何か覚悟を決めたような顔でこちらの顔を見てきた。
「あのね...私は、あなたが有翼人だったって気づいてたんにゃし。あの時助けてもらった時から。何でかっていうとね、その...」
「それは私が説明する」
フレイヤの声に罪悪感が現れ始めてきて、苦しそうになってきたところでデュークが説明を変わった。
「私は、フレイヤにとある伝説を教えたことがある...こんな伝説だ。
〝ある所に、暴虐の限りを尽くす王からみんなを守る為に戦う騎士さんがいました。その騎士さんは最後まで戦い抜いて、王と相討ちになってしまいました。その騎士さんには子供がいたのですが、ついに子供の顔を見ることはできませんでした。
その子供を王の残党から守る為に母親もまた死んでしまいました。
子供はこれから1人で生きていくしかありません。しかしそれでは可哀想と、父親の使っていた愛剣が頑張って色んなことをしました。
友達になったり、両親を頑張って再現してあげたり。
しかしそんなある日、子供が無自覚なうちに作った街の友達が危ない目に会ってしまいました。
その時、彼は強くその友達を守りたいと願いました。
奇しくも、その願いは父親が魔剣を手にした時と同じ願いでした。
その魔剣は子供の姿にかつての主人を重ね、
今度こそ主人を守り切る。そう誓いましたとさ“
...俺が知ってるのはここまでだ。」
飄々とした様子でそう言ってくるデューク。
「それ、俺の事ですよね...ずっと見てたんですか?」
「ああ...だがそんな事はどうでもいい。明日からは自由に鍛錬しろ。あと数日経ったらあの塔に行く許可を出す。」
それだけ言ってデュークは建物に戻って行ってしまった。
フレイヤは俺について来るようだった。
さっきと同じように斬撃のコピーを作るのを何回も練習する。
ほとんど喋らなくなっていたフェアトラークがようやく喋った。
「...なんででしょう...まだそんなに魔物を倒していないはずなのに、もう蘇りの魔術が発動しているんです。これもまた、あなたが覚醒したおかげ...ですかね。」
「やめてくれ。...この羽を俺はあまりよく思えないんだ。」
「ホワールウィンドさん...の事、ですか?」
ー親の仇がネギ背負って出て来るとは思わないだろ?ー
あの無慈悲なホワールウィンドの言葉が未だに胸に突き刺さっている。
「キッパリ言ってしまうとアレですが...あのセリフは八つ当たりに近いものだと思います。
気にする必要は...」
「ある!この力は使い方を誤るとああいう人達が出てきてしまうって事を改めてあの言葉で自覚したんだ!...聞いておいて良かったと思ってるんだ。そこは触れないでくれ」
...それっきり、もう誰も喋らなかった。
いや、喋れなかった。
無自覚なうちにレンが能力を発動していたため、皆が喋れないという暗示がかかっていたのだ。
しかもそれは出発当日の朝までずっと続いていた。
_______________________________________________
「...出発か」
当日。デュークさんにいつも通りの場所に呼び出されて直々に許可が出された。
魂の塔に入るには許可が必要らしく、その証明書をもらったのだ。
フレイヤも一緒に来るという話だった。
「はい...お世話になりました。」
礼を言ってその場から立ち去る。
「2人とも!」
急に後ろから呼び止められた。
デュークさんの声だ。
「信じてるぞ!...無事に帰ってこい!」
「...はい!」
もう、俺は1人じゃない。そう思えた。
んー...
シリアスすぎますかね?
でもまあ、最後まで読んでいただけると幸いです