それが示すは警告か、未来を見通す福音か。
期間が空いちゃいましたが続編です。
また楽しんでいただければ幸いです。
目を開ける。
そこは気絶した直後に見た景色とは違う、炎の明るさが暖かい部屋だ。
どうやら俺はベッドの上に寝かされているようだ。
「...」
まだ体が重い。なんとか両腕を使って起き上がろうとすると、誰かが俺の上体をそっと押し倒してくる。
「ダメですよ。あなたはまだ魔力が足りてないんですから、まだ安静にしてて下さい」
男の人だった。優しそうだが知性を感じさせる印象の俺より少し年上くらいの男の人。
「あなたは、いったいだれなんですか?」
口がうまく回らず拙い喋り方になってしまった。それを聞いて男の人はクスッと笑いこう答えた。
「私はエドワード・ダーウィン。ホワールウィンドさんの相棒、とでも言っておきましょうか...残念ながら、今日の試合は見れていないんですがね。」
「どうか、したんですか?」
「いえ、特にはないですよ...では気が付いたところで完全に直してしまいましょうか。」
そういうとこのダーウィンと名乗った男性は、俺の胴体の上に手をかざして目を閉じた。
すると何かが体の中に染み込んでくる感覚とともに体が楽になってきた。
「何をしたんですか...?」
舌もちゃんと回る。
どうやら体は元に戻ったらしい。
「私は生まれつき、体に宿る魔力量が多かったんです。だからこうしてあなたに魔力を分けてもなんともないんです」
とはにかみながら答えるダーウィン。
ホワールウィンドのような有名騎士の相棒というだけあって大物のような貫禄がある。
「さあ、起き上がれるならあの女の子たちのところに戻ってあげて下さい。あの子たちが心配のしすぎで死んじゃいますよ?」
そう言われては起き上がるほかない。
元着ていた服をハンガーから外して着る。
挨拶と感謝を述べて部屋から出ようとした時、こんなことを言われた。
「そうそう、あの魔剣。フェアトラークって言いましたっけ?喋るなんて珍しいですね。」
...え?
その一言すら言う暇もなく、いつの間にか
出てきた門番に突き飛ばされた。
文句を言おうと振り返ったその時、
...もう扉は消えていた。
「俺、フェアトラークのこと一回も喋ってないよな...?」
その問いはただ、壁と誰もいない廊下にむかって響くだけだ。
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「...!レン君⁉︎気が付いたんですね⁉︎良かった...!」
「レン君だ!起きたんだね⁉︎本当にレン君⁉︎良かった〜‼︎‼︎」
2人は俺がいた待合室にいたのだが、お揃いの格好に着替えていた。
2人に聞いたところ、この団体の制服みたいなものだという。でもやはり気になることといえば
...さっきのは誰だったんだろう。
ホワールウィンドさんの相棒と言っていたが...
そんなことあるんだろうか。
だってあいつは、ホワールウィンドさんとの
試合を見ていないと言った。それなら、
ホワールウィンドさんのあの反応から見てあの時に俺の魔剣の能力を初めて知ったはずだ。
ホワールウィンドさんすら知らなかった魔剣の名前をなぜ知っていたんだ?
と、ホワールウィンドさんが慌てた様子で
駆けつけてきた。こちらもまたあの制服のような物を着ている。
「レン!気が付いたのか!途中で気を失っちまうから医務係に運んでもらっ...ン?この少女2人は知り合いかな?入り口で一緒にいた子たちだろ?」
今、背筋が凍るほどゾッとした。
念のため確認する。
「この2人の名前を本当に知らないんですね?」
当たり前のような顔で
「...?なんでそんなこと聞くんだ?知ってたら俺は名前で呼ぶぞ?」
マズい。これはおかしい。
アイツは誰なんだ?
動悸が早くなり、鼓動が強く音を打つ。
「ホワールウィンドさん!」
いきなり大声を出して呼んだせいで、彼が両肩を跳ねさせてこちらに向き直る。
「お、おうどうした?」
「エドワード・ダーウィンって人物を知っていますか⁉︎」
彼の顔に一瞬驚愕が現れた。
「知っているも何も、俺が有名になる前に死んじまった相棒だよ。そこまで調べているなんて勉強熱心なんだなー!」
首を縦に振って感心の意を示しているホワールウィンドにありのままさっき起こったことを話す。
「実はさっき、そのエドワードさんに会って来ました」
「...は⁉︎」
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説明が全て終わると、俺が気絶していた間に預かっていたと言うフェアトラーク(おしゃべりはしてこなくなっていた)を俺に手渡すなり、ホワールウィンドさんがその場に行きたいと言ってきたので案内した。
そして今。ホワールウィンドさんが、大型の鎌の形をとる魔道具『ホワールウィンド』の能力で壁を吹っ飛ばすために鎌を構えている。
「...よし、いくぞ!」
凄まじい轟音と突風。土煙が晴れた頃にはその轟音で人が集まってきていた。
その崩れた壁の向こうに見えたのは、白骨化した沢山の遺体。
さっき見たエドワードさんと同じ服を着た
白骨死体たち。
そしてさっきまで俺が寝ていた、あのベッド。しかし先ほどとは違って火の暖かい光はない。
あるのは哀しい過去の遺物と...ホワールウィンドさんの怒りだった。
後ろの2人が「ひっ...」と言う声を上げているのが聞こえた。
一方ホワールウィンドさんは、さっきまでとは違う凄まじい形相で叫んでいた。
「なんだこれ...!?...認めない!俺は認めないぞ‼︎‼︎アイツはこんな風に殺されたんじゃない‼︎‼︎こんな!ゴミ同然に捨てられていい奴じゃなかった‼︎‼︎」
その場にいた人たちは全員居なくなっていた。
あの人達は壁が壊された轟音で集まってきたのではなかった。
中に居た哀しき人々が、ようやくあの時にこの暗い空間から解放されたのだ。皆が浮いて空に登っていく。
ハナやホムラにも見えているようでずっと見上げている。
登っていくその中の1人がこう耳打ちしてきた。
「皆があなた達のことを応援してる。
アイツらを倒して。皆アイツらにやられたの。
でも、くれぐれも私達と同じようにはならないで。あなた達の幸運を祈ってるわ。」
その言葉だけ残して、全員がはるか空の高みへ消えていった。ずっと空間の奥を見つめていたホワールウィンドさんが唐突に喋りかけてくる。
「...行こう。ここに居ても騒ぎになるだけだ。
レン達はどこか行く当てでもあるの?」
「俺らはこのグライフ公国にある「魂の塔」ってとこに行くんです。一緒に来ますか?」
「魂の塔...」と反復して呟いて、何かを決意したような顔でこちらに向き直る。
「俺もついてく。そこまでよろしく頼むよ。」
言ってる言葉は普段と変わらないが、目は赤く腫れていて、髭の生えた頬には涙の痕が残っていた。
ホワールウィンドさんの知名度が生み出す人混みをかき分けながらキューラルの街を歩いていると、唐突にフェアトラークが喋り出した。
「魂の塔はですね、見た目には高いんですが、魔剣や魔道具を持っている者であればすぐに頂上に着いちゃいます。昔に悪魔と戦った英雄とその魔剣を称える塔なので、普通の人は登ることが難しいように出来てるんです。」
「やけに理不尽な塔だな。」
「でも普通の人は登る必要がないんです。
だってその英雄は民間には語られてません
から」
「その英雄ってのが誰でもいい。俺はダーウィンをあんな目に合わせたやつを許さねぇ。
その復讐の情報収集として付き合わさせてもらうよ」
これで人間は4人。
理由はどうあれ基本パーティーがいきなり揃った。幸先はいいのだろうが、この次がちょっと問題なのだ。
次の目的地は獣人の街「ロトランド」。
グライフ公国の中で唯一自治を認められている大型の都市である。
そこに向かう馬車はホワールウィンドさんが手配してくれるという。
時間にして馬車だと三時間ほどらしい。
暫くして、ここに着いた馬車から運転手が降りてきた。
ホワールウィンドさんが大きく手を振り呼びかける。
「おう、来てくれたか!」
「あったりめぇよ!」
ホワールウィンドさんはこの運転手と知り合いらしい。楽しそうに会話が弾んでいる。
数分くらい話をした後に(さっき起こった事や俺たちの自己紹介をしていた)話は終わったらしく、
もう出発するという風な空気が流れ始めた。
「さて、出発するか!」
「「「はい!」」」
「じゃあ、よろしく頼むぞ?」
運転手さんが自信たっぷりという感じに破顔する。
「任せときな!魔剣使いの坊主達!」
「...俺は...?」
心配そうにそうホワールウィンドさんが聞くと、
「アンタは走ってでも来たらどうだ?」
と返されていた。
「...オマエ、覚えてろよ...?」
凄まじい形相でそう呟くホワールウィンドさんを尻目に、運転手さんは「おお、怖い怖い」
と言って馬車の運転席のような場所に乗り込んでいった。
馬車に乗ると、座る場所に紙が置いてあった。
「頑張ってくださいね。フェアトラークとあなたの事、いつまでも見守っていますよ。」
添えてあったのは、筆記体で書かれたエドワード・ダーウィンの字。
俺が読み終わると、手紙は勝手に燃えて消えてしまった。
見守ってくれている。あの人が俺の事を見守ってくれている。
レンはその事実だけで胸が一杯になった。
涙が止まらない。感謝が止まらない。
「任せてください...俺は、出来る限り戦います。自分の戦いを...!」
そう。手紙の最後に添えてあった、
「その剣との契約は守ること。あなたの戦いはその剣の戦いでもあるのですから。」の一文に従って。
最近シリアス成分強すぎますかねぇ...
次はそこまで暗くはならないようにしたいんですが...
また次回も楽しみに!