大胆不敵
前半終わって1対0、芳都野高校のリードで進んでおり、現在後半が始まろうとしている。
そこで堀川北高校は一年生FWを投入してきた。その選手は身長は低く、先輩と思われる選手に頭を叩かれながら円陣に加わっていた。
(背が低いFWか。足が速いのかな?それとも、テクニックがあるのかな?)
「絶対勝つよ!」
「おお!!!!!!」
その声はおそらく二十メートル程の距離の同じく円陣を組んでいる私達にもはっきりと聞こえるほどの声量であり、気合いを入れて後半に入ってきていることがうかがえた。
「なんか気合い入ってるなあ」
「監督も言ってたけど、そりゃあ負けてるから気合いも入るよ」
「私達も……負けないようにしなくちゃ……ね」
思わず漏らした私の一言に神崎先輩と小桜先輩が反応した。
「うんうん、姫花の言う通りだ。という訳で、私達も気合い入れていこう!」
「「「「「はい!!」」」」」
「倒れるまで走るよ!」
「「「「「はい!!」」」」」
「芳都野高校、ファイ!!」
「「「「「おお!!!!!」」」」」
私達も気合いを入れ直した所で後半がスタートした。すると、投入された一年生FWが私の前にポジションをとった。九番は平野先輩の前にいる。そして前半トップ下のポジションだった十番は一つ下のボランチでプレーしているように見えた。
(4-4-2にしたのかな?)
前半のトップ下を置く4-2-3-1と何が違うのかと言われたら、ポジションが流動的に動くサッカーという特性上、答えるのが難しい所ではあるのだが、まず一つはボールの預け所が二つになる、ということが挙げられる。さらに、前半と比べて十番が比較的プレッシャーのかからない位置で自由にボールが持てるだろう。私達は前半ボランチ二人でトップ下にいた十番をマークしていたため、これは厄介な変更と言えるかもしれない。
そんなことを考えていると相手のDFから十番へとボールが渡る。その瞬間、途中出場の十八番が私の裏に走りこむ動きを見せた。そして十番からおそらく十八番を狙ったであろうロングボールが出た。しかし。そのボールは長すぎたため、ココアちゃんがそのままキャッチした。
(足は速そうだった。パスがドンピシャだったら危なかったかも)
私は足はそこまで速い方ではないため、スピード勝負はあまり得意ではない。相手が前半だけでそこを見抜いてこの選手を投入してきたのだとしたら、大したものだと言える。
私がスピードを警戒して若干距離をとって守っていると、裏を取ろうとうかがっていた十八番が後ろに下がってボールを要求した。
(あ、やばっ)
ボールを要求する声を聞いた相手十番はダイレクトでパスを出し、相手十八番にボールを渡した。ディフェンスラインと中盤の間、バイタルエリアとも呼ばれる場所で前を向かれてしまった。こうなったらドリブル、パス、ミドルシュート、なんでもできてしまう。
(落ち着け。この子はシュート力があるようには見えないからミドルシュートを撃たれても多分大丈夫。一番いけないのはスピードでぶち抜かれてゴールキーパーと一対一にされること。パスを出されたら……その時は先輩方、お願いします!)
何とも無責任なお願いを心の中でして私はある程度距離を保って下がりながら対応する。相手はしばらくドリブルをしていたが、数タッチ目にタッチが長くなってしまったようで、少し前に出て足を伸ばしたら取れそうな位置までボールが来た。
(しめた!)
私は前に出てボールを奪い、その拍子に十八番を弾き飛ばしてそのままボールを運んだ。ボールに足を入れたのでファウルはないはずだ。
「小桜先輩!」
センターサークル付近までボールを運び、ディフェンスに来た相手ボランチを私ができるギリギリまで食いつかせ、小桜先輩のパスを出した。こうすることによって小桜先輩をサイドバックと一対一にできる。
小桜先輩は前半と同じように縦にドリブルをすると見せかけ、左足にボールを持ち替えてクロスを上げた。狙うは斜めに走り込み、DFの視野の外から飛び出している神崎先輩だ。先輩はそのままヘディングシュートを撃ったがそれはポストに当たり、DFにクリアされてしまった。
「ボール持ちすぎ!判断速くっていつも言ってるでしょ?」
「すいません!すいません!」
おしいシュートに頭を抱えていると十八番が先ほどのプレーを咎められている。スピードがあるのは怖いが、さっきのドリブルを見る限り、あまり技術的には優れていない選手のようだ。サッカー歴があまり長くないのかもしれない。それでも足が速いということを見込まれて一年生にもかかわらずFWというポジションで使われているのだろう。
(私も足が速かったら、今でもFWやれてるのかな?)
そんなどうしようもない仮定はすぐに頭から払い、試合に集中した。
また私の背後にもう何度目だろうか、ボールを蹴り込まれた。私はなんとかボールをヘディングで外に出した。どうやら相手は攻撃は途中投入の十八番を走らせるということで徹底してきているようだ。なるほど縦パスを速く前線に送るという攻撃方法はシンプルではあるが、ゴールへの最短距離である上に下がりながらのディフェンスは難しいため、ミスが起こりやすい。しかも十番のパス精度が良く、しかも回数を重ねるうちに徐々にぴったりパスが合ってきている。
後半からボランチにポジションを移した相手十番はプレッシャーがあまりかからないポジションで気持ちよさそうにパス出しをしている。
私達がクリアしたボールを拾った十番はそのままボールを少し運び、身構える二人のボランチの間にパスを通し、前半ほどの存在感がなかった九番にボールが渡る。その瞬間、また十八番が私の背後に飛び出した。私はボールを見ていて一瞬動き出しに対する反応が遅れた。それが命取りだったのだろう。
その動きを感じた九番はダイレクトでスルーパスを出した。私も慌てて倒れ込みながら足を伸ばすが届かない。
「オフサイド!」
誰かが叫んでいるが副審の旗は上がっていない。ゴール前を見ると十八番とココアちゃんが一対一になるという最も恐れていたことが起こっていた。
(クソ!甘く見てた…………)
ダイレクトでパスを出してくるかもしれないと予測していれば、九番にボールが渡る時に十八番から目を離すことも無かっただろう。
「ココアちゃん!」
私は自分に怒りを感じながら、懇願するようにココアちゃんに向かって叫んだ。ボールをトラップし、相手はそのままシュートを撃った。だがココアちゃんはすぐさまニアサイドに撃たれたシュートに反応し、手を目いっぱい伸ばしてボールを弾いた。
「サイドバック!しっかり絞ってください!」
普段温厚でほんわかしているココアちゃんとは思えないほどの剣幕に一同息を飲む。
「ボランチ二人!どちらかがもっと強く十番に当たりに行ってください!相手のキーマンに好きにさせないてはいけません!それからFW二人もです!何を突っ立ってるんですか!守備が必要な時はしっかり戻ってください!」
たまらずといった形で宮本コーチも立ち上がって指示を出した。この試合中、このような形でコーチに指示を飛ばされることは初めてだ。それだけに今の状況の悪さが現れている。
「ごめん、ココアちゃん、ナイスセーブ」
「大丈夫ですよ。こんな時のためにキーパーが居るんです。これからもどんどん裏取られていいですからね。それよりも、コーナーキックに集中しましょう」
先ほどまで怒鳴り散らしていたココアちゃんがいつも通りのほんわかした様子を見せてくれて少し安心した。しかし先ほどのセービングは見事だった。じたばたしてなかったし、相手と距離を詰めてコースを狭くして反応も速かった。
その後のコーナーキックはなんとか凌いだが、それからも相手の時間は続いた。相手のサイドがボールを持つとすぐさま十八番が裏を取る動きを見せた。私はその動きについていったが相手選手は九番にシンプルにロングボールを送る。そしてボランチのポジションの十番も前線に走り込んでいる。
(狙いはそっちか!)
九番は胸でボールを落とし、そこに十番が走り込んできてペナルティエリアの若干外からミドルシュートを放った。威力も十分あり、入ったのではないかと肝を冷やす軌道ではあったが、幸いにもバーに直撃し、枠外に外れた。しかし、このままではやられるのも時間の問題だ。後半もまだ十五分ほどあるだろう。このまま耐え続けるのは無理だ。しかし、相手が勢いづいているにしても、ここまでやられ続けるのも何か原因があるはずだ。
(あ!もしかして…………)
ゴールキックの際の自分達の陣形を見ていると、自分達が押し込まれている原因に思い当たった。
「あの、皆さん、もっとラインを上げませんか?」
「え?ライン?低いかな?」
「はい、前半よりも低くなってます。だからもうちょっと上げましょう」
「けど、こんだけ裏狙われてるのに、大丈夫?」
先輩の言うことも最もだ。しかし、後ろにはココアちゃんが居る。いくらでも裏を取られろと彼女が言ったのだ。任せるしかない。
「それよりも、中盤との距離が空きすぎて、セカンドボールを拾われまくってることが問題です。それに、ラインを上げることでオフサイドも取りやすくなります。もちろん、上げ下げが重要なので、ずっと上げるわけじゃないんですけど」
先輩は少し考える仕草を見せたが、すぐに顔を上げた。
「分かった。私は上げ下げのタイミングとかちょっと分かんないし、その辺は沢渡さんに任せていい?」
「了解です!」
なし崩しにラインコントロールというとんでもない役割を押しつけられてしまった気がするが、流れを変えるためなら仕方ない。
状況を整理しよう。今はゴールキックの流れで相手が自陣でボールを持っている。相手の十八番がまた私の裏を狙おうとうかがっている。この状態ではラインは上げにくい。私達がボールを奪った時か、プレスに行って相手がボールを下げた時に……いや、どうせ上げるならいっそのこと……
「DF!しっかりラインを揃えてください!それで、私がはい、と言ったら前に出てください」
できればやりたくはないが、成功すれば今までやられっぱなしだった相手も目に物を見せることができるし、牽制にもなる。そうこうしているウチに相手十番にボールが渡った。そしてやはり十八番が前へ走り出す。
「はい!」
「「「「は!?」」」」
私が叫んだ瞬間、DF陣の驚愕と困惑の声が聞こえた気がしたが、それでも先輩方は私に従って前に出てくれた。十番が蹴ったボールは私達の頭上を越えて十八番に渡ったが、副審は旗をあげてくれ、主審は手を挙げて笛をふいた。オフサイドだ。皆さんの「まじかよお前」とでも言いたげな視線が痛い。
オフサイドトラップ。オフサイドとは、キーパーを除いた一番後ろにいる選手よりもゴールラインに近い位置にいる選手にパスを出してしまった場合成立するのだが、オフサイドトラップはそれを利用して、相手がパスをする瞬間に一斉に前に出て相手をオフサイドポジションに位置させる戦術だ。失敗すれば大ピンチになる危険性が非常に高く、事前の相談もほとんど無しでこれを実行するのは自殺行為に等しい。
(なんであんなことしたかね私は)
当の私も失敗した時の情景が頭に浮かんで背筋が寒くなった。後ろにはココアちゃんも居たし、どうせラインを上げるならと相手への意趣返しも兼ねて実行したが、それにしてもリスクとリターンが余りにも見合っていないだろう。
「メイちゃん、ナイスジャッジです!」
ココアちゃんは若干強く背中を叩いてきた。その強さに言葉とは違う意味を感じるのは気のせいか?
まあ私のやらかし未遂は置いといて、それからの試合展開はディフェンスラインを上げた影響か、あるいは試合が進むにつれて相手の運動量が落ちたのか、はたまた私の意外性抜群の行動で雰囲気が変わったからなのかは分からないが、相手にセカンドボールを拾われることも少なくなり、こちらが押し込めるようにもなってきた。試合時間はあと十分ほどだ。ここで追加点を取ることができればこの試合はほぼ決定的だろう。
そんなことを考えていると、サイドからカットインして撃った神崎先輩のシュートがポストに当たった。神崎先輩は悔しそうに頭を抱えている。私達も先程から押し込んではいるのだが、疲労で足が動きにくくなっているのか、このようにシュートを決めきれない場面が何度か続いた。
そしてそのこぼれ球を相手が拾い、ロングボールを送り、十一番がこれを納めた。そして前線に飛び出す十番にパスをした。十番はマークについた選手にフィジカルで勝ち、完全にノープレッシャーで何でもできる状況になった。私達はラインを上げている影響で裏は取られやすくなっている。これ見よがしに先程まで出番が少なかった相手十八番がゴールへ向かって走った。
(これピンチじゃない?)
チャンスを逃し続けていると相手にチャンスが来るとよく言われるが、正にそんな展開だ。
(ここは私も下がった方がいいか。いや、十八番には平野先輩がついていってる。そういえば、宮本コーチは積極的にやれって言ってたっけ?パスが来る。十八番が走ってる方向からして、パスコースは……ここだ!)
パスが出た。私はその瞬間更に前に出て、足を伸ばしてボールを止めた。その瞬間、フリーになって走っているだろう先輩に目を向けた。すぐさま体勢を立て直して私は逆サイドに向けて思いっきりボールをこすり上げた。
(前半から目を付けてたんですよね、お待たせしました、神崎先輩!)
予想通り先輩はハーフタイムに話した通り、愚直にスペースに走り込んでいた。私のロングボールを神崎先輩は絶妙なトラップで止めた。ゴール前ではFW二人がボールを待っている。しかし、先輩はその二人は使わず、マイナスの方向にグラウンダーのパスを送った。そこにはサイドのポジションから中央に走り込む小桜先輩の姿があった。
左足の精度が高い先輩は滑らかで綺麗なフォームでシュートを放ち、威力があり、よく回転がかかったボールにはキーパーも反応することができず、ゴール左隅に突き刺さった。
余り感情を出すことがない小桜先輩だが、意外にも、ダッシュでウォーミングアップをしているリザーブの選手達に駆け寄って喜びを分かち合っていた。他の先輩達もそこに駆け寄って感情を爆発させている様子を見るに、長らくBチームで苦しんできた彼女たちならではの絆というものがあるのだろうか。
ずっと十八番とスプリント勝負をしていた疲れからか、なんとなくそこに混じる気にはなれなかった私は、下を向いて膝に手を突き、息を整えていた。
そこからは飛ばしていた相手も攻撃する気力を失ったのか、チャンスを作られることはなくなり、逆に神崎先輩がシュートのこぼれ球を押し込み3対0とした。試合はもうロスタイムに入っており、終了目前だ。
「皆さん!最後まで声出して行きましょう!!」
途中からの出場となっている堀川北高校の十八番が意気消沈しているイレブンを励まそうとしたのか、大きな声を出した。そして、その声に反応した試合を通して精度の高いパスを出し続けている十番が十八番にパスを出した。そして小柄な彼女はボールを受けて反転し、そのまま私に突っ込んでくる。
私は下がりながら待ち受けた。最後まで愚直とも言えるほど全力でプレーする姿になぜか私は昔の自分を重ねていた。
そして十八番は私を抜こうとボールを大きく蹴り出した。
(それじゃあバレバレだよなあ)
視線を横に向けることもなく、パスを出すそぶりを見せるわけでもないため、ドリブルで来ることは明白で、また、またぎを入れるなどフェイントもないため、タイミングも分かりやすい。
私は十八番にボールに追いつかせないように体を入れた。そして前に出たココアちゃんが冷静にボールを押さえる。ここで主審が時計を確認した。ココアちゃんがボールを大きく蹴り出すのを見届け、ホイッスルが三回吹かれた。その瞬間、タフな試合であったことを表すようにピッチの選手達が手を突いたり、ピッチに座り込む姿があった。
「やりましたね!メイちゃん、完封です!」
「うん、ココアちゃんのおかげだよ」
ココアちゃんが私に飛びついてきた。この完封は一対一もセーブし、裏を狙われた時も冷静に対処したココアちゃんの功績が大きいだろう。
「大家さん、沢渡さん!」
声がした方を見ると、DF陣が円になって二人分のスペースを空け、こっちを見ていた。私達も急いでそれに加わり、労い合った。
「しかし、沢渡さんのオフサイドトラップにはびっくりしたわ」
「ホントだよね。成功してホッとしたよ」
「すいません、無茶なお願いして」
その件は恐らく宮本コーチにも突っ込まれることだろう。勝算はあるにはあったのだが、それにしても危険すぎるプレーではあった。
「メイちゃん、二点目はナイスパス!」
「今日……ものすごく……上手かったと思う……よ」
皆さんとハイタッチをしていると神崎先輩と小桜先輩が声をかけてきた。この二人は両チームの中でも別格のプレーを見せていた。Aチーム昇格も確定だろう。
「いえ、お二人の方こそ、全得点に絡んでて、凄かったです」
「へへ、そうでしょ?特に二点目の姫花のシュートは凄かったね。なんかスーッとゴールに吸い込まれていってさ。糸を引くようなシュートっていうの?」
「……あれは、仁美のパスが良かったから」
「何言ってるの?あんなシュートを撃った姫花が凄いんだから素直に胸を張ったらいいんだよ」
二人はお互いを褒め合い、照れくさそうだ。去年はつらい思いをしたお二人が笑顔で笑い合っている姿を見ると本当に勝てて良かったと思える。
「今日はお疲れ様でした!同じ一年生だよね!次対戦することがあったら絶対抜くから!」
「あ、ちょっと待って」
堀川北高校の皆さんとも握手を交わしていると、十八番の選手が少し涙ぐみながら捨て台詞のような言葉を放ち、そのまま去ろうとしが、なぜか私は彼女を引き留めていた。
「えっと、これは一つの意見として聞いてくれたら嬉しいんだけど、DF的には今日の動きはちょっと読みやすかったって思った」
「読みやすかった?」
「うん、ドリブルの時とか、次の行動が分かりやすかったかな。ちょっとパスを出す素振りとか、フェイントとか入れたりした方が、こっちとしても対処がしにくいと思うよ」
「そっか……ありがと、それで練習してみるね。じゃあ、また次の機会に」
そう言うと彼女は、一瞬キョトンとした表情を見せたが涙をぬぐい、笑顔で駆けだした。
最後まで懸命にプレイする彼女の姿がなんとなく好ましく見えて、今後も対戦するかもしれない相手に助言を与えてしまった。余り好ましくない行動だったかもしれないが、彼女にとってこの助言が役立つ物であったらものすごく嬉しいのは確かだった。
「皆さん、お疲れ様でした」
ロッカーに戻るとコーチ陣がハイタッチで出迎えてくれた。あの宮本コーチも微笑んで出迎えてくれておてホッとする。
「沢渡さんも、堂々とプレーしていて良かったですよ」
「ありがとうございます」
「しかし……オフサイドトラップを仕掛けたのはあなたですね?」
「……はい、私です」
「ああ、別に叱りつけるわけではないので、安心してください」
私が身を小さくすると、コーチが安心させるように優しい声で語りかけてくれた。
「あの場面、あの戦術のリスクなどは、認識していましたね?」
「はい、十八番は経験が浅く、ラインの駆け引きはあまり得意では無かったので、成功すると思ってやりました」
「そこまで考えていたなら大丈夫です。しかし、周りの選手もびっくりしていたように見えました。オフサイドトラップに限らず、ディフェンスはコミュニケーションを取りながらすることは非常に重要です。次にああいったことをするのであれば、事前に周りに説明した方がいいでしょう」
「はい、分かりました」
私が返事をすると、宮本コーチが満足したように頷き、別の選手の方に向かった。ある程度私の出来に満足していただけたようで安心した。
シャワーを浴び終わると宮本コーチから今日の試合の総括があった。
「えー、皆さん今日はお疲れ様でした。途中押し込まれる時間帯もありましたが、皆さん集中を切らさずによく頑張ったと思います。少なくともこの間のAチームの出来とは雲泥の差がありました」
コーチはわずかに笑みを見せながら話し、部員達はそれを聞いて得意気に顔を見合わせた。Aチームの陰に隠れてきた彼女達にとって、今日の試合は大きな自信になったのだろう。
「しかし、全国大会に出場するのは、このレベルの相手に押し込まれているようでは、到底不可能なことはよく理解しておいてください。これからAチームに上がる人も、Bチームにとどまる人も、最終的な目標は全国大会です。AチームであろうがBチームであろうが、私達は同じ芳都野高校サッカー部の一員です。同じ目標を持って、これからも頑張って行きましょう」
「「「「「はい!!」」」」」
全員がこの話で、また決意を新たにした。ここで終わっていればいいミーティングだったのだが、ここで宮本コーチが一部の部員にとっては悩みの種である行事に言及する。
「Aチームに上がるメンバーは、中間試験後に発表することになると思います。皆さんは勿論、通知表に赤がつくようなことは、ありませんよね?」
宮本コーチは笑ってはいるが、目の奥は笑っていないのが丸わかりだ。渋い顔をしている人の成績が心配で仕方ないのだが、大丈夫なのだろうか?




