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思春期フットボーラー  作者: kasic
2章 足掻く少女
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覚悟

 後半開始のホイッスルが鳴り、相手チームのボールでキックオフとなった。相手の攻撃は前半と変わらず、私達の攻撃陣にプレスをかけさせ、そこから前線に送ると戦術を続けてきている。しかし、前半から守備陣も集中しており、ロングボールを跳ね返すことはできていた。


(ボールは持てるんだけど、なかなか次の段階にいけない)


 そして相手の守備は、私達がボールを持つと、特に私達のFWへのパスコースは徹底して切ってくる。ボールを持ち、前を向いてもなかなか起点となるパスを出せないのが現状だった。


(うー、縦へのパスコースがない……)


 今もフリーの状態でボールを持ち、前を向いたが、相変わらずパスコースは遮断されている状態だった。ボールを持たれても何もないと認識されているなら全く情けない限りだ。


「メイちゃん、回して!」

「はい!」


 右サイドの姫花先輩に呼ばれ、ボールをサイドに流した。自分の技術の無さを嘆いていても仕方がない。早め早めにボールを動かさなければ。


「パスコースないなら動くよ!、出し手に選択肢を多く作ろう!」


 監督から檄も飛んできた。確かに疲労が溜まってきて練習からやってきたボールを動かして体も動かす意識が抜けてきていたかもしれない。


 そこから落ち着きを取り戻した私達は、前線からのプレスをツートップの二枚からサイドハーフの二人を加え、更にプレッシャーを強めた。そのプレスが功を奏し、相手SBのパスが姫花先輩のプレッシャーにより精度を欠き、すると連動して中盤までポジションを上げてきていた右SBの木村先輩がカットし、ダイレクトで姫花先輩に戻した。


(ショートカウンター、私も行ける!)


「ダイレクト!」


 私が声を張り上げて呼ぶと、姫花先輩は私の走るコースに合わせてトラップのしやすいボールを送ってくれた。このあたりはさすが技術が高い。


「仕掛けて!!」


 誰かの指示が耳に入ってきた。前を向くと、私に向かって相手ボランチとSBの二枚が来ているが、まだ追いついておらず、二人の間にスペースがある状態になっていた。


(ドリブルコースはある。行ってみよう!)


 私はパスをドリブルコースに向かって前方向にトラップした。相手SBが追いついてきてボールに足を伸ばしてきたが、そこで私は左足のアウトサイドでボールを蹴り、相手の足をかい潜った。


(もう一人!)


 更に相手ボランチもボールを奪おうと足を伸ばしてきた。同じ要領で躱そうとしたが、ここは相手も抜かれてはいけないと思ったか、スライディングで足ごと狩ってきた。


「いっつ…………!!」


 スピードに乗っていた所で芝生に叩きつけられたため、衝撃と痛みが体を襲ったが、その瞬間ホイッスルの音が聞こえ、審判が私を止めたボランチの選手にイエローカードを提示した。


(もうちょっとで突破できたのに。簡単にはやらせてくれないか。イエロー出させただけでも御の字かなあ)


「ナイス!いい仕掛けだったわよ」

「ん、ありがと」


 少し思考に沈んでいる所で、まだ倒れている私をケイが助け起こしてくれた。彼女は続けて少し興奮気味に話す。


「それにしても良いドリブルだったわね。相手がいつ足出してくるか分かってた感じ!あんなプレーできるなんて知らなかった」

「うん、私でも少しビックリだよ」


 プレーの最中は必死すぎて意識はしていなかったが、ドリブルコースや相手のプレーの選択肢とタイミングがなんとなく見えたり、今までにない少し不思議な感覚だった。


(なんだったんだろう……。積極的にやり続けていけば、もう一回見えるのかな?)


 そう思っている間にも試合は進んでいく。このように私達が攻め込む時間帯になっていたが、相も変わらず得点源のケイが徹底マークされているため、なかなか決定機が作れない。時間も徐々に少なくなる中、両SBの木村先輩と赤村先輩も積極的にオーバーラップしている。


(それはいいんだけど、ちょっと足が重たくなってきた。ボランチってしんどいなあ)


 前半からパス回しや攻撃参加、ポジションがずれた時のスライドなど、様々な役割をこなす内に私の体の方も限界が近づいてきている。このポジションは純粋に走行距離が多い。今までの歴代チームメイトに好き勝手プレーして申し訳ないと土下座したい気分だ。今もサイドを駆け上がった赤村先輩のポジションを埋めるために左サイドにスライドしている。

 こちらのスローインからの流れで赤村先輩がオーバーラップし、そのままクロスを上げたが、ふんわりとしたボールはそのままキーパーにキャッチされた。


(カウンター警戒!え?こっちにそのまま蹴ってくる!)


 相手キーパーはクロスをキャッチしてすぐにパントキックでボールを左サイドに向かって蹴った。飛んできている弾道の高いボールに対し、私はマッチアップしていた相手FWの動きを警戒しながらバックステップを踏んだ。


(これはちょっと強すぎる?だったら無理に跳ね返すより、バウンドさせてクリアするか、ココアちゃんに処理してもらうか)


 ボールはペナルティエリア前でバウンドする軌道で、地面につく直前、ココアちゃんに合図を出そうとした時だった。


「メイちゃん大外!!もう一人来てます!!」

(え、嘘!?)


 気付いた瞬間には時既に遅く、大外に走り込んでいた相手選手がボールに追いつき、完全に入れ替わられてしまった。後ろにはキーパーしかいない。


(なんとかコースは消さなきゃ!ココアちゃん、お願い!)


 私は必死に追いすがり、相手選手がシュートモーションに入った瞬間にファーのシュートコースを消すように足を出した。すると、ココアちゃんはニア上を抜こうとしたシュートに大きな体を目いっぱい伸ばし、ゴール外へと弾き出してくれた。


(流石!!助かったあ)


「ココアちゃん、マジごめん、マジ感謝、マジ守護神だよ!ホントありがとう!」

「いえいえ、私の方こそコーチングが遅れましたから。それより、私もメイちゃんがファーを消してくれたおかげでコースを絞れました」


 私が感極まって飛びついていると、ココアちゃんも優しく抱き留めてくれた。ぶん殴られる覚悟はしていたが、心優しい対応で助かったやら申し訳ないやらだ。


「集中!集中!セットプレー跳ね返そう!」

「はい!」


 その後のセットプレーもなんとか切り抜け、窮地は脱したが、私の疲労は溜まっていく一方で、こぼれ球への反応が遅れるようになってきていた。ベンチの方を見ると、綾乃先輩がユニフォーム姿で指示を受けている姿を捉えた。


(……私だろうな。限界まで力を出し尽くさないと)


 先程から前線からのプレスをツートップとサイドハーフの四枚で行くようになったため、そこを相手の中盤の選手がボールをもらいに行く動きで味方SBが釣り出されるようになっていた。


(くっ、やっぱり来た!やらせない!)


 相手のSBがプレスをひっくり返すように、その釣り出された裏のスペースを狙ってきた。交代の前にここだけは何としても抑えないといけない。

 私は走り込んできた選手に何とか体を寄せ、サイドに追い出し、後ろを向かせることを成功した。


(まだまだ、CBで培われた対人力を舐めるなよ!)


 尚もキープしようとする相手に対し、腰で相手を押し出すようにぶつかり、少し体勢を崩した隙にボールを奪った。その後すぐに引き倒され、ファールで私達のボールとなる。

 すると、主審がホイッスルを吹き、ピッチサイドを指差した。


(……やっぱり私だよね)


 その先では10番をつけた綾乃先輩が立っており、審判は私の番号である27番のボードを掲げていた。

 複雑な気持ちを抑え、私は速やかに綾乃先輩の下へ向かう。


「先輩、後はお願いします!!」


 私が走りながら声を張り上げると、どこか精悍な顔つきをした綾乃先輩は決意を固めたように頷き、両手を差し伸べてくれた。私はその手を上から勢いよく叩く。


「任せて!」

「はい!」


 気合いを注入するように背中も一度叩き、私は綾乃先輩を送り出した。あの様子なら全力でプレーしてくれるだろう。


「お疲れ!良かったよ!」

「ありがとうございます」


 ベンチに戻ると、監督が労うように手を差し伸べてくれた。私は素直に応え、ベンチに戻った。他の控え選手や宮本コーチ、マネージャーさんも次々に労ってくれるが、私の気持ちは晴れないままだった。


(結局何も出来なかったなあ)


 自分なりに前線に顔を出してみたり、ドリブル突破を図ったり積極的にプレーしてはみたが、チャンスを作るには至らず、逆に守備では相手の決定機を作ってしまった。ボランチとしては技術や判断等、何もかも足りていないことを思い知らされる。


「綾乃!落ち着いて!」


 控えメンバーの叫び声で私は我に返り、ピッチを見た。どうやら綾乃先輩のファーストタッチを迎えているようだ。


「先輩!後ろ!」


 本人に聞こえるはずもないが、声を張り上げた。ボールを持っていた綾乃先輩にファーストタッチの今がチャンスと思ったか、相手FWが背後から忍び寄っている。先輩は落ち着き払った様子ですぐに背中でボールを隠し、一回転して躱した。そのままボールを持ち運び、落ち着かなかったボールをマイボールに落ち着かせることに成功する。


(やっぱうまいじゃん。何も心配いらなかったな)


 正直私とは比べものにならないほど綾乃先輩の技術は高い。それからも少しパスコースがあれば、相手のダブルボランチの間を縫って縦パスを通し、少しスペースがあればボールを運んで攻撃に厚みをもたらし、私達に攻撃の主導権を握らせている。


(この流れで一点獲れれば勢いづくのに。何やってんのよ)


 この流れの中で一点がほしいが、前線のキーパーソンである藤堂恵が疲れからかプレスの強度を落としており、攻撃でもスペースを突く動き出しが鈍くなっていた。先程から膝に手を置くシーンも目立つ。


「監督、藤堂さんを下げませんか?明らかに動けなくなってきてます」

「うん、だけど、今ケイを下げたら得点力が落ちる。点を獲らなきゃダメだし」

「その前にこっちのディフェンスが持ちませんよ。フレッシュな子を入れて、守備から主導権を握った方が……」

「うーん、それもそうだけど……」


 監督と宮本コーチがホワイトボードを動かしながら議論を続けている。このままでは遅かれ早かれケイは下げられてしまう。今もケイはプレスを躱され、膝に手を置いていた。


(私は何をやってるんだ。ベンチに下がってもチームの一員じゃん。できることをしなきゃ)


 私はピッチサイドに向かい、前線で息を切らしているケイに向かって叫ぶ。


「ケイ!走れないなら今すぐに替わってよ!!」


 ケイは驚いたように目を丸くしてこちらを見た。ベンチの方々や相手の選手でさえも驚いたように私を見ているが、構わず続ける。


「動けないなら替われって言ってんの!!交代選手も沢山いるんだから!」


 私はウォーミングアップゾーンの先輩方を指差した。先輩方は呆然としたように動きを止めて私達を見ている。


「ほら、先輩方もアップを続けてください」

「う、うっす」


 私の言葉に我に返ったのか、先輩方もアップを再開した。それを見て私はケイに視線を戻した。


「それで?替わるか走るか、どっちか選んでよ!」


 その言葉を受けてケイはこちらを睨み返し、言い返してきた。


「言われなくたって走るわよ!貴方は黙って見てなさい!!」


 そう言い返してケイは守備に戻っていった。これでしばらくはまた走れるようになるだろう。


「監督!」

「え、は、はい?」


 私が監督を呼ぶと、監督は戸惑ったように返事をした。


「藤堂さんはまだやれるそうです!下げないでやってください」

「う、うん、分かった。宮本コーチもそれでいい?」

「……そうですね。もう少し様子を見ましょう」


 何とかこの騒ぎはこれで幕引きとなった。少し強引な手段だったが、彼女を下げさせず、なおかつ前半のレベルまでパフォーマンスを持ち直してもらうにはこれしかない。


(だけど、こんな根性論でごまかしても数分持つかどうか……お願い、何とかスコアを動かして)


 私が祈りながら見ていると、長瀬キャプテンが高い弾道のロングボールを前線に送り、それが相手CBの足下に落ちていく。


(クソ、だめか)


 そう思った瞬間、相手のトラップが少し乱れる。

 それを狙いすましたかのように相手の視野の外から膨らみながら、ケイが獣のように突っかけていった。


「行け!奪え!」


 相手選手も必死にボールを隠すが、ケイが遂にボールを小突いた。そのボールを詰めていた高城先輩が掻っ攫い、ゴール前へと運んでいく。


「撃て!!」


 ベンチ全員が総立ちの中、ペナルティエリア内に侵入するが、相手のもう一人のCBが追いすがっており、角度もなかったためか高城先輩はシュートを撃たず、ボールを持ち直してキープすることを選んだ。


「撃てよ、なにやってんだよ」


 ベンチ全員が頭を抱え、チャンスが潰えたと思った中、ゴール前に一人選手が走り込んできた。


「パス!マイナスに!」

(綾乃先輩!?)


 高城先輩は綾乃先輩が走り込んでくるスペースに回転の緩やかなボールを送った。少し距離は遠いがシュートコースは開けている。


「撃て!!綾乃!!!」


 ピッチサイドからこれ以上ないほどお腹に力を込めて声を張り上げた。

 綾乃先輩は軽く助走をつけて足を振り抜いた。そのボールは追い切れないほどのスピードで飛んでいき、相手キーパーの手を掠めて勢いよくゴールネットに飛び込んでいった。


「よっしゃああああああ!!」


 その瞬間、ベンチに居た誰もが歓声を上げた。綾乃先輩がベンチに向かって、私に向かって走ってきているように見える。


「メイ!!」


 綾乃先輩は私の名前を呼びながら、私の方を指差した。私もそれに応えるべく、両手を広げて待つ。


「やった!やったよ、メイ!」

「うん!綾乃すごい!やっぱやればできるじゃないですか!!」


 私達が喜びを分かち合っている所に他の控えメンバーとピッチの選手も次々に雪崩れ込んでくる。


「綾乃先輩やった!もう一点獲りましょう!」

「綾乃!やっぱりあんたが全部持ってくんだね!最高だよ!」


 ひとしきり騒いだ後、主審がホイッスルを吹いて自陣に戻るように促してきた。綾乃先輩はボトルの水を一口含み、まだ少し興奮したように顔を紅潮させて話す。


「メイちゃん、勝ってくるからね!絶対にキミの頑張りを無駄になんかしないから!」

「はい!私もベンチから応援します!絶対勝ってきてください!」

「うん!」


 もう一度ハイタッチして、先輩はピッチへと戻っていった。


(時間もあと少し……。みんな頑張って!)


 ベンチから指をくわえて見るしかないもどかしさを抱えつつも、私はチームが勝てるように念を送った。 

ブチ切れながら投稿してます笑

皆さんも寝不足には気をつけてください。

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