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思春期フットボーラー  作者: kasic
2章 足掻く少女
38/54

警戒

「最初から飛ばしていくよ!交代メンバーたくさん居るからね!」

「はい!」

「さあ行こう!!」

「おお!!」


 円陣を組み、各ポジションに散った、いよいよ試合開始だ。状況を整理すると、今日は一勝一敗同士で迎える二次リーグの最終戦だが、得失点差の関係で、引き分けであれば相手チームの鴨川高校の勝ち抜けとなる。ここに来て一戦目の大敗と二戦目の接戦が重くのしかかっている形だ。公式戦初スタメンがこの状況とは監督も思い切りがよすぎる。


(だからこそ気合いが入るとも言えるんだけど)


 主審がホイッスルを鳴らし、いよいよ試合開始となった。こちらのキックオフのボールを受け取ったキャプテンがロングボールを送り、それが相手のキーパーまで流れる立ち上がりになった。相手はそのボールをロングボールで前線まで送るのではなく、スローでCBに渡した。


(ん?鴨川高校ってポゼッションじゃなくてロングボール主体のチームだった気がするけど)


「プレス!ゴーゴー!!」


 ちょっとした傾向の違いに少し戸惑うが、私達の方はいつも通り最前線のケイからプレスをかけていく。相手は左CBから右CBにボールを回し、ケイがボールを突こうとした所でロングボールを蹴った。


(あれ?ここで蹴ってくるんだ)


 そのボールをCBの渥美先輩が競り、タッチラインに逃れた。流れとしては繋がずにロングボールを蹴ってくるというチームスタイル通りの流れではあるが、それならプレッシャーをかけられている状態よりもキーパーから蹴った方がいいような気がする。


 違和感のある試合展開ではあるが、そのような流れの中試合が進んでいき、最初にシュートチャンスを掴んだのは私達だった。


(あ!来た!)


 相手がまたキーパーから繋いでいる所に前線がプレスに行った流れの中で、クリアボールがグラウンダーになって直接私の所に入った。


「ダイレクト!」

「はい!」


 フリーになっていた高城先輩が要求している。私は直接先輩の所に縦にボールを出した。


(ボールを出したら、止まらず動いて)


 ボールを受けた高城先輩は私の強いパスに多少トラップが流れたが、更にワンタッチで前に出てきた私にボールを落としてくれた。


(常に状況確認。速く、リズム良くボールを動かす)

「メイちゃん!」


 トラップ直前、右サイドにいた姫花先輩が手を広げてボールを要求していた。それを見て私はダイレクトでサイドに展開する。そしてそのボールはハーフスペースまでポジションを下げたケイに繋がった。


(よし、繋がった!私もゴール前に、ん!?)


 ケイがボールをキープした隙に、中盤の位置から前線まで抜け出ようとしたが、相手の中盤の選手がそのスペースを消していた。強引に前に出ようとしてもピッタリと付いてくる。

 そうこう駆け引きをしていると、ケイからゴール前の高城先輩にボールが渡り、DFの守備を交わしてシュートを撃ったが、角度のない所からのシュートだったため、枠は捉えたがキーパーにキャッチされてしまった。


(うわー、惜しかった。それより、相手の中盤の動き、監督が言ってた通りなのかな?)


 私が今朝スタメンを告げられた時、監督は私に一言アドバイスをくれていた。


『最近、メイはよく三列目から前線まで飛び出してるよね?それ自体は有効な手段だし、どんどんやってもらっていい。だけど、もう二試合もそれやってるし、相手もそろそろ対策してくるかも』


 これがその対策かもしれない。その後も私は何度か前線に抜けようとしたが、その度にダブルボランチのどちらかが私にピッタリ付いてくる。


(まさか私の対策をしてくるなんて思ってなかったけど、ここまでされると確かに何もできない)


 そして、対策をされているのはどうやら私だけではないらしかった。


(ケイへのパスコースがない。まさかここまで徹底してくるなんて)


 私がボールをもらって前を向くと、常にケイへのパスコースに人が立っており、縦パスはまともに入りそうにない。


「メイ!私に付けて!」

「うん!」


 その状況に苛立った彼女は中盤まで下りてきて無理矢理ボールを受けようとした。

 しかし、ボールを出した瞬間、相手のCBがボランチより前に出てファールで止めた。


(もしかしてマンマーク?一人のためにここまでやるなんて)


 ここまでの試合を見る限り、相手のCBの一人が常に彼女に着いて行っているいらしい。

 今大会の私達の総得点を見ると、約八割ほどは彼女の物だ。ここまで一人にマークが集中すると、他の選手でボールは持たれるのだが、得点源の彼女を抑えれば得点されないという考えだろう。それは成功しており、前半20分を過ぎた辺りでも、ケイはシュートを撃つどころか、まともにボールを持って前に向けない状態だった。

 そして、その状態が続くとこちらにも焦りが出てくる。


(あ、まずっ)


 右SBの木村先輩がダイレクトで斜め前のケイに強引に付けようとしたパスがミスになり、相手の中盤に渡った。


(死んでも前は抑える!)


 私はゴール方向のドリブルコースは消し、サイド方向に押し出し、少し攻撃を遅らせることには成功した。しかし、カウンターとなり、相手のサイドハーフの上がりに木村先輩の戻りが追いつけていない。このままサイドに渡されれば大ピンチだ。


「舐めんなよ!」


 しかし、いざサイドに展開されるかという所で、後ろからケイがスライディングで足を伸ばし、ボールを奪った。すぐさま体勢を戻し、ゴールへと向かっていく。そして相手が突っ込まずに身構えた所で、そのままロングシュートを撃った。


(入った!?)


 そう思わせる威力と軌道でゴールに向かっていったが、惜しくもクロスバーを掠め、枠から外れた。


(惜しい、だけど、今日初めてケイらしいプレーを見た気がする)


 ケイはボールを見届け、頭を抱えながら悔しそうにポジションに戻っていた。その彼女に思わず声を掛ける。


「ナイシュー。惜しかったよ」


 そう声を掛けると、彼女は私を睨み付け、言い返してきた。


「惜しくないわよ。シュートコースは見えてたのに、威力に拘りすぎて枠に行かなかった。枠外シュートなんて何の意味も無い」

「そっか」

「それより、貴方の方こそ怖じ気づいてんじゃないわよ」

「え?」

「さっきから全然前に飛び出してこないじゃない」


 確かに、ここ10分ぐらいは前に行けそうな時も自重してしまっていた。奪われてカウンターになるリスクを避けていたという言い訳はあるが、確かに怖じ気づいていただけかもしれない。


「前に出てくるのが貴方の持ち味でしょ?相手の対策なんて破るためにあるんだから、自分のプレーをしなさいよ」

「うん、分かった。ありがとう」

「分かったならいい。今日も絶対勝つわよ」


 そう言って彼女はポジションについた。少し痛い所を突かれてしまった。


「ボール獲られたって大丈夫。後ろは私達がカバーしてるからさ。沢ちゃんは思った通りにプレーしていいよ」


 そのやり取りを聞かれていたのか、彩音先輩がフォローするように声を掛けてくれた。


(確かに、監督はこうも言ってた)


『対策はされても、メイは自分のプレーをすればいい。分かってても背後を狙われるのはイヤな物だし、中盤の選手がそれをやれれば、うまく行かなくてもプレッシャーはより一層かけられる』


(思い切って、直感に従ってやってみよう。相手の対策が上回れるように。考えろ、どうやったら警戒されてても相手の裏をかけるか)


 11対11なので、基本的には守る人数は足りている。それを上回るには相手の隙を見抜いて動くしかない。警戒されていると言っても常に私を見ている暇はないはずだ。


 右サイドで姫花先輩がインナーラップしてきた木村先輩にボールを渡した。その流れでクロスのタイミングを伺いながらパスを回している。

 そこで私もペナルティエリアに入り、ゴール前の駆け引きに加わる。


「いったん戻して!」


 逆サイドの中盤の彩音先輩が攻撃を組み直そうとボールを要求した所で、私のマークだった相手ボランチが目を切る瞬間が来た。


(今だ、行ってしまえ!)


 私は姫花先輩に向かって前方を指差し、ハーフスペースに斜めに走り込んだ。気付いてくれた姫花先輩は私の走り込むスペースにスルーパスを出してくれた。一瞬相手の虚を突いて前に出たが、すぐに気がついた相手選手は体を寄せてくる。


(中途半端になるな、プレーをやり切れ!)


 ゴール前にクロスを上げるべく、ボールを蹴り上げたが、スライディングで戻ってきた相手選手にボールが当たり、ゴールラインを割ってコーナーキックとなった。


(クソ、もう少しだったのにな)


「メイちゃん、今の飛び出し、すごく良かったよ」

「ありがとうございます、姫花先輩も見ててくれてありがとうございます」


 姫花先輩の言うように、今の飛び出しは今日一番手応えのある形だった。一カ所に拘らず、こうやって色々な所を動き回れば隙が生まれるかもしれない。


(よし、これを続けていこう。点にならなくても、プレッシャーにはなるかもしれない)


 しかし、そうは言っても現実は厳しい。さっきみたいに相手の一瞬の隙を見逃さずに抜け出すのは非常に難しく、それができたとして相当難易度の高いパスを要求することになり、中々チャンスに結びつかなかった。


「前半ラストワンプレー!シュートで終わるよ!」


(前半ももうすぐ終わる。なんとかチャンスを作らないと)


 スローインから左サイドで細かくボールを回している。私もそれに加わるべく、ボールに近づいたが、再三にわたって相手のボランチが着いてきている。そして、また攻撃を作り直そうと彩音先輩にボールを戻そうとした時だった。


(え!?やば!)


 なんと、バックパスしたボールがズレてしまい、ボールはガラ空きの自陣の中盤に転がっていき、相手のトップ下が拾ってしまった。


(うわ、戻りが間に合わない)


 ダブルボランチが両方上がる最悪のタイミングでミスが起こった。相手のサイドの二人は準備をしていたように駆け上がっている。


(私達が人数をかけて攻めてる時のカウンターも準備してきてるのか)


 相手トップ下はそのままガラ空きの右サイドに向かってボールを送り、受け取ったサイドの選手はドフリーの状態でファーサイドにクロスを上げた。ボールは綺麗に放物線を描き、身長的にミスマッチとなっていた渥美先輩の所に向かっていった。相手FWは渥美先輩の前に体を入れ、完全にボールを叩きつける体勢に入っていた。


「はい!大丈夫です!」


 万事休すかと思われたが、すんでの所でキーパーのココアちゃんが長身を活かしてボールを掻き出した。


「クリア!」


 何とか戻ってきた彩音先輩がボールを前に蹴り出した所で、前半終了のホイッスルが鳴った。今のプレーだけで寿命が五年ぐらいは減った気がする。




 ベンチに戻ったみんなの顔は一様に暗い。最後の決定機が尾を引いているのもあるが、自分達の戦いが分析され、今までのサッカーが出来ていないことも一因だろう。


「みんなごめん、最後の決定機は私の判断ミスだ。沢ちゃんが上がってたんだし、時間帯も考えて私も上がっちゃいけなかった」


 彩音先輩がさっきの大ピンチを持ち出して頭を下げた。私も自分が上がったことによる弊害をあまり考えずに上がってしまっていたため、彩音先輩に謝らせてしまって申し訳ない気持ちだ。


「いや、それを言ったらパスミスしたのは私だよ。バックパスの判断をしたのも良くなかった」


 追随するように頭を下げたのが左SBの赤村先輩だ。いつもはパスミスが少く、判断もしっかりしている選手だが、先輩にも相手に警戒されている影響が出ているのかもしれない。暗い雰囲気になりかけた所で、キャプテンが一つ手を叩き、みんなに向かって話す。


「プレーを後悔するのは試合後にしよう。後半はそこを含めて冷静に、いつも通りプレーしよう。そのいつも通りが対策されてて、私も含めてみんな冷静じゃなかったと思う」

「うん、最後は別にして、後ろもしっかり守れてたし、普段通りやれば後半はいけると思うよ!」


 高城先輩もキャプテンに続いて元気づけるように話すと、ようやくみんなが元気を取り戻し、各々が後半に向かって各選手と打ち合わせを始めた。その中で心配なのは私の隣で息を切らしているこの選手だ。


「……ふう、これだけ走らされるとは……、思わなかった」


 ケイは肩で息をしながら話した。相手DFにどこまでも着いてこられ、まともにボールを受けられなかった上に、DFラインでボールを繋ぐ相手に対してファーストディフェンスで常に突っ込んでいたため、彼女はまだハーフタイムにも関わらず、相当疲労を溜めているようだ。

 

(もしかしたら、こういう所も含めて相手の対策なのかなあ)


 ケイは相手の対策に対しても常に全力で上回ろうとする選手だ。今日はいつも以上に走り、体を張っているため、このままだと試合終了を持たずに潰れてしまいそうだ。


「はい、みんな聞いて!」


 もうすぐハーフタイムが終わろうという所で、監督が私達に話し始めた。


「前半はよく頑張った。みんな気付いてると思うけど、相手は相当私達を研究してきてる。その中で、前半をスコアレスで終えられたことはポジティブだし、相手にとっても想定外だと思う」


 監督は私達を励ますように話し、続けた。


「後半もメンバーはこのまま、戦い方もこのまま行くよ。気持ちよくサッカーができなかったけど、それは私達用にサッカーをしてる向こうも同じことだよ。むしろ後半からは相手の方がキツくなってくるからね。後半は相手の予想を超えてやろう!!」

「はい!!」


 ようやくみんなが沸き立った所で、審判が後半開始を告げるホイッスルを鳴らした。


「よし、じゃあキャプテン、お願い!」

「はい、みんな集まって!」


 キャプテンの号令を下に、控えメンバーも含めてみんなが輪になった。


「キツいだろうけど、後半はもっとギア上げて行くよ!」

「はい!」

「前半でも言ったけど、走れなくなっても変わってくれる選手は何人もいるから!」

「はい!」

「ここで絶対終わらない!みんなで決勝トーナメントに行くからね!!」

「はい!!」

「さあ行こう!!」

「おお!!!」


(ふう、監督はやっぱ上手いんだなあ。暗かった雰囲気が一瞬で変わった)

「よし、後半も頑張ろうね。疲れてなんかいられないわ」


 肩で息を切らしていたケイも息を整え、意気揚々とピッチに向かっていった。彼女がどこまで今のプレーを続けられるかも、後半の鍵になるだろう。


「あの、メイちゃん」


 私もピッチに向かおうとした所で、綾乃先輩に声を掛けられた。


「綾乃先輩、後半も頑張ってきますね」

「うん、……頑張ってね。あのさ、なんでみんなは、こんなに頑張れるのかな」


 綾乃先輩がポツリと言葉をこぼした。頑張るのは私としては当たり前なのだが、意味がよく分からない。


「どういうことですか?」

「だって、相手にあんなに研究されて、いつもみたいにサッカーができなくて、それなのに、みんな前を向こうとしてる。怖がってない。私には無理だよ」


 綾乃先輩のその言葉を聞いて、私は何となくこれまでの先輩の気持ちが分かってきた。中学の時も、多分その気持ちを周りに表現できなかったのだ。


「先輩、私だって怖いです。多分、それはみんな同じです」

「なら、どうして」

「それは、みんなが居るからです。小っ恥ずかしいこと言うと、仲間が居るから?です」


 クサい台詞を放っていることに顔が熱くなるが、勢いで言い切る。


「同じように相手に立ち向かってくれる仲間が何人も居るから、キツくても怖くても走れるんですよ」

「仲間が居るから……」


 先輩は私の言葉を聞いて、考え込むように顎に手をやった。私もピッチに行かなければいけない。


「先輩、みんなが頑張ってる姿、ちゃんと見ててくださいね?私も頑張ってきます」

「うん、頑張ってね。応援、してるから」

「はい!」


 一度ハイタッチを交わすと、私はピッチに戻った。あんな偉そうなことを言った手前だ。情けないプレーはできない。


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