不安要素
今回出てくる選手権大会のレギュレーションは実際の物とは異なります。
矛盾点があれば、遠慮無く、お申し付けください。
「はい、ストップ!ストップ!攻撃陣しっかり動いて!」
合宿が終わり、少しの休みを経て、選手権大会に向けて練習が再開された。初戦までおよそ二週間、まとまった練習時間を取ることことができるのは今週が最後ということもあって、監督の指導にも熱が入っている。
「まったく、どうしてただ突っ立ってるかな?ボールが来るのをただ待ってたんじゃ点なんて入んないって何度も言ってるでしょ?スペースを見つけて、そこに走ってボールを呼び込まないとチャンスは生まれない。もう一回そこをしっかりと意識すること。じゃあもう一度ここの局面からね」
現在守備陣と攻撃陣に分かれて実戦形式の練習を行っており、その前の走りの練習のせいで私達は疲労困憊でスペースに走る動きを出せていない。しかし、それを分かっていながら監督は容赦なく厳しい指摘を入れてくる。
(まあ、実際の試合では疲れてるから走れないなんて言い訳通用しないんだけどさ)
「へい!へい!」
そんなことを考えていると、私とマッチアップしていた藤堂 恵が斜めに走り、私の前に出てサイドの背選手にクロスボールを要求した。
(相変わらず鋭い動き出し!だけど、私だって!)
クロスボールが来た。私もボレーシュートを撃とうとするケイにしっかりと体をぶつけて、シュートコースを消すように滑り込んだ。その成果もあって、シュートは私の足に当たり、枠内に飛んでいくことは無く、ゴールラインを越えた。
「そうそう、今の動き出しだよ!疲れている時でも、今みたいにスペースに走り込むことを意識して!守備陣もさっきのメイみたいにしっかりとついて行くこと!それじゃあ次!」
(良かったあ、結構ギリギリのプレーだったけど、ちゃんと仕事ができた)
「メイ、大丈夫?」
監督から褒められ、良いプレーが出来たことに安堵の息をついていると、マッチアップをしていたケイから手を差し伸べられた。私もその手をしっかりと掴んで立ち上がった。
「結構痛いけど、まあ大丈夫。相変わらず良いシュート持ってるね」
「だけど、決められなかったら意味が無いわ。まあさっきはメイのブロックが良かったってことにしましょうか。次は決めるけどね」
「何言ってるの?次も私が止めるから」
「む、メイも言うようになったじゃない」
「おかげさまでね」
「………………」
「………………」
少しの間睨み合う。何も知らない人達が見たら少したじろぐような雰囲気なのだろう。
「……くすっ……ふふっ」
「ふふっ、ケイの負けだね」
「くくっ、……勝負なんかしてないし」
そんな時間は長くは続かず、お互い我慢できずに吹き出してしまった。ケイとは色々あったが、こんな風に軽口を叩き合える仲に戻れたことはとても嬉しい。
「みんなお疲れ、今日の練習はここまで!夏休みの終わりには最後の大会が控えてるし、今週には最後の練習試合があることはもう分かってるね?私へのアピールもそうだけど、ケガだけには気をつけること。体のケアは忘れないようにね。じゃあ、今日は終了です。キャプテン、お願い」
「はい!みんな、グラウンドの方を向いて!…………気をつけ!礼!」
「ありがとうございました!!!」
キャプテンの号令でグラウンドに向かって一礼した。今週末の練習試合、そこで選手権のメンバーの最終選考がなされるのだろう。私の立場は未だスタメンか控えかの当落線上、ここが正念場だ。より一層気合いを入れていかなければ。
「いよいよ最後の大会が近づいてきちゃったね」
居残り練習も終わり、部室で着替えていると、隣に居る斉藤 有希が感慨深そうに呟いた。小柄で快活そうな彼女はこんがりと日焼けした肌が良く似合う。
「はい!私は楽しみです、いよいよ芳都野の力を東京の皆さんに見せつけることができます」
一年生ながら正GKとして試合に出ることが有力視されている大家 心愛ちゃんは相変わらず自信がありそうだ。大柄な彼女がゴールを守っているとDFとすればいつも安心してプレーすることができる。
「うん、だけど、最初は負けたら終わりの一次トーナメントだからね。私は緊張するなあ」
「そう?私は分かりやすくてトーナメントの方が気合い入るけど」
私の言葉に反応したケイが不思議そうに話した。近頃、部活の時はこの4人で話をすることが多い。
すると、さっきから難しい顔をしながら腕を組んでいる有希が疑問を口にした。
「すごい今更なんだけど、東京の高校の女子サッカーのレギュレーションってどうなってるの?一次トーナメントとか、二次リーグとか、よく分からないんだよね」
サッカー初心者であった有希がそう言うのも無理はない。高校サッカーは高校野球と比べて認知度が低く、なおかつ各都道府県ごとにレギュレーションが全然違う。
「その質問を待ってましたよ!ここは高校サッカー愛好家の私の出番ですね!」
「うわ、どうしたの?ココアちゃん」
急にココアちゃんが目を輝かせ、どこからか眼鏡を取り出して解説を始めた。
「まず、東京都は高校が多いので、地域ごとにA地域、B地域に分けられてます。私達、芳都野高校はAブロックですね。これが男子だと、また複雑な分け方があるんですけど、女子の方は単純に地域で分けられてます」
要するに、高校野球の西東京、東東京のように、女子高校サッカーもA代表、B代表に分けられている、ということだ。私達のいる芳都野高校はA地域、日向のいる桜南高校はB地域だ。つまり、私達は選手権予選で戦うことはない。
「そして、その地域がさらに細かく地区に分けられて、その地区ごとにトーナメント戦を行います。これが一次トーナメントです。勝ち抜いたチームが次の二次リーグに進みます」
「ほうほう、つまり、二次リーグには地区のチャンピオンが勢揃いしてるってことか」
「その通りです!そして、二次リーグは、一次トーナメントを勝ち抜いた24校と、総体予選でベスト8に入った8校のシード校も入って、計32校で行われます。8個の組に4チームごとに抽選で分けられて、総当たり戦の2位までが予選通過となって、予選通過した16チームが決勝トーナメントを戦って、その結果、それで優勝したチームが代表校です。……こんな感じでいいでしょうか?」
「なるほど、こうして聞くと、道のりは険しいね」
ココアちゃんの説明に付け加えると、決勝トーナメントの初戦は二次リーグの一位チームと二位チームが対戦する仕組みになっており、一位同士、二位同士が当たることは無い。つまり、全国を目指すなら、二次リーグはなるべく一位で突破したい、ということだ。
「はい、A地域はここ10年、室谷高校、静心館高校、高科女子高校の三強と呼ばれる高校で代表を独占しています。その三校に割り込むのはよほどの実力が無いと難しいですね」
「むむむ、そっかあ。私達の実力って、そこと比べてどうなの?」
「うーん、どうなんだろうね。練習試合はそこそこやってきたけど、公式戦とは別物だからなあ。やってみないと分からないよね。ケイはどう思う?」
「確実に部員のみんなの技術は上がってきてる。まあ、最初がひどすぎたってこともあるけど。ごちゃごちゃ考えるより、私達は私達のやるべきことをやるしかないんじゃないかな」
「うーん、まあ、そうだね」
私が複雑な気持ちで腕を組んでいると、ケイが優しく微笑み、私の頭に手を乗せた。その瞳はいつだって力強く、周りに勇気を与える。
「また難しく考えてる。もっと単純に考えて。私にちゃんとしたボールを送ってくれたら、どんな相手でも必ず一点はとってみせるわ。後はあなたやココアちゃんがゼロに抑えてくれれば、確実に勝てる。それだけのことでしょ?」
その自信は一体どこから出てくるんだとは思ってしまうが、そのような自信満々な姿を見せられると、こっちも勇気が湧いてくるという物だ。
「……そうだね、ちょっと弱気になってたかも。毎日ケイとマッチアップしてるんだもん。そう簡単にやられる訳ないよね」
「ええ、あなたは私が認めた数少ない選手の一人よ?もっと自信を持ってくれないと困るわ」
ケイが少しおどけたように首をすくめた。そのような姿をもっと周りに積極的に見せていたら嫌われることも減ると思うのだが、彼女はどうもその辺りのことは苦手らしい。
(ま、私にだけっていうのも、そんなに悪い気はしないけど)
「……ケイ、ありがと」
「……うん……」
「…………えー、うぉっほん。私達、外に出といた方がいい?」
「二人とも、本当に仲が良いですね。羨ましいです」
「ホントだよ。この前まで喧嘩してたのに、仲直りしたと思ったらこれだもん」
二人がニヤニヤしながら私の方を見ている。どうやらまたやってしまったらしい。紆余曲折あってケイとまた前のような関係性に戻れたのはいいが、今度はどうも適切な距離感がつかめない。ケイの方を見ると少し恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「うーん、あんまり意識してないんだけど、やっぱりちょっとベタベタしすぎかな?」
「いえいえ、そんなイヤな感じではないです。プレー中や練習中はお互い言いたいことを言い合ってますし、純粋に良い関係性って感じです。素直に羨ましいって思いますよ」
「そうだよ、あんまり意識しなくて良いんじゃないかな?ま、私達はからかうけどね」
意識しなくてもいいとは言われても、そう言われてしまうと余計に意識してしまう。二人にからかわれながらも着替えを終え、外に出ると、何やら先輩達の切迫した声が聞こえた。
「え、ちょっと二人とも、本気なの?」
「うん、本気だよ。監督にも伝えた」
「けど、せっかくここまで一緒にやってきたのに」
「確かにそうだけど、受験のこともあるし、私達はここら辺が潮時かなって」
部室の裏で、長瀬キャプテンと三年生の部員二人が話している声が聞こえた。声からするに、CBの中川先輩とFWの清水先輩だろうか。
「成績も落ちてきちゃってるし、私達は最後の大会、試合には出られないだろうし、それならこんなキツい部活、やってる意味なんか無いよ。私達なんか、一年生にも負けちゃってるわけだし」
「私達以外にも、こういうことを考えてる子は、たくさん居ると思う。部活の方針がいきなり変わって、練習がキツくなって、それは悪いことじゃないんだろうけど、ついて行けない人も多いんじゃないかな?」
「だけど……もう、綾乃も黙ってないで何とか言ってやってよ」
私達は息を潜めて話を聞いていた。内容を察するに、二人の先輩が退部をするかどうか、という話なのだろう。CBの中川先輩は私と同ポジションであり、そこそこ話したこともあるため、少し衝撃がある
キャプテンから話を振られた、副キャプテンの漣 綾乃先輩は、少し考えこんでようやく重い口を開いた。
「別にいいんじゃない?三年生は好きにすれば。他の部活なら、ていうか他の高校のサッカー部だって、普通ならもう引退してる時期だし」
「え、ちょっと綾乃!」
「そう言ってもらえると助かる。別に…………」
その後も話は続いていく。聞いていくウチに、これは一年生が聞いてはいけない話だと思う気持ちが強くなっていく。
「着替えも終わったし、もうそろそろ帰る?」
「そう、だね」
「はい、そうしましょう」
私達は逃げるようにその場を離れ、校門を出た。私達4人はごまかすように笑い声をあげながら、あの話とは関係の無い話をして歩き続けた。しかし、笑いながらもどこか息苦しさを感じていたのは、きっと私だけでは無かったのだろう。
有希、ココアちゃんと分かれ、最後は私とケイの二人となった。二人になると、無理に話題をひねり出す気力も無くなり、しばらく何を話すこともなく、ただ電車の音だけが響き続けた。
「ねえ」
「何?」
私はケイに話しかけた。これだけは、話さずにはいられない。
「先輩達が辞めちゃうのって、私達のせいかな?」
先輩達は”一年生にも負けている”と言っていた。受験が理由だとも言っていたが、先輩達の退部の理由の一部が私達だとしたら、私は罪悪感のような、いや、それとも少し違う気持ち悪い気持ちになる。
「そうかもしれないわね」
「だったらさ、私達は……」
「気にする必要はないわ。というより、気にしてしまったら負けよ」
ケイは力強く前を見て言い切った。そして私をチラッと見て続ける。
「今回だけじゃない。プロに入っても、私達はレギュラー争いに勝ち続けないといけない。私達が蹴落とした選手は、チームを追われて、サッカー選手を辞めなきゃいけないかもしれない。だけど、それは私達のせいなの?違う、本人が私達より実力が無かったせいよ。今回だってそう。それをいちいち気にしてたら、キリが無いわ」
「……そっか、強いね、ケイは」
「違う、そんな風に思えないあなたが優しすぎるのよ」
それっきり私達は何も話さず、最寄り駅に着き、そのまま別れた。ケイの言うことは恐らくもっともなことなのだろう。だけど、私はどうしても彼女のように考えることができなかった。
私は中学時代、レギュラーになったことは無い。後輩にその座を譲ってしまったこともある。だから、私には先輩二人の気持ちも良く分かった。鳥羽ちゃんが試合に出て、相手FWと渡り合って、試合後に笑顔でみんなとハイタッチをしているのを見る度に不愉快な気持ちが湧いてきたし、私に笑顔で勝利を報告してくる彼女に怒鳴り声を上げたくなる衝動に駆られることもあった。意識をしていなかったが、私は中川先輩、いや、渥美先輩や他の先輩達にも、あの時の私と同じような気持ちにさせているのかもしれない。そのことを考えると、私の胸には罪悪感しか残らない。
(中学の時は逆の立場になりたいってずっと思ってたのに。なったらなったで良い気分はしない。難しいなあ、まったく)
次の日、練習の前に中川先輩、清水先輩の退部の報告と挨拶が行われた。みんなが神妙に話を聞き、最後には拍手が起きて二人の先輩は多くの部員に囲まれた。中には涙ぐみながら辞めないように懇願している部員もいる。
「おーい、どうしたの?ボーッとして」
背中を叩かれ、振り向くと、綾乃先輩の姿があった。先輩はいつも通り飄々としていて、相変わらずつかみ所が無い。
「綾乃先輩」
「メイちゃんはあっちに行かないの?同じポジションでしょ?」
「そうですけど、綾乃先輩こそいいんですか?」
「んー?私は別にいいかな。昨日たくさん話したし」
(昨日碌に引き留めもしてなかったのに)
いつもと様子が少しも変わらない綾乃先輩に少し腹が立った。そのせいか、私はすこし棘が入った口調で綾乃先輩に問いかけた。
「ちょっと冷たいんじゃないですか?二年半、一緒にやってきたのに」
綾乃先輩はそれを聞いて意外そうに少し目を丸くして、そして私に向かって優しく微笑んだ。何か心を見通されているようで気分は良くない。
「優しいんだね。ほんのちょっとしか一緒に居なかった先輩のために、そこまで怒れるなんて。そうだなあ、そんなメイちゃんに免じて、私も真面目に答えるね」
そう答えると、綾乃先輩は表情を引き締め、私の質問に答え始めた。
「そうだね、確かにそんな風に思われるのかも。だけど、私も普通の高校生だよ?一緒にやってきた子が居なくなるのは、当然寂しいよ」
「だったら、どうして引き留めに行かないんですか?」
「二人の気持ちが分かるから。部活を辞めたいって思ったことがあるのは、二人だけじゃないんだよ。他の三年生もそうだし、私だってそう」
後ろから後頭部を殴られたような気持ち、というのはこのことを言うのだろうか。そのぐらい私は綾乃先輩の言葉に衝撃を受けた。今、綾乃先輩も部活を辞めたかったといった、それは一体…………。
「それは、どういうことですか?」
「そもそも私は本気でサッカーをやろうと思ってサッカー部に入ったわけじゃないもん。サッカーも高校から始めたし、良い大学に入りたかったから進学校の芳都野高校に入って、少しは体を動かせたらなって思ってサッカー部に入っただけ。だから、真剣な部活より緩い部活の方が良かった、そういう子も結構多かったんだよ?それなのに監督が替わって、あれよあれよと言う間に全国を目指して毎日厳しい練習だもん。そりゃあ辞めたいって思う子も一人や二人じゃないよ」
私はそれを聞いて言葉を失ってしまった。今までみんなで団結して厳しい練習に臨んできたと思っていた。だけど、実際の所はそうでは無かったとでも言うのだろうか。
「綾乃先輩も、今でも、辞めたいって思ってるんですか?」
「うーん、今は、辞めたいとは思ってないよ。最後までサッカー部の所属で卒業したいって思ってる。最初は確かに辞めたくて、今も練習がしんどいのはイヤなんだけど、それを繰り返していくうちに自分の技術の上達とか、みんなで力を合わせて試合に勝つのとか、そういうことも楽しいって最近は思うようになってきた。それは嘘じゃない。メイちゃんはもう知ってるかな?去年までのサッカー部は本当に腐ってた。今は藤堂監督の下で正常なサッカー部に戻りつつある。それはものすごく良いことだよ」
先輩は私を安心させるように穏やかな口調でそう話した。今は辞めたいわけでは無い、その言葉に私は胸をなで下ろした。しかし、また複雑そうに腕を組んで先輩は続けた。
「だけど、あの二人は違う。試合に出られなくて、そんな楽しいことも実感できなくて辞めていく二人のことを、私は引き留めたいとは思わないよ。……質問の答えは以上かな。他には何かございますでしょうか?」
少ししんみりとした空気をごまかすように先輩は少しおどけてみせた。だけど、それっきり私は何も言うことができない。
もし、綾乃先輩の言う通り、みんなが全国を目指して厳しい練習をすることに乗り気ではないとすれば、今このサッカー部は、もしかすると想像以上に危ない状態なのかもしれない。
「ふー、やっと解放された。ちょっと綾乃、そんな所で立ってるだけで随分と冷たいじゃない。って沢渡さん?どうしたの?浮かない顔して」
みんなの輪から抜け出した中川先輩が声をかけてきた。うまく返す言葉が見つからない。そんな私を助けるように綾乃先輩が代わりに返事をしてくれた。
「中川先輩が居なくなって寂しいんだってさ」
「ちょ、ちょっと、綾乃先輩!」
「何?違うの?」
「いや、間違いではないですけど」
「マジ?沢渡さん、ありがとう。嬉しいよ」
先輩は笑顔で話してくれる。一年生より序列を下にされて、相当悔しいはずなのに。
「沢渡さん、応援してるからね。全国目指して頑張れ。渥美からレギュラー奪ってよ?」
「おい、聞こえてるぞ?中川」
「うわ、やっば。これにて部外者は退出しまーす。じゃあ、綾乃、沢渡さん、またね」
「は、はい」
そう言って笑顔を見せながら慌ただしく二人はグラウンドから出て行った。胸のモヤモヤはまだ消えない。だが、あの様子を見るに、二人はサッカー部を心底憎んで辞めるわけでは無いようだ。
「はい!あの二人の分まで私達は頑張って行くよ!それじゃあ、今日のメニューだけど…………」
仕切り直しといった風に、監督が練習メニューを説明していく。もうすぐ試合ということもあって、部員達は監督の言葉に真剣に耳を傾けている。
(頑張って……か。そう言われたら、頑張るしかないよね)
サッカー部の突然の路線変更に不満を持つ部員も多かったこと、私がポジションを手に入れたことで先輩がポジションを失ってしまったこと、更にそれが原因で先輩が部活を辞めてしまったこと、色々ありすぎて未だに全て整理できてないが、私に出来ることは、応援してくれている先輩の分まで頑張って活躍すること、ただそれしか無い。
(余計なことは考えないようにしよう。今は調子がいいんだもん。プレーだけに集中しなきゃ)
モヤモヤはまだ抱えたままだが、私はそれを覆い隠し、監督の言葉に耳を傾けた。




