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思春期フットボーラー  作者: kasic
1章 立ち上がる少女
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遠い目標

「沢渡様!勉強を教えてください!!」

「私もです!どうかよろしくお願いします!」


 試験週間が始まり、試験が終わるまで部活はお休みとなった。あのきつい練習が無いのというだけで晴れやかな気持ちになる。

 そんな私の気分をぶち壊してくれたのが土下座でもするかのような勢いで頼み込んできた有希とココアちゃんである。ウチの赤点ラインは百点満点の三十点なので、そこを下回らなければ、補習などの部活に悪影響が出ることはないはずなのだが。その上、先生方も赤点を取らせることは無いようにテスト問題も配慮をしてくださっていると聞く。


「二人とも、どの教科がやばそうなの?」

「私、数学と生物基礎!」

「私は英語と世界史です」

(なんで二人とも真逆の科目が苦手なんだよ)


 二人の苦手な科目が被っているようなら教える方も楽なのだが、一人で四教科ともなるとなかなか骨が折れる。というより赤点をとりそうな科目が二つとはこいつらは一体普段どういう授業の受け方をしているんだ。


「二人とも、普段ちゃんと授業聞いてた?」

「いっつも気づいたらチャイム鳴ってるんだよねー。寝るつもりは無いんだけどさ」

「同じくです。というか同じクラスなのに私達の普段の様子に気づかないほど集中してるメイちゃんに脱帽ですよ」


 自分の勉強もあるし。そんなもの知るかと突き放しても正直いいとは思うのだが、二人が毎日練習を全力で頑張り、朝練で汗を流しているのを毎日見ている。


(ここは私が一肌脱ぐかなー)


「分かったよ。その代わり二人は私に何か奢ること」

「もちろんです、沢渡様!」

「右に同じです!」


 というわけで某ハンバーガーショップに移動し、二人の勉強を見てやったのだが、これがまた酷い。


「メイ、ここの因数分解が分からないんだけど」

「え?普通にたすきがけをやれば出るよ?」

「それってどうやってやるの?」


 こんなヤツもいれば、


「メイちゃん、なんでここはdon'tじゃなくて、doesn'tなんですか?」

「いや、それは三人称単数だからでしょ」

「三人称単数とはなんですか?どちらにしても日本語では同じなのにどうして使い分けているんでしょうか?アメリカの人は話す時にややこしくないんですかね?」


 こんなヤツもいるのだ。なんだか頭が痛くなってきた。そんなこと私に聞かなくても教科書を見れば一発で分かるんじゃないだろうか。入試係にこんなのを合格させた理由を聞きたいぐらいだ。

 こんな不毛なやりとりを暗くなるまで続け、勉強会は終了した。


「なんかちょっとだけ分かったような気がする」

「そうですね。これを続けていけば赤点は回避できますかね?」

「きっとできるよ!というわけでメイ、明日以降もよろしくね!」


 それを聞いて私はドリンクのカップを握りつぶしてしまった。二人が顔を引きつらせているが、仕方ない。こうなれば最終手段だ。


「め、めいちゃーん、な、何だかいつもと雰囲気が違いますよ?」

「いつも通りだよ?」

「そ、そう?」

「そうだよ。それより、二人とも土曜日と日曜日は空いてるよね。よし、日曜日の夕方まで私の家で勉強しよう」

「で、でもご家族にご迷惑じゃ…………」

「それは大丈夫。昔からよくやってたから」

「いえ、ですけど…………」

「い・い・よ・ね?」

「「は、はい」」


 よし、二人にはハンバーガーとドリンクを奢らせてしまった。これで赤点を取らせてしまっては私の名前が廃るというものだ。最大限の準備をしなければ。

 

 その日の夜、私は二人の学力を元に今後の方針を定めた。このペースで行けば間違いなく試験日には間に合わない。数学や英語は基本的な公式や文法を叩き込めば赤点レベルはどうにかなるだろうが、問題は暗記科目だ。特に世界史は範囲が膨大であるため、全てをやろうとすると全範囲が中途半端に終わってしまう可能性がある。とはいえ、暗記科目にダラダラと時間をかけるわけにはいかない。数学や英語はこの時期の基礎をおろそかにしてしまうと、後の内容が全て分からなくなってしまうと聞く。そうなると次の試験でまた赤点の危機を迎えるだろう。そして試験日に間に合わせるのは今以上に難しくなってしまう。


(やっぱり、暗記科目はこの土日で全てを詰め込ませるしかないか?)


 私は教科書に載っている基本的な公式や文法をリストアップし、ルーズリーフに書き写した。そして次の日、妙に従順な二人にそれを渡し、放課後までに覚えるように言った。


「石黒先生の世界史の、一学期中間試験の過去問ってこれでいい?」

「羽田先生の生物は……ここにある」

「すみません、急に。めっちゃ助かりました」


 更に神崎先輩と小桜先輩が一年の時は私達と同じ担当教師であったと聞き、過去問を受け取った。パラパラと目を通すと、一番不安だった世界史は半分が選択問題だ。これは助かった。


「ちょっと、有希?放課後までに覚えてって言ったよね?なんで覚えてないの?」

「はい!すみません!」

「謝ってすむ問題じゃないの。時間が無いんだよ。こんなことに苦戦してる暇はない。その辺ちゃんと理解してるの?」

「もちろんです!すぐに覚え直します!」

「十分で覚えて。それとココアちゃんは何をやってるの?もしかして出来ないの?」

「滅相もございません!今見直しをしてる最中で……」


 少し厳しすぎるかも知れないが、もし赤点を取ってしまったら最悪の場合補習を受けることになってしまう。そうなれば部活には参加できない。二人にとってはその方がよっぽど辛いだろう。

 それに二人は厳しい練習を昔からこなして来ているだけあってさすがに集中力が高い。少しプレッシャーを与えたら確実に指示したことは出来るようになっていった。


「よし、今日はこれで終わりでいいかな。最初に言っとくけど家でも復習して今日のことは絶対に忘れないようにね」

「「イエッサー!!」」

「私は女だから、イエス、マムね」

「「イエス!マム!!」」


 なんだか妙なノリになってきて、周りのお客さんからの注目も浴びている気がするが、私も楽しくなってきたのかもしれない。



「二人とも、上がって」

「「お邪魔します!!」

 

 遂に決戦の土曜日がやってきた。日曜日までに暗記科目を片付けられるかが勝負の分かれ目だ。既に二人には事前に課題を与えてある。それで基礎知識を身につけてもらった二人に今日は徹底的に配られている問題集を解かせる。私は妙に緊張をしている二人を駅まで迎えに行き、家に入らせた。


「あら、有希ちゃんと、ココアちゃんね?」

「はい!今日はお世話になります!」

「お世話になります!」

「いいのよ、二人ともウチの子と仲良くしてあげてね。教え方は良いかどうか分からないんだけど、勉強頑張って!」


 母親がいつもより一オクターブ程高い声で二人に話しかけた。しかし。身内の余所行きの声ってなんでこんなにも気持ち悪く聞こえるのだろうか。


「お母さん、夜ご飯は七時くらいに用意してくれる?」

「分かったわ、今日はお姉ちゃんの試合は見るの?」

「え?お姉さんの試合?」

(げ、まずいかも)


 今日はお姉ちゃんのいるクラブの最終節があるのだ。今日勝てば優勝という状況で、時差のある日本でも見られる時間帯に行われるため、国内でも注目される一戦となっている。


「あーー!!もしかして沢渡って…………メイちゃんは、沢渡 響選手の妹さんなんですか?」

「私も沢渡選手なら知ってるよ!日本代表のエースで、バロンドール?っていう賞も獲った選手だよね?ってことは、ここは沢渡選手の実家?」

「あー、はい、そうです」


 別に隠そうとしていた訳ではないが、中学での件もあって余り知られたくはなかった事実が遂にバレてしまった。


「メイちゃん、今日のお姉さんの試合、私絶対見たいって思ってたんです。見てはいけませんか?」

「え?けど…………」

「勉強なら一生懸命頑張るから、お願い!」


 二人の期待するような目が痛い。姉の試合を見たらなんとなく言葉に出来ないような複雑な気持ちになるのでなるべく一人で見たいのだが、こうなってしまったら仕方ない。


「分かった。けど、ノルマが終わってからだからね。今はテスト期間だから」

「ラジャー!!」


 二人は敬礼のポーズをとって大きな声で返事をした。

 ところで、このノリはいつまで続くのだろうか?

 


 やはり、餌が目の前にあると気合いが入るのか、今日の二人は目の色を変えて勉強に取り組んでいた。夜遅くまで時間がかかるだろうと思われていた今日の範囲を夜ご飯までには終わらせてしまった。もっとも、二人とも最後は死体のようになっていたが。


「つ、疲れた。休憩ほとんどなしで五時間ぶっ通しってキツすぎでしょ」

「さ、さすがに限界です」

「二人がお姉ちゃんを見たいって言ったからだよ。ていうかそんなに覚えられるなら最初からやってれば良かったのに」

「我々、追い詰められないと真価を発揮できないのだよ!」

(そんなに胸を張って言うことじゃないだろうに)


「それにしても、お姉さんが日本代表かあ。全然想像できないなあ…………やっぱり、取材とか来たりしたの?」

「うん、お姉ちゃんの代表初ゴールの時に家にまで取材が来て、ニュースにも出たことがあったかな」

「へー、それは見てみたいです」


 あの頃の私は何の混じり気も無く姉のような選手になるのが夢だと言っていたような気がする。今の私はどうなんだろうか。ちゃんとあの無邪気な少女に胸を張れるのか。





 そうこうしている内にテレビ放送の開始時刻となった。満員のスタジアムが映し出され、すぐ後にドレッシングルームにカメラが切り替えられ、チームメイトと談笑しているお姉ちゃんが映し出された。二人が私と見比べるかのようにテレビと私を交互に見る。


(それもあんまり良い気分はしないんだけどなあ)

「こうして見ると、確かに似てるかもね」

「似てないよ。私あんなに美人じゃないし」

「いえいえ、確かにあんな風に笑っている所はほとんど見ませんし、目つきはちょっと悪いかも知れないですけど、メイちゃんもスラッとしてて、かっこいい感じですよ。よく見たら顔のパーツもそっくりです」


 褒められてるのか貶されているのか微妙なラインではあるが、プラスの方で受け取っておこう。

 

 世界中で有名な入場曲が流れ始め、お姉ちゃんが芝生に手を当てる動作をしてピッチに入った。


「あ、もしかしてメイちゃんがピッチに入る時にやってたのもお姉さんのマネですか?」

「そうなんだよ、何か癖になっちゃって」


 私自身もこの動作がお姉ちゃんのマネをしていく内にいつの間にか試合モードにスイッチを切り替えるためのルーティーンとなっていた。

 

「メイのお姉さんってどんなプレイをするの?」

「日本代表とか昔いたクラブでは、ツートップの一角としてプレーしてますけど、今のクラブに移籍してからは、右ウイングと呼ばれるスリートップの右のFWをやってます。プレースタイルは、ウチで言うと神崎先輩に近いでしょうか?ドリブルでガンガン攻めて行くタイプです。右から切り込んでの左足のシュートはワールドクラスですよ。もっとも最近はフリーキックも決めてアシストもする万能プレーヤーになってきてるんですけど」

「へえ、さすがに凄いんだねえ」


 ホイッスルが吹かれ、試合が始まった。試合序盤はお互い様子を見ているのかゴール前に攻め込む場面はない。お姉ちゃんは相手の中盤の選手からマンマークを受けているようで、ボールを受けようとすると激しくチャージを受けて前を向いてボールを触ることが出来ていないようだ。


「うひゃあ、海外サッカーって当たりが激しいんだねえ」」

「キープレーヤーとみなしたら向こうの選手は容赦が無いですからね。こういう所が日本サッカーに足りない所ってよく言われてます」


 ならばとお姉ちゃんは前線の位置から素早く中盤の低い位置まで下りてボールを受け、前を向いた。相手のMFはお姉ちゃんの動きについて行けていないため、そのまま相手を抜き去ろうと加速しようとしたがそこに相手がスライディングで足を伸ばしてきていた。


「危ない!!」


 お姉ちゃんは足が迫ってきていることに寸前で気づいたのか、すぐにジャンプをして足をかわし、そのままピッチに倒れ込んだ。すぐにレフェリーが笛を鳴らすとファウルをした選手にイエローカードが提示され、その選手に抗議に行く選手が殺到し、両軍が入り乱れ軽く乱闘のような状態になっていた。


「何?今のスライディング。もしあのまま足がかかってたら大ケガになってたじゃん!ふざけんなよ、ホントに。ねえ、そう思わない?」


 私が思わず二人の方を見ると、二人が意味ありげにニヤニヤして私の方を見ていた。


「なんだかんだ言って、メイが一番興奮してこの試合見てるよね」

「やっぱりお姉さんの試合だからですか?」


 ふと冷静になると、自分がいつからか立ち上がって試合を見ていることに気がついた。何だか無性に恥ずかしくなってすぐにじゅうたんの上に座った。二人はまだクスクスと笑いながら微笑ましそう物を見るようにこちらを見ている。


「それはそれとして、メイのお姉さん、あんまりボール触ってなくない?大丈夫なの?」

「確かに、こうも常にマークに付かれてると、中々難しそうですけど…………」

「大丈夫だよ」

「メイちゃん?」


 お姉ちゃん相手にこんな戦術が一試合続けられる訳ないし、マンマークを付けられて馬鹿正直にお付き合いするほどサッカーに関しては馬鹿ではない。試合開始直後は余り動きがなかったのはもちろんマークが厳しいせいもあるが、一番は相手の動きをよく見るためだ。試合開始三十分、さっきのプレーといい、お姉ちゃんはもう動き始めている。ゆったりとしたボール回しの中、今度はお姉ちゃんがそのペースに合わせるようにゆっくりと中盤に下りていき、相手はそれについて行った。


「ほら、スペースが開いた」


 お姉ちゃんが下りてきてできた中盤と前線の間のスペースに選手が一人走り込んだ。そこにパスが出てプレッシャーを全くかけられることなく楽々とボールが運ばれる。これを見計らっていたように他の選手も前線に駆け上がっている。ボールを受けた選手はサイドを上がるサイドバックの選手にパスを送り、サイドバックの選手は精度の高いボールを送り、それに反応したFWは足を鋭く振り抜き、相手ゴールに突き刺した。


「うわー、なんか今のすっごい鮮やかじゃなかった?」

「はい、ゆっくりパスを回してたのに、一旦スイッチが入ったらもうすべてが速いペースでゴールまで行って…………これが世界最高峰のチームなんですね」


 今のゴールは技術もそうだが、かなり高度な連係プレーができなければ実現しない。FWが中盤に下りてできたスペースに素早く走り込み、SBもタイミング良く前線に上がり、そしてFWもフリーでシュートができるポジション取りをしなくてはいけない。しかも歓声があって碌に味方の声も聞こえない状態だ。


(言葉も通じない相手にここまでの連携が取れるようになるまで、どれだけの努力をしたんだろうか)


 もちろん明るくて人当たりの良い性格もあるのだろうが、海外での生活も無かったはずの姉の苦労は私には想像できない。

 お姉ちゃんも笑顔で歓喜の輪に加わっている。たまに顔を見せる姉はいつも笑顔でおちゃらけているが、その裏にどれだけの苦しいことを経験して来ているのだろうか。

 



 前半は1対0で終了して後半に入った。後半に入るとお姉ちゃんをマークしている選手もカードをもらっているのが気になるのか疲れが出ているのか前半ほど強くプレッシャーにはいけない状況にあった。そしてそれを逃すお姉ちゃんではない。

 味方からボールをもらうと遅れてプレッシャーに来る敵をあざ笑うかのように股を抜くパスを出し、完全に抜け出したFWは一対一を冷静に決め、これで2対0。

 圧巻は終了直前のプレーだった。パスカットしたボールがお姉ちゃんに渡ると相手DFと一対一となり、中に切り込んで左足でシュートを撃つと見せかけて右足のアウトサイドを使って切り返すとDFはお姉ちゃんの緩急のついた動きについていくことができず、転倒してしまった。前に出てきたGKと一対一となり、冷静にボールを浮かし、見事なループシュートでゴールを決めてみせた。


「サ、サッカー選手ってすごいんだね…………」

「い、いえ、沢渡選手は特別ですよ。こんなこと出来る人、世界に何人もいません」


 二人はお姉ちゃんの決めたゴールを見て言葉を失っていた。DFを転ばせるほどのテクニックを見せられたのだ。そうなって当たり前だろう。試合が終わり、超満員のスタジアム全体から歓声が送られ、お姉ちゃんはそれに両手を挙げて応えている。その姿は子供の頃に見た姿と何ら変わりはなかった。



「メイ、どうしたの?試合終わってからなんか静かだね」

「そういえばそうですね。試合の時はあんなに興奮してたのに、具合でも悪いんですか?」


 寝支度を調え、布団に入ると二人から声をかけられた。純粋に心配してくれるのは嬉しいのだが、そのことについては余り触れられたくはなかった。


「いや、そんなことないんだけど、今日の試合見てるとなんか複雑で、お姉ちゃんはあんなにすごいのに、私はどうなんだろうとか、そういうこと考えちゃって」

「何を言ってるんですか、お姉さんと比較する必要はありません。メイちゃんも十分上手いんですから、自信を持っていいんです!」

「そうだよ。メイもココアも、二人とも一年生なのにもう試合に出てて私にとっては憧れだよ」

「……うん、二人とも、ありがと」


 二人が純粋に私のことを褒めてくれているのは分かる。そのことは本当に嬉しい。けど、「お姉ちゃんと比較する必要がない」、「一年生なのに試合に出ている」、そんな理由で褒められていることがお姉ちゃんには届きようがないと言われているようで少し複雑なのは事実だった。

 二人の話し声が聞こえなくなった。今日は勉強を頑張ったこともあって疲れていたのだろう。私も気持ちを隠すように布団を頭まで被り、目を閉じた。





「二人ともやったじゃん!あの出来なら多分平均点はとれてるよ!」


 中間試験最終日が終わった。有希とココアちゃんの答案を採点してみた所、全ての点数が半分以上取れていた。最初のあの惨状を考えたら格段の進歩だ。それだというのに二人とも机に突っ伏して動かない。


「そりゃああれだけやったら誰でもそれぐらい取れるよ……」

「メイちゃんは鬼です……」

「ん?何か言った?」

「「いえ、何も言ってないです」」


 小さな声だったので何か言っていたような気がするのだが、そう言うのなら何も言っていないのだろう。


「二人とも、部活に行くよ?」

「うん……もうちょっとで行くから……先行ってて」


 有希が机に突っ伏したまま答えた。昨日は少し厳しくしすぎただろうか。しかし、試験前に少し頑張るだけで平均点以上は取れる。取らせなければもったいない。


「あ!メイちゃん!ちょっと来て!」


 部室の前に行くと神崎先輩に声をかけられた。小桜先輩も一緒だ。


「え?何ですか?」

「ほらほら、こっち」


 張り紙の前に背中を押された。そこにはこう書かれてあった。


「神崎仁美、小桜姫花、大家心愛、沢渡鳴、以上の4人は今日の練習からAチームに合流してください…………、あの、これって……」

「うん、そうだよ。私達は今日からAチームっていう通知」


安堵感で力が抜けた。ひとまずこの数ヶ月頑張ってよかったと言える。


(けど、勝負はこれからだよね……)


 気を引き締め直し、私達は改めて更衣室へと向かった。 


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