新世界の噺.1
「そうか、とりあえず刀を返せ」
「君は一体人の話の何を聞いていたの? 私はこの世界にいるのは人間で間違いないって言ったつもりなんだけど」
「人間である可能性が高いという情報から僕が導き出せるのは、ますます誰を信用するべきかわからなくなったということだけだ」
仮に終焉の際に誰かが作り上げたロボットであるとすれば、ロボットの原則に従い、人間の僕が彼らの悪意からの裏切りに会う可能性がほぼなくなるというケースがありえたが、人間ならばそんなことは言えない。それは今まで読んできた歴史と物語が証明しているだろう。
と、この女が入ってきた扉から、今度は控えめなノックが響いてきた。
「失礼します。お世話を仰せつかった者です。起きていらっしゃいますか」
「起きてなどいない、まだ寝ている」
「承知しました、失礼します」
そういってガチャっと扉が開いた。この世界の人間は皆こうなのだろうか。
「本日よりあなた様のお世話を仰せつかりました。なんなりとお申し付けください」
入ってきたのはメイド服に身を包んだ少女だった。頭につけているのはヘッドドレスではなく、髪をきちんと隠すようになぜか白のベレー帽をかぶっていた。しかもこの少女、やる気がないのかその銀髪が碧眼にかかっている。つまり帽子の中にしまい込んでいない。少女、という表記ではわからないかもしれないが、何分西洋的な顔立ちなので、生粋の平たい顔族には年齢を図れないのだ。
「なんでもいいのか?」
「はい、わたくしの実力の及ぶ範囲でしたら、朝のお世話から夜のお世話までご命令のままにいたしましょう」
「そうか、じゃぁそこにいる女をこの部屋からつまみ出して、ついでにあんたも部屋の外で待機していてくれ」
「不可能ですね」
何でもいいんじゃないのかよ。一番初めの命令から違反してるじゃないか。
「まず、わたくしの実力では勇者様にはかないませんので、最初のつまみ出せうんぬんは不可能です。そして、私がこの部屋の外で待機しているのが上司に見つかると、仕事をさぼったとみなされて減給になるので無理です」
……後半、私欲じゃね?
「というか、『勇者』?」
この部屋の中にいるのは僕とメイドと能天気女だけだ。そしてメイドの言い方からすると、この能天気女が勇者ってことになる。
メイドの少女から能天気女に視線を移すと、そうたいしたことのない胸をはって思いっきりどや顔をしている。
まぁ、(ある意味)勇者っぽいか。
「他の二人ってのは? こっちに来てるんだろ?」
メイド少女が口を開こうとしたところ、勇者が突っ込んできてまくしたてるように、
「聞いた話によると『神子』と『聖女』が来てるらしいんだ、ほかにも私たちには『賢者』、『錬金術師』、『商人』、『騎士』、『暗殺者』、『農家』、『漁師』、『狩人』、『鍛冶師』、『細工師』それと『復讐者』、『男』がいたはずなんだ」
「とすると、僕はそのどれなんだ?」
勇者はさぁ?と言わんばかりに首をかしげている。と、メイド少女が
「終焉の間、なにをしていたか覚えて居ますか?」
「本を読んでいた」
「困ります、減給されてしまいます」
どういうことだよ。