新世界のキボウ.1
ぐいっと体を伸ばす。どうやら僕は起きたらしい。読みかけの本を手に取ろうと手をさまよわせるが、一冊たりとも手に本が触れることはなかった。座れば天井以外周りの風景が一切見えなくなるほどにうずたかく積み上げられていたはずなのに、だ。
それを認識したとたんに頭が覚醒した。つまりここは……
「死後の……世界、か?」
格好を改めると、認識にある最後の姿と同じ、黒のズボンに白いシャツ、黒のジャケットに黒の外套。そして父の形見の黒のネクタイ。周りを見渡せば、家から持って来たリュックサックには着替えと道具が入っているが、食料を詰めていたキャリーバックは入れっぱなしだった小物しかない。武器は模造刀が六振りと栞代わりにしていた暗器が数本転がっているだけで、本のサークルの外側に置いておいたほかのものはこの場には無いようだ。
「……死後の世界かぁ?」
違う気がする。すごいする。死後の世界に凶器持込み可ってのもなんか納得いかないし。
荷物の中身を点検していると、足音が、それもたくさんやってきた。慌てて並べて置いた模造刀の中で一番地味な黒鞘の太刀をつかんで立ち上がった。反りを返すべきか迷ったが、まだ相手が敵対関係にあるのかもわからないのだから、と刃を下にしたまま音のする方を向いた。
すると、その方向にあった壁が音もなくスッと左右に開いた。この段階になってやっと、この場所が石造りのドームのような形をしていると認識した。さっきっまで自分のことでいっぱいいっぱいだったからだろう。
開いた壁から真っ先に入ってきたのは全身を金属の鎧で覆った騎士のように見えた。それが約十人、こちらを囲むようにではなく、開いた壁の近くで、それこそ壁のように布陣した。
そして、その奥から、騎士たちより背の低い影が出てきた。
「ようこそおいでくださいました、終焉の英雄」
それは、豪奢な衣装に身を包んだ十代前半の少女のように見える。見える、が……。
「一つ、質問してもいいだろうか」
「かまいませんよ? もちろん、私が答えられるものは答えます」
ソレは騎士に守られた姫のようだった。だが、
「お前たちは、一体何なんだ?」
人間であることだけは絶対にありえない
。
週に一回にしてからの第一回となります。