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番外編、炬燵に籠るか初詣に行くか

ご覧の小説はクリスマスに見たあのクソ小説の番外編です。

「友よ」


「あ? なんだメガネ」


 年明け、炬燵にて。


 互いに肩まで炬燵布団に潜り込み、炬燵から出るどころか微動だにする気すらない姿勢だ。時折腕だけが、卓上の蜜柑に伸びる。

 くそ、リーチの長い伊達メガネが羨ましい。俺は腕が短いので、微妙に肩を炬燵から出さないと蜜柑を取ることが出来ないのだ。


「提案がある」


「なんだ? もうすぐストックが尽きる蜜柑の買い出しなら俺は行かねえぞ。年末に買ってくる量を見誤ったお前のミスだからな」


「それはそれであわよくば君に行かせたいと思ってるが、友よ。今日は違う、その話ではない」


 違うのか。


 そんなことを話す間にも、伊達メガネの腕がぬっと伸びてきてひょいと蜜柑を取る。全くもって羨ましい。……ってそれ、最後の一個じゃないのか? 畜生、してやられた。


「そうではなくて、今日はちょっとしたお誘いだ、友よ」


「今更だけどお前、語尾に『友よ』ってつけないの喋れないのな?」


「まぁ黙って聞きたまえ、友よ」


「…………」


 もう何も言うまい、友よ。



「友よ。──僕と一緒に、初詣に行かないかい?」



「……………………は?」


 俺は思わず上半身を炬燵布団から出し、ガバと起き上がる。メガネが「この極楽浄土の如き空間に冷風を入れるでない、友よ」と不満そうな声を上げるが、そんなことはどうでもいい。


 だって、耳を疑うしか無いだろう? 俺が耳鼻咽喉科のお世話にならなくて済むのなら、こいつは「初詣に行かないか」と言ったことになるんだが……誰か良い耳鼻咽喉科の病院を紹介してくれないか?


「何を驚いているんだい、友よ。僕は至って正気だが」


「あぁそうだな、俺の耳よりもお前の正気を先に疑えば良かった。腐った蜜柑にでも当たったのか?」


 こういう場合は何科に連れていくのが正解なんだ? 食べ物に当たったってことは普通に内科か、それとも脳がもう手遅れなら脳外科とか精神科に連れていった方がいいのか?


「至って正気だと言っているだろう、友よ。クリスマスの時に言ったではないか、僕は熱心な神道の徒だと」


「…………あぁ、そういや言ってた気もするな。あれ本当だったの?」


「当たり前だろう。僕は生粋の日本人だからね」


 そういう問題でもない気はするがな。俺だって生粋の日本人だが、日本の神様は釈迦くらいしか聞いたことがない。


「友よ、釈迦は仏教だし印度(インド)だ。二度と間違えないでくれたまえ」


 そんなに怒るなよ。この日本じゃ信仰の自由は保証されてる筈だろ。


「まぁそんなことはどうでもいいけどさ。お前、初詣って……正気?」


 逸れた話題を「どうでもいい」と切り捨てて本題に戻す。


 先に言っておこう。

 俺は、断じて初詣になど行きたくない。絶対にだ。


 何故かって?


 そんなことは決まっている。初詣には、もれなくカップルがいるからだ。


 考えてみて欲しい。寒空の下、大して信仰してもいない神様を拝むため長蛇の列に並ぶ、その目の前に──奴等(カップル)が、居るのだ……!


 俺とメガネが「寒いな」「あぁ、寒いな友よ」なんて、寒いねと話しかければ寒いねと答える人のいるあたたかさを微塵も感じない会話をしている横で、奴等(カップル)は、「寒いね」「うん、寒いね。……手、冷たくない?」「ちょっと冷たいかな」「じゃあ、あっためてあげる!」「ありがとう。……花子の手、ちっちゃくて可愛いな」「も、もう! 太郎くんのばか! 好き!」なんてやって、俺たちの寒さを倍増してきやがる。何が悲しくてそんな、神前の地獄という矛盾してそうで微妙に矛盾していない場所に自ら出向かなくてはならないのだ。


 そう、これは紛れもなく、クリスマスの時の──再戦だ。

 だから、早めにこいつの戯言を潰しておかなければならない……!


「正気も正気だ、友よ。正月に神前に出向かぬ者に福など訪れるものか」


「はぁ? 俺はお前と違って神道の徒じゃないから言うけどな、神に祈ったって福なんか訪れねえぞ! んなもん自分で引き寄せろってんだ」


 すると、彼は──最近伊達だと発覚したばかりのそのメガネを、クイと持ち上げる。


 ──開戦のゴングが鳴った。


「友よ。まず君はそもそも根本的に誤解をしている。神社が願い事をしに行くところだと、いつから錯覚していた?」


「い、いや……神社で願い事以外に何するってんだよ」


「くそだわけ。日本人の風上にもおけないな、君は──前前前世から出直してきたまえ」


「ネタが古いぞ、クソメガネ」


 真面目に言い争ってんだからちょいちょいネタ挟んでくんのやめろよ。


「いいか、友よ。神社は願い事をする場所などではない。──感謝を奉納するところなのだ!」


「はい?」


 不味いな。この伊達メガネ、思ったより真面目な神道の徒なのかもしれん。


「何千人何万人と参拝客が訪れる中で、神が本当に一人一人の願い事を聞いているとでも思ったか? 断じて否だ。そもそも古くは神と人の子の間に区別などなかったのだよ、友よ。日本の八百万(やおよろず)の神は君が思っているより余程僕らに近い存在だ、キリスト教やイスラム教、ユダヤ教のような一神教の神と一緒にして考えて考えてもらっては困るのだよ。さしずめ天照大御神くらいしか聞いたことのない君には分からないだろうがね、きちんと神社に祀られている神だけが日本の神だと思ったら大間違いだ。日本の神様は精神的なものだから、概念として幾らでも分裂する。そんなわけだからこの世のありとあらゆるものに神は宿っているのだよ。大体君は──」


「待て、一度止まってくれ」


 最早反論する気力もなかった。争う気力ごと奪われた。


 あぁ認めよう、俺の負けだ。こいつとこれ以上争う方が面倒臭い。黙って初詣について行ってやった方が労力も少なくて済むってものだ。カップルのひとつやふたつ、みっつよっつくらい、視界からシャットアウトしてみせようじゃないか。


「──俺の負けだ。初詣に行こう」





 数十分後。


 地元の中でもそこそこ大きな神社に来た俺たちは、長蛇の列の最後尾にいた。


 案の定というか何というかひとつ前にはカップルがいて、「ねぇタカシ君、お願い事は何にするのぉ?」「僕はねぇ、クミコとずっと一緒に居られますようにってお願いするよ」「んもう! タカシ君、好きっ!」と指を絡ませている。


「……友よ」


「どうした、クソメガネ?」


「僕をクソメガネと呼称するのをやめたまえ。……来年の初詣はもっと小さな神社にしよう、友よ」


「そうだな。ところで前列の睦まじいご様子な男女に神社は願い事をする場所ではないって説教しなくていいのか?」


「構わん。彼らにはどうせ理解出来ない話だ」


 渋い顔をしてメガネを持ち上げるメガネ。……なんだ、「メガネを持ち上げるメガネ」って。我ながら酷い文章だ。


「はぁ。……寒いな」


「あぁ寒いな、友よ」


 もちろん、寒いねと話しかければ以下略あたたかさは微塵も感じられない。



 ──ふと前のカップルの様子が気になって目を向けると、女の方が男の方に掴みかからんばかりの勢いで怒鳴りつけていた。


「ねぇ! クミコって誰なのよ!!」


「え? さ、さっき『んもう、タカシ君好きっ』って言ったじゃないか!」


「騙されたフリしてやったのよ! あたしはミカでしょ!!」


「あ、髪切った? 酷いじゃないか、クミコと同じ髪型で見分けがつかないよ!」


「あんた馬鹿ァ? 浮気については一言もないわけ!?」


 俺とメガネは思わず顔を見合わせる。これはどうやら噂に聞く「修羅場」ってやつらしい。実物に立ち会えるなんて新年早々幸先が良い。……良いのか?


「なぁメガネ、やっぱり来年もここに来よう」


「奇遇だね、友よ。僕も今全く同じことを考えていた」


 きっと俺とメガネが友人を続けている理由は、こういうところにあるのだろう。こんなに悲しい以心伝心も稀だな。


 ……まぁ、修羅場は御免だが、今年こそは可愛い彼女を作ってキャッキャウフフしたいものだ。

書き初めです!!書き初めですよ!!!(大遅刻)


ふと思いついたんですけど、ここ、木染が季節の行事ごとにリア爆ネタ小説を投下する場所にしましょうか。きっと需要はあるよね(遠い目)


というわけでたまに思い出したように投稿するかもしれません。主人公とメガネの友人をこれからもよろしくお願いします。

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