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八杯目「俺の店に来い!お前に本当の幸せってのを教えてやる! 」

いらっしゃいませ!


今日のオススメは、ティアロ王国付近で採れるアヒ草をふんだんに使ったラーメン!

アヒ草の特徴は摂取すると体内が燃え上がるような辛さを体感でき、実際に人体が発火します。

ので、大変危険な為、普段食物には使われません!せいぜい魔除けです!


さあ、ご堪能あれ!



綺麗に整備されたタイル石の地面を走り抜け、目の前に迫る小さな少年を瞳で捉えた。

少年の手には武具屋の店主の先代が打った金色の剣、《デュランダル》が抱えられている。


先程のマスターの野菜スープによる影響か、昨日の逃走の時の速度を出そうとしても痛みは生じなかった。




「……待てっ!!止まれ! 」


「……っ!! 」


少年は追われていることに気がついたのか、一瞬だけ後ろを振り返って動きを更に加速させる。


「クソッ!全然追いつかねえ!! 」


全速力を出すには障害物が多すぎる。適度な速度で前のめりにならないように気をつけて後を追っているからなのか、少年との距離は一定を保ち続け、永遠に縮まらない。

それどころか、距離は遠くなっていっている。



「……一か八か! 」


このままでは、逃げ切られてしまう。

シュウは止む終えず、手の甲の紋章に触れて、一つの思いを念じる。


《あの少年を捕えられるだけの速度を! 》




ーー直後。

自分の身体が軽くなり、速度を上昇させても体幹が全く微動だにせず崩れなくなった。

そして速度によって受ける風圧も最小限に低減され、自分が風になった感覚に陥る。



「これが加護の力……?! 」



吹き抜ける風が如き速度に身を委ねていたシュウは驚いていた。


気づけば自分は、少年が持っていた《デュランダル》を奪い取り、腰を地面について驚愕している少年の前に立っていたのだから。


ルティアや修道士様が手本を見せてくれた時と同様に改めて、加護の強さを感じる。

離れつつあった距離を一瞬で逆転させる力。加護を使えば、レピア王国内以外の国にも出張で出前が出来るかもしれない。

けれど、その為には力をコントロールする必要がありそうだ。

シュウはこんな時もラーメン関連のことを頭に浮かべていた。






ーーその頃、武具屋では、放心状態の武具屋の店主を優しく諭すルティアの姿があった。


「……デュ、デュランダルが、ぁぁぁ、ぁぁぁ……」


「大丈夫よ、今、シュウが犯人を追ってくれてるわ!必ず戻ってくるわよ! 」


店主の瞳は輝きがなかった。

前に会った時のような和かな表情もない。

ルティアの優しい言葉も届いていないようだった。ずっと、カタコトのように剣の名前を吐き続けるだけ。

まるで何かに怯えているようだ。



「シュウ、大丈夫よね。こんな様子じゃ、お礼を言っても届きそうに無いわよ。 」


ボソッと呟いた言葉は誰に届くでもなく、空気中で儚く消えた。





「……返せっ!それがあれば、僕の幸せが手に入るんだ! 」


剣を奪われ、地面に尻餅をついて顔を赤らめる少年はシュウヘ文句を吐いた。

少年の言葉を真剣な表情で受け止める。勿論、腹の中は煮え繰り返っていた。




「どんな理由があっても……人のモノを盗むのは良くない。親に教わっただろ? 」


シュウの両親は、人間として最低限の守るべきルールは教え育ててくれた。

今、犯罪行為を目の前で止めたシュウとしては両親の存在が凄く突き刺さる。

あの時、口うるさいと思った言葉も、思い返せば感謝の対象だ。


けど少年には、シュウの言葉は届かない。


「……分かるわけないだろ!僕に親はいない!悪いと分かっていても、生きる上では仕方のないことなんだよ! 」


シュウの言葉に腹を立てた少年は、熱くなって苛立ちのままに言葉を並べる。

しかし、シュウは少年の選択に声を荒げた。


「それでも、もっとやり方はあったはずだ!自分が不幸になる選択じゃなくて、幸せになる為の選択をしろよ!コレを売っても、お前は決して幸せを掴み取れない! 」


そう言い切って何を思ったのか、持っていた《デュランダル》を少年の目の前に置いた。

そして、少年に向き直り、真剣な眼差しで問う。




「人のモノを盗んで得た金で食う飯と、自分自身で汗水垂らして働いた金で食う飯とはどっちが良い?本当に幸せを掴み取ることが出来る選択肢はどっちなのか! 」


シュウが並べた言葉に冷や汗を額に浮かべる少年。彼にとって、目の前に立つ男が提示してきた言葉は自分の運命を変える言葉に他ならなかった。

少年は瞳に涙を溜めながら、僅かの抵抗心を胸に強く吐き出した。


「……っ!!身寄りのない僕を働かせてくれる場所があるのかよ!?そんな場所ないだろ! 」


「……俺の店に来い!お前に本当の幸せってのを教えてやる! 」


少年にとっては思いもよらない言葉に、溜めていた涙が一斉に流れ落ちる。

上唇を噛んで必死に泣き堪えようとするが、今の彼にはどうしようも出来なかった。

シュウが今、彼に言った言葉は全て、少年にとってこれ以上ない喜びだったのだから。



「……な、なんで、なんでそこまで! 」


「俺に、似てたからかもな。いつまでも座ってんなよ。武具屋に戻るぞ!俺も一緒に謝ってやっからよ! 」


シュウは、ルティアに助けられた自分と少年を重ねていた。

泣いている少年を優しく諭し、手を握って立たせる。


「それで、名前はなんて言うんだ? 」


「セ、セフト。 」


「俺はツキノ・シュウ!よろしくな、セフト! 」



シュウは地面に置かれている《デュランダル》を拾うと、セフトと共に来た道を戻り、武具屋へ向かう。


歩き始めた時、シュウはセフトに優しく明るい声で質問を投げかける。

気持ちを切り替えさせる為だ。



「セフト、歳はいくつなんだ? 」


「……13歳だよ。シュ、シュウは? 」


「俺は18歳。セフトは、今までどうやって生きてきたんだ?ずっとその生活か? 」


シュウの言葉に深く頷き、セフトは口を開いた。



「僕は物心ついた時から親が居なくて、5歳までの記憶が何故か無いんだ。 」


「記憶が無い?どういうことだよ? 」


「どこで生まれたのかも、どこで育ってきたのかも分からない。5歳から今に至るまで自分が正しいと思って生きてきた。幸せを掴むなら、他人の幸せを奪うしかないって……」


申し訳なさそうに下へ俯いて、小声で呟く。



「つまり、お前を心配してくれる大人はいなかったのか? 」


「……うん。だから、嬉しかったんだ。生まれて初めて、真剣な表情をした自分以外の人に悪いことを悪いって言ってもらえたことが! 」


「そ、そうか……」


少年の返答に目を丸くさせる。

なんて残酷な世界なんだろう。どっちの世界でもこういうことは変わらなく起こってるんだな。




武具屋の前まで戻ってくると、店内からシュウを発見したルティアがゆっくりと歩き、武具屋の扉を開いた。

後ろで椅子に座って(うずくま)る桃色の髪の少女を横目に、ルティアは首を横に振った。



「ずっとあの調子なの……《デュランダル》を早く彼女に渡してあげて! 」


首を縦に振り、店の中に足を踏み入れる。

前に快く店内へ受け入れてくれた様子はなく、嗚咽の混じった泣き啜る声が聞こえた。


シュウはデュランダルをセフトに渡す。


「ほら、返してこい 」


「うん」


受け取ったセフトは彼女の前に恐る恐る歩み寄り、勇気を出して謝罪の言葉を吐いた。


「盗んじゃって、ごめんなさい! 」



桃色の髪の店主は頭を下げて謝るセフトに気がつき、彼が差し出す《デュランダル》を視界に入れた途端、時が止まったように静止した。



「……違う、違う、違う!!! 」


だが、彼女は目を虚ろにして首を横に振った。シュウが持ってきたのは、紛れもなく少年がショーケースを破って盗んだ《デュランダル》のはずだ。間違いなどない。



「違いませんよ、コレは紛れもなく《デュランダル》で……」



「……違うの!!! 」


力一杯に否定した声は店内を突き抜け、外にまで轟いた。目を丸くして、状況を把握出来ない表情のシュウは、困惑しているルティアへ助けを求める視線を送った。



「返して、返してよ!!私のデュランダルっっ!!!そんなガラクタ要らないっ! 」


断末魔に近い高音で張り裂けそうな声を出し、荒ぶり泣き続ける彼女の手を握る。



「大丈夫です、だから落ち着いてください。デュランダルの話、聞かせてもらえますか? 」



ゆっくりとした口調で優しく紡いだ言葉は、泣き噦っていた彼女の心を優しく包み込む。

シュウと店主以外の時間が止まったような感覚が頭を過ぎり、流していた涙と嗚咽を止めた。



「うん、あのね…… 」


彼女は紡ぎ始める。

伝説のデュランダルについて。

今は語り継がれることでしか触れる機会のない伝説の王国剣士の話を。

八杯目の完食ありがとうございます!


いかかでした?心が燃え上がりました?

同時に身体も……!w


またのご来店お待ちしております!!

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