五杯目「はぁ……スライムも無理なんて……」
いらっしゃいませ!
今日のオススメはスライムの体液を使ったジェル状のスープが特徴的な一杯を!
麺に半分固形のスープが絡む絡む!!
お味は醤油、塩、スライム味から選べます!
ご堪能あれ!
「うわぁぁぁぁあああ!!!ルティア、助けてええええええええ!!! 」
下級モンスターのスライムに追いかけられ、シュウは涙目で逃げ回る。
手に持っているナイフと、背負っている木製の盾を駆使して立ち向かおうとするが、相手の気迫に押しつぶされそうになる。
「はぁ……スライムも無理なんて……」
呆れ返った様子で彼女は腰に仕舞われているダガーに手を伸ばし、柄を掴むと一気に加速。教会で魅せた吹き通る風の如き速度を生み出す攻撃は、弾力のあるスライムの皮膚を突き破った。
「大丈夫? 」
地面に腰を下ろして、ルティアの一連の攻撃を点になった瞳で見つめていたシュウは、ルティアが差し伸べてくれた手を掴んで立ち上がる。
「此処は、神樹の森と呼ばれている森で、モンスターも弱いのしか生息してない比較的、安全地帯なんだけど……」
"安全地帯"という単語の語尾に「?」マークが浮かび上がる。
ルティアに先程教えてもらった通り、スライムに攻撃してみたが、俺のナイフの白刃を弾力のある皮膚でキャッチして包み込み、弾き飛ばしてしまうのだ。
「シュウ、もう一度説明するよ? 」
コクリと頷き、ナイフの柄を握りしめる。
「ナイフは、一撃で仕留める武器じゃなくて、一撃で仕留める方法を探す武器なの。 」
「……? さっぱり、分からない。 」
「シュウのナイフは、長剣や大剣みたいに一撃で敵を仕留めるタイプの攻撃は出来ない。技を覚えて、体を動かすことが出来れば不可能じゃないけど、今のシュウには無理よ。 」
彼女は動かなくなったスライムの屍に視線を向け、呆れ返った表情で言った。
「スライムは、物理攻撃を半減させる防御力を持っているけれど、攻撃は突進のみで単調。この通り、目も無いから音で敵を判断しているの。 」
「成る程な……。それで、ナイフが攻撃を探すための武器ってのは? 」
「一撃で大ダメージを与えられない分、軽くて、比較的戦いやすい。手数で敵にダメージを蓄積させて弱点を探すのがダガーや短剣、ナイフ使いの戦い方よ。 」
彼女の持っている剣も俺と同じ分類に入るらしい。つまり、彼女の戦い方を見て真似ることが出来れば良いのだ。
しかし、基本的に敵を殲滅する際、加護を使用するルティアの身体を俺の肉眼が捉えられるはずもない。
「先ずは柄を握り、剣先を空へ向けてみて。 」
俺は彼女に言われた通り、柄を握りしめ、剣先を立てて空へ向ける。
「その時に腕は折っておくこと。伸ばした状態だと、咄嗟の判断で間に合わない場合があるからね。それと、重心は低く。 」
腰を落として、腕を折った。
彼女が言った通り、この体勢なら動きやすく、咄嗟の反応も取れそうだ。
「次に振り方だけど……縦に振るより、斜めを意識して。最初は、腕の使わない筋肉を使うから痛みがあるかもしれないけど、慣れていけば大丈夫! 」
斜めを意識、縦に振るのが一般的なイメージだが、俺の持っているイメージなどゲームの世界の想像でしかない。
試しに斜めに振ってみるとーー、
「斜め斬りは上手いね!?どうしてだろう……! 」
俺は、斜め斬りがラーメンの麺の湯切りによく似ていると思った。
斜めに細心の注意を払って振り下ろす一撃、何度振っても絶対に違う角度では振り下ろさない精密さを保てていた。
「他は加護の使い方だけど、手に刻まれた紋章を触れながら、自分がしたいことを願うの。私の使い方は基本的に、動きを早めるとか、殺傷力を高めるとかだよ。」
彼女の説明に、ウンウンと元気よく首を縦に振った。何となくだが言っていることは理解出来た。
「シュウ、敵のお出ましよ。 」
ルティアの言葉に周りをキョロキョロと見渡すが、敵の影ひとつ見えない。警戒心を解かず、細心の注意を払う。
剣先を下に向け、重心を低くして構えの姿勢を取った。姿が見えずとも、いつでも動ける体制にしておくのは重要なこと。
ルティアが言ったタイミングとは少しずれて、二体の動く骸骨が現れた。
骸骨は骨が露わになっている白くて細い指で剣を持ち、カタカタと顎を鳴らしている。
「カタカタカタカタカタカタ……」
「スケルトンナイトね。あまり無理しないように戦ってみて! 」
彼女の言葉に深く頷くと、二体のスケルトンナイトの前へ重心を低くし、構え立った。
ーーすると、一体目が空っぽの身体を動かして、俺へ剣を振り下ろした。
ひしひしと感じられる殺気に怯え、教えてもらった通りの構えとは一転し、俺は思わず背を向けてしまった。
幸い、背に背負っていた盾で攻撃を受け止めることに成功したが、反動で背中に痛みが走る。
「シュウ!敵に背を向けない! 」
「えっ、ええっ、え?! 」
ルティアの叫び声も聞いている余裕が無いほどの慌てぶり。つい、この間に感じた"死"の感覚が身体の中を滞りなく流れ、恐怖という枷が地面と足を縛り付けてしまっているようだった。
俺には二体目のスケルトンナイトの攻撃など、見ている暇はない。
「あっ」と気づいた時にはもう遅い。
銀色の刃が眼前まで迫ってきていた。
「……っ!! 」
「はぁぁぁっ!! 」
ルティアは間一髪で俺に迫る白刃を短剣の峰で受け止めると、力強く弾き飛ばし、猛追を防ぐ為にスケルトンナイトの腹部に蹴りを入れて牽制した。
蹴られたスケルトンナイトが体勢を崩す時、入れ替わるように、もう一体が長く伸びたルティアの足へ剣を伸ばす。
だが、彼女は動揺した様子も見せなかった。
一対二の戦闘に置いて、最も重要な視野を広げ、敵の位置、敵の行動のチェックを怠ってはいなかったからだ。
真っ直ぐ足に伸びる剣を片足が上がった状態で器用に靴底で受け止めた。
そのまま、剣を力技で弾いて地面に着地し、踏ん張りを強めた足で地面を蹴って加速、右手に携えた短剣でスケルトンナイトの首の骨を叩き割った。
「……ふぅ。一体目は終了。もう一体も虫の息、態勢を整えさせる前に息の根を止めておかなきゃ。」
首の骨を割られたことで頭と身体が別々になったスケルトンナイトは、その場へ静かに崩れ去っていった。動力源は頭のよう。
ルティアは一息つくと、生き残った一体に鋭い眼光を浴びせ、地面を蹴り飛ばした。
二体のスケルトンナイトを一人で沈めた彼女は、シュウに詰め寄ると、真剣な眼差しで説教を浴びせる。
「シュウ、敵に背は向けちゃダメだよ。背を向けるのは、勝負に負けた時だけ! 」
「ああ、ごめん。咄嗟に後ろを向いてしまったんだ……次からは気をつけるよ。 」
彼女は頷き、呆れたように口を開いた。
「スケルトンナイトは、モンスターランクFの雑魚中の雑魚、シュウはまず、戦いに慣れていかないとだなぁ……」
「うん……ところで、モンスターランクって何? 」
ルティアは「ああ、そうだった。説明してなかった」と、小さい声で呟くと、説明し始めた。
「モンスターランクってのは、モンスターの強さをランク付けしたものだよ。ランクは上から順に、SS、S、A、C、Fクラスに分かれていて、ランクが高いモンスターを倒せば報酬としてお金が手に入るの。 」
「因みに今倒したスケルトンナイトはいくらぐらい? 」
見向きも出来ない攻撃、一体千円くらいと言っても過言ではないだろう。
だが、ルティアは俺のそんな期待を軽く打ち砕いた。
「スケルトンナイトは、Fクラスだから、五体で銅貨一枚程度よ。 」
「え?銅貨? 」
聞いたことのない通貨に戸惑いを隠せない。円単位やドル単位ではなく、銅貨?
「あの〜……ルティア、通貨の説明をしてくれないか? 」
「え?まさか……通貨まで忘れてるなんて思いもしなかったわ。銅貨、銀貨、金貨。銅貨一枚で果物が一個買えるよ。 」
つまり……スケルトンナイトを狩り尽くそうと思ったら、もっとランクの高いモンスターを狩るべきか。
銅貨が百円、銀貨が千円?金貨が一万円?と考えた方が良さそうだ。
「一旦街に戻ろっか! 」
「嗚呼、そうしよう。 」
俺とルティアは一旦街に戻ろうと、方向を転換させる。
ーーだが、思わぬ影が目の前に現れた。
赤い鱗に包まれたしなやかな筋肉、巨大な大剣を軽々と片手で持ち、黄色く細い瞳をぎょろぎょろと動かす爬虫類頭の二足歩行モンスター。
「……リザードマン!?Aランクモンスターがどうしてこんなところに!? 」
「さっきのがFランクなのに、コイツはAランク!? 」
オレ達が困惑の声を出すと、リザードマンは反応して、地面を蹴って加速した。
「シュウ!どこでも良いから隠れて! 」
「あっ……ぁぁ、わ、分かった! 」
俺は素早く背後にあった大きな木の後ろに身を隠した。
ルティアは俺に教えた通りの構えを行うと、加速するリザードマンに視線を向けたのだった。
五杯目、完食いただきありがとうございます!
ねっとりとしたジェル状のスープはいかがでした?一部、お客さんに食べて貰った感想を聞いてみると、「非常に食べづらかった」との声が多かったですが、どうだったでしょうか!
私的には味見してないスライム味の感想も聞きたいですね〜!
またのご来店、お待ちしております〜〜!