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四杯目 「ちと、痛みが走るでの〜。我慢するぞい? 」

いらっしゃいませ!

今日のオススメは、風を感じれる爽やかな一杯をご用意致しました!

後味に少しだけ激痛が走る仕様なのでお気をつけてお召し上がりください〜!


店の中に入ると、目に付いたのは、金色の剣。透き通ったガラス張りのショーケースの中に大切に仕舞われている剣は《デュランダル》と名前の提示がしてあった。

デュランダルは、フランスの詩「ローランの歌」に登場する剣で天使から授かり、特別な力を持っていたとされている剣だ。

前に図書館でアーサー王伝説の文書を読んだ時にそんな説明が載っていた気がする。


俺の視線が剣に向いているということを悟ったルティアは、《デュランダル》に関する情報を付け加えるよう、口を開いた。



「この剣ね、"触れなば(おれ)、大地を穿(うが)たん"と恐れられる魔剣よ。大きな岩を一振りで破壊出来るって力を秘めてるらしいから相当のモノだよね。 」


「そんな強い剣がどうしてココに? 」


武具店に置かれるべき代物ではないはずだ。

細心の注意を払って扱うべきモノだろう。"それがどうして?"という俺の素朴な疑問を店の中で待ち構えていた人物は、ルティアとの会話に割り込む形で話しかけてきた。



「それは、先代が打った剣ですから。」



思わず声のした方向へ振り向くと、(かしこ)まった敬語口調で話す桃色のショートヘアの女の子が立っていた。

彼女は俺と目が合うなり、お辞儀して「いらっしゃいませ」と口を開く。


「なるほど。だからか……」


「それより、何かお探しですか? 」


「あっ、そうだ!モンスター狩りに使う装備を揃えに来たんだった! 」



俺は本来の目的を思い出し、声を上げる。

すると、店員であろう彼女は、武器が置かれているショーケースの方へ手を差し出し、案内を始めた。


「こちらです。どれに致します? 」


ガラス張りのショーケースの中には、大剣、長剣、細剣、斧、鉈などの近接武器が並べられている。どれも昔やっていたRPGゲームなどで見たことのある武器にそっくりだった。



「シュウ、まず、普通の剣を持ってみて。 」


ルティアが店員から剣を受け取ると、俺へ柄の部分を差し出しながら言った。



「ああ! 」


柄の部分を掴み、受け取る。

ルティアが離した瞬間、ズッシリとした重みが手に加わり、矛先が下を向いた。

重すぎる……!何とか持つことは出来るが、これを振って敵を薙ぎ倒すことなんて不可能に近い。寧ろ、剣を持っている俺が剣によって腕を腱鞘炎にされてしまうかもしれない。


俺の様子を見たルティアは、ぽかーんと口を開けて、店員へ向かって呟いた。


「もっと軽めの奴、ありますか? 」


「畏まりました。こちらです、どうぞ。 」


店員の女の子が取り出したのは、刃渡りが大きめのナイフ。

柄の部分から刃に至るまでが金属で出来ている。



「これだったらいけるよね? 」


「うん。大丈夫そう。ありがとう。 」


剣を手放し、ナイフを受け取る。

金属なだけあって重みはあるが、流石に持てない重さではない。

ナイフを仕舞う為の革で出来た鞘を渡される。紐で繋がっている肩にかけるショルダーバックタイプのモノだ。



「防具はどうしよう。鎧は着れないようだし……」


「でしたら、盾を購入なさいます? 」


"盾"という単語に男心がくすぐられる。

元気よく頷くと、彼女は木製の盾と金属製の盾を片手で持ちながら、「どちらにします?」と首を傾ける。


耐久性だけなら金属製と即答したいところだが、装備することが出来るかどうかさえ不安なので木製の方を指さした。


「畏まりました。それでは!ご利用ありがとうございました。 」


深々とお辞儀をする桃色の少女。

何か大切なことを忘れてはいないか?と思い、不意に口に出した。


「アレ、お代は? 」


「お代は結構です。初心者からお金は取れませんよ。では、お気をつけて行ってきてくださいませ! 」


そう言って、彼女は店の奥へと姿を消した。

ルティアは笑顔で店の外へ出ると、「ラッキーだったね! 」なんて言いながら、次の目的地へ歩みを進め始める。



「次の目的地は何処に? 」


「次は教会かな。此処の通りを真っ直ぐ行った所にあるの。シュウ、加護受けてないでしょ? 」


「加護? 」


「詳しい話は着いてからするから!後、盾は一々手に持ってないで背中に背負ったら? 」


ルティアに言われるがまま、木製の盾を背中に背負って、彼女の後ろをついていった。



武具屋の前には、上に行くにつれて坂道になっていく大通りがあり、教会はルティア曰く、坂道の上なのだそう。


かなり辛そうな坂道だが、出前で鍛えた足があればこんなもの朝飯前。俺はルティアと一緒に軽々しく坂道を登った。

思った通り、そこまで辛くなかった。



「此処よ! 」


坂道の先には、白い十字架が赤い屋根の上に取り付けられている、大きな建物があった。

全体的に壁が白色のコンクリートで固められていて、周りの地面は芝生が敷かれている。

前の世界では一度として見たことのないような花が咲き、小さな風車が幾つもあった。

心地の良い風が吹くたび、回るソレは見ていて心が安らぐようだ。



すると、教会の木製の扉が開き、黒い修道服を着た男の老人がこちらへ向かって歩み寄って来た。

インターフォンを鳴らしたわけでも、大声を出して呼んだわけでもないのにだ。



「おやおや、ルティアじゃの。今日はどういったご用件で? 」


「ゼフィロス様の加護を分けて頂きに参りました。私はもう既に加護を受けていますが、隣の男の子の分です。 」


老人は、ふむふむと首を縦に振り、口元の白い顎鬚を指で撫でる。

老人と目が合った。彼はにっこりと微笑んで、次の瞬間には、扉の方を指差して「どうぞ」と歓迎してくれた。


両開きの扉を抜けると、赤く艶のある会衆席が何列にも並んでおり、中心を裂くように赤い絨毯が敷かれている。

絨毯の先には、木で出来た四角い長方形の祭壇が置かれていて、祭壇の上には教会内を照らす蝋燭に火が灯されていた。

至って普通の教会だ。

次に目に入ったのは、太陽の光が射し込み、教会を虹色に彩るステンドグラスに描かれている絵だった。

緑、黄、赤、青と様々な色が混ざり合い、一枚の絵になっているソレは、とても美しく眼に映る。


大きな竜巻から、緑色に神々しく光り輝く礫を受け取り、頭を下げている若者が描かれている。どういう意味をしているのかさえ、分からないが、ソレはとても綺麗だった。



黒い修道服の老人は、ステンドグラスに見とれている俺に手招きをして、祭壇の前に置かれている木の椅子に座らせる。

その横に老人が座り、ルティアは会衆席に腰を下ろした。



「お主はゼフィロス様の加護を受けたいと願っておるのじゃな? 」


「あっ、彼は記憶喪失でして、その辺の説明がまだなんです。……してもらえますか? 」


老人が俺に紡いだ質問を無に帰すように、割り込んで来たルティアは、申し訳なさそうに老人へ懇願する。



「記憶喪失じゃと?ソレは大変なことじゃの……分かった。儂が直々に、ゼフィロス様の何たるを教え込んじゃる! 」


「はい!お願いします! 」


老人は、俺の返事を聞いて満足したのか、勢いよく話し始めた。



「童話として有名な話じゃが、大地と生命を作ったのは光の精霊神、世界に闇を作ったのは闇の精霊神、闇を照らす太陽を作ったのは火の精霊神、生命に安寧を与える為、風と水の精霊神が現れ、この世界を創造した。という話があっての。 」


光、闇、火、水、風、其々の精霊神が協力して世界を創造し、生命を創造した。

前の世界にいた時にやっていた王道RPGゲームなどの設定と酷似している。



「ここレピア王国は、風の精霊神ゼフィロス様の加護を受けた風の国なんじゃよ。各国で崇めている精霊神が違い、使える加護も違う。ここまでは単純じゃ、分かったかの? 」


コクリと頷いた。


そうか、だから、レピア王国の城下町付近には、一軒家と合体した風車が多くあったのか!

確かに心地の良い風が吹いている気がする。



つまり、レピア王国の住人は風の加護を使うことが出来る。いや、でも、待てよ?

加護って何だ?魔法?


俺の疑問を察知したのか、元々その予定だったのかは分からないが、老人はルティアへ口を開く。



「ルティア、この若者にお前の加護を見せてやれ。説明より、見て覚える方がいいに決まっとるわい! 」


「……修道士様がやればいいのでは? 」


「若いモンが御老体に楯突くじゃない!早よ、やらんか!減るモンじゃなかろうに! 」


半分駄々を捏ねる小学生のような愚図を聞かせた老人に負けたのか、ルティアは会衆席から立ち上がり、真ん中の赤い絨毯の上に立った。



「……」


真剣な眼差しは真っ直ぐに俺を通り過ぎ、老人を捉える。

重心を低くし、腰に身につけている短剣を取り出して構えの体勢を取った。



ーー瞬間。

突然、俺の横を台風並みの強力な風が通り抜け、後ろで弾け飛んだ感覚が肌に伝わった。

ルティアが立っていた位置を確認するが、彼女の姿はない。

何かが弾けたような感覚が走った背後へ視線を恐る恐る向けると、真っ直ぐ赤い絨毯に沿って、白銀の短剣の刃を老人へ向けたルティアが押し勝とうと必死になっている様子が眼に映る。



「はぁぁぁぁぁぁあ!! 」


「まだまだじゃの〜!!儂もまだ衰えてないってことじゃな! 」


老人はルティアの猛進を片手で受け止めていた。掌と剣の間には空気の膜が存在し、小刻みに振動し、ソレを防いでいる。





「ほほほ、これが加護じゃよ。当人の使い方次第で無限の可能性を生み出せる、風の精霊神ゼフィロス様の力よ。"風の加護"と呼ばれておるかのう。 ……よいせっ! 」


老人はルティアの剣を弾き飛ばし、一気に距離を取る。空中に放り投げられたルティアだったが、持ち前の運動神経で地面に落ちるタイミングに地面へ手をつき、上体を起こした。



「……あんなことが俺にも出来るのか? 」


「お主にも使えるようになるわい。安心せえ、ゼフィロス様は民へ平等にチカラを与えてくれようぞ。 」



嬉しそうに話す老人へ首を縦に振ると、彼は彩りのステンドグラスを前に祭壇の椅子へ腰を下ろした。


「さて、儀式を執り行う!祭壇のステンドグラスに祈りを捧げるのじゃ! 」


「は、はい! 」


言われた通り、ステンドグラスを正面に捉えた状態で両手を組み、顔を下に向けて目を瞑った。祈りーーと言っても、特に考えることはない。神に祈りを捧げる行為は、初詣などでやったことがある程度。



老人は懐から取り出した掌サイズの緑色の石を天に掲げ、詠唱を手向ける。



「この若者、ツキノ・シュウに我がレピア王国が敬愛し崇拝する唯一神、ゼフィロス様の加護を与え給え! 」



ーー直後。

教会内の空気が微量に揺れ始め、次第に大きく大きく膨張する。いつしか、目を瞑って祈りを捧げ続けるシュウの周りは巨大な風の壁に囲まれていた。

だが、彼は目を開けようとはしない。

肌に伝わる凄まじい振動、暴風の感覚、ソレすらも意に介さず、祈りを続けた。



「ちと、痛みが走るでの〜。我慢するぞい? 」


緊張感の無い老人の声がシュウに聞こえ、「え?」と疑問が湧いた瞬間。

祈りを捧げていたシュウの手の甲に勢いよく竜巻が吸い込まれ始めた。



「ぐぅぅうううううううう!!!! 」


目を開けてはいけないと、何かが必死に訴えかけてきているようだった。

信じられない痛みが手の甲に走り、腕へ、足へ、頭へ、全身へと滞りなく流れる。

まるで、体内の血液と硫酸が入れ替わったかのような感覚だ。痛覚が痛みを"熱"として錯覚している。


目を力一杯に瞑り、歯を食い縛って耐え続けるしかない。

シュウが出来る唯一の抵抗はそれだった。





ーー何分経っただろう?

ふと、目を開けてみる。真っ暗だった視界にまばゆい光が訪れると、まだ視界のピントはズレたままでボヤけていた。


お祈りを続けていた時の暴風の感覚は一切無く、寧ろ、あれ程の激痛を味わったのにも関わらず、その感覚さえ無かった。不思議な感覚が身体を纏わりつく。



「シュウ!これで加護が使えるよ! 」


真上から聞き慣れた声が聞こえ、顔を上げると、笑顔のルティアが立っていた。横で老人がウンウンと頷き、一言目に「よう、頑張ったの〜! 」 と、感激の声を浴びせる。


激痛が走っていた手の甲に視線を移すと、黒く皮膚が焦げ、先程、レピア王国入り口の大門に描かれていた咆哮を吐く獅子が刻印されていた。



「それが風の精霊神ゼフィロス様の"風の加護"を使える証じゃ。なかなかに根性がある男じゃの〜、気絶無しで耐え抜くとは! 」


「それってどういう意味……」


「まあ、終わったことじゃしな。この儀式、劈くような痛みが走るから普段は意識を奪ってから執り行うのが主流なんじゃよなー。 」


!?

だったら俺もそうやれよ!必死に耐えたのが馬鹿みたいじゃないか!心の叫びは届かず、喉奥に押し込んだ。



「私も最初は修道士様がやろうとしていることに気がついて驚いたけど、もっと驚いたのは、あの痛みに耐えるシュウの根性よ!凄いわね、本当に何者!? 」


ただのラーメン屋としか答えようがない。

下を俯き、手の甲に刻印された紋章を見つめ続けているとーー、



「まあいいわ。それじゃ、今日は疲れただろうし、ここに泊まって、明日の朝に資金集めに軽いモンスター狩りに行くわよ! 」


「嗚呼! 」


俺は大きい声で返事をした。


いよいよだ。明日になれば、必死に耐え抜いた、この儀式で身についた力を酷使し、モンスターを薙ぎ倒すことが出来る。


それに、防具屋で揃えた刃渡りの大きいナイフと木製の盾もある。

初めての狩りだが、どうにかなりそうだ。


明日は、俺の無双する光景をルティアへ見せつけてやる!!ーーそう決意した俺は、教会の奥の部屋へと消えていったのだった。

四杯目の完食、誠にありがとうございます!

爽やかさを感じた後の激痛、いかがでしたでしょうか?

今回はスープの出汁にレピア王国名産のマントル草を使ってみました〜!


マントル草はレピア王国都市街にある神樹の(ユグドラシル)で採れるミントのような爽やかさと、震えるような激痛が特徴的な食草です!

料理のスパイスとして使われるのが一般的なんですよ〜!

そのまま食べるのは国で禁じられてるのだとか……。


またのご来店をお待ちしております!

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