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二杯目 「俺、無一文じゃねぇかぁぁぁ!! 」

いらっしゃいませ!

当店オリジナルの二杯目は、知的になる一杯を!

完食されただけで知識が増える?効能を配合しております。是非、ご堪能あれ!

第二話(二杯目)


「マズいってどういうことだよ!! 」


彼女の返答を聞いて、喉を突き出たのは、素朴な怒りだった。自信満々だったこともあってか、裏切られた瞬間の(かえり)みは大きい。それに、あんなに美味しそうに全て完食しておいて、何が不味いのか。



「そのまんまの意味よ!こんなに不味い食べ物は、初めて!空腹じゃなかったら、皿ごと叩き割ってたわよ! 」


「はぁぁぁぁぁぁあ!?!? 」


「そもそも、食に疎い私に感想なんか聞かないでよ!あまり美味しいものなんか食べたことないし、私の美味しいは乾パン程度よ! 」


ここまで言われるとは……!

まさか、自分が作った渾身のラーメンが、長い間保存の効く、口の中の水分を徹底的に奪うことで有名な"乾パン"如きに負けるとは思わなかった。

確かに麺が伸びきって冷たいラーメンなんて不味いかもしれない。ならば、と、ーーその瞬間、俺の負けず嫌い根性に火が付いた。



「……なら、お前を絶対に美味いって言わせるラーメンを俺が作ってやる!! 」


シュウは決意した。

絶対に、この女が食べた瞬間に美味すぎて失神するくらい、極上なラーメンを作り出すと。自分の作った渾身のラーメンを不味いと否定されて、「はい、そうですか」で引き下がれるわけがない。


何としても、この女に美味しいと言わせなければ!




「……これが本当に美味しくなるわけ? 」


冷めた瞳で決意を固めた俺を蔑む彼女。


「なる!絶対約束するから、俺のラーメン、次も食べてくれよ! 」


「……んー、分かったよ。約束するよ 」


彼女は未だ疑い深いけれど、食べてくれるという約束は取り付けられた。



そう言えば、この女の子の名前を聞いていなかった。

それに、ラーメンを作ると言ったはものの、俺はこの世界のことをよく理解していない。

ここまで来たら、コレは夢じゃないかもしれない。

そこで、俺の接客業で培ってきた話術を駆使して、聞いてみることにした。



「そう言えば、自己紹介がまだだったな、俺は月野秋(つきのしゅう)。君は? 」


「ツキノ・シュウね。私は、ルティア。職業は傭兵。 」


ーーだから、防弾チョッキか。

とても動きやすそうな容姿をしているからに、軍隊関連だとは思っていたが、傭兵だったとは。本物の傭兵は初めて目にするので、不思議な感覚だ。


「……うーん。不味かったけど、餓死状態から救ってくれたお礼はしないとなぁ。何をしよう……」


ルティアは義理堅いのか、お礼のことを考えてくれてるようだ。

傭兵とは頑固なイメージだったが、実際に会ってみると、自分の抱いていたイメージなんて二次元上の単なる妄想でしかなかったと言える。実質、とても良い人なのだろう。

俺の知る限り、傭兵、という仕事は誰かに依頼されて、任務を遂行する仕事。

河川敷の草むしりを無償で行うボランティア活動をしている人と変わらないのかもしれない。命の危険は伴うが。



「なら、この世界について、教えてくれない?俺、記憶が無いんだ。ラーメンに対する愛情だけが残って、残りは自分の名前くらいしか覚えてなくてさ……」


自分としては、かなりいい嘘がつけたのではないかと思った。

単刀直入にーー、

「俺、前の世界で死んだんだけど、この世界のことについて教えてくれない?」とか、言ってみれば不審がられて、折角の情報源を失ってしまうかもしれないと、悟った為だ。


記憶喪失と言っておけば、不審に思われることもないし、義理堅い傭兵ならば、余計に気を使って快く教えてくれるに違いない。



「記憶が無い?てか、ラーメンに対する愛情って何よ……まあ、いいわ。そんなので良いなら、全然教えるわよ。何が知りたいの? 」


彼女は若干呆れながらも、快く受け付けてくれた。



「ココは? 」



「此処は、風の国、レピア王国中東の未開拓地。滅多に人が近寄ることが無いから、餓死状態の時、本当に終わりだと思ったんだけど、まだ私にも運が回ってきたのね。 」


聞いたことのない国名に動揺するが、未開拓地という点で自分の中の疑問に思っていたことの歯車が噛み合った。

未開拓地だから、どんなに走っても、地平線が続いていたのか。



「国はレピアだけ? 」


「後二つあるわよ。火の国ティアロと水の国ミルメ、っていう先進国。残りの領地に小さな国が密集してたりするかなー。 」


俺が元居た世界では国の数は溢れ返り、日本のように大きな先進国も多数あったが、この世界では三つしかないようだ。

覚えやすい点では、非常に助かる。



「ルティアは何処の国に住んでるの? 」


「私の戸籍は一応レピアかな。仕事の関係上、ミルメにもティアロにも行ったことくらいはあるけど……」


「……成る程な。大体理解出来た!ありがとう! 」


お礼を言いながら頭を下げる。

すると、彼女はサービス精神が旺盛なのか、俺に笑顔で聞いてきた。


「これだけ?他は? 」


「後は……我儘になっちゃうけど、レピア王国へ案内してほしいかな。 」



これは断られても、別に構わない。

この世界のことを教えてくれたので、俺へのお礼は完了。義理は通しているからに、これ以上は俺の我儘でしかない。

だがーー、



「今から帰省するし、別に良いわよ。 」


ーー即答だった。

なんて良い人なんだろう。俺は彼女の心の広さに感動を覚えていた。

殺されそうになった時のことが夢のようだ。


「本当に!?やったぁぁ!! 」


ルティアは、俺の喜ぶ姿を見て、微笑ましく笑った。


「単純なのね、夜はモンスターが出やすいから、出発は明日の朝にしましょ。 」


「了解!って……モンスター? 」


「シュウ、そんなことまで忘れてしまったの?モンスターはモンスターよ。 」


モンスター?

そんなRPGみたいな生物が存在している世界なのか。


「まあ、うん。でも、大体は分かるよ。 」


「そう。じゃあ、今日は寝ましょ。おやすみなさい。 」


「おやすみ! 」


ルティアが階段を登って二階へ向かうのを最後まで見送ると、俺は、木の椅子に腰を下ろし、背凭れに寄りかかって瞼を閉じた。





ーー翌日。

地平線から半分程顔を出した太陽が、眩く暖かい陽光を、先程、起床した二人に与える。

なんて気持ち良い朝だろう。

陽光を遮断する不要物が一切ないせいか、起床した時の身体の怠さが無くなっていた。



「じゃあ、そろそろ行くよ。 」


「うん!案内よろしくー! 」



俺の声に笑顔で頷くルティアは、永遠に続く地平線へ向かって歩き始める。

俺も、置いてかれないように一定の速度を保ちながら、右手に出前ケースを携えて、後をついて行く。



「シュウ、記憶喪失ってことは、自分のこと、どこまで分からないの? 」


疑問げに、顔をしかめて聞いてくる。


「どこまでって……全部? 」


「はぁ……呆れた。どっかに頭で打ったの?じゃあ、どこに住んでたかも分からないわけ? 」


「……分からない。覚えてるのは、名前とラーメンに対する愛情だけなんだ。 」


「じゃあ、役場で戸籍を確認しないといけないわね。じゃあ、レピアに着いたら、行き先は役場か。……うん。 」


ブツブツと下を俯き、独り言を続ける。

少しだけ聞こえたが、まさか、着いた後のことまで考えてくれているのか?

だとしたら、流石に悪い。ーーけれど、ここは縋らせてもらうか。

王国に着いたとして、右も左も分からない状態じゃ、ラーメン作りは出来ない。



「レピアまではどれくらいかかるの? 」


「後、数時間歩けば着くよ。急ぐ? 」


「いや、これ位の速度で頼むよ。 」


彼女の"急ぐ"は、俺がどんなに頑張っても出せない速度だろう。

それは、殺されかけた時の攻撃速度で重々理解が出来る。



「ん、分かった。 」





ーー数時間歩き続けると、地平線ではなく、大きな岩製の門と鎧姿の門番が二人ほど立っているのが見え始めた。

アレがレピア王国の入り口か。閉鎖された門の壁には、緋色の獅子が咆哮を吐いている様子が描かれている。


門の前まで行くと、鎧の門番達が両手に携えているお互いの銀色の槍を交差させて、俺達を遮る。



「ルティア様、お帰りですか。おっ……この方は? 」


「私の連れよ。通してちょうだい。 」


「畏まりました。 」


鎧の門番二人は、門の左右に取り付けられた鎖をそれぞれ引っ張り合い始めた。


「ふん……!! 」


「ふんんんっ!! 」


二人の門番は血眼になって、鎖を引くが、一向に扉が開く様子はない。


「アレ……何故っ、開かない!! 」


「なっ……!ル、ルティア様を早くお通しするのだ! 」


このやり取りを見て、俺は気がついた。どちらか一人が引くのをやめれば開くことに。

ルティアの方へ視線を向けると、彼女はおデコに手をついて、首を左右に振っている。


すると、ルティアは大きく息を吸ってーー



「フィルコォォォオオオオ!!! 」


俺の知らない名前を叫んだ。

すると、鎧の門番の内、一人が鎖から手を離して背筋を伸ばし、敬礼をした。


俺の見かけ違いではなかったようで、一人が鎖から手を離したことにより、緋色の獅子の絵が半分に割れ、門が開く。



「チッ……!今日はフィルコだったか! 」


「ファルコよりも男前だからな! 」


「なんだと……!?だったら、俺も男前だなっ! 」


鎧の門番は、兜を二人揃って脱ぎ始める。

そしてーークルリと一回転し、俺達に輝く笑顔を見せながらこう言った。



「「だって、俺達双子だから〜!! 」」


声の波長と大きさ、タイミング全てを綺麗に合わせた二人の声音は、合唱団のように綺麗に重なっている。

ルティアは、呆れたように首を傾げた。



「ほら、シュウ。……行くわよ! 」


「あっ……あぁ!! 」


彼らを無視して扉の先へ進んだ。

すると、俺が目をにした光景、それはーー、


寛大に広がる真っ青な空の下に、色とりどりの煉瓦を積み重ねて作られた洋風な建物が幾つも連なり、建物の数と比例出来ない程の無数の人で溢れかえっている絵図。

見た所、亜人も幾つか混じっているようで、頭の上に猫耳、犬耳、うさ耳が付き、お尻の位置には尾が付いている二足歩行の人類が街で買い物を楽しんでいる光景が見える。


車などは走っておらず、俺の身長の数倍はある大きなトカゲが荷物を乗せた馬車を引き、走り回っている。

身近に見ていた生物が自分よりも大きくなっているのは、思わず困惑したが、此処が自分の生きていた世界とは別の世界だと頭では分かっているので、割り切ることを決めた。



「先ずは役場に行かないと。シュウ、私とはぐれないようにしてよ。レピア王国は本当に広いから、初見だと迷うことが多いの。分かった? 」


「あぁ、忠告サンキュな。 」


「うん。 」


ルティアの後ろを歩き、人混みの中を掻き分けて進んでいくと、建物が連なっていた場所とは大きく異なり、石製の噴水がど真ん中に鎮座する円型の広場へ辿り着く。

広場の周りには、高級料理店、役場、病院、警察署が円を取り囲むように四角形の位置を保ち、設けられていた。



「此処は、王都噴水広場。私達の目的地、役場はそこよ。行こっか! 」


「あぁ! 」


二つ返事で赤い屋根の大きな建物へ歩みを進める。役場の中は、小さな壁が設置された半分個室の席が複数個用意されており、個室の中に白い影が見えた。

きっと、あの椅子に座って要件を聞くのだ。



「シュウ、個室に行くよ。 」


黙って頷き、個室の中へ入ると、綺麗な黄色の(くちばし)が目立つ、鳥頭が眼鏡をかけて、大きな翼から伸びた四本指の手を使って資料整理を行っていた。

彼は、俺とルティアを見るなり、深々と頷き、一言目に「おかけください」と、言葉を喋った。



「……あ、はい。 」


緑色の長椅子へ、ルティアと一緒に腰を下ろすと、手を膝の上に置いて、目の前の役員へ、ルティアが口を開いた。



「どんな要件でお越しに? 」


「隣の彼の戸籍確認を行いたいと思いまして……」


「ふむ、戸籍ですね。では、お名前の方をお願いします。 」


「ツキノ・シュウです。 」


「確認しますね、少々お待ちください。 」


鳥頭は器用に機械を指で操作し、俺に関するデータを調べ始めた。しかし、内心、俺は焦っている。だって、絶対戸籍なんてない!作った覚えすらない!


「確認出来ました、ツキノ・シュウ様の戸籍は残念ながら見つかりませんでした。 」


そりゃそーだ。あるわけないもんなー。



「戸籍が無い?あんた一体何者なのよ? 」


視線が痛い。


「待て待て、俺も分からないんだ!信じてくれ! 」


シュウの必死に訴えかけにーー、


「……まあ、嘘ではなさそうね。 」


取り敢えず、納得してくれたみたいだ。


「それじゃ、此処で戸籍を取得する必要があるわね。役員さん、彼の戸籍取得申請を行いたいのだけど……」


「ふむ……取得申請ですね。では、此方の資料の方へご記入をなさってください。 」


鳥頭は、机の上に並べられた資料の内一枚を取り出して、俺の前に黒ペンと紙を置いた。

"戸籍取得申請書"と書かれた資料は、名前、年齢、性別、保証人の名前、保証人の年齢、保証人の性別と幾つかの項目が並べられている。


取り敢えず、自分の名前はツキノ・シュウ。

年齢は18歳、性別はオトコ。と、書き進めたところで、保証人の欄に到達すると手が止まる。

保証人?今の俺にはそんな人はーー、


俺の様子におかしいと思ったのか、ルティアは、首を傾げて覗き込む。

状況が理解出来たのか、俺からペンを奪い取って、保証人の欄に自分の名前と年齢、性別を書き記した。



「え……? 」


「話は後よ。今はコレで。 」


紙を鳥頭へ提出すると、彼は深々と頷き、神妙な表情で、こう言った。


「申請完了です。貴方は今から、レピア戸籍の者となります。 」


申請完了?!そんなにすんなり、国民と認めてもらえるとは思っていなかったので、急展開に困惑しながらも胸をなで下ろす。


「ツキノ様、失礼ですがご職業とかお有りですか? 」


その質問に心が揺らいだ。



「職?あぁ、ラーメン屋です。 」


「ん?ラーメン?何ですかそれ……」


数十時間前にもこんなやりとりしたなぁ、デジャヴだなぁ、と頭の中で思い進める。

この世界だとラーメン屋は酒場?食事処?


「ご飯食べるお店ですよー。 」


「あぁ、酒場ですか!どこでお店をお開きになられてるんですか? 」


「いや、コレから開くんですよ。まだ立地とかも把握してないので、全部コレからになるんですけどね……」


鳥頭はウンウンと笑顔で頷く。

そして満面の笑みのまま、俺に最も重要であろうことを気づかせてくれた。


「えっと、お金はどれくらい持っていますか? 」


その瞬間、俺は気がついてしまった。

自分が今、置かれている状況をーー、



「俺、無一文じゃねぇかぁぁぁぁああ!! 」

二杯目、完食して頂きありがとうございます。

お味の方はいかがだったでしょうか?

知的になる一杯、知識は増えましたでしょう!


次回の投稿は未定です!ストックはまだまだありますが、仕込み(確認作業)が終わり次第、投稿する形を取っています。

ご了承くださいませ!


次回もご来店をお待ちしております!

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