異世界転生した俺と私 4話
ミリアリア王国の辺境に位置する街、ライルーン。
この街は領主クレイドルが支配する街である。クレイドルはこの街が辺境であり王国から最も離れている街である為、王国からの監視が緩い、そこを利用し、悪政を働いていた。
クレイドルに逆らうものは死罪を、クレイドルの起源を損ねた者にも死罪を。
常に死の恐怖におびえる民たちは毎日を怯えながら過ごしているのである。
もちろん、その恐怖にこの街を出ようとする人間もいた。だが、その者は捕まり、見世物のように殺された。逃げれば殺される、民たちにその恐怖を植え付けるために。
そして、クレイドルの目論見通りその恐怖が民たちを縛り付けていた。
そしてこの街の冒険者たちもそんなクレイドルに逆らうことも出来ず、非道が行われていても見て見ぬふりをする。いや、酷いものに関してはその行為に加担をするものもいた。
この世の地獄、まさに民たちにとってはその様な場所であったのだ。
そんな、街の入り口に一人、呑気な声を上げる見た目は女性の者が一人。
「や―っと着いたかぁ~、さすがに疲れたぜ」
(ホントねぇ、私は歩いてないけど)
「あわわ、そんな大声出しちゃ駄目ですよぅ」
「あん?」
静かな街に志穏の大きな声が木霊する。
門番をやっていた兵士がこちらを驚いた表情で見ていた。
「あんでだよ?」
「そんな大声出して領主に見つかったら殺されてしまいますう」
「はあ?」
(大声出したら殺されるって……どんな街よココ…)
世紀末か何かなのだろうか?などと再び呑気な声を出す二人に門番の人が近づいてきた。
「おい、お前たちこの街は初めてか?」
「ああ?だったらなんだよ?」
「だったら、気を付けたほうがいい。この街の領主の機嫌を損ねると死刑になる。見たところ冒険者か大道芸人だろうが……早いうちにこの街をでることだな」
そう言うと、門番は元の位置に戻っていくのであった。
「おいおい、なんだそりゃ」
(リリーの言う通りこの世界やばいんじゃない?)
「あう……」
事実とは言え、ハッキリそう言われしょんぼりと尻尾を落とすリリー。
「あの、天使様」
「だから天使じゃねぇって」
「あわわ、ごめんなさい。えっと、とりあえず冒険者ギルドにいきませんか?」
(そうね、先ずは冒険者ってのにならないと確か冒険者ギルドの設備を使えないのよね?)
「はい、それ以外にも図書館や武器屋など、許可のいる場所には冒険者としてのステータスカードが必要になります」
そう、この世界ではステータスカードに職業や貴族としての階級などが記載されている為、そのカードが身分証の代わりになるのだ。
そして、そのカードによって入れる場所、買える物が変わってくる。
その為、世界を旅し、秘法の情報を得なければならないシオンには冒険者になることが必須になる。
あのメガネの神様はこうなることが解っていたから二人を一人にしたのだろう。
「やっぱり、あのメガネ唯じゃおかねぇ」
(当然ね)
徐々に上がっていく神様へのヘイトにそれを覗き見ていたあのメガネの神様は冷や汗をかいていたのだが、それは二人には解らないことである。解っていれば、この程度の悪態ではすまなかっただろう。
「あの、天使様」
「はあ……なんだ?」
天使と呼ばれることを否定するのを諦めたのか、ため息を一つ吐くと志穏が答える。
「あの、中にいる天使様のその声は念話によるものなのですよね?」
(ん?ええ、そうよ……やたらめったらに喋るとお化けに思われそうだからあまりしゃべらないようにしないといけないけど……)
「別に関係ねーだろ、喋りたいときに喋ればいいじゃねぇか」
「い、いえ、そのっ、確か念話は喋り駆けたい相手を強く意識すればその人達にだけしか聞こえないように出来ると本で読んだことがあるのですよ」
(え、そうなの!?)
そんな便利なことが出来るのかと、早速試してみる紫苑、先ずは志穏にだけ聞こえるように意識し喋ってみる。
(リリー聞こえる?)
紫苑の問いにリリーは何も反応しない。そんなリリーを志穏が目をやると、首を傾げて頭にハテナを浮かべた。
「聞こえてねーみたいだな」
(みたいね、じゃあ、今度は……)
今度はリリーにだけ聞こえるように強く意識をし、喋り始める。
(今度は聞こえる?)
「あ、はい、聞こえます!」
「今度は俺に聞こえてねーな」
どうやらこちらも成功のようだ。
(おお、これって結構便利なのね……後はどれくらいの距離聞こえるのかも試したいんだけどちょっとリリー手伝ってもらってもいい?)
「は、はい!」
その後、リリーに協力してもらって色々試してみたが、どうやら、見える範囲に対象の人物がいないと念話は届かないらしい。遠く離れていても届けばかなり便利であったのにと紫苑は残念がった。
だが、やろうと思えば敵を前にしても内緒話が出来るということなのでこれはこれで便利だろう。
「まあ、これで大体は解ったろ?そろそろギルドとやらにいこーぜ」
ついつい、実験が長くなってしまい、小一時間程色々と試させてもらった紫苑が『ごめんごめん』と謝る。そして、少し大通りを歩く三人だが、大通りには殆ど人がいなかった。
(まるでゴーストタウンね)
「皆、領主が怖くて出てこないんです……もし出会った難癖を付けられて殺されてしまうかもしれませんから」
出会っただけで死ぬ可能性があるなんて恐ろしい街だと紫苑は考えながらも足を進めた。
「つーか、そんな場所でさっきまでヘンテコな実験してたのかよ、絶壁女は」
(絶壁言うな!っていうか、私だって今知ったんだからしょーがないでしょ!)
「だ、大丈夫ですよ?私の耳なら領主が近づいてくれば解りますから!」
(おお、すごいわね)
種族に犬と入っているだけあって耳が良いらしいリリーは『だから安心してください』と言ってくれた。
そして、閑散とした街を歩くこと10分程、大きな建物の前に着く。
「ここが冒険者ギルドです」
(へー、でっかいのね)
「です!さあ、天使様。早く手続きをしましょう!」
そう言うと、リリーに手を引かれギルドの中に入ると中は大きさの割には人が少なく、その人の顔もどこか浮かない表情をしていた。