異世界転生した俺と私 3話
白犬族の少女が慌てながらこちらに近寄ってくる。
その姿はまるでご主人を見つけて嬉しそうに近寄ってくるワンコの様であった。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「助けて頂きありがとうございました!」
「だから別にお前を助けたわけじゃねぇって」
「そ、それでも私が助けられたのは事実です!えっとあの、私は白犬族のリリー=ミーリルトって言います」
白犬族、やはりこの少女は白犬族という種族らしい。
人間っぽい見た目だけと動物っぽい特徴もある、この世界はそう言う人間もいるということだ。
「はあ、相馬志穏だ」
「ソー=マシオンさん?」
「繋げんな、相馬志穏だ」
「ソーマシ=オンさん?」
「切る場所がちげぇ……」
(外国風なんじゃないかしら?この悶絶男はシオン=ソウマよ。そして私はシオン=スメラギ)
「シオンさんですね……あれ?」
紫苑が自己紹介をするとキョトンとした顔でリリーがこちらを見る。
そして、辺りをキョロキョロと見回すと、またしても頬に人差し指を当てながらキョトンとした。
「あわわ、もう一人のシオンさんの声だけが聞こえますっ!?」
(あ、そっか、私声だけしか聞こえないんだ)
そういえば、今は地面でのびているあの男も私の声に反応をしていた。
つまり念話は志穏以外にも伝わるということである。
(えっと、実はね……)
説明して信じてもらえるかは分からないが紫苑の声を聴いている以上、説明しなければならない。
もし信じてもらえなければ、オバケとでも思ってもらえばいいかなと半分諦めながらも目の前の白犬族の少女に自分たちの経緯を説明し始めた。
「わわわ、すごいです……ということは、シオンさんは神様が遣わした天使様なのですね!」
「はあ?」
(いやいや、そんな大層なもんじゃなくて……それにあのメガネが神様を自称しているだけで本当に神様かどうかは分からないし……)
「でもでも、それでもシオンさんは私を救ってくれました!祝福の剣を持った傭兵さんを素手で倒しちゃいましたし、シオンさんは天使様で間違いないですよ!」
眼をキラキラと輝かせながら『天使様、天使様』と喜ぶリリーはまるでおもちゃで遊んでいるワンコのようにはしゃいでいたのだ。
「天使、天使ってそんなもんがいたからって別にお前に得はねぇだろ?」
「そんなことありません!この世界は今、先の戦争で疲弊をし、盗賊や蛮族、そして魔物も蔓延っています。力のない人たちはお金も、命も、尊厳さえも奪われてしまっているのです……私のおとーさんとおかーさんも……」
先の戦争、それがどんなものだったのかは分からないが、それで国同士が疲弊をし、国としての力がなくなっているということだろうか、盗賊や魔物が暴れていてもそれを止めることが出来ないのだという。
「それだけではありません……王家の力が弱まったのをいいことに貴族たちが横暴を働くようになったのです」
領主たちは税を上げ民を苦しめ、上級貴族は奴隷を好きなだけ集め虐げるという。
(なによそれ……そんなの唯の無法地帯じゃない)
「くぅ~ん……」
「はんっ、俺には関係ないな」
「そんな……」
涙目になりながら志穏を見つめるリリーに志穏も少し後退りするが、『ふんっ』とそっぽを向いてしまう。
「お願いします天使様!」
「だから天使じゃねぇって……おい、絶壁女」
(絶壁女ゆーな!で、なによ?)
「さっきから何、黙ってやがる。お前ならこいつを見捨てるなとかギャーギャーいうところじゃねぇのか?」
そう、リリーが襲われている時には助けてあげて欲しいと懇願していた紫苑なのだが、今回は何も言ってはこない。それを不思議に思ったのだ。
(そうね……それが本当なら助けてあげたいとは思うわよ?でも、実際それが出来るかと言われたらね……)
そう、確かに異世界に転生しているし、あのメガネが本当に神様なら天使と言われても間違いではないのだろう?メガネの気分で連れてこられたのだから天使というより被害者という気もするが。
でも、志穏にしろ紫苑にしろこの世界に来たばかりであるし、それ以前に先ほどの男に手こずるような状態なのだ、疲弊しているとはいえ、国が抑えられない盗賊や貴族を何とかできるとは思えなかったのだ。
(さっきの男たちの事もあるし、リリーが嘘を言っているとは思わないけど、私達だけでなんとか出来るとも思えないわね)
「ちっ……」
紫苑の言葉になぜか舌打ちをする志穏、しかし現実的にそうなのである。
確かに、志穏は強い。武器を持った男を素手で倒してしまうくらい強いが……一人では限界があるだろう。かく言う私も、魔法が使えるらしいが体が無い今の状況では何のフォローも出来ないのだ。せめて、私にも体が合ったらよかったのだが……ないものをねだっても仕方がない。
「あうう……それじゃあ、天使様はこれから何処に行かれるのですか?」
(とりあえずは人のいるところね……そこで冒険者とか言うのになろうと思っているわ)
「あのメガネの言う通りなのは気に入らねぇが、それしか情報がねーからな」
「!!!!」
冒険者になると言うと再び眼を輝かせるリリー。
紫苑たちが冒険者になると何かあるのだろうか?
「で、でしたら、冒険者になったら私をパーティに入れてもらえませんか!」
「パーティ?」
「はい、冒険者はそれぞれの弱点を補うためにパーティを組むものなんです!」
(まあ、弱点を補えるのならば確かにその方がいいかもね?)
「んで、そう言うってことはお前も冒険者なのか?」
「はい!まだ新米ですが、アイテムの鑑定や索敵には自信があります!」
アイテム鑑定に至っては鑑定のスキルがあるので問題ないが、索敵が出来るのは確かに助かる。
ゴブリンの時みたいに遠目で見ても魔物か人間か分からないこともある。
「どうするよ?」
(街やこの世界の事も知りたいしいいんじゃない?私達だけじゃこのまま飢え死にしかねないわよ?)
「はあ……それもそーか。女子供とつるむのは趣味じゃねぇんだがな」
(中に私がいる時点で言っても仕方ないわねソレ)
「ちっ、しゃーねぇ、おい、犬コロ。そのパーティってのを受けてやる、ただし、天使とか言うのになる気はねぇからな?後、案内やこの世界の事を教えろ。いいな?」
「はい!!」
(アンタねぇ……もうちょっと言葉遣いどうにかならないの?)
「なんねーよ」
苦言を呈す紫苑にぶっきらぼうに超えたえると、紫苑たちはまず、リリーの案内で街に向かって歩き出すのであった。