異世界転生した俺と私 2話
「宝箱に入っていたコレって金なのか?」
(多分そうじゃない?)
ゴブリンを倒した時に現れた宝箱の中には小さな銅貨が三枚と、何に使うのか解らない物が入っていた。
(鑑定でもお金って出てきたんだし)
「今、気づいたんだけどよ?」
(何よ?)
「宝箱を鑑定すれば罠があるかとか分かったんじゃないか?」
(……)
確かに、鑑定がアイテムや武器、魔物などの情報を教えてくれるのならば、罠の付いた宝箱ならそれも表示してくれるかもしれない。……気付かなかった。
(まあ、でも100%そうとは限らないもの、罠付きと表示されればいいけど唯の宝箱と表示されたら罠が付いてるかどうか結局不安になるんじゃないかしら?)
「ああ……それもそうか」
そう、最初に出た宝箱が罠付きであれば、罠も鑑定で確認を取れるという事が解るが、そうでなければ結局罠付きが鑑定に引っ掛かるのかどうかを気にすることになるので意味は無い。
「それより、金は良いとして、これはどうするよ?」
(うげ、持ち上げないでよ気持ちわるい)
これと言うのは、宝箱に入っていたもう一つのアイテム。
鑑定をすると、『ゴブリンの耳』と出てきた。
詳しく書くとこんな感じである。
鑑定結果
ゴブリンの耳:ゴブリンを倒すと手に入るアイテム。冒険者ギルドなどで討伐確認アイテムとして売ることが出来る。
「冒険者ギルドってのはあのメガネが言っていた奴だよな?」
(でしょうね、そこでならお金に換えることが出来るみたいだけど……)
ちなみに、宝箱に入っていたお金を鑑定したときの結果はこんな感じだ。
鑑定結果
小銅貨:世界通貨、その中でも一番価値が低い。
さらに、世界通貨ということばを鑑定してみるとこう表示された。
鑑定結果
世界通貨:価値の低い順番から『小銅貨』『銅貨』『大銅貨』『小銀貨』『銀貨』『大銀貨』
『小金貨』『金貨』『大金貨』の順で価値が高くなる。それぞれ10枚分で上の通貨と
同じ価値となる。
つまり、日本で言えば、小銅貨三枚は三円分ということか。
「せっかく倒しても子供のお小遣いにもならねぇじゃねぇか」
(まったくね、遠足のおやつを買うのにゴブリン100匹倒さないといけないわ)
そう考えると気が遠くなる。
(まあ、この討伐アイテムがどれくらいで売れるのかにもよるけどね)
「こんな耳が高く売れるとは思わねぇぞ?」
(同感)
二人して溜息を吐くものの、これから先、お金は必ず必要になるだろうという事で一応、ゴブリンの耳を持っていくことにした。
(ちょ、ちょっと、直にポケットに入れようとしないでよ!)
「つったって、袋なんざねーぞ?」
(ポケットにハンカチは言ってるからそれで包んでちょうだい)
「めんどくせーな」
そう言いながら、指示に従う志穏。
ポケットからハンカチを取り出すと、それと同時に一枚の紙きれが地面に落ちた。
「なんだこりゃ?」
二つに折られていた紙を手に取り、無造作にそれを開く志穏。
「……嘘だろ?」
(はあ……頭痛くなってきたわ)
その紙は自称神様である眼鏡の男からの手紙であり、中にはこう書かれていた。
『二人で一人!それは不幸?それともラッキー?
まあ、どっちだったとしても二人に戻りたいよねー?
そんな君たちに神様からのアドバイス!この世界のどこかに君たちを元に戻すことのできる秘宝が眠っている筈さ!冒険者になってそれを探して元の姿に戻ろう!
どう?楽しくなってきたでしょ?頑張ってねー♪
君たちの神様より 』
「元に戻る方法は自分たちで探せってか?」
(この世界どれだけ広いのかしら……どうやって探せって言うのよ!)
「あの野郎……絶対に殴ってやる」
(とどめは私に刺させてね♪)
自称神を殴る。そのことに関してだけは息がぴったり合う二人であった。
(とりあえず、誰か人を探す、もしくは街や村を探すっていうのは変わらないわね)
「だな、とりあえず歩くか」
溜息を吐きながら二人は再び、川に沿って歩こうとする。
だがその時、どこからか、悲鳴のような叫び声が微かに聞こえてきたのだ。
(今の聞こえた!?)
言葉を返すより先に志穏は走り出す。
紫苑には今の悲鳴がどこから聞こえて来たのか正確な方向までは解らなかった。だが、志穏にはその正確な方向が解ったようで迷いなく一直線でそちらに走り出す。
距離にして200メートルくらいだろうか全速力で走った先で先程、志穏達がいた場所から少し離れた岩陰になっている場所にその悲鳴を上げた人の姿があった。
そこには恐らく悲鳴を上げた人であろう一人の女の子と二人組の男性の姿があった。
女の子はバッグのようなものを背負っており、白い大きなお饅頭みたいな帽子を被っている、そして、二人の男性に大きな岩の近くに追いつめられているように見えた。
対する男たちは手に剣のようなものを持っており、体にも皮で出来た鎧のようなものを着ている。
傍から見れば小さな女の子が男二人に襲われているように見えた。
(さっきの悲鳴、あの女の子だよね、助けに行くわよ!)
「断る」
紫苑が助けに行こうと言葉にするが、志穏はそれを即座に断った。
(な、見捨てるっていうの!?)
「人助けは趣味じゃねぇ」
(ふざけたこと言わないでよ!アンタ、あの子がどうなってもいいって言うの!?そりゃ、事情も知らないし、武器を持った奴ら相手に危険なのも解るけど……あんな小さな子を放っておけっていうの!!)
事情は分からない、そうは言ったものの、男たちは持っている武器を振り、わざと少女に当たるか当たらないかの所で楽しんでいるように見えた。
男たちの口元は歪み、少女が悲鳴をあげているのを楽しんでいるように見える、たとえどんな理由があろうともあの男たちを許していいとは思えない。紫苑はそう思い、志穏を説得しようとする。
自分で助けたくても、今の紫苑には手を出すことも出来ないのだから。
(お願い、あの子を助けたいの!アイツらを倒せとは言わないから!せめて、あの子の手を取って逃げ‥‥‥‥あら?)
必死にお願いをしようとする紫苑であったが、不意に体に違和感を感じる。
人助けは趣味じゃねぇ、そう言った志穏が自分の体を動かして、男たちの元に駆けだしているではないか。
「人助けは趣味じゃねぇが、お前らはなんか気に入らねぇ」
「な、なんだお前……ぐあっ!!」
志穏の拳が一人の男の顔面にめり込んだ。
「ふぇ?」
(何よ、助ける気あるんじゃない)
「助ける気なんざねぇよ、こいつらが気に入らないからぶん殴っただけだ」
(何よアンタ?ツンデレ?男のツンデレなんて需要ないわよ?)
「誰がツンデレだ!!!」
不意に現れた女性が大の男を殴り飛ばすという光景を見て、大岩の近くに追いつめられていた女の子はその事態を呑み込めず呆然とする。
(まあ、なんでもいいわ、今のうちに逃げるわよ!)
「なんで逃げなきゃいけねぇんだ、こいつ等をボコるに決まってんだろ?」
(ちょっ、アンタ!相手は武器を持ってるのよ!?)
「はっ、上等!」
その言葉に、紫音は体の中で頭を抱える。
(駄目だ……こいつ唯の馬鹿だぁ)
「おらあああああ!!」
猛獣のごとく咆哮をあげ、二人の男に突っ込む志穏、だが男はそんな志穏の攻撃を軽々と躱し蹴り飛ばした。
「おい、女。何のつもりかしらねぇが……俺たちの邪魔をするならそこの半獣と一緒に殺すぞ?」
「いってぇ……」
(半獣?)
男の言葉に紫苑は襲われていた少女を見る。すると少女のお尻には犬の尻尾のようなものが生えていた。
(アクセサリー……じゃないわよね?)
アクセサリーにしてはまるで生き物のようにフリフリと動いている。
あれがアクセサリーだというのならちょっと欲しいと思ってしまう紫苑であった。
(ね、ねぇ…あの子、人間じゃないみたい)
「あん?」
紫苑が後ろで怯えている少女に鑑定を行使するとやはり人間ではないようだった。
鑑定は人間の名前や強さまでは分からないらしい、鑑定した結果にでたのはその種族名だけだった。
鑑定結果
白犬族:穏やかな心を持つ種族、心優しく、頭の回転も速く機転が利く。
(白犬族……って言うらしいけど、尻尾がある以外人間と変わらないわよね?)
「人間と変わらねぇだと?」
(そうとしか見えないんだけど?)
「半獣と人間様を一緒にするんじゃねぇ!そいつらは奴隷として人間に仕えていればいいんだよ!!」
そう言った瞬間、再び志穏の拳が男の顔面へとめり込んだ。
「やっぱり気に入らねぇぜ……てめぇら」
(同感、尻尾が付いているだけで奴隷扱いするなんて、神経疑うわ)
それにしても、紫苑同様、男の言葉にイラついたのか、先ほど蹴り飛ばさられたことに物怖じもせず再び拳を叩き付ける志穏はなんだかんだ優しいのだろう……やはりツンデレか。
先程のもう一人の仲間は志穏の拳でノックダウンさせ、未だに起き上がる気配はない。であるのに今しがた良いのを顔面に受けた男は鼻から血を流しているものの、その鼻を押さえながらも立ち上がった。
「はっ、俺をこいつと一緒にしないことだな?」
「はわわ、逃げてください!その人は貴族さんに雇われた傭兵さんです!」
傭兵と言うと金で雇われた何でも屋である。恐らくそれはこの世界でも変わらないだろう。
そして、貴族……この世界には貴族というものがあるらしい。
いや、元の世界でも日本以外の国では貴族みたいなのがいる国もあるのだろうが、こんな傭兵を雇って少女を奴隷にしようなんて考える貴族だ……碌なものではないだろう。
「ふざけんなっ、誰が逃げるかよ……おい、絶壁女!俺は逃げねぇぞ!」
(だから、絶壁女っていうな!!この悶絶男!……今更、逃げるなんて出来ないでしょ!いいからやっちゃいなさい!負けたら承知しないわよ!)
「誰が負けるかよ」
「はっ、一人でおしゃべりか?おかしくなるにはまだ早えぞ?
」
志穏は再び拳を構え、傭兵と言われた男と対峙する。
よく見ると先ほど顔面を殴った男より、鎧がいい物のように見えた。皮で出来た鎧には変わらないが、上質の皮と言った感じだろうか。それに……
「あの剣、なんか嫌な感じがしやがる」
男の持っている剣は一見普通の剣に見える。だが、志穏は野生の勘とでもいうのか何か、いやな感じを感じ取っていた。
(あの剣?よく解んないけど、鑑定してみるわね)
志穏の言葉に紫苑が鑑定を行使する。すると……。
鑑定結果
鉄の剣(炎の祝福):普通の剣、炎の祝福の効果で炎を刀身に纏うことが出来る。
(炎を刀身に纏うことが出来るらしいわね……燃える剣ってことかしら?)
「燃える剣?なんだそりゃ?」
「ほお、良い眼をしてるじゃねぇか……どういうことか教えてやるぜ!」
男は剣を構えると、その剣から炎が溢れ出る。
その炎はみるみるうちに剣の刀身を覆い、まさしく炎の剣となった。
「はわわ、あれは祝福された剣です!あんな高価な物をもってるなんて!」
「なかなか面白い大道芸じゃねぇか」
「……大道芸かどうか、その身で味わうがいい!」
男はこちらに向かって走り出す。
「下がってろ!」
「わきゃ!?」
志穏は後ろにいた少女を突き飛ばし、少女が巻き込まれないよう自分から遠ざける。
そして、振るわれた炎の剣を躱し、傭兵の男に蹴りを放った。
「女にしては言い蹴りだ……だが!」
「ちっ……俺は男だ!!」
蹴りを片腕で止められ、残った腕で炎の剣を再び志穏に繰り出す男、志穏はその攻撃を後ろに飛びのいて躱すと近くに落ちていた小石を男目掛けて蹴り飛ばした。
「ちっ」
男はその小石を剣で斬るとこちらに向かって間合いを詰めてくる。
志穏は今度は後ろへ下がらず、男の懐へと跳び込んだ。
「なんだと!?」
「おらあああああああ!!」
志穏の拳が男の顎を突き上げる。
「がっ!!」
ここがチャンスと、志穏は男の腹を、腕を顔を次々へと殴り続けた。
「おらおらおらおら!!」
(いいわよ!そのままやっちゃいなさい!)
志穏の攻撃が次々に決まる……だが。
「調子に乗るな!!」
「くっ!」
鍛えられた傭兵の体を持つ男はそれだけでは倒れない。
そして、持っていた炎の剣を志穏目掛けて振った、そして、間合いを近づけていた志穏はその攻撃を避けきれずお腹を斬り裂かれてしまう。
「おねーさん!!」
後ろに離れていた白犬族の少女が心配そうな声を上げた。
志穏のお腹から赤い血が数滴零れる。
「ちっ……」
(大丈夫!?)
「すまねぇ、お前の身体傷つけちまった……」
(そんなこと気にしてないわよ!)
お腹を押さえながら蹲る志穏、しかし、敵はそんなことお構いなしである。
志穏に傷を負わせたことを知ると、男はいやらしく口の端を上げ笑う。
「ははは、馬鹿な女だ。こんな半獣、見捨てていれば殺されずに済んだものを……」
そう言うと、男はその場で剣を振りかぶり、思いっきり空を斬り裂いた。
「な、なんだ?」
男の剣から、小さな火の玉のようなものが志穏目掛けて飛来する。
「嘘だろ……ぐあああああ!」
火の玉を避けきれず、紫苑は肩を焼かれた。
男はその光景を見て、さらに口の端を上げると、再び剣を振るう。
一回、二回、三回……剣が振るわれるたびに紫苑の悲鳴が木霊した。
「や、やめてください!!」
幾度目かの火の玉が志穏を焼くと、後ろで見ていた少女が恐怖からか震えた声を絞り出し、制止の声を上げた。
「もう、やめてください!私、奴隷になりますから……これ以上、お姉さんを傷つけないで!」
「何言ってやがる……」
(そうよ、奴隷になるなんて駄目よ!!)
震える少女は、紫苑たちの言葉に小さな頭を思いっきり振る、目に涙を溜めながら、笑顔で大丈夫ですと言った。その言葉は誰が聞こうが嘘であることが解るほど震えていた。
(駄目よ!私はそんなの許さない!)
「いいんです、優しいお姉さん……ありがとうございます」
「はっ、お涙頂戴の所悪いが、その女を見逃す気なんてねぇぜ……その女も痛めつけた後、クレイドル様の奴隷にするに決まっているだろう!」
「そんな……」
男の言葉に少女は絶望へと顔を変える、自分が奴隷になるだけではなく見ず知らずの女性まで巻き込んでしまったことをに少女は唯々……後悔をした。自分が悲鳴を上げなければきっとこの女性はここに現れなかっただろう、自分の行動のせいで一人の女性の将来まで潰してしまった事へ対する後悔に、少女は涙を流すのだった。
「ざけんな……」
(そうよ、絶対に奴隷なんかになってやるもんですか!)
「ちげぇ!おい、犬の小娘!」
「ふぇ!?」
「俺はテメェの為に戦ってるんじゃねぇ!俺はこいつが気に入らねぇから殴るんだ!」
(アンタ……)
この期に及んでまだそんなことを言うのかと紫苑は呆れる。
「だから、テメェのせいで俺が傷ついてるみたいなツラをすんじゃねぇ!これは俺がやりたくてやってるケンカだ!テメェに責任なんてねぇんだよ!」
(……へぇ……そうね、確かにその通りよ!いい事言うじゃない悶絶男!)
「誰が悶絶男だ!!」
そう言いながら炎に焼かれ膝を付いていた志穏は立ち上がる。
その光景に、白犬族の少女は目を奪われていた。なぜ、この人はそうまでして立ち上がるのだろう。なぜ、見ず知らずの私を置いて逃げないのだろう。少女の中に疑問は尽きない……だが、少女はその女性を見ているととても暖かい気持ちになるのだった。
「さあ、仕切り直しと行こうじゃねぇか」
「馬鹿が、仕切り直すも何もない、このまま焼いて終わりだ」
「はんっ、そうはいかねぇよ……唯でさえ無い、絶壁女の胸がテメェに焼かれたせいでさらに抉れたじゃねぇか……その仕返しはさせてもらうぜ?」
(嘘でしょ!?嘘だと言って!?いやああああああ!)
嘘に決まっている、そう心の中で志穏は思うのだが、自分が思っている以上に胸を気にしているのか初めて自分の中にる紫苑という女性が絶叫を上げていることに、志穏は若干の罪悪感を覚えた。
(ぶっ飛ばして!そいつぶっ飛ばして!!二度と表を歩けないくらいケチョンケチョンにして!!)
「お、おお……」
あまりの本気具合に若干引きつつも、志穏は男目掛けて駆けだす。
だが、男はまたも炎の剣を振るい、火の玉を飛ばしてきた。
「しゃらくせぇ!!」
志穏は拳を突き出すと、その火の玉を殴り、消し飛ばす。
拳に熱さと痛みを感じるも、気にせずさらに突き進む、再び飛んで来た火の玉も拳で消し飛ばし、男との距離を縮め、懐に入った。
「ははは、懲りない奴だ、貴様の拳では俺を倒すことは……ぐほっ!!」
志穏の拳が男の上質の皮の鎧を突き破り、鳩尾へと突き刺さった。
「ば、馬鹿な……」
「まだまだ行くぜ!!」
オラオラオラと次々に拳を突き刺す志穏。
志穏が拳を振るうたびに鎧は砕け、男の体に突き刺さる。
「これで止めだぁあああ!!」
万力を込めた志穏の拳が男の顔面へとめり込み、男の意識を奪い取った。
「おっしゃあああ!!」
(すごい……でもなんで、いきなりこんな力が――――――あ)
紫苑は思い出す、そう志穏のアビリティ、ケンカ好きである。
戦いが長引けば長引くほど、志穏の攻撃力は増すのだ。つまり、志穏は一瞬で倒されない限り、時間が経つにつれてどんどんと強くなっていくという事である。
(ホント、デタラメね)
呆れつつも、頼もしく思う、紫苑の声はどこか笑っているような声であった。
貴族の傭兵から白犬族の少女を助けた志穏達。
果たして、人里にたどり着けるのか?