序章① 少女の場合
新作となります。
楽しんでいただけたら幸いです。
「いいから早く出せよ!」
ここは海星学院、その校舎裏である人気の無いこの場所にガラの悪そうな男の声が響いた。
三人の男子生徒たちが声を荒げながら一人の大人しそうな眼鏡を掛けた男子生徒を囲んでいる。
「で、でも、前にあげたのが最後のお小遣いで・・・」
小刻みに体を震わせ言葉をどもらせながらも今にも消えてしまいそうな小さな声で男子生徒は言う。
それが、癪にさわるとでも言うかのようにガラの悪い男達のリーダー格の男が校舎の壁を蹴る。
「だったら、親の金でも盗んでこいや」
「ひぃ」
男が威圧的に男子生徒を睨むと男子生徒は恐怖から腰を抜かしてしまう。
「返事をしろや!!」
「は、はいぃ」
再び壁を蹴る男の恐怖に負け、男子生徒は返事をしてしまう。
「やめなさい!」
男が男子生徒の胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせたその時、凛とした女性の声が響いた。
「んだと?」
「やめなさいと言ったのよ、男が三人がかりで一人を脅すなんて――――――恥を知りなさい!」
男たちが振り返るとそこには黒く綺麗な長髪を風に靡かせ、三人のガラの悪い男達相手に怯えもせず堂々とした立ち振舞いで男達を睨みつけている、制服姿の女生徒がいた。
「はっ、誰かと思えば生徒会長さんかよ」
「お前には関係ねーだろ!」
「でしゃばんじゃねーよ!」
男たちが口々に女生徒に文句を言う。
彼女の名前は皇紫苑
この海星学院の生徒会長にして、才色兼備と歌われる生徒の憧れの的である。
「そうは行かないわよ、他人からお金を奪うような行為を見逃す真似は出来ないわ!」
「ちっ、うぜーな・・・おい、行くぞ!」
いかにも面倒くさそうにリーダー格の男が顔をしかめると男子生徒から手を離す。
「いいのかよ?」
「ああ、今は場所が悪い」
リーダー格以外の二人が回りを見てみるといつの間にか何人かの生徒が騒ぎを聞き付け集まってきていた。
「行くぞ」
「「あ、ああ」」
男たちが去ると回りに集まり始めた生徒たちから歓声が上がる。
「さすが、生徒会長だぜ!」
「紫園さま、かっこいいー!!」
男子生徒からも女生徒からも人気のある紫園はゆっくりとカツアゲをされていた男子生徒に近づいた。
「大丈夫?怪我はないかしら?」
「は、はい、ありがとうございます」
男子生徒の手を取り立ち上がらせてあげると紫苑は笑顔でうなずいた。その笑顔に男子生徒だけならず女生徒までか胸をときめかせるのだった。
生徒たちが騒いでいるとお昼の休み時間の終了5分前を告げる金の音がなる。
「予鈴がなったわね、授業に遅れないよう戻りましょう」
紫苑がそう言うと生徒たちは冷めやらない興奮のまま、教室へと向かうのだった。その日の紫苑の活躍は瞬く間に広がるのだ、海星学院の完璧なる生徒会長の噂の1ページとして。
放課後、紫苑は幼馴染みでもあり、親友の河合愛と共にいつも通る帰り道を歩いていた。
「聞いたよ、紫苑。また、不良にケンカを売ったんだって?」
「喧嘩なんて売ってないわよ、悪いことは悪いと言っただけ」
愛はそんな紫苑の言葉に大きなため息を吐く。
「そんなこと言って、紫苑は女の子なんだからね、男相手に喧嘩なんてしちゃダメだよ!」
「嫌よ、私は絶対に自分の信念を曲げないわ。間違っていることには間違っていると言い続けるの」
再び、大きなため息を吐く愛。
「私はそんな紫苑が好きだけど、やっぱり心配だよ――――紫苑は女の子なんだから」
「歯痒いわね、間違っている事を間違っていると言いたいだけなのにそれを口にしただけじゃ何も変わらない。相手にそれをわからせるには力も必要なのに・・・女の私には男を圧倒できるだけの力がないわ」
「あったらビックリだよ。ゴリラ女だよ」
「いいわね、ゴリラ女!もっと筋トレしようかしら」
「だーめ!紫苑は今くらいが一番綺麗なんだから!」
慌てて紫苑を止める愛。
愛にとって紫苑は自慢の親友である。
その気高い心もちょっとズレているところも大好きなのだが彼女の凛とした、世の女性が羨むであろう最高のプロモーション(一部を除く)も大好きなのだ。
ゴリラみたいになんてしてはいけない、それはこの世の全てに対する冒涜なのである!―――――――――――愛は心の中でそう叫んでいた。
そう思っている愛もまた、海星学院では紫苑と並ぶ人気の持ち主である。茶髪の頭の横で結んだサイドテールとそれを結んでいるブルーのリボンがチャームポイントで紫苑が美人とすると愛は可愛らしいと言った感じである。
「ゴリラは駄目だよ」
「わかったわよ」
くりっとした愛らしい眼差しでお願いされると紫園も弱い。渋々と言った感じで頷いた。
冬の季節である今は、生徒会の用事を終えてから帰ると辺りは暗くなってしまう。
「愛、寒いのにこんな時間まで待ってなくてもいいのよ?貴方は部活もしていないのでしょう?」
「私が紫苑と帰りたいんたもん!それとも迷惑?」
「そんなことないわ」
「えへへー、良かった」
少し照れながら言う紫苑に愛は満面の笑顔で返す。その笑顔でさらに照れたのか顔を一段と赤くした紫苑は歩くスピードを上げ路地にはいった。
路地を少し進んでいくと二人の男がいかにも不良ですという座りかたをしてバットを肩にかつぎながら座っていた。
「貴方達・・・」
「何あいつら・・・」
愛は座っている二人に見覚えが無かったが紫苑にはある。お昼に男子生徒からカツアゲをしようてしていた三人組のうちの二人である。
「別の道を行こう紫苑」
「そうはいかねえよ」
愛が振り返るとそこには残りの一人、リーダー格の男がバットを肩で弾ませながら嫌らしい笑みを浮かべていた。
「今度は武器を持って女二人を闇討ち?本当に情けないわね」
「うるせえ!なめやがって・・・口だけの女が本当の恐怖ってのを教えてやるよ!」
バットを地面に叩きつけながら吠える男、普通の女性―――――――いや、男であったとしても鈍器を持った男三人に囲まれていれば恐怖するものであるが紫苑は怯みもせず目の前の男を睨み付けていた。それがさらに男の癪に触ったのか男は顔を歪める。
「お友達と一緒に二度と外を歩けないくらい可愛がってやるよ」「あんたも災難だなぁ、学院のアイドル河合愛ちゃんよぉ」
「ぎゃはは、持つ友達を間違えちまったなぁ!」
男たちが下卑た笑いをする。
「本当にごめんなさい、巻き込んでしまって」
「紫苑が悪いわけじゃないよ、気にしてない」
この状況に物怖じしていないのは紫苑だけではなかった。愛もまた普段通りの明るい笑顔をしていた。いや、その目の奥には自分の親友をバカにされたことに対する怒りが見えた。
「気にしてないだぁ?だったら、一生気になるくらいひでぇ目に会わせてやるよ!」
粋がり持っていたバットを振る二人に愛は後退りをする。だが、後ろにはリーダー格の男がこちらもまた嫌らしい笑みを浮かべて立っている。―――――逃げ場はない。
「今更、怖気づいてもおせえんだよ!」
声を荒げた男が持っていたバットを愛めがけて降り下ろす。
「きゃ!」
「愛!」
紫苑は愛を突き飛ばし、バットから逃れさせる、愛はその場に尻餅をついてしまう。
「ぎゃははは!惜しい!」
「アンタたち・・・」
「おうおう、生徒会長さんは怖いねぇ・・・未だにそんな風に睨めるなんて・・・それとも状況が理解できてないのかな?」
嫌らしい笑いを続けながら近づいてくるリーダー格の男に気丈にふるまっていた紫苑を恐怖を覚え始めていた・
(なんとか、愛だけでも逃がさないと)
私がそう考えていると、愛がいきなり立ち上がり、後ろの二人に向かって何かを浴びせる。
「ぐあああ、目が!!」
「な、なんだこりゃ!?」
どうやら、カバンから防犯用のスプレーを出して、彼らの目に浴びせたようだった。
「紫苑、こっち!」
目をやられて、私たちが見えていない二人の不良の脇を抜けて私と愛は走り出す。
「待ちやがれ!!!」
リーダー格の男が私たちを追う、その後ろには少しずつ視界が戻ってきているのか、目を抑えながらも追いかけてくる二人の不良の姿もあった。
「紫苑、もう少しで路地を抜けるよ!」
「ええ!」
とにかく全速力で走り抜ける私達、大通りに出れば人もいるし、お店なんかもある、どこかに逃げ込んでしまえば何とかなるだろう。そして、その後、警察を呼んでもらって・・・。
「路地を抜けるよ!」
路地を抜けた後の事を考えながら走っていると、愛が、大通りに飛び出す。――――――――その時である。
まるで爆発でも起きたのでは無いかというくらいの大きな音が鳴り響く。その音の方を見るとトラックが横転し愛めがけて転がって来ているではないか。
愛はこちらを振り返っており後ろの異常事態に気づいていない。私は咄嗟に動きだし愛のところへと急ぐ。愛も私の様子に後ろを振り返り事態を把握すると――――――――――。
「紫苑、来ちゃダメ!」
などとふざけたことを言う。
目の前で親友に不幸が訪れようとしているのに黙って見ていれるわけがない。私は必死に走り、愛の元へと急ぐ――――――そして、トラックが愛を押しつぶす前に私は愛を思いっきり突き飛ばした。
愛は、押された勢いで離れたところまで転がった、我ながらすごい火事場の馬鹿力である、あんなところまで突き飛ばすなんて……愛、怪我してないかしら?
「紫苑!!」
愛は起き上がると、こちらを向いて私の名前を叫んだ――――――よかった、無事で。
そう思った瞬間、私の意識は闇の中へと落ちていった。
こちらは魔女とは違い、ゆっくりの更新になると思います。
HJに参加させていただきますので10万字は超えさせるとは思いますが。
のんびりと、二人の冒険を楽しんでいただけたら幸いです。