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未来視の魔女  作者: 譜楽士
臆病な魔女は空を駆ける
32/37

無関係な一般人

※主な登場人物

・高久広美…三年生。バスクラリネット担当。

・今泉智恵…三年生。ユーフォニアム担当。

 ずる賢くて卑怯者の、蛇のような魔女。

 そんなあたしを、それでも分け隔てなく思ってくれる存在は、それなりに部内にはいた。


(みなと)くんたち、どんな演奏をするんだろうねえ」


 あの馬鹿弟子と違った意味で同じパートのユーフォニアム吹き、今泉智恵(いまいずみともえ)もまた、恐れずあたしに話しかけてくる存在だった。

 相変わらずうっかりでぽっちゃりだけど、その毒にも薬にもならない言動はなぜか心地いい。なので彼女の言葉にあたしは「どうなんだろうねえ」と適当に返事をする。


 折しも選抜バンド。学校ごとに数名が選ばれ、そして一日限りの合同バンドを結成する。


 そんな催しにあの馬鹿弟子は選ばれ、今日これから演奏をするはずだった。まあそうするにあたって、同い年のホルン吹きの子とは何かひと悶着あったっぽいけど――まああの子なら、きっとどうにかするだろう。そんなヤワな育て方を、あたしはしていない。


 (さく)ちゃんもついているし、大抵のことは大丈夫だ。こちらもある意味では、あたしと同質の存在――浮世離れした精霊みたいな子だから、サポートに関しては心配していない。


 なんだい、あたしと咲ちゃんを一緒にするなって?

 馬鹿言うなよ。あたしが黒魔女なら、あの子は白魔女だよ。薬草学の知識と『ヒトでないもの』との交信だったら、あたしと張り合うレベルで抜きんでた子さ。


 違いといえば、その交信してる存在の違いかねえ。あたしが暗闇とつながってるっていうんだったら、彼女はもっと清いものを見ている。

 きっとそうでないものも見えていると思うけど、根本的な加護は善なるものから受けているんだと思うよ。だからあたしみたいにはならないし、その辺は心配しないでおくれ。


 と――まあ、そんな人外を扱った思考が馬鹿らしく感じるくらい、智恵の返事は痛快なものだった。


「まあ、わりとどうでもいいかも。ていうか別にさ、部員全員で聞きに行かなくてもよくない? (ゆう)はこういうものは全員で行くもんだって言ってるけど、私としては自由にさせてほしいなー」

「言うねえ、さすがはソロ楽器、ユーフォニアム」


 中音楽器とは言われているものの、智恵の吹くユーフォニアムはソロやメロディーが多く、考え方はどちらかというと個人主義に傾く。

 経験則だけど、マイペースで合理的な考え方をする人間が多い。そして智恵もそんな人間で――なにかと干渉してくる部長のことを、のらくらとかわしながら適当にやっていた。


 そしてあたしは、そんな存在を取り込みながら前に進んでいる。同い年の狩人と打ち合わせした通り、根回し、行動、フィードバック。そんなひどく疲れる行為を地道に繰り返しながら、あたしは優に近づいていく。


 あいつを殺すために。


 まあ、物騒な言い方だからもう少し和らげれば、介錯(かいしゃく)っていうのかな。死にきれない存在をひとおもいに楽にしてやろうっていう、そういう行為さ。

 たとえそれが、捨てきれない恋心であったとしてもね――幽霊じゃあるまいし、そんなものに妄執を持って周りを(たた)るなよ。除霊は専門外なんだけどなあ。


 んでもって、そんなもんに一切関係なく、自らの道を行く智恵はわりかしどうでもいいからこそ、気を楽にして話し合える。


「そうです、ユーフォは素晴らしい楽器なのです。例えるなら熱々のデニッシュの上に、ソフトクリームを乗せてシロップをかけたお菓子くらい、素晴らしいのです」

「それを食うならブラックコーヒーを一緒に頼むなあ、あたし」


 どのくらい素晴らしいのかはよく分からないけれど、ユーフォがいい楽器で智恵がうっとりとした表情をしていることからして、それは世界的に素晴らしいのだろう。

 そこにその甘みを引き立てる、苦めのコーヒーをつければそれは、宇宙的に素晴らしい一品になるはずだ。そんなどうでもいいことを考えるくらいに、彼女との会話は本当に初対面の時と同じく、どうでもいいものだった。


 だからあたしは、そんな智恵をあえて取り込まず、そのまま放置する。

 そんな存在がいてもいい。自分が何者だろうが関係ない。そんな風に接してくれる人間がいるだけで、どれほど救われることか。


 部活なんかわりとどうでもいいことだし、そんなに重く考える必要はない。


 自分の音に責任を持て、ステージに立つ以上は具合が悪くても笑顔でいろ、結果が全て、金賞以外いらない――そんなことを言われ続けてきたあたしにとって、それは背負った重みを下ろせるような、そんな言葉だったよ。


 網戸(あじと)先輩とはまた違った意味で、智恵には感謝している。

 そして未来予測ではなく――そんな彼女と一緒に、甘いものでもつつきに行ければなと、柄にもない願いを抱くのだった。


 そしてその願いは、嵐が過ぎ去った後、あたしたちの全てが終わったときに――叶えられることになる。

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