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未来視の魔女  作者: 譜楽士
黒い貴女が魔女になるまで
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16/37

事象はつながり、世界は回る

※主な登場人物

・高久広美…一年生。バスクラリネット担当。

・網戸美咲…三年生。コントラバス担当。

・滝田聡司…打楽器パートの二年生。

・貝島優…打楽器パート、一年生。

・神鳥谷江美…打楽器パート、三年生。

「……あたしは、どうしたらよかったんでしょうか」


 関堀(せきぼり)まやかの一件を経て。

 その背中を見送ることしかできなかったあたしは、網戸(あじと)先輩にそんなことを問いかけていた。


 まやか自身も、どうすればいいと言っていたけれど、それはあたしだって同じだ。

 どうすればいいのかなんて、分からない。あたしの未来予測は他人限定だ。自分自身のことになると途端にレンズの焦点は曖昧になる。


 先が読めないというのは、あたしみたいな臆病者にとっては結構な精神的負担だ。

 周りの言動から推し量る未来によって、あたしは立ち回りを変えていく。こう来るなら、こう、そう言うなら、こう――と。

 何手か先を読むことによって、あたしは自身の安全を確保してきた。

 だから、その読みが外れたこと――まやかに見えていた『よくない未来』が予想より早くやってきたことに、対応できなかったんだ。


 どこかの誰かの行動によって、誰かの未来が変わっていく。

 ひとつひとつの現象ではなく、もっと複雑に演算をしなければ、この先とてもやっていけない。

 そんなことを考えるあたしに――網戸先輩は気軽な口調で言ってくる。


「どうしたもこうしたもない。ヒロミンは、やりたいようにやりたまえよ」

「……それは」


 それは、これ以上ないほどシンプルで。

 かつ、だからこそ真理をついた――ただ一つの答えでもあった。


 けれど、それはある意味、答えなき答えでもある。

 自分がやりたいことなんて、そう簡単にできるわけでもないだろうに――そう思うあたしに、先輩は音楽室の隅に、顔を向けて言ってきた。


「滝田(たきた)が、やりたいようにやり始めたな。あれも神鳥谷(ひととのや)の差し金だが――あいつを取り巻く環境も、なかなかどうして、愉快なものだ。

 あんな風にとは言わんが、まあきみはきみで、望むことをやればいいのだよ」


 その言葉に釣られて、あたしも網戸先輩と同じ方向を見れば。

 そこには打楽器のひとつ先輩、滝田聡司(たきたさとし)が、あたしと同い年の貝島優(かいじまゆう)に散々言われながらも基礎打ちをしている、という光景があった。

 そしてその横を、網戸先輩と同い年の、神鳥谷(ひととのや)先輩が笑いながら通り過ぎていく。


「……」


 望むこと、は分からないけれど。

 少なくともあれは、とても幸せな世界に見える。


 滝田先輩は渋い顔をしながらも、目は至って真剣そのものだし、そんな先輩に文句をつけながら同じく基礎打ちをする優も、なんだかんだで楽しそうだ。

 その光景を、少し遠くから見守っている神鳥谷先輩も、実に微笑ましげな顔をしていて――そんな世界を、あたしはさらにその外側から見つめていた。


 すると、隣で網戸先輩が言う。


「なあ高久。もしきみが、誰かの力になれなかったことを悔やんでいるのなら、せめてきみ自身がしたいように生きたまえ。いなくなった人間の分も、迷子になった人間の分も――やりたいように、やればいいんだ」

「……お師匠」


 同じものを見ている師匠に、あたしはそう呼びかけた。

 先輩は、それを聞いてやっぱり微妙な顔をしたけれど――いつものように、否定をすることはない。

 けれど、今日ばかりは少し事情が違う。

 学校祭が近いということは、網戸先輩も神鳥谷先輩も、引退が近いということで――

 それはつまり、このお師匠とも、別れの日が近いということでもあるのだ。


「事象はつながり、世界は回る。誰かの行動によって、誰かの未来が変わっていく――それは音楽そのものだ。とても、美しい」


 そんな状況ということもあってか、網戸先輩は普段は口にしないことを付け加えてきた。


「全ての事象はつながっているんだよ。だから――きみも生きていけばいいんだ。この美しき世界で」


『音楽なき人生は誤謬(ごびゅう)である』――人と人とのつながりそのものに、生きる意味を見出したこの人は。

 悲しかったことも、楽しかったことも。

 全部を受け入れて――それでもこの世界が大好きでたまらないといった風に、笑ってあたしにそう言った。

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