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”氷の女王”

 僕と新一がたわいもない話をしていると教室の扉が開き一人の女子生徒が入ってきた。


 「おっ、“女王様”のご登校だぜ」


 教室を横切り彼女の席へと向かっていく。そのとき彼女は静かにこちらをちらっとみた。-いや、一瞥した、といった方がよいのだろうか。その時に彼女の目線が僕の目線と交差した。やる気のないような目つきだが、元は目尻がややつりあがった目をしているためか氷に触れたような感覚があった。


 彼女は坂本氷華。

 髪型はショートボブ。印象としては冷たく話しかけるなオーラがビンビンに出ていた。その冷たいオーラと話しかけにくいイメージから“氷の女王”と呼ばれている。

 坂本さんは席に着きカバンから教科書を机の中に入れ始めた。新一は僕にひとつ目配せをすると彼女の席へと向かっていった。


 「よう!いや~。今日もクールだね~うちの女王様は」


 新一が坂本さんに話かける。坂本さんは新一を一瞥すると教科書を机の中にいれる作業を再開した。


 「今日もきれいに決まってるよ」


 「そう」


 「そういえば今日テストあるんだって」


 「知ってる」


 「一緒に教科書を見せ合わない?分からないところとか教えあってさ」


 「・・・別に大丈夫」


 あいつ、坂本さんにみごとばっさり切って返されているな。

 まあ、これがいつもの彼女である。必要最低限のことしかしゃべらないから会話が弾まない。それに加えどこか不機嫌そうな雰囲気をだしている。クラス一話上手の新一ですらさすがにこっちを見てお手上げのポーズをしている。


 ・・・しょうがない。僕は坂本さんの席へ向かい、会話に加わる。

 

 「おはよう、坂本さん」


 「--おはよう」


 僕が話しかけると坂本さんは少し上機嫌になった。まあ、雰囲気は相変わらずだけど。


 「今日もいい天気だね」


 「そうね」


 「今日数学でテストあるって聞いたけど大丈夫?」


 「別に。大丈夫だけど」


 みごとにばっさり切って返された。

 こんな感じで彼女はそっけない返事をしてくるのだ。

 さて・・・


 「そういえば、ひとつ聞きたいんだけどさ」


 「?」


 そういって僕は小声でひそひそと話した。

 

 「実は今日、僕の友達が告白されちゃってさ」


 「・・・」


 「でも、手紙で告白されたんだけど宛名が書いてなくってさ。それでひそかに手紙の相手を探すよう頼まれちゃってさ。」


 「・・・それで」


 「心当たりないかな・・・って」


 彼女はふるふると横に振った。彼女は手紙に関して何も知らないみたいだ。

 ただ、少し顔を赤らめていたようにみえた。きのせいかな?


 「おーい。なんだよ、二人でこそこそ話しちゃって」


 隣では新一が聞きたそうな顔をしていた。


 「・・・別になんでもないよ」


 「ほんとか~。ねえねえ、氷華ちゃん、何話してたの?」


 今度は坂本さんに話を振ってきた。


 「別に。後その呼び名はやめて」


 ぴしゃ、とまたも切り返されてる。


 「ところでテストがあるって話をしてたけど」


 「あ、ああ」


 「実は分からないところがあってさ」


 新一も僕もたどたどしく答える。


 「もしよかったら教えてくれないかな~って」


 僕は手を合わせ坂本さんにお願いをした。

 彼女はその様子をじっと見た後、ため息をついて教科書を取り出してきた。


 「・・・まあ、分からないところがあれば教えてあげなくもない」


 「ほんとに!?」


 坂本さんはこくりとうなずく。そして教科書を取り出し分からないところを聞くようにみつめてきた。


 「ありがとう。それでさ、この微分積分なんだけど・・・」


 「それは・・・」

 

 僕は坂本さんに教えてもらう。このように僕と坂本さんとの会話はなぜかスムーズにいく。僕も話すことが得意じゃないから、似た者どうし気が合うんだろうね。

 坂本さんも話をすることが嫌いなわけじゃないみたいだ。坂本さんの様子からどこかさみしさを感じる。-少なくとも僕はそう感じている。・・・きっと。


 「じゃあこれはどう解くんだい?」


 新一もさりげなく参加してくる。


 「これはこっちをこうして・・・」


 -こうしてお互いに質問し合いながら分からないところを教え合い三人で勉強会を開始した。


* * * * * *


 朝礼が始まる予鈴がなったので僕たちは勉強会をお開きにした。自分の席に戻ろうとした時、ふと新一がにやにやしていることが気になった。


 「・・・どうした」


 僕は小声で新一に尋ねる。


 「思ったんだけどさ・・・坂本さん、お前にゾッコンなんじゃね?」


 「ばっ!!・・・いきなり何をいうんだよ」

 

 「でもさっき勉強会してた時に仲良さそうだったじゃないか。それに他の人とはあまり話そうとしないのに、小鳥遊とはよく話すじゃん」


 「・・・別に話しやすいからだと思うよ。それより、こういうことを言うのは気をつけろよ。“あいつら”の耳に入ったら僕が犠牲になるんだからな」


 「“あいつら”って・・・もしかして(アンチ)リア狂のことか?」


 「そうだよ」


 そう答えつつ新一の方に振り向く。あいつは笑顔を向けていたが・・・なぜだろう、顔が一瞬こわばった気がする。・・・まああいつにとっては脅威だろうな。

 (アンチ)リア充協定・・・通称(アンチ)リア狂。学生の間でささやかれている都市伝説のような噂のひとつ。その名の通りリア充を秘密裏に狩る秘密組織があるという。もし女子との交際が発覚したり、そのような関係が疑れたりしようものなら間違いなく奴らの制裁が来るそうだ。


 「・・・存在自体は噂のはずだろ。」


 「まあそうだけど。」


 新一は僕の両肩をつかみまっすぐ僕を見てくる。誤解を招くようなことを吹聴されても困るから冗談でいったのに、なんで真に受けるんだよ。


 「坂本さんとの噂が広まったら坂本さんだって困るだろ。さっきのは冗談だよ」


 「そ、そうだよな。さっきのは冗談だよな」


 新一は視線をそらし何かぶつぶつ呟いている。いったいどうしたというんだ


 「そういえばお前、放課後はどうするの」


 唐突に新一がそう尋ねてきた。


 「放課後?普通に家に帰って勉強するつもりだけど」


 僕は部活動には所属していない。時間を縛られることが好きじゃないということもあるけど、やりたい部がないので帰宅部ということで授業が終わったら帰るようにしている。

新一は初め警戒したような顔をしていたが表情をゆるめ


 「そうか、ならいいんだ」

 

 といって彼の席に戻っていった。

 ・・・さっきのは一体何だったんだろう?

 とりあえず自分の席へと戻っていった。





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