ある朝のこと
-今からちょうど10時間前
それは僕、小鳥遊優斗のいつもと変わらない普通の朝だった。いつも通り朝ご飯を食べ、普通に登校し眠い目をこすりながらげた箱の戸を開けた。
そう、今日もいつもと変わらない一日だった。
「あなたのことが好き。昼に屋上にきて」
--ただ一つ、げた箱に透き通るような水色の便せんが入っていることを除いては。
細く繊細な文字で書かれた手紙を見て正直どのように反応すればよいのかわからず、僕は自分の靴箱の前で固まっていた。それはそうだろう。なにせ一回も告白されたことがないのだから。
少し暗めのげた箱に日の光が照らしている。周りの生徒が靴を履き替え日の光を眩しさに目を細めながら教室へ向かっている。そのさなかに僕はただ一人凍ったかのようにフリーズして突っ立ていた。
普通の男子よりやや短髪、身長や体格も至って平均値、瞳の色がやや茶色がかっているものの、ほとんど黒であるといってもいいだろう。ブサイクとは言わないまでも、地味で普通の人間であるというのが自分に対する印象だ。ようするに絶賛モブ人間であるというわけだ。
そんなわけで僕は今まで女子に告白をされたことがない。カップルがイチャイチャしているのをみてうらやましいと思ったのは事実だが、別に困るようなことはなかった。そんなわけでモブまっしぐらを行くような男子高校生である僕には今まで恋愛など自分には縁がないものだとばかり思っていたのだ。そんな僕に春がにわかに舞い降りたのだ。
何とか頭を回転させ再起動することに成功する。他の奴らに見られないように回収してこっそり読むとしようか。特に“あいつら”に見つかったら厄介
「おっはよー!!って、どったの?」
うおおおおおおおいいいいいいい!!!!!!!
後ろから声をかけられとっさに手紙をポケットに隠し振り返る。
そこには女の子が尻もちをついていた。ウェーブのかかったショートヘアが特徴的で、後ろで纏めたお団子がいいアクセントをだしている。小柄ながらも全体的にすらっとした体形でかわいらしさが出ている。
彼女はくりくりとしたまん丸な目をさらに丸くして驚いていた。
「いっいや~フリーズしてたからどうしたのかな~っておもっちゃって~。」
「・・・って蕾か。びっくりさせないでくれよ。」
「びっくりしたのはこっちのほうだよ!いきなり大きな声を出して。」
困惑したような顔でこちらを見つめる。まあ、いきなり大声を出されたら誰でも驚くよね。
彼女は田村蕾。僕の小さいころからの知り合いで昔はよく一緒に遊んだものだ。最近は一緒に遊ばなくなったが、幼なじみとして付き合いは続いている。活発で元気な性格で男女分け隔てなく接するため生徒に人気がある。ただ天真爛漫なところがあり抜けていることがあったりするのだが・・・。
蕾はしどろもどろに立ち上がりスカートをぱんぱん、とはじく。ウェーブのかかった茶髪を指先で撫で、それから手探りで後ろのお団子ヘアが崩れていないか確認していた。
「急に大声だしてどうしたの?それにさっき何か真剣な顔をしていたしさ~。あっ、もしかしてラブレターでも貰っちゃたり?」
「してない、してない!た、ただ単に考え事をだね・・・」
「でもでも~。なんかラブレターをもらった感じだったよ~」
まずい、なんとかごまかさねば。まったく、どうしてこういうときに勘が鋭くなるかな!
僕は頭を回して必死に考える。
「あー!そういえば今日って数学でテストがあるんだったー!」
とっさに数学でテストすることを思い出す。蕾のことだ、どうせすっかり忘れているだろう。
「あーっそうだった!やばいすっかり忘れてたー!」
案の定だったな。まったく、そんな大事なこと忘れるなよ、と心でツッコミながらも取りあえずごまかせたことに安堵する。蕾が案外鈍くて助かった。
「・・・なんか今馬鹿にされたような気がするんだけど」
気のせいだヨ。
* * * * * * * * * *
先に行くね!と蕾が教室へ走っていき、僕は後を追って教室へと向かうことにした。
教室に入ると15,6人ぐらいのクラスメイトがすでに登校していた。気持ち早めに来たためか閑散としていたそれでも仲の良い者同士のグループが目立つ。特に身長の高い男子を囲んだグループが一番にぎわっていた。
蕾は教室に入ってからすでに仲の良い女子と話をしていた。教科書を見せてもらうよう頼んでいるのか友人に手を合わせていた。
やれやれ・・・。半ば蕾にあきれながらもにぎやかなグループのそばをすり抜け自分の席に着く。
さてと・・・
着席してすぐ周りを確認し例の手紙を取り出した。
四つ折りにされていた便箋をひらくと氷河のような淡い水色が目に入る。自分が好きだと一言書かれているだけで差出人の名前は書いていない。封筒にも入れられていないその手紙は感情を隠すかのようにどこか冷たい感じがしていた。
僕はこの謎の手紙?をみて考えてみる。この手紙の送り主はいったい誰なんだろう。
普通に考えるならば僕と親しい女子だろう。
蕾の方を見てみる。彼女は友達に数学を教えてもらっているようだった。
この学校で親しい女子は悲しいかな彼女ぐらいなものだ。となるとこの手紙は蕾からだろうか。でもさっきの会話の様子からどうやら蕾は手紙のことを知らなかったみたいだ。それにこんな手紙を書かないだろうし、彼女の性格から考えてそもそも手紙を書かずに直接告白するだろう。
となると他の親しい女子からの手紙となる。話しかけてそれなりに探ってみようか。
もしかしたら
「他の奴らによるいたずらってこともあるんだよな・・・」
椅子の背もたれに寄りかかりながらつぶやく。確かにその可能性はあるだろう。
でもこのようないたずらをしてきそうな人物に心当たりがない。それにいたずらにしては簡素すぎる気がする。もし僕が同じようなことをするならもう少し長い文章にして自分の気持ちを込めるような書き方をするだろう。便箋のままではなくちゃんと封筒にいれてげた箱にいれるはずだ。その方がより本物の感じが出る。このように単調で短い文章だけを書いた便箋を四つ折りにしてげた箱に入れるとは考えにくいだろう。
「おはよう、小鳥遊。どうした、そんなに考えこんで」
考え事にふけっていると声をかけられた。顔をあげるとさっきまでにぎやかな人だかりの中心にいた男子が立っていた。まぶしい笑みを浮かべながらもどこか不思議にみえる表情をしている。
「ああ、新一。おはよう。いや、今日のテストどうするか考えていただけさ」
「そういや今日は佐竹の数学があったな。前の授業でテストするって言ってたっけ。すっかり忘れてたな」
「そうだよ」
まあ、実際はそれどころではないのだがけだるそうに返事をする。ていうかおまえも忘れていたのかよ・・・。まあ、頭がいいからなんとかなるんだろうけどな。
こいつは八月朔日新一。高身長のイケメン、成績優秀スポーツ万能と天が二物どころか三物も与えたような男子だ。おまけにさわやかで誰に対しても気軽に友達になれる存在ときた。なので女子からだけでなく男子からも人気がある。僕の数少ない友人ではあるのだ。
「そうか。まあお互い大変だろうけど頑張ろうZE☆」
ーーーお前がいうな
2年以上たって復活しました。
不定期になると思いますが、応援よろしくお願いします。