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街へ行こう


「全く、化け物だな…」

「ああ、本当に…」

群がる魔物を一撃で屠るティファの姿を、グラドとドリィは遠い目をして見守っていた…。

俺?俺はもう馴れちゃったよ…。


さて、あれから俺はこの二人の男女を道案内に据えて、地下ダンジョンを順調に攻略している。

ま、ほぼティファが道を拓いてくれてるんだけどね。


「ところでお前、地上に出て何をするつもりだ?」


振り返ったグラドが俺を睨み付けてそんなことを聞いてきた。

ちなみに天井に突き刺さった彼の剣は、ティファに頼んで引き抜いてもらい丁重にお返しした。

グラドはかなり驚いた顔をしたが…。


「それなんだよなぁ…」


俺は困ったら頭を掻く癖があるのだが、掻いたところで案など浮かばない。

まずこの世界のこともよく分からないし、地上がどんなものなのかも分からない。

とりあえずここを出てから考えようと思っていたのだが…善は急げというし。


「そもそも、あんた一体何者なんだい?」


グラドの太い腕に細腕を絡める美女。赤いドレッドヘアーに瞳の緑が映えてとてもエキゾチックだ。


「それは俺が聞きたいよ…。目が覚めたらこんな所にいるし…」

「なんだそりゃ…」


グラドが毒気の抜かれたような呆れた目で俺を見つめた。

どうも俺が戦う気がないことと、俺に従っていればティファと戦わずに済むと判断して、グラドは大人しく道案内に徹してくれている。

しかしその目には俺に対する懐疑心が宿ったままだ。


「お前の身なり、普通じゃねぇ。未だに人間だといわれても俺には信じられん」


俺の姿どんなんやねん!

一目で魔物と疑われるくらいだから、よっぽど人離れしてるのだろうか。いや、まぁ角生えてるけど。


「もしかして、亜人族じゃないかい?」

「亜人族?」

ドリィの言葉に俺は食いついた。わお、ゴーレム(ティファ)もいりゃあ魔物もいて亜人もいるってなるといよいよ異世界じみてくる。そもそも墓所を脱出した際にくぐったもの…ティファは障壁といっていたが見かけはまるで魔方陣のような見た目だった。

いずれ魔法を目にする日も近いのかも知れない。


「亜人って…北の方にいるとかいう種族か」

グラドは無精髭の生えた顎に手をやると、考え込むように「ふむ…」と頷いた。


ドリィ曰く亜人ってのは、その見かけゆえにかつては魔物に分類され、迫害の対象になっていた過去を持つ種族なのだという。

現在、亜人族はそれらの過去から人間との交流を必要最小限に留めており、滅多に姿を現さない。

ただ、優れた能力を持つ者が多いのも確からしく、『王都』にいけば数は少ないものの稀に出会うことがあるらしい。


王都!でたよ王都!

こりゃあ地上に出たら一度は寄ってみたいな。


思わず顔が緩みそうになったのをきりっと引き締める。


「けど…あんたどうやら記憶喪失みたいだし、断言は出来ないね」


俺はどうやら記憶喪失ということで収まったらしい。

まぁいいか…。どうせ元いた世界(にほん)のことを話しても信じてくれないだろうし。



「お前、冒険者か何かだったのか?」

んん?冒険者?

俺の顔にクエスチョンマークが浮かんだのを見て、グラドはダメだこりゃといわんばかりに頭を振った。

説明はドリィにお任せらしい。確かに、口下手そうな顔をしてるもんな。


「冒険者ってのは、いわば何でも屋みたいなもんだよ。

ギルドっていう仲介屋があるんだが、そこに登録すると民間から出された依頼を受諾することが出来るようになって、見返りに報酬を貰うんだ」


へぇ、ゲームとかでよく見かける組合とは似て非なるものなのかな。


さらに説明を聞いていると、冒険者ってのは花型職業になるらしい。

なんでも特殊な能力――この世界では『スキル』と呼ぶらしい――がなければ話にならないそうで…。

しかもスキル持ちであっても鳴かず飛ばずで終わる者も多いのだとか。


魔物討伐が専門にもなると、いわば民間人にとってヒーローみたいなものだそうだ。

考えてみればこの世界の人たちは常に魔物の脅威に晒されているわけで、それに対抗出来る人間がいるとなれば確かに羨望の的にもなるだろう。


「まぁ、一応あたしらも討伐専門にやってるんだが、丁度手持ち無沙汰になったところこの遺跡の調査依頼を請け負ってね」

今に至る、というわけか。


なかなか興味のそそられる話だな。


「それって、身元の判明しない者も受け入れてくれるのか?」


俺の唐突な疑問に二人は訝しげな目線を向けてくる。


「おいおい、まさか登録するつもりか?」

グラドが何故か非難がましい声で聞いてくる。

「出来なくはないけど、ギルドに在席する冒険者の推薦が必要になるんだよ?」

こんな時まで、ドリィは親切に説明してくれる。

しかしその顔は「何を言っているんだコイツは」と言わんばかりだ。


そりゃこんな得体の知れない人間をあっさり受け入れてくれるわけ無いか…。


俺は目に見えてがっくりと肩を下げた。


この地下世界から抜け出してどうしても避けられない問題がひとつある。

それは金の工面だ。食べるもの寝るところの調達、何をするにしても金が必要になるのは日本に住んでいても同じ事。

しかしそれを得る方法が何か、と聞かれるとなにも思いつかないのだ。


なのでとっさに先ほどの疑問をぶつけたわけだが…。


こりゃどっかで皿洗いか何かさせて貰うよう頭を下げるしかないかも知れないな。



ティファが葬った魔物の遺骸を踏み越えて(そろそろ抵抗がなくなってきた)俺たちは地上へと脱出した。






こんにちは太陽!

そしてさようなら!


地下から脱出して待ち望んだはずの蒼空は、すでに日が傾いて茜色に染まっていた。

赤く輝ける太陽も山の向こうに隠れつつある。


「余計な時間を掛けすぎたな」


横でグラドが呟く。はいはい俺のことですよね、すいませんでしたぁー。

そもそもいきなり斬りかかってくるあんたらが悪いんじゃ?

面と向かって言えるわけないので、俺は聞こえないふりをしつつ心の中で文句を垂れてやった。


しかし見渡す限りの森だな…。人里が近くにある気配もないぞ。


「あたしたちはラマンの町まで行くけど、あんた達はどうする?」

ドリィが気遣わしげな視線で俺とティファを見てくる。やっぱり根は親切な女性のようだ。

「まぁ、ここまで来たんだ。ほっとくわけにもいかんだろ」

なんとグラドまで俺に気を掛けてくれる!世の中捨てたモンじゃないなぁ!

さっきは心の中で文句言っちゃって申し訳ない。


「町に着いたらとりあえずギルドで冒険者登録の照会をしろ」


グラドが言うには、俺は冒険者として登録されている可能性がある、とのことでの進言らしい。

遺跡の調査に来て何かに巻き込まれ、それが切っ掛けで記憶を失ったのでは?との推測だ。


それはないけどね…と思いつつも、俺は表向きは素直に頷いた。

利用できるものは何でも食いつかなければ。


「亜人の冒険者なぞそうそうおらんからな。時間はかからんだろう」


そう言ってグラドは身に纏っていたフード付きのローブを投げて寄こしてきた。


「ゴーレムの嬢ちゃんはともかく、お前の容姿は人目を引く。町に入る前に、それで顔を隠せ」

うーん。そこまで言われるとよっぽど酷い見た目なんだろうなぁ。

だって『魔王』だろ?グラドにも魔物呼ばわりされたくらいだし…。


いわれた通り、受け取ったローブを無くさないように早速身につける。

おお、なんだか如何にも冒険者っぽくなったぞ!

ちょっとだけテンションの上がった俺をグラドは訝しむように見た後、ドリィを引き連れて獣道のような所を歩き出す。


「離れるなよ…夜の森は怖いぞ」


からかうようにグラドが不吉な笑みを浮かべた。顔の作りが精悍なので妙に迫力があるのが、こちらとしては笑えないところだ。

言われなくとも離れませんとも!

まぁ、俺にはティファがいるからね!…そこ、情けない男とか言わない!





そんでもって、数時間の道のりを経て俺たちは無事に森を抜けることが出来た。

え?あっさりしすぎだって?だってその通りだったんだぜ!

地下ダンジョンに比べれば魔物とのエンカウントも数えられるほどだったし、強さも傍目から見ればどうって事なさそうだった。

俺はというと見ていただけなんだけど。


森を抜けると開けた草原のような所に出た。

辺りは夜の静けさに包まれていたが、思ったより暗くないことにびっくりした。

理由を求めて空を見上げて――息を呑んだ。


「すげぇ…」


無意識に感嘆と呟く。

まるで降るような満天の星はガラス片のように煌めいて、夜空をインディゴブルーに染めていた。

刷毛で伸ばしたような雲が月の明かりに白く照らされ輝いている。こんな情調的な景色を見たのは初めてだ。

いつも最終電車から降りて見上げる空のなんて暗かったことか…。


「まるで初めて見るような反応だねぇ」


俺がうっとりと夜空を見上げていると、ドリィが微笑を浮かべてそんなことを言う。

その通り初めてみる景色だよ!


「それにしても…夜空の下で見ると、あんたの目…ますます不思議な色に見えるね」

急にドリィが真面目な顔をした。美人に見つめられるのは悪くはないが、じっと瞬きもせずに見つめられるとなんだか居心地が悪い。

どんな色してんだ?


ドリィの視線から逃げるようにティファを見下ろすと、彼女も空を見上げている。が、やっぱり無表情のままだ。

白くて綺麗な顔がぼんやりと月光に照らされて儚げに見える。

金色の瞳に星屑の輝きが映り込んで、見ている方が吸い込まれそうだ。


いつか彼女も人間みたいに何かに感動したりするようなことがあるのだろうか?

そうなればいいのに。この感覚を言葉にして伝えるのは…とても難しい。


「おい、さっさと行くぞ」


約一名、ティファの次に情緒とは縁遠そうな男は足を止める一団に急かすような声を掛ける。

それにはさすがのドリィも呆れたような顔をしたが…。


グラドに続くと、草原の向こうに人工的な明かりが見えた。

遠くからでもその存在が分かるほど、ラマンの町ってのは大きな所らしい。


俺たちの旅は始まったばかりだ!


いや、フラグじゃないからね?


やっとこさ人のいる街に出ます

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