第1章 幻になった者
「よし、出発するわよ」
霊夢の声が家の中に響く。この家の家主は妖怪や幻想郷の人間と共に生活し、創作活動をすることを生業としている。
「霊夢、ちょっと待ってよ。まだ何が必要かすら言ってくれてないじゃないか。」
と玄関で慌てているのがこの家の家主ことつぶあんである。
「何も必要ないわよ。あんたなら現地調達で何とかなるでしょ。あえて言うなら心の準備くらいはしておきなさい。」
こう返してきたのは博麗霊夢、親密な関係なものからは霊夢と敵対している勢力からは博麗の巫女と呼ばれている。彼女は、彼の家でいつもぐうたらな生活を送っているが一応幻想郷を守っている管理者の一人でありかの有名な『博麗神社』の巫女様なのである。
そう、二人はこれから幻想郷へ行こうとしているのである。今回幻想郷へ行く理由としては、霊夢が管理する博麗神社の大掃除とつぶあんの幻想郷への小旅行だ。前者は霊夢が彼に掃除をするよう説得されただけであって、後者が一番の目的だ。
「そういえば、僕以外で外部から幻想郷の住人の力を借りて幻想入りした人はいるの?」
少しの沈黙…この沈黙は彼にとって長く感じるとともにこれからの旅への不安を大きくした。
「そうね……結界が張られて以降の外部からの侵入は聞いたことがないわね。」
と、彼女は答えた。返答はいつも通り軽い口調であったが、顔は少し暗かった。
その理由は後でわかったのだがここでは伏せておこう。
そんな会話をしながら人里を離れた深い森林の中を歩いていると
バチッ
彼の手がある地点を振りぬこうとしたとき、雷撃が落ちたかのような衝撃と痛みが彼を襲った。彼が降りぬこうとした地点にあるもの、それがかの有名な『博麗大結界』なのである。この結界があるおかげで人間は幻想入り出来ず、妖怪たちは身を守られているのである。
「だから気を付けてって言ったじゃない」
そう彼女は言いながら結界に手を触れ小声で何かをつぶやいた。
「これで通れるはずよ、これで無理ならあきらめなさい」
恐る恐る結界の向こうに手を入れるとなんと、何も起こることなく通ることができた。どんな力を使ったのかは計り知れないがきっと管理者のみがいじれる仕組みになっているのであろう。これでやっと幻想入りに成功したのである。
「幻想郷へようこそ!と歓迎したいところだけど、一応神社によって行くわよ」
そう言って彼女は足早に神社へ向かった・・・