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第26話

涙に濡れた茶色の瞳は、ゆらゆらとかすかに揺れていた。

髪と同じこげ茶色の、普段はふわふわとやわらかそうなまつ毛にも、涙がまとわりついてところどころ光っているように見える。

そんなエリザにジュリアンは目が離せないでいるのに、声がまるで出ない。



「私は…最初からフランクのことは好きじゃなかった。友達としてはいい人だなと思っていたけれど…あなたへの気持ちとは全然違っていたのよ」



エリザはジュリアンから一切視線を離すことなく、切々と語り始めた。




「今まで男の子とお話したことなんか、ほとんどなかったのよ。あなたがほとんど初めて。当たり前だけど、誰かに恋したことも、好きになってもらえたこともなかったわ。貧乏だから学校もいけなくて出会いもないし、顔もちっともかわいくないし…」



そういうと、エリザらしくもなく、くくくっと自虐的に笑った。



「だから、フランクにあんな風に迫られても、どうしたらいいのかわからなくて流されてしまったの。本当はすごく嫌だった。あなたに、フランクにキスされているところを見られて…心臓が張り裂けそうになったわ。本当よ」



ジュリアンにフランクとの現場を目撃された、あの嫌な記憶を思い出したからか、ふとジュリアンから視線をそらし、うつむいた。



「あなたは…すぐ怒るし、ひどいこと言うし、心配しているのに冷たい態度をするし…嫌な人だなって思うこともあったわ。でも、いつの間にか好きになってたのよ…自覚するのはすごく遅かったけれど…ずっとずっと前から、あなたのこと、大好きだった」



そういうと、涙に濡れるエリザの頬はふと緩み、照れくさそうに微笑んだ。



「ジュリアンも、私のこと好きかしらって…思ったことが何度かあったわ。具合が悪いのに走って家までランプを届けてくれたときと、夜の市で初めて文字を教えてくれたとき、それから…服を贈ってくれたとき」



視線を落としたままエリザは微笑んでいるが、心なしかほんの少しだけ表情が曇った。




「でも…私の勘違いだったみたいね。あんなにきれいな服を着ても、あなたは全然褒めてくれなかったし…なにより、今さっき、あなたに振られてしまったもの」




そうして、エリザはもう一度ジュリアンのほうを見て、苦笑いをした。




「でも、でもほんの少しだけ…ほんの一瞬でも…私のこと、いいなって思ってくれたこと、あったかしら?」



苦笑いのまま、エリザは明るく尋ねた。

しかし、何も言わないジュリアンをじっと見つめているうちに、笑顔で細めた目と、上向きの唇は、見る見るうちに歪んでいった。






「ジュリアン…何か言ってよ…私を好きじゃなくてもせめて…私の思いを聞いたなら、何か言って…」








エリザがふっと頭を垂れたそのとき、どんどんと壊れそうなほど大きな扉の叩く音がした。

二人はびくっと身体を揺らし、思わず見つめ合った。




「エリザ!!開けて!!大事な話があるんだ!!」




鍵の閉まっている扉が今にもぶち破られそうなほど力いっぱい叩きながら、声の主は叫んでいる。





「フ、フランクが…来たよ…」






ジュリアンは、まるでエリザの今までの話を全く聞いてなかったかのように、「恋人」のお越しを知らせた。

エリザは、一瞬彼の言葉に顔をぐちゃぐちゃに歪ませたが、その後震えながらひきつった笑顔を見せた。

扉の外の怒号のような声はなおも続いている。



「そ、そうね…きっと…学校をやめて私を迎えに…来たんだわ。すごいわ…私を本当に愛してくれている…ここまで一途になってくれる人なんて…きっともう現れないわね」



扉の叩く音も相まって、聞き取りずらいほど小さな声でそう言うと、エリザはがくがくと膝を震わせながらゆっくりと立ち上がり、どこを見るでもなくうつろに笑った。




「私とフランクは…きっと、運命の赤い糸で結ばれてるのね。運命の人にこんな若いうちから出会えるなんて…私は幸せね」



そして、ジュリアンのほうを見て優しく微笑みこう言った。





「最後まで手当してあげられなくてごめんね。大好きよ、さようなら」





エリザはくるりと扉のほうに向きを変え、ゆっくりとフランクがいる方へと向かっていく。

ああそうだ、今のうちにシャツを羽織って、裏口からそっと出ていけばいいじゃないか。

あの子がお前をどう思っていようが、このままで居たほうがずっとあの子のためになるんだから…


ほら、そうこうしているうちに、あの子がドアノブに手をかけてしまうよ。



お前がここにいたらまた面倒なことになるだろう…






早く行け、ここから立ち去れ。













もう何も、迷うことなんてないだろ?

















「行かないで…」










ドアノブに触れた細い手は、ほんの少しだけ大きな手に、壊れそうなほど強く、握られていた。





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