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第25話

ジュリアンはエリザにやさしく抱えられながら、先ほどまで寝かされていたベッドに横たわった。


「ジュリアン、痛いでしょう、大丈夫?」

「うん、平気」


ジュリアンは優しく微笑みながら答えた。

するとエリザは一瞬はっとした表情で頬を赤く染めたがすぐ下を向き、そのあと遠慮がちに訪ねた。



「ねえ…何があったの?」

「え…?」

「ジュリアン、真夜中に…通りすがりの人に助けられたあと、うちに運ばれてきたのよ…」

「そう…」



エリザはそこまで言うと、両手を絡めて目を泳がせながらしどろもどろに話した。



「そ、それであの…ジュリアン、すごい大けがしていて…それで…あの…な、何も着ていなくて…」

「あ…」

「それで…そのおじさん、誰かに…変な男の人に、この子はすごくひどいことされたんじゃないか…って…」



エリザは一度もジュリアンと目を合わすことができない。

ジュリアンもエリザがいる方とは別の方向を向き、恥ずかしさをこらえるように右手で口を覆った。



(最悪…すっかり忘れてた)



しかし、次の瞬間エリザは思いもよらないことを話した。




「だけど…昨日の夜、ジュリアン一度だけ目を覚ましてね…私に、無事だったんだね、よかったって、言ったのよ」

「え?」

「ねえ、それどういうこと?あなた…私の身代わりになってくれたってことなの?」



エリザは少し口調が強くなり、問い詰めるように訪ねる。

ジュリアンは、その一瞬だけ目を覚ましたときの記憶はなかったが、とにもかくにも、ドミニクのことなど話すわけにもいかず、エリザの真剣なまなざしをちらりと見た後、困ったように話した。



「いや…正直あまり覚えてないんだ…昔の、たちの悪い客だったのかもしれないけど…でもまあ、世の中には変なやつもいるからね…運が悪かったんだよ」

「…」

「きっと、寝ぼけてたんだよ。僕に変なこと言われて、何かあるんじゃないかって思って、怖かっただろ?悪かったよ」

「私のことはいいのよ…あなたが大丈夫なら、それで」





口ではそう言うが、あまり納得していない様子が見て取れた。

ジュリアンは、ひとまずこの話題が終わったので、ほっと胸をなでおろした。



「ねえジュリアン、おなかすいてない?私、あなたが寝てる間にスープ作ったのよ」

「え、ああうん」

「じゃあ、持ってくるわね!ちょっと待ってて!」



ジュリアンが返事をすると、いつもの明るいエリザに戻って、駆け足で台所へ向かい、その後ほどなくして、エリザが温かいスープとぼそぼそのパンを運んできた。




「はい、ジュリアン、あーん」

「…」



エリザは笑顔でジュリアンの口元にスプーンを押し付けてくる。

ジュリアンは思わず目をそらした。



「何してんの…」

「だって、ひどいけがをしてるんだもの、一人じゃ食べられないでしょう?」

「いや、食べられるよ、当たり前だろ!」

「だめよ、ほらあーんして」

「…」



ジュリアンは仕方なく口を開け、大きなぶつ切りの野菜にスプーンごとかぶりついた。



「どう?おいしいでしょ?」

「全然おいしくない…」


じゃりじゃりとした歯触りの野菜を口の中で砕きながら、げんなり顔でジュリアンはつぶやいた。

エリザは恨めしそうな顔で、無表情でぼりぼりと野菜を噛むジュリアンをじっと見つめている。



「もう…今日のは干し肉入りなのに…」

「干し肉入りったって…根本的なところから見直さないと、一生おいしくならないよ!」

「…」



あまりのおいしくなさに、ジュリアンが思わず本音を口走ってしまうと、エリザは泣きそうな顔でしょんぼりとうつむいた。

それはいつかの、化粧品屋の前でエリザを罵倒した時の様子と同じだったので、ジュリアンは慌てた。



「あ、いや…いつものよりはちょっとはましな気もするけどさ…」

「…」

「でも、毎日食べさせてくれるんなら、もっとおいしく作る努力してほし…」

「毎日…?」




ジュリアンははっとなった。



エリザと暮らして、毎日この子のスープが食べられたら…



そんな願望を思わず口に出してしまい、ジュリアンは顔を真っ赤にして顔をそらした。

エリザはじっとこちらを見ている。

ジュリアンはしばし黙った後、平静を装ってこう言った。



「…そうだよ。もっとおいしく作ろうっていう努力しないと、いいお嫁さんになれないよってこと」

「お嫁さん?」

「うん、君もいつか、誰かのお嫁さんになるんだろ?」

「え…」



ジュリアンの言葉に、エリザは伏せていた顔をふとあげた。

ジュリアンはそんなエリザと目が合いそうになったが、ふいっと視線をそらして話し続ける。





「…フランクに…言われたんだろ、結婚しようって」

「えっ」




叫びに近い声をエリザが発したので、ジュリアンは思わず彼女のほうを見た。

目を大きく見開き、普段緩やかなカーブを描いている眉が、歪んでいた。




「どうして知ってるの…そんなこと」

「…アリーヌに聞いたから」

「アリーヌって誰…?」

「ほら、髪の黒い…きれいな子」




そこまで言うと、エリザははっとしたような顔をし、うつむいて自分の髪の先端をいじった。



「そ、そうなの…その子と会うことなんてあったのね」

「君のおばさんが亡くなったって聞いて君に会いに行った後に…橋のところで会ったんだ」

「…」

「そのあと居酒屋に行って…フランクと君のこと聞いた」

「…そうなのね…」




エリザは力なく返事をする。



「…フランク、学校やめるんですって…私と結婚するために」

「…」

「ねえ、おかしいと思わない?まだ私たち子供なのに…結婚だなんて」



くすくす、とエリザは笑ってみせたが、ジュリアンはにこりともせずこう返した。



「おかしくなんかないよ。君は今一人なんだし…そこまでしてくれるやつがいるなら、そいつについていったほうがいい」

「え…」


そのとき、エリザの顔から完全に笑顔が消えた。


「フランクは強引だけど…しっかりしてるし優しいから…君のこときっと幸せにしてくれるよ。それに君だって、あいつのこと好きなんだろ?」

「好きって…」

「それにしても、学校やめるなんてさ…仕事も決まってるのかな。すごいよな、僕じゃそこまでできないよ。いくら好きな子がいるからって、絶対無理」



ははは、と笑いながら、ジュリアンは柄にもなくぺらぺらとしゃべる。

エリザはスプーンをぐっと強く握りながら黙って聞いていたが、ジュリアンの言葉を遮るように尋ねた。




「ねえ、ところでなんで居酒屋なんか行ったの?あなたお酒弱いじゃない」

「え?だって、誘われたから…」

「だいたい、あなた誘われたってついていくような人じゃないでしょ。どうしてその子と飲みになんて行ったの?」

「…そんなの、気が向いただけだよ…どうでもいいだろ」

「ジュリアンやっぱり…その子のこと好きなんでしょ…」

「え?」



突拍子もないことを聞くので、ジュリアンは思わず間の抜けた声を出した。

しかしそのあとしばし黙って考えて、淡々と話し出した。



「別に好きってわけじゃないけど…あの子、僕のこと好きだって言うから、別にいいかなって」

「…」

「かわいい子に誘われたら、誰だって悪い気はしないだろ。僕だって男なんだから」

「飲みに行っただけなの?」

「さあ…どうだったかな。キスくらいはしたかもね」



そういって、ジュリアンは伏し目がちに笑った。

本当は、あのとき酒に酔っていたせいでなぜアリーヌと宿屋に入ることになったのかよく覚えていなかったが、わざと彼女に気があるようなそぶりを見せた。

エリザのスプーンを握る手は、ますます強くなり、震えていた。


「ニ…ニーナは?」

「え?ニーナ?」

「ニーナはどうなの?あの子…あなたに愛してるって言われたって言ってたわ…その…夜…夜を一緒に過ごしたっていう日に」

「…そんなこと、言ったかな…」



はあ、とため息交じりにジュリアンは笑う。

ニーナとは、確かに最後まで付き合ってやったが、そんなことを言った覚えはなかった。

当然それが、ニーナのエリザに対する嘘だということはわかっていた。



(そんなこと、言うわけないだろ。だって僕は、君以外誰も…)



しかし、心とは裏腹なことを、ジュリアンは語る。



「別に、女の子の一人や二人、抱くくらいはするよ。かわいくて胸の大きい子なら、大歓迎って感じ」

「そう…じゃあ、私はだめね」



けらけらと笑いながら話していたジュリアンだが、エリザの一言でぴたりと止まった。

エリザは、口元は少し微笑んでいるように見えたが、瞳はうつろに、ただぼんやりと冷え切ったスープを見つめていた。



「もういいだろそんな話…馬鹿みたい」

「ほんと、馬鹿みたいね…」



エリザはそうつぶやくと、突然にこっと微笑んでこう言った。



「ジュリアン、もう食べないわよね、こんなまずいスープ…片づけてくるわ」



そして、一口しか食べなかったスープとパンの皿をがちゃがちゃと雑に重ねて、すたすたと台所のほうへ去ってしまった。

取り残されたジュリアンはしばらくエリザの後姿を見送っていたが、右手を額に当てて、深いため息をついた。




(違うんだエリザ…全部うそだよ…僕には、フランクみたいにできる自信も勇気もないから…)



ただでさえ、少ない給料で働いているというのに、何度も店を抜け出した自分を、ブノワはもう許してないかもしれない。

明日には無職かもしれない自分が、どうしてエリザのそばにいてやれるというのか?

ただ好きだからというだけでは、あまりに無責任すぎるのではないか?



(それだけじゃないよ…おばさんを殺した僕に、あの子のそばにいる資格なんて…ないだろ)




エリザに許してもらった今でも、大伯母のことがジュリアンの心に深い傷を残していた。

この罪を…一生背負い続けて君と生きていけるほど、僕は強くないから…




(明日の朝、できるだけ早くここを出よう。これからどうなるかわからないけど…フランクがエリザを幸せにしてくれるならそれでいいさ)




自嘲的に笑い、もう一度エリザがいるはずの台所の方を見たが、彼女の姿は見えなかった。

ジュリアンは何もない空間に一人つぶやいた。




「何もできなくてごめん…僕は今度こそ、君を忘れることにするから」














「ジュリアン…寝ちゃったのね?」





エリザの声で、はっと目が覚めた。

まだ身体の疲れがとれていなかったのと、エリザがなかなか戻ってこなかったのとで、いつのまにかうとうとと眠ってしまったのである。


「いや…ごめん」

「いいのよ、まだ治ってないんだから。眠かったら、眠ってね」

「ああ…」



ジュリアンはふっとため息をつきながら、上体を起こした。

ふとエリザのほうを見ると、湯のはったたらいを両手に持っていた。



「あ、これね、ジュリアンうちに運ばれて来たときから身体を洗ってないでしょう?汗もたくさんかいていたのに」

「ああ、まあ…」

「だから、ちょっと身体を拭いたほうがいいかなあって…」



そういいながら、エリザは湯に浮かんでいた布巾をじゃばじゃばとこすりつけ、ぎゅっと絞った。


(別にそんなのいいのに…)


ジュリアンはそう思ったが、せっかくの厚意を無駄にするのも何かと思い、おもむろにシャツを脱ぎ始めた。

ジュリアンの華奢な上半身があらわになると、エリザは持っている布巾をぎゅっと握りしめ、顔をそらした。



「…」



エリザは布巾を持ったまま、ジュリアンに渡そうともせず、黙り込んでいる。



「…布巾、貸して」



しびれを切らしたジュリアンは手を伸ばし、少し大きな声でエリザに呼びかけると、エリザははっとした顔をしてようやく布巾を手渡した。

ジュリアンは訝しげな顔をしたが、あまり気にせず顔や首、脇や胸のあたりをいい加減な手つきで拭いていく。

その間、何やらずっと視線を感じていたので、じろりと上を見上げた。

すると、そばでじっと突っ立っていたエリザと目が合ったが、またもぱっと視線をそらされた。



「…何見てんの?」

「えっ別に…ごめんなさい」



それからしばらくの間、エリザはジュリアンのほうを見ずに黙っていたが、彼が両腕を拭き終ったころに、蚊の鳴くような声で問いかけた。



「背中…拭いてあげましょうか?」

「え?」

「だって、けがもしてるし身体も痛いでしょうから、できないでしょ?」

「い、いいよ、自分でできるよこれくらい」

「遠慮しなくていいのよ、はい、布巾貸してちょだい」


そう言った瞬間に、信じられないくらい早い動作で、エリザはジュリアンから布巾を奪い取った。

ジュリアンが呆気にとられている間に、たらいの湯でもう一度すすぎ、そっと後ろ向きのジュリアンの隣に座った。

しかし、エリザが何も始めないのでジュリアンはふと後ろを振り返ると、顔を赤く染めて硬直していた。



(そんなに恥ずかしいなら、やるなんて言うなよ…)



ジュリアンは呆れて、「ほら、自分でやるから」と手を差し伸べたが、エリザはぶんぶんと首を横に振ってそれを拒否した。

そして、ほんの少しだけ間を置いた後、布巾を持った右手が肩甲骨のあたりに、左手がジュリアンの左の二の腕のあたりに、そっと触れた。

布巾のぬくもりとエリザの体温がジュリアンの身体に伝わった瞬間、心臓がどくんと大きく揺さぶられたのを、彼は感じずにはいられなかった。

エリザが優しく優しく背中を撫でている間中、彼の鼓動は外に漏れそうなくらい早く、大きく鳴り響いていた。


(こんなこと…しなくていいのに…)


じっと動かないことで、異常なほど早い鼓動を、エリザに気づかれないようにするのがやっとだった。

身体を清めるために背中を拭いてもらっているのに、次から次へと汗が噴き出しているような気がする。

すると、今まで黙って拭いているだけだったエリザが、ぼそりと話し出した。




「ジュリアンって…なんだかいい匂いがするのね」

「…え…」

「あんなに汗かいて、身体も全然洗っていなかったのに…いい匂いがするのよ。不思議ね」

「…」

「あなたは美しいからみんなあなたが好きなんでしょうけど、知らないうちにこの匂いに魅かれてるんだと思うわ」



(何言ってるんだ…)




エリザは淡々と、うわ言のように語っている。

自分がエリザに感じていたこと…

エリザの匂いに包まれると、居ても立ってもいられなくなる…

君も、僕と同じように感じているの?




「私もね、いい匂いがするねって言われたのよ、フランクに」



高鳴る心臓に、突然太い針が突き刺さったような感覚に襲われた。

エリザは相変わらず淡々とした口調で話し続け、背中を拭く手は無機質に動いていた。



「フランクね、私を訪ねてくるときね、必ずキスして帰るのよ…」

「…そう…」

「それで…キスがすごく長くて…舌を絡めてくるの」



(なんで…こんな話…)



なぜ突然、エリザがそんな話をするのか理解できなかった。

心臓がかきむしられるような思いがして、痛くて痛くてたまらなかった。



「そのときにね、私の髪にもキスして…いい匂いだねって。そしたら急に私の…」

「だから何?」



エリザがさらに何かを言おうとしたとき、ジュリアンは冷たくそれを遮った。

冷静に、極めて無関心を装って…

しかし、シーツの中で強く握られた両手は、震えていた。



(やめてよ…もう聞きたくない)



弱くてエリザに何もできないのは自分だ…

でも、そんなことを聞かされる理由がどこにあるというのか?

自分の気持ちを押し殺してまで、お前の幸せを願っているというのに…






「…ジュリアンも、私のこと、いい匂いがするなって、思う?」





エリザがそう尋ねたかと思うと、ジュリアンの背中にそっと頬を寄せた。

突然のことで、ジュリアンは思わず小さな悲鳴をあげそうになったが、ぐっとこらえた。



「何言って…」

「ねえ…ジュリアンもそう思う?私のこと…」



エリザの匂いが、ジュリアンの鼻をいやというほどくすぐる。

今まででエリザが一番近く感じ、ジュリアンは頭が真っ白になった。

フランクなんかより、ずっとずっと前から、エリザのこの不思議な匂いに憑りつかれていた。

たぶん、エリザのことを愛している者だけがわかる、この感覚…

だから、僕はフランクなんかより、ずっとずっと前から、お前のことが…




「ちょっと、近い…離れて…」

「ねえ、ジュリアン…」




(これ以上、僕を惑わせないで…)





そのとき、エリザの左手がジュリアンの下腹部のあたりにするすると滑り込むのがわかった。

はっとするより先に、ジュリアンはその手を手荒につかみ、そのあとすぐにばちんと跳ね返した。



「触るな…」

「ジュリアン、どうして…」



エリザは震えていたが、なおもジュリアンの方へと手を伸ばし、彼に触れようとした。

それを見たジュリアンは鬼のような形相でエリザを睨みつけると、両手で彼女の肩をわしづかみにし、ベッドから勢いよく押し出した。

そのはずみでエリザは腰を床にたたきつけられ、痛みと衝撃で動けなくなった。

エリザはそのまま微動だにせず、こちらを見ようともしなかった。

ただただ汚い床に視線を落とし、石のように硬くなっていた。

そんなエリザを、ジュリアンはベッドから見下ろす。





「なんなんだよさっきから…わけわかんないことばっかり言って。いい匂いとか、全然意味わかんないんだけど」

「…」

「そんなの、フランクとよろしくやってればいいだろ!なに、フランクが釣れたからって、今度は僕もって思ったわけ?!」

「…」

「調子のんなよ!僕が君みたいなつまんない子になびくと思う?!色気もクソもないくせに!馬鹿じゃないの!!」




ジュリアンは堰を切ったように、次々と罵声を浴びせた。

垂れたままのエリザの頭は、長い髪で覆われ表情すら見えず、無感情のただの置物にしか見えなかった。



「フランクがいるくせに!ほかに男がいるくせに、柄にもなく誘うような真似して、気持ち悪いんだよ!!」



ジュリアンの暴言は止まらなかった。

あんな風に触れられて、エリザの匂いに体中が包まれて…

エリザから離れると心に決めたのに、あのままではエリザをどうにかしてしまいそうだった。

もう、彼女に嫌われてしまう以外、ほかに方法が見つからなかった。

散々罵った後、ジュリアンははあはあと息を切らす。

エリザはそれでも、突き飛ばされたときからの状態を崩さず、ただじっとしていたが、ふと身体が上下にひくひくと小刻みに揺れるのと同時に、くすくす、という小さな笑い声を漏らし始めた。



「冗談よ、そんなに怒らないで。変なことしてごめんなさいね」

「…」



エリザの声は、いつものそれと変わらず、明るく穏やかであった。

そして信じられないほど、まるで何事もなかったかのように話し続ける。



「ジュリアンったら、私のことばかり責めるのね。アリーヌって、ドミニクと付き合ってるんでしょ?」

「…え…」

「あら、前に教えてくれたじゃない。ほかの男の子と付き合ってるアリーヌはよくて、どうして私はだめなのかしら?」




何故だか髪の毛で顔が隠れ、一度もこちらを見ない。

普段通りのエリザの笑い声が、静まり返る家に不自然に響き渡る。




「かわいくて胸の大きい子だから大歓迎ってことかしら?そうね、まあそれはあなたの好みの問題だから別にいいと思うわ」

「何…」

「でも、私は違うの。あなたに言われたことは全部間違ってる」




そう言って、エリザはおもむろに顔を上げた。






「私には最初から誰もいないの。いるとしたら、あなただけよ」






エリザの頬には、幾筋もの涙の跡が、月の光できらめいていた。






「私は…あなたしか好きじゃないの…」








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