第22話
結構きつい性描写があります。しかもBL系なのでご注意ください;LOVE度0%だけど;
「ちょっと、みんなジュリアンに甘すぎじゃない?」
店員の一人が、こそっとジョゼットに言った。
「いくら若いからって…途中で黙って抜け出して、戻ってきたのが次の日って…いくらなんでも非常識よ!」
「まあ…確かにね」
ジョゼットは困りながら笑った。
ジュリアンとそう年の変わらない若い女性店員は、ジュリアンばかりえこひいきされているのが気に食わなかった。
「何よ、ちょっと顔がかわいいからって!ブノワもブノワよ!!」
「まあまあ、落ち着きなさいよ、ジニー」
ジョゼットは年上らしくなだめた。
すると、ジュリアンが自分たちの前を通り過ぎた。
ジニーは、ふん、と鼻息を荒くして、その場を離れた。
ジョゼットは、ちらりとジュリアンを見た。
今朝は、ジュリアンはいつもより早く来て、ブノワに謝罪していた。
ブノワは呆れたような顔をしていたが、ジュリアンの肩にぽん、と手を置いて許していた。
ジュリアンは、相変わらず無表情であったが、やはりどこか目がうつろで、元々華奢な体つきであったがますますやせ細っているように見えた。
―――あの子の…友達の家族がね、亡くなったんですよ…
ジョゼットは、仕立て屋の女主人が、昨日自分に教えてくれたことを思い出した。
それをジュリアンに話した途端、彼は全速力で「友達」の元に向かったという。
(お友達が亡くなったのならともかく、ご家族でしょう…?普通そこまで慌てるかしら…?)
いやしかし、大切な友人の家族だったら…
ジョゼットは色々と考えを巡らせたが、客に呼ばれたので慌てて仕事に戻った。
「おうジュリアン、これ持ってって!」
ブノワは笑顔でジュリアンに料理を持って行くよう指示した。
ジュリアンは黙って料理を手に持ち、客の方へ向かった。
ジニーは、ジュリアンをじっと睨みつけ、彼が戻って来るや否や、噛みつくように文句を言った。
「ちょっとあんたねえ!せっかくブノワがあんたの無礼を許してくれたっていうのに、何なのよその態度は!」
「は…?」
「は、じゃないわよ!昨日だって勝手にどっか行っちゃうし!あんたの分まで働かされたの、あたしなんだからね!」
「だから、謝ったろ」
「謝ったのはブノワにでしょ!あたしは謝られた覚えはないわよ!」
ジニーは興奮して、叫び出した。
客はなんだなんだと、厨房のカウンターの方をきょろきょろと覗き見た。
「仕事中だろ、うるさいな」
ジュリアンは舌打ちしてその場を離れようとした。
「待ちなさいよ!」
ジニーがジュリアンの腕を掴んだ瞬間、ジュリアンはかっとなってばしっとジニーを振り払った。
「触るなよ!!」
すると、ジニーは勢いでカウンターに背中を打った。
「…!!」
それを見たジュリアンの脳裏に、大伯母が揺り椅子に頭をぶつけたときの光景が蘇った。
「あ…」
ジニーは目に涙を浮かべながら、ジュリアンを睨みつけてこう言った。
「なんなのよあんた!!最低よ!!死ねばいいんだわ、あんたなんか!!」
「…!!!」
―――死んでよ
ジュリアンは頭を抱えて震えだした。
ジニーの言葉とエリザの言葉に、頭をがんがんとたたき割られている感覚に襲われた。
「二人とも、どうした?!」
ブノワは慌てて厨房から出てきた。
ジニーはすすり泣いている。
ジョゼットも厨房の方へやってきた。
「だって、だってジュリアンが…」
ジニーは泣きながらジュリアンを責める。
ジュリアンは目を見開いて震えていた。
「…なかったんだよ…」
「え…」
ジョゼットは震えるジュリアンを見て、聞き返した。
「死にたくても、死ねなかったんだよ…」
ジョゼットは驚いてジュリアンを見つめた。
(まさか…昨日帰ってこなかったのは、死のうとしていたの…?!)
「頼むよ、これから夜のかきいれ時なんだからさ…な?」
ブノワはほとほと困った様子で、二人をなだめた。
ジョゼットは仕方なく、泣きやまないジニーを奥に連れて行こうと、彼女の肩を抱いた。
ジュリアンは、ブノワに肩をぽんぽんと抱かれ、仕事に戻っていた。
(でも死のうなんて…お友達のご家族が亡くなったことと関係が…?)
ジョゼットがふとそう思ったそのとき、店の扉がばん、と荒っぽく開いた。
客らは驚いて皆扉の方を振り返った。
扉の前には、見覚えのある大柄な少年が息を切らして突っ立っていた。
眉間にたくさんしわを寄せて、怒りの形相でこちらを見ていた。
「い、いらっしゃい…」
ジョゼットはジニーを置いて、その少年に近付いた。
しかし、少年はきょろきょろと店を見まわし何かを見つけた瞬間、だっと駆けだした。
少年の視線の先にいたのは、ジュリアンであった。
「ちょっと!!」
ジョゼットが叫んだときは時すでに遅し、ジュリアンは少年に思い切り殴られ、床に倒れ込んだ。
客らの中では、悲鳴を上げる者もいた。
「やめなさい!!」
ジョゼットが慌てて少年を押さえようとするが、簡単に振り切られてしまった。
ジニーはがくがくと震えながら、ただ様子を見るだけであった。
(なんでこんなときにシモンがいないの…!!)
そう思っている間にも、ジュリアンは少年に殴られ続けている。
「てめえ…ふざけたことしやがって!!」
少年は殴りながら、震える声で叫んでいた。
「人の女に無理やり手を出すほど、てめえは腐ってんのかよ!!」
そう言って、もう一度ジュリアンを殴った。
「ち、違う…」
ジュリアンは否定するが、ドミニクは構わず胸倉を掴んだ。
「アリーヌが泣きながら言ってきたんだ…なんだかわからねえがお前が死のうとしてたのを助けてやったのに、無理やり犯されたってな!!」
「違う…!!」
「うそなら誰でもつけるんだよ、くそ野郎!!」
そう言って、ドミニクはもう一度ジュリアンを殴った。
ジョゼットは目を覆った。
「やめろ!!」
ブノワが厨房から出てきて、ドミニクを止めようと肩を掴んだ。
「離せこの野郎!!」
ドミニクはじたばたと暴れるが、ブノワは必死になってドミニクを押さえこんだ。
「ジュリアン、逃げろ!!」
「え…」
「このままいたらお前、多分こいつに殴り殺されるぞ!!」
ブノワは真剣な表情でジュリアンに言った。
「早く!!」
ジュリアンは痛みをこらえながらよたよたと起き上がり、扉を目指してよろよろと駆けだした。
「おい!!待てよこら!!」
ドミニクはブノワに押さえつけられながら叫んだ。
ブノワは力の限り、ドミニクを押さえつけ続けた。
「てめえ…離せって言ってんだろ!!」
ドミニクはぐわっと両手を上げて、ブノワを振り払った。
「わっ」
ブノワはその瞬間後ろに倒れ込んだと同時に、ドミニクに思い切り殴られた。
ドミニクは立ちあがって、どすどすと店の中を走りだし、ジュリアンを追いかけて扉の外へ消えて行った。
「ブノワ!!」
ジョゼットは殴られたブノワに駆け寄り、抱き起こした。
「いてえ…」
ブノワは殴られた頬と顎の間の辺りを痛そうにさすった。
「大丈夫?」
「ああ、俺はな…」
「どうしましょう…」
「はあ…店を空けるわけにはいかないからな…ジュリアンには、なんとか逃げ切ってもらうしかないだろうな…」
「シモンがいてくれたら…」
「だな…なんであいつ今日に限って休みなんだろうな…」
二人はため息をついたが、動揺している客の様子に気付き、慌てて仕事に戻った。
(ジュリアン…大丈夫かしら…)
ジョゼットは扉を向こうを見つめ、もう一度ため息をついた。
◇
「え、おばさんが…?」
エリザの家の玄関前で、フランクは驚いてエリザを見た。
エリザはぼんやりと下を向いて黙った。
「全然知らなかったよ…ごめん、葬儀にも出られなくて」
「急だったし…言ってなかったからいいのよ…」
「エリザ…」
フランクはそっとエリザを抱き寄せた。
エリザはフランクにされるがまま、彼の胸に頬をつけた。
「エリザ、俺さ…」
「…」
「学校やめようと思ってるんだ…」
「え…」
フランクはエリザを離し、エリザの目を見た。
「君、仕事もなくなって…暮らせないだろう」
「…」
「俺さ、学校やめて仕事始めるから…」
「え…?」
「俺と結婚しよう」
「え…」
エリザは思いがけないフランクの発言に驚いて目を見開いた。
「な、何言ってるの…?」
「それにおばさんも亡くなって…君一人じゃないか」
「…」
「仕事も家族もないのに、一人で生きて行くのかい?」
「でも…そうは言ってもまだ子供なのよ…結婚だなんて…」
「そんなのどうにでもなるだろう?仕事さえ見つかれば、二人ならやっていけるさ」
フランクは明るく笑って、そう言った。
エリザはうつむいた。
「ご、ご両親は?きっと反対なさるわ…」
「親はいいんだ、もう決めたんだ」
「でも…」
「エリザ、君はいやなの?」
「…」
「もしかして…まだジュリアンのこと…」
「…!!」
エリザはびくっとなって、固まった。
「な、なんのこと?あの人のことは…もう忘れたの。大嫌いよ」
「…大嫌い?」
エリザがそんな言い方をするので、フランクは怪訝そうな顔をした。
「大嫌いよ…最低なの…あんな人だとは思わなかった…死ねばいいのよ…ふふ」
エリザはかたかたと震えながら、うすら笑いを浮かべながらつぶやいた。
フランクはエリザの肩に両手を置いて、肩をゆすった。
「ジュリアンに何かされたんだろ?!教えろよエリザ!!」
「何もされてないわ!!」
エリザは突然、フランクを突き放すように叫んだ。
フランクは驚いて、思わずエリザの肩から両手を離した。
エリザは、目を伏せてはあはあと息を切らしている。
「ごめんなさい…」
「…」
フランクははあと肩を落として、もう一度エリザを見た。
「エリザ、さっきのこと…どう思ってる?」
「…」
エリザは下を向いたまま、何も言わない。
「俺と結婚するなんて、実感わかない?」
エリザはうなずいた。
「でも、女の子の職探しは難しいから…一人で暮らして行くのは本当に大変なんだよ」
「…わかってるわ」
「俺、エリザが一人で大変な思いをするのは見ていられないんだよ。だって…」
「え…」
「エリザ、君が好きなんだ…愛してるんだよ」
フランクは、まっすぐエリザの方を見て、そう言った。
(愛してる…)
エリザはぼんやりとフランクを見つめ、今の言葉をもう一度、心の中でつぶやいた。
「私…一人じゃないの…?」
「あ、ああ!一人じゃないよ!俺がいる!ずっと俺がそばにいるよ…!!」
そう言って、フランクは嬉しそうにエリザをぎゅっと抱きしめた。
「エリザ、こっち向いて…」
フランクはエリザの頬を両手で添えて、優しく口づけした。
エリザはフランクの唇に触れながら、ぼんやりとした頭の中で、同じ言葉を繰り返していた。
(私は一人じゃない…私は…)
しかし、目はうつろなまま、どこか別の方を向いていた。
◇
もうだいぶ辺りは暗くなり、フランクはエリザと別れ、町へと続く川沿いの道を歩いていた。
(早く父さんを説得させなきゃな…)
フランクの両親は、学校をやめるなどということを了承しているはずがなかった。
ましてや、全くなじみのない貧乏な少女を養いたいなどと…
フランクの家では、毎晩口論が絶えなかった。
(もし、許してもらえなかったとしたら、そんときは家を出て行くしかないな…)
フランクはぶつぶつと考えを巡らせていた。
(とりあえずはエリザの家に転がり込むしか…でも、きっと親にはすぐ見つかっちまうよなあ…)
―――私…一人じゃないの…?
ふと、先ほどエリザがつぶやいた言葉を思い出した。
(エリザが…初めて自分から…)
フランクは自然と口元がほころんだ。
エリザは自分を拒絶することはほとんどなかったが、フランクに対して彼女から何か行動を起こすことは全くと言っていいほどなかった。
ずっと強気な態度を取っていたフランクだが、心はいつも不安で満ちあふれていた。
よって、エリザのこの言葉は、フランクにとって初めて自分を受け入れてくれた証であったのである。
「フランクがいるから、私は一人じゃないのね」と…
フランクは、喜びが押さえられず、自分の頬をぱんぱんと叩いた。
(明日も、来よう…)
フランクがそう思って前を向いたとき、川の方からがさがさっと音がするのが聞こえた。
(なんだ…?)
フランクは一瞬気になったが、もうすっかり辺りは暗く、よく見えない状態であったので、特に気にもとめず、そのまま町へと向かっていった。
◇
ジュリアンは体の痛みをこらえながら、力を振り絞って走った。
人々の肩にぶつかりながら、よろめきながら、ひたすら走り続けた。
「待て!!」
後ろの方から、ドミニクの怒鳴り声が聞こえる。
ジュリアンははっとして、さらに走った。
町の橋のところまで来て、ジュリアンは無意識に通り慣れた道が続く方へ曲がった。
そして、さらに全力で走り続けた。
「てめえ!!待てよ!!」
ドミニクはなおもしつこく追ってくる。
ジュリアンは力の限り走っているつもりであったが、体の痛みと疲労で走る速度は明らかに遅くなっていた。
次第に、ジュリアンとドミニクの距離は縮まりつつあった。
(殺される…)
ジュリアンは心の中でそう思った。
死なねば、と昨日まで思っていたのに、本能的に死ぬのを恐れていた。
「はあっはあっ…」
暗闇の中、息を切らしてジュリアンはなんとか走っていたが、何かの拍子に足がもつれ、前のめりになって倒れた。
(は、早く立たないと…)
しかし、一度止まった脚はがくがくと震え、全く力が入らなかった。
そのとき、すぐ後ろから低い声が聞こえた。
「手こずらせやがって…くそ野郎!!」
ドミニクはジュリアンに飛びかかり、ジュリアンをこちらに向かせて顔面を思い切り殴った。
ジュリアンはそれでもなお、四つん這いになって逃げようとした。
ドミニクはジュリアンの背中に飛び乗った。
しかし、その拍子に二人はバランスを崩し、土手を転がり落ちた。
そして、完全にドミニク優位の態勢になったところで、ドミニクはジュリアンに言った。
「てめえ…何があったか知らねえけどな、自分の憂さ晴らしだけのために人の女を手篭めにするなんてなあ…!!」
そう言って、大きな拳でジュリアンの頬を殴った。
ジュリアンの口からは、大量に血が流れていた。
「アリーヌがあんなやつ半殺しにしていいってよ…元々てめえのことはずっとこうしたいと思ってたからなあ!!」
そしてドミニクは何度も何度も、ジュリアンを殴り続けた。
顔だけでなく、腹や背中、体中を殴り、蹴りまくった。
ジュリアンは、もうほとんど動くことができず、頭も朦朧としていた。
時折咳込むか、指をぴくりと動かすのみであった。
「どうだ、痛いか?あ?」
「…」
ドミニクはぺっとジュリアンに向かってつばを吐きかけた。
「痛えだろ、俺もここまで人を殴ったことねえからな!」
「…」
「悪い気はしないぜ、てめえみてえな器量だけで生きてるようなやつをぼこぼこにするってのはな」
「…」
「…でもな、まだ俺の気持ちはおさまらねえんだよ!!」
ドミニクはぼろぼろになったジュリアンに向かって罵声を浴びせた。
ジュリアンははあはあと息を吐いて、黙っていた。
「そうだなあ…てめえにも、俺と同じ気持ちを味わってもらうってのはどうだ?」
「…」
頭がぼんやりとした状態で、ドミニクの言葉は一応耳に入っていたが、ジュリアンには意味がよくわからなかった。
「お前さあ…フランクの彼女のこと、好きだったんだろ?あ?」
「…!!」
(エリザ…?!)
なぜエリザが…?
「フランクに聞いたぜ…あの子、この辺に住んでるってさ」
「…」
そして、ドミニクはにやりと笑ってこう言った。
「その子にも、お前がアリーヌにしたのと同じこと、してきてやるよ!!」
「!!」
ジュリアンはうつろだった目をはっと開けてドミニクを見た。
ドミニクはジュリアンを見降ろして、もう一度腹を蹴った。
「うっ」
ジュリアンはうめき声をあげて、腹をかばった。
ドミニクはへっと笑ってその場を離れようとした。
「ま、待って…!!」
ジュリアンは力を振り絞り腕を伸ばして、ドミニクの足首を掴んだ。
するとドミニクはバランスを崩し、前のめりになって倒れた。
「何すんだ!!くそが!!」
「だ、だめだ…それだけは絶対…」
ジュリアンはドミニクに哀願した。
「お願い…それだけはやめてくれ…」
「はあ?!だからやるんだろうが!ばかなのかてめえは!」
「僕はアリーヌに何もしてない…!だいたい、誘って来たのはあっちだ…!!」
「うそつくなって言ってんだろ!!アリーヌは泣いてたんだぞ!!馬鹿野郎!!」
ドミニクは起き上がろうとしたが、どこにそんな力が残っていたのか、ジュリアンはドミニクに飛びかかるように後ろから抱きついた。
「お願いだよ、エリザにそんなことしないで…!!」
「うるせえな!離せよ!!」
しかしジュリアンはしつこくしがみついて、ドミニクはなかなか振りきれなかった。
(だめだ!!絶対エリザのところへは行かせない!!)
「離せって!」
ドミニクは右腕を大きく振り上げてジュリアンを弾き飛ばした。
そして隙を見て走りだそうとした。
「ドミニク!!」
ジュリアンは叫んで、ドミニクを追いかけてもう一度抱きついた。
「ねえ、ねえドミニク…」
「なんだよ!!しつけえんだよくそ野郎が…」
ドミニクは苛々とした口調で怒鳴ったが、ジュリアンの様子のおかしさに一瞬唖然とした。
ジュリアンは、口から血を流しているにも関わらず、かすかに微笑みを浮かべていたのである。
「ドミニク、エリザなんかより僕の方がいいよ…」
「は?!何言ってんだよ気持ちわりい!!」
ドミニクは無視してジュリアンから離れようとした。
しかし、ジュリアンはぐっと力を入れて、ドミニクを離そうとしなかった。
「知ってた?僕ね、体で稼いでたとき、男も相手してたんだよね…」
「知らねえよ!!どうでもいいよそんなこと!離せ!!」
「そ、それでね、結構評判良くてさ、ほら、僕、女みたいだろ?女を抱いてるみたいだって…」
「だからなんなんだよ!気持ち悪いからどけよ!!」
ドミニクは必死になってジュリアンから離れようとしたが、ジュリアンはなおも食い下がった。
「ねえ、だからちょっと僕で試してみない?君、まだなんだろ?」
「うるせえ!!やだよ男となんか!!」
「ドミニク、こっち向いて!!」
そう言うと、ジュリアンはドミニクの唇に自分の唇を覆いかぶせた。
そして、そのままジュリアンはドミニクを押し倒した。
「うっ」
ジュリアンはドミニクの上で四つん這いになった。
そして、どうすれば相手が喜ぶかを経験で知っていたジュリアンは、必死でドミニクの舌に自分の舌を絡ませた。
「はあっはあっ」
突然のことに目を見開いて、ドミニクはただ息を切らしていた。
「ド、ドミニクどう?気持ちいいでしょ?目閉じるともっといいよ、本当に女とやってるみたいだからさ…」
ジュリアンは微笑んで、もう一度ドミニクに口づけしようとしたが、ドミニクにどん、とはねのけられ尻もちをついた。
「てめえいい加減にしろよ!!」
ドミニクは口を拭いながらはあはあと息を息を荒らげて、目を見開き少しおびえるような顔でジュリアンを見た。
「お前とこんなことするために来たんじゃねえんだよ!」
そう言って、ドミニクは四つん這いになってジュリアンから離れようとした。
「待って!!」
ジュリアンはすかさずドミニクの足に掴みかかった。
そして、突如ドミニクのズボンをぐいっと下ろし、尻を露出させた。
「て、てめえ何すんだ!!」
ドミニクは驚いて振り返った。
「ねえ、だから、ちょっと待って」
ジュリアンはおもむろにドミニクの下半身を掴んだ。
「うっ」
思わずドミニクは声を上げた。
「ほら、嫌がってるくせにこんなになってるよ。僕そんなに悪くないでしょ?ねえったら」
顔が血だらけのジュリアンは甘えるように笑いながら、ドミニクの後ろから掴んだまま何度も手を動かした。
ドミニクは四つん這いのまま、うめき声のようなものを上げて震えていた。
「や、やめろよ…」
「だめだよ、もっといいことしてあげるからね」
そう言って、ジュリアンはドミニクをころんと仰向けにして、掴んでいた下半身を思い切り咥え始めた。
(…っ)
一体何日ろくに洗ってないのかわからないが、とにかくひどい悪臭が漂っており、咥えた瞬間吐き気に襲われたが、ジュリアンはぐっとこらえた。
そして、自分の口の奥に押し込んだり、戻したりを何度も繰り返した。
(こんなことでしか…時間を稼げないから…少しでもこいつを落ち着かせることができればきっと…)
ジュリアンはそう信じて、ひたすら口を動かし続けた。
「う、うう…」
ドミニクは体を震わせながら、目をぎゅっとつぶっていた。
初めてのことで、何が何だかわからないという様子であった。
ジュリアンは何度も吐き気を催しながらも、必死になってドミニクの下半身と格闘していた。
(絶対…絶対エリザのところには行かせない…)
次第にドミニクの息が荒くなり、ジュリアンは口の中のものが膨張していくのがわかった。
「な、なんか…」
ドミニクが何かつぶやいた瞬間、ジュリアンの口の中はドミニクの体液であふれた。
「ごほっごほっ」
ジュリアンは耐えられずひどく咳込んだ。
悪臭の余韻と、体液と血液が口の中で相まって、これ以上ない不快感を覚えた。
そんなジュリアンの様子をぼんやりと見ていたドミニクは、はっと我に返ってジュリアンを足で弾き飛ばした。
ジュリアンは顔面を思い切り蹴られ、後ろに倒れ込んだ。
「何なんだよお前…はあはあ…わけわかんねえよ…」
「…」
「じゃあ行くからな」
ジュリアンははっとして聞き返した。
「行くって?!どこに?!」
「はっ決まってんだろ。エリザって子のとこだよ」
「…?!!」
ジュリアンは愕然とした。
「い、今ので気が済んだろ?!もうそんな気にならないだろ?!」
「何言ってんだよ!!てめえが俺と同じ気持ちになるまで、気が済むわけねえだろうが!!馬鹿か!!」
ドミニクは怒鳴って、そこら辺に生えている草をぶちっと抜き、ジュリアン目がけて投げつけた。
草はジュリアンの頭の上をはらはらと落ちて、ジュリアンにまとわりついた。
「じゃあな、あの子全然タイプじゃねえけど、てめえの代わりに味見して来てやるよ!」
「!!!」
ドミニクはがはは、と下品に笑ってズボンを直し、その場を立ち去ろうとした。
「待って!!」
ジュリアンはだっと駆けだし、ドミニクに飛びかかった。
「だ、だめ…絶対だめ…」
「離せ!!もう諦めろ!!」
「…っ」
ジュリアンはぐっと力を込めて、後ろからドミニクの尻を殴った。
そのせいでドミニクが思わずよろけたのを見計らって、ジュリアンはもう一度後ろから押し倒した。
「いてっ」
ドミニクは、先ほどの行為のせいで体力が消耗されていたのか、あまり力が入らないようであった。
「てっ…何すんだよ!しつこいぞお前!!」
「ドミニク、僕としようよ…ねえ…」
「はあ?!ばっかじゃねえの!!いい加減に…」
次の瞬間、ジュリアンはまたドミニクに激しく口づけをした。
唾液が滴るほどぐちゃぐちゃと音を出し、ジュリアンの血と混ざった。
「おえっ…」
ドミニクはジュリアンの血の味と、自分の体液の味を感じ、何とも言えない不快感に襲われた。
「ねえ、ドミニク、ドミ…」
ジュリアンがドミニクにすがりながら名を呼んだ瞬間、ドミニクは思い切りジュリアンを殴った。
ジュリアンはそのままどさっと地面に背中を打ちつけながら倒れた。
「いた…」
ジュリアンがもう一度起き上がろうとするや否や、突然ドミニクが自分に覆いかぶさり、ジュリアンのシャツを両腕で引きちぎった。
ぶちぶちとボタンが弾かれる音がし、ジュリアンの肌があらわになった。
そして、ジュリアンの髪を乱暴に掴むと、ドミニクは怒りの形相で顔を近づけた。
「てめえ…いい加減にしろよ…」
「…」
「そんなに…やってほしいんだったらやってやるよ…」
「…」
「まずてめえから滅茶苦茶にしてやるよ!!」
(…!!)
そう叫んだと同時に、ドミニクはジュリアンの腰巻とズボンを一緒に下ろし、ジュリアンを四つん這いにして無理やり自分の下半身を押しこんだ。
(痛い…!!)
ジュリアンの体に激痛が走った。
ジュリアンはこういうことには慣れているつもりであったが、相手が未経験の上にあまりに乱暴であったので、痛みと激しい不快感に顔を歪めた。
ドミニクははあはあと息を荒らげながら、がむしゃらに腰を動かしていた。
「ド、ドミニク上手だよ…」
ジュリアンは血まみれの口元に笑みをたたえながら、ドミニクにささやいた。
ドミニクは荒く息を吐くだけで、返事をしない。
「もっと…いっぱい腰振って…ああっ…」
ジュリアンは精一杯演技をした。
痛くて痛くて仕方なかったが、とにかくドミニクの気を自分にひきつけておくしかないと思った。
「うくっ…」
だいぶ時間が経った頃に、ドミニクは顔をしかめてようやく何かが来るのを感じた。
「ああっドミニク…!!」
ジュリアンが叫んだとき、ドミニクはジュリアンの中に思い切り体液をぶちまけた。
「はあはあ…」
ドミニクは呆然として立ちすくみ、ジュリアンはその場にばたっと倒れ込んだ。
そのとき、ドミニクは後ずさりして生えている草ががさっと音を立てた。
息も絶え絶えのジュリアンはその音を聞いてびくっと体を動かした。
ジュリアンはドミニクがエリザのところに向かおうとしているのかと思い、肘をついて顔を上げた。
そしてなおも色っぽい笑顔を向けて、ドミニクにささやいた。
「ド、ドミニク…まだだよ…まだ終わってないよ…はあはあ…これからもっともっと…気持ちいいこと…」
ジュリアンが最後まで言い終える前に、ドミニクはジュリアンの顔面を思い切り蹴り飛ばした。
そして間髪いれずにもう一度、そしてもう一度、何度も何度もジュリアンを殴り、蹴りまくった。
ジュリアンがほとんど動かなくなったときに、ドミニクは息を切らしてジュリアンを見降ろした。
「お前…気持ちわりいんだよ…」
「…」
「なんなんだよ…頭おかしいよ…狂ってんのか」
そう言って、しばしジュリアンを見つめていたが、ドミニクはその場を離れようとくるりと背を向けた。
「ま…待っ…て…」
ジュリアンはなおもドミニクを引き留めようと、がくがくと腕を伸ばすと、ドミニクのくるぶしに指が触れた。
そのとき、ドミニクはびくっとしてジュリアンの方を振り返り、震える声で叫んだ。
「お、お前怖いよ!!なんなんだよ!!もういいよ!!」
その顔は、恐ろしい化け物でも見ているかのようであった。
そして、逃げるように駆けだして、あっという間に姿が見えなくなった。
(どっちに行った?!町?!それともまさかエリザの家に…?!)
しかし、ジュリアンが何を思っても、今となってはもはやどうすることもできなかった。
ジュリアンは、立ち上がるどころか、ほとんど裸の状態を直すことができないほど、ひどく痛めつけられていた。
声も出ず、息をするのもままならなかった。
(エリザ…無事かい…?)
ほとんど意識がない中で、ジュリアンはエリザのことを思った。
(もう僕にはこれ以上何もできないよ…)
もしあのあと、本当にドミニクがエリザの家に向かったら…
(僕のせいで、二度も怖い目にあってしまうね…)
自分がエリザに乱暴しようとした時のことを思い出しながら、ジュリアンは辛そうに目を閉じた。
(無事でいて…君さえ無事なら…僕はこのまま死んだっていい…)
ふと、もはやぼんやりとしか思い出せないエリザの笑顔を思い浮かべた。
(君は一人じゃないよ…幸せになって…)
そして、ジュリアンはそっと目を開けた。
「エリザ…好きなんだ…愛してる…」
小さく小さくつぶやいて、ぽろっと涙をこぼした。
そして、すっと目を閉じて、そのまま動かなかった。




