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【勘違い其の五】勘違いは夕食後の自室と共に……

俺が如月さんと、偽りの恋人同士を演じながらも、確かな友情が目覚めたその日の夜の出来事だ……


「貴方が岸本雄一君で間違いないですね?」


自宅の一階の居間で、家族揃って夕飯を食べ終えた俺が、自分の部屋に入ると、本来ならば誰もいない筈のその部屋の中から女の子の声がしたのである。


その声により、俺は部屋の明かりを付ける前にその動きを完全に停止させて、思考の海へと潜り、この突然の事態をどう解釈するべきか、検討を開始する。


まず第一にこの家の家族構成は、父と母、それに姉と俺の四人家族だ。


常識的に考えれば、先程の女の子の声の正体は、この家に住んでいる母か姉という事になる訳だが、今は母も姉も居間で最近はまっているテレビドラマを観ている筈なので、その可能性は無いだろう。


姉とその友達が仕掛けた、俺に対するドッキリという可能性もあるが、生憎と今日は姉の友達は遊びに来ていないし、その友達も現在、我が家の女性陣がはまっている、テレビドラマのファンなので、貴重な時間を割いてまで態々俺の事を構う様な真似をするとは到底思えない。


それに先程聞こえた声は、俺が知っている誰の声とも当てはまらなかった。


順当に考えるのであれば、何らかの手段を用いて、俺の部屋に不法侵入した不審者だとは思うのだが、しかしそれは何処かおかしい。


何故ならば、先程の声は、間違いなく俺の名前を呼んだからだ。。


つまり声の主は、俺を少なからず知っているという解釈が妥当と言えるだろう。


だがしかし、俺の名を呼んだ女の子の声に、その呼ばれた当人である俺は、一切として思い当たる節が無い。


そう考えると、非現実的ではあるが、先程の女の子の声の正体は、幽霊なのではないかという、新たな突拍子も無い可能性が、俺の脳裏を過ぎる。


部屋の明かりを点けていない為に、視覚的な情報は無いので、こんな荒唐無稽な考えすらも、検討の一つとして数えてしまうのだろう。


闇は古くから、人々に様々な恐怖を連想させて、それが幾つもの架空の怪物や物語を作り上げてきた。


目の前で起こる出来事を、自分なりの観点から、様々な考察を巡らせるというのは、人間に与えられたとても素晴らしい能力だとは思うが、今はこの部屋に明かりを点す為のスイッチに掛けられた、俺自身の指を、あと少しだけ動かせば、新たな真実が分かるかも知れない。


人は何時だって、困難を切り抜けて、幾つもの真実と栄光を手にしてきたのだ。


時には挫け、失敗して、後悔するかも知れないが、それでも先人達は、己の真実を追い求めて、人生という名の冒険を続けてきたのである。


俺もまた、そんな偉大な先人達に習い、この暗闇の先に広がる真実を、その目にする為に、勇気ある一歩を踏み出さねばならない……


「……誰かいるのか?」


いつでも、部屋から走り去る事が出来る様に、準備を整えつつ、俺は慎重に部屋の明かりを点ける。


そして俺が点けた明かりは、部屋全体を照らすと同時に、先程の声の正体までをも明らかにした。


それは神々しく輝く様な金髪と、純度の高い宝石を彷彿とさせる青い瞳を持つ、一人の少女だった……


見た感じの年齢は、俺と同年代と思われる、十代半ばから後半といったところだろうか。


身長は恐らく160cmも無いといったところだろうが、欧米の人から見たら小柄かもしれない。


まあ、日本人から見れば、平均的な身長だと言えるだろう。


……其処までは良い。


不法侵入という時点で、少女の存在自体が良いとは言えないかもしれないが、そんな事はどうでも良い。


本当は良くないが、今はそれ以上に気になっている事がある。


まずは少女の格好なのだが、大量の白いレースとフリルがついた純白のドレス?だろうか。


更にその背中からは、ドレス?と同じく純白の大きな翼が生えている。


その姿はまるで……


「初めまして……私はフィルナリア・クロスロードと申します。フィルと呼んでくださいね」


自身をフィルと呼ぶ様に俺に言った少女は、温和な笑顔で微笑む。


「……君は?」


俺は少女の正体を確かめる為に、不躾に尋ねると、少女フィルは、笑顔を絶やす事無く語り始める。


「私は天界から修行の為に、雄介さんの元に参りました、見習いの天使です」


「天界から修行に来た……見習い天使?」


フィルの言った言葉を、俺が繰り返して言うと、フィルは笑顔で頷きながら話しを続けた。


「はい。私達……天使見習いは、一人前の天使になる為に、この地界……雄介さんに分かりやすく言えば、人間界とでも言いましょうか。其処でパートナーと共に、様々な試練に挑まねばならないのです」


「……そのパートナーが……俺なのか?」


「その通りです。これから宜しくお願い致しますね。雄介さん」


なんと言う事だろうか……


俺の心は今、かつて無い衝撃に支配されている。


何せ俺の部屋に侵入してきたのは、とても厄介な奴だったからだ……


その名は本名かどうか知らないが……フィルという一人の少女。


彼女はきっと現実と二次元の境目を見失ってしまった……かなり残念なコスプレイヤーと見て間違い無いのだから……

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