優しい便りを受け取りました。
私には、叔母がいる。
・・・正確には「叔母がいた」と言う方が正しいかもしれない。
こじんまりとした一軒家。
まわりには、色とりどりの花がさきみだれ、家の中からはあま~い、美味しそうな香りが漂ってくる。
お得意のシフォンケーキでも焼いてるのかな~。食べたいなぁ。
開けっ放しになってる扉から中にお邪魔する。
「あら、美穂さん。いらっしゃぁ~い」
いつみても、小柄で可愛らしい叔母・・・いや、サチコさんが満面の笑みで出迎えてくれる。
子供の頃「叔母さん」と呼んだら、子供心にも得体の知れない恐怖心を覚える破壊力抜群の笑顔でに~っこりと微笑まれてしまった。
その現場を見ていたのであろう父がそっと耳打ちしてきましたよ。
「あの笑顔には、決して逆らうな」と。
えぇ、もぅ、その日以来、あの呼び方は封印しましたとも!
ほわわぁ~んとした雰囲気もあいまって、ホントに何度みても御年40歳には見えないサチコさん。
うむ。やっぱり今日も再認識した。こんなに可愛いらしいなんて、ひきょー(卑怯)だ。
サチコさんは、153cm。対する私は、170cmの大台に達するのも時間の問題だし。
同じ血の繋がりがあるのに、なーぜーだぁー(泣)
「あのね、美穂さん。聞いて聞いて」
今年18歳になった姪っ子の私に対して、サチコさんはいつも「美穂さん」とよぶ。
身長差でどうしても見下し気味になるのが、圧迫感でも与えてるんだろうか?
あぁ、でも身長差でいえば、旦那さん(測った事ないけど、180cm台のはず)との方がもっと差があるよなぁ・・・。
若干、遠い目をしてるであろう私を置いて、サチコさんの話はドンドン進んでいく。
「でね、でね、可愛い家族が増えたのよぉ~。ホラ可愛いでしょ!」
ずずずぅいっと目の前に差し出されたのは、ふわっふわの毛並みの・・・子犬?・・・
いや、いや、いや、いや。
普通、子犬のしっぽが九尾もないでしょ。
あ。そっか。普通じゃないからいいのか。コレはコレで。
しかし。しかしだ!あぁぁぁぁ。ふわっふわの尻尾が、9本もゆっさゆっさしてるよぉぉぉぉ~。
もふっもふに撫でくりまわしたいぃぃぃぃ~。
「ふふふふ。たまらなく可愛いでしょ?あ、因みにお名前は「太郎」君で」
太郎め。なかなか、やるな。
その、ふっかふかの尻尾をふるふるさせて、うるうるでまん丸の黒目で見上げて「きゅぅん」だの「くぅぅん」だの、たまらん!たまらんぞぉぉぉ~!!
「美穂さんってば、見た目は清楚な美人さんなのに、考え方が親父臭いわよ~」
あ、すんません。サチコさん。思考がダダモレでしたか。反省反省。
「太郎君を家族に迎えるにあったって、クマさんが渋って渋って大変だったのよぉ」
えぇ?あの、優しそうでダンディなおじ様「クマ」さんが?
サチコさんには、甘々で可能なお願い事なら何でも、即OK!なクマさんが?
あ、クマさんってのは、サチコさんの旦那さん。
もぅ、それはそれは、カッコイイおじ様なのだ!
シルバーグレーの髪に、優しそうなでもキリリッとした風格があって、「ロマンスグレー」を体現したような方なのだ!!
ま、名前は「クマ」さんだけど(笑)
「家の前で泥だらけで行き倒れてた太郎君を介抱して、毛並みもふっかふかにして、仲良しさんになって、1週間ぶりにお仕事から解放されて帰ってきたクマさんを二人してお出迎えしたのに、なんであんなにご不満そうな顔になっちゃんだろうね?」
うわぁ~。サチコさん、太郎君に同意を求めてますが、私としてはクマさんが不憫ですよ。
お家が大好き、妻が大好きな、クマさんが1週間も帰れなかったという事は、ホントにほんと~に仕事が忙しかったはず。
ようやく家に帰ったら、大好きな妻は小さな獣の世話に夢中。
きっと大きな身体をまるめて、しょぼ~んとしてたんだろうなぁ。
そりゃ、渋りもしますわ。・・・まぢ不憫・・・。
「あらあら、美穂さん。今日は、もう薄くなってきちゃったわよ。ちゃんと寝てる?身体は大事にしなきゃダメよ!」
ありゃ、ホントだ。もう手が透けてきてる。目が覚めちゃうなこりゃ。
「あと、兄さんにもよろしく言っといてね。ちゃんと幸せに毎日過ごしてます。って。兄さんも毎日頑張りすぎないようにね。って」
了解の意味を込めて、力強く頷く。
「じゃ、またきてね~」
サチコさんは、太郎の前足を持ってひらひらと手を振ってくれる。
あ、ちょっと、太郎さん。なにそのにくきゅう、たまんない!くぅ~。
内心、悶えながらも、二人に手を振って・・・目が覚めた。
「ふぁ~。7時か。父さん起きてるかな」
ベットの上で伸びをすると、身体からパキパキと音がした。
下の階のキッチンから、お味噌汁のいい香りがしてきた。
日曜だし、父さんが朝ごはんをつくってるな。
お味噌汁の具は何かな~。じゃがいものお味噌汁がいいな~。
などと考えながら、キッチンに行くとやっぱり父さんが朝ごはんの支度をしてた。
「おはよ~」
「おぅ。おはようさん」
「おはよう。今日は早いのね」
母さんに言われて返事をする。
「うん。サチコさんトコに行ってたから」
「おぉ。サチコはどうしてた?元気にやってたか?」
父さんは、妹のサチコさんが心配でならないみたい。
まぁ、仕方ないか。
だって・・・
だって、サチコさんが40歳でお嫁に行った先は、異世界。
コチラからは訪ねて行く事も、ムコウからは簡単に帰ってくる事もできない、異なる世界。
どうも私とサチコさんは波長があうらしく、私が寝ている時にムコウの世界に行く事はできる。
ただ、魂だけみたいで、私がモノに触ることも、会話をする事もできない。
ま、存在感アリアリの幽霊みたいなモンなのかな?
サチコさんは、私の表情を汲み取って話をしてくれるので、会話をしてるみたいにはなるんだけど。
帰ってきたら、父さんと母さんに毎回報告をする。
「元気に笑ってたよ。何かね、子犬みたいな子を家族に迎えたんだって。ふわっふわの、むっちゃ可愛い子だったよ~。・・・尻尾は9本あったけどね・・・」
「む。犬か。サチコは昔っから、動物に好かれてたからなぁ」
「いいわねぇ。ウチにも犬、居てくれたらいいのにね。尻尾は1本でいいから(笑)」
「でもねぇ、ぶふふふ。クマさんがめっちゃ渋ったらしいよ。太郎君のこと。あ、名前は太郎だって」
「また、サチコが名前つけたな。ま、クマさんは苦労すればいいさ」
「お父さん。笑い方が凶悪になってるわよ。あ、美穂。そのお醤油とって」
「うぁい。あ、お母さんお醤油かけすぎ。血圧あがるよ。でも、クマさん仕事忙しいみたいよ。大丈夫かな?治安が悪くなってなきゃいいけど」
「ああ、それは心配ないない。サチコはいつも通り笑ってたんだろ?クマさんもあぁ見えて、やり手だし、多少自分の国でキナ臭い事があっても、キッチリ治めるだろうよ。・・・む。母さん、この漬物美味しいな。腕あげたな」
「あら、ありがと。クマさんも大変ね。せっかく23年かけて国を平穏にして、王様やめて、サチコさんと幸せな生活を送ろうとしてるのに、未だに色々お仕事が舞い込んで来るなんて」
「ま、仕方ないだろ。なんせ、「「元・王様だし」」」
「クマさんがんばれー」「負けるなクマさん」「サチコを幸せにしろよ!」
届かないとは知りつつも、思い思いに勝手な事をいいながら「ごちそうさま」をする。
私には、叔母がいる。
誰がなんと言おうとも、自慢の叔母がいる。
17歳の時に、魔法という(私からしたら)摩訶不思議な現象でコチラの世界に迷い込んできた青年と出会い、お互いに気持ちを育み「必ず向かえに来ます」その言葉を信じて、ずっとず~っと一人の人を待ち続けた叔母。
40歳の誕生日に「遅くなって申し訳ございません。迎えに来ました」という言葉と共に、キラキラとした光とともにどこから現れたのかダンディなおじ様が、決死の表情で「サチコさん。私と結婚してくれますか?」とのたまった。
叔母は、驚きあわてまくる私達に向かって深く深く頭を下げてから、おじ様に向き直り「はい」とそれは、綺麗なとても綺麗な笑顔で答えた。
それから、叔母は異なる世界に旅立った。
行くことも、帰ることも簡単にはできない世界に。
自慢の叔母は、「幸子」その名前の通り今日も幸せそうに笑っているだろう。
大好きな人の隣で。
そして、たまに叔母から便りが届くのだ。
受け取り人は、私。
今日も、優しい、幸せな便りが届きました。
追記:ムコウの世界では名前の習慣がなく、クマさんの名前は、サチコさんがつけたそうだ。
コチラで言う所の「王子様」だったクマさん、コチラの世界に来たときは、サチコさん曰く
「そうね~、銀の毛並みのクマの〇ーさんだったわぁ~」
「近くの公園にお花見に行った時にね、芝生の上をコロコロ転がってしまって、可愛いかったのよぉ~」
とか、ほわわぁ~んとした調子で言われた時には、「王子様」=「キラキラしいカッコイイ人」という乙女の夢を完膚なきまでに壊してくれた事をここに明記する!
そして、サチコさん。クマの〇ーさん→クマさんって・・・。ま、いっか。サチコさんだしね!