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第九話 Logistics Hell



汐路が目を覚ますとすでに棗たちは起きているらしく部屋の中央で話し合っていた。


 「おいおい、どうなってんだこりゃ? いくら何でもおかしいだろ?」

 「まぁでも、配信自体ネット回線じゃないし……。」

 「でっ……でも、こっこれで……よっ……余裕ができでき……。」


  フローリングに直で寝ていた汐路は痛む腰を我慢しながら身体を起こすと棗達に何があったのか問いただした。


 「ああ、昨日汐路に会うまでずっと配信してたろ? スパチャをそれなりの額投げられてたんだが……それがもう現金として手に入った。即日決済されるなんておかしいだろ? 動画配信サイトの収益化はしてるが今までこんな事無かったぜ?」

 「それは……やはり異能で配信してるからでしょうか?」

 「まぁそれしか考えれねぇな。」


  汐路はフローリングの上に無造作に置かれた札束に目をやる。

  汐路は小さな印刷会社で働くオペレーターだ。

 そんな彼女の一体何ヶ月分の給料かわからない札束に、動画の配信というのは儲かるもんだなと、羨ましくおもっていた。

 日本に戻ることが出来たら自分も動画を配信しようと決意するほどの量の一万円札がそこにはあったのだ。


 「一日でこの額ですか……? 一体いくらあるんです?」


「百三十万ほどだな。とはいえ、食費や装備、日用品に家具まで考えりゃ、すぐ吹き飛ぶ額だ。

配信の投げ銭なんざ、いつまでも続くと思わねぇほうがいい。」

 「安定して稼ぐなら汐路のフリマのほうが宛になると思うぞ?」

 「だといいけどね。」

 「フリマかぁ。クラフトしたのを売るのも面白そうだよね。なっちゃん何気に多才だもん。レザークラフトとかしたり木製グリップ作ったりと。マコちゃんも編み物や刺繍できるもんね。」


  棗はテキサスで暮らしていたときボブとともにハンティング等に行くことが多くハントしたからにはその鹿の皮を鞣しレザークラフトなどに、チャレンジをしていた。

 狩るからにはその生命を無駄にしないようボブにいろいろと教えてもらっていた。


 「ま、アタシの作るもんはマコの刺繍や編み物みてぇに店で売れそうなクオリティってわけじゃぁねぇがな。汐路はフリマなんて能力得たがハンドクラフトで販売とかしてたのか?」


 「う、うん。 そんな大したものは作ってなかったけどね。陽キャに見えるかもしんないけどアニメとかゲームとか好きでオタク側だから……。」


 恥ずかしそうに答えた汐路だったが昨日の昼からまともに食事をしてないためお腹が空腹を訴えかなり大きな音でなり始める。


  「そういやぁ 汐路は昨日夕飯とか食ってねぇんじゃねぇか? 話は飯を食いながらにでもするか。」


  棗は立ち上がり部屋の隅に置いてあった荷物の横にずらりと並んだ缶詰やカップラーメンからカレーヌードルを手に取り汐路へと放り投げた。


 「持ってきたカップラのうちカレーはアタシしか食わねぇから汐路が、食っていいぞ。」

 「棗さんは?」 

 「アタシはコイツがあるから平気だ。」


  そう言いながらアメリカでは定番の甘すぎるチョコバーと日本でおなじみのフルーツ味のカロリーバーを手にとって見せた。


 「カップラで足りなきゃおやつとしてもってきたドリトスもあるし缶詰とかもあるがな。マコ、華音。汐路は昨日から飯を食ってねぇから先に湯をあげてもいいよな?」


 「もちろんだよ。」

 

 鍋にペットボトルの水を注ぎ小さなガスのバーナーに火をつけると棗は鍋を折りたたみ式の五徳の上に起き湯を沸かしはじめる。


  配信者の大半は、投げ銭がいつまでも続くものだと考えがちだ。

それに比べて、棗はずいぶん現実を見ている。

汐路は彼女を、僅かに見直した。

 

「つまりだ。視聴者が一番求めてるのは、銃でモンスターを撃つ映像だ。

飽きられねぇためには、弾を撃って、新しい銃を買い続けなきゃならねぇ。


だが今の生活は、家具もねぇ、着替えもねぇ。

銃ばっかりに金を突っ込めるほど、余裕はねぇんだ」

 

 胡座をかいて座っていた棗は床においていたステンのカップにインスタントコーヒーの粉を適当に入れ湯気の立ち上がるお湯を注ぎ、手に持っていたチョコバーの封を開け一口齧った。


 「でも、モンスターもいる世界だから武器は必需品だよね? 汐路ちゃんはモンスターに襲撃されたんだよね? やっぱりゴブリンぽいモンスターだった?」


「それとオークとかそんな感じのクマみたいに大きな二足歩行の豚みたいな顔のモンスターかな。豚ほど可愛い顔してなかったけど。」


「ふーん。アタシはゲームとかやらねぇから詳しくは知らねぇがマコや汐路はそういったの知ってんだろ? あとで詳しく教えてくれ。アタシらは銃を持っている分オフェンシブな方は多分かなり有利だろうが、魔法だのモンスターだのの攻撃を一発でも食らったらあの世行きの防御力だからな。それに敵対する可能性のあるのはモンスターだけじゃぁねぇ原住民や他の転移者もいる。特に転移者は同じようにチート能力ってのを貰ってるだろうしな。」


 棗の言葉に無心でヌードルを啜っていた汐路がゴクリとそれを飲み込み口を挟んでくる。


 「それなんだけど、人によって凄い違いがあるように思えるよ。貴女達三人はおかしすぎる。私もそうなんだけど……。マコちゃんや私なんか単体で見たらなんの役にも立たない能力だし。一緒に転移してきたウチらのグループもチートって言うほど凄いとは思えない微妙な能力が多かったんだよね。」


 「そうなのか?」


 「うん。まぁそりゃ魔法みたいに炎を出せたり電気出したりって人も居たけどさ。彼氏なんかは幻? 立体映像を映し出す能力だったよ?」


 「まぁそいつも使い所に寄っちゃぁ凄い能力だとは思うけどな。」


 「なっ……なっちゃん。 たっ……多分だけど……。て、転移してきたグループ毎に全員が協力し合う前提……そっそんな風にされてるのかも。わっ……私達三人は……かなり都合よく……おっお互いの欠点を……補えてるし。」


「てこたぁ、汐路のグループにもフリマの能力を補えるような能力を持っていたやつが居たってことか?」


「そういえば、車を買えるって人は居たよ。ただ車って高いしそう簡単には買えないしフリマで稼ぐなんて無理だと諦めてたけど。」


「なっちゃんも買えるんじゃない車?」「いや、アタシは車に興味ねぇからブックマークしてなかったぞ。免許持ってねぇしな。フリマサイトで中古車なら買えるんじゃねぇか? ガソリンは手に入らねぇが。」

「そっか、ガソリンは買えないもんねぇ。でも車があれば移動も楽になるんだけど。」


「方法がなくはねぇ。――理論上はな」

 棗はそう前置きしてから続けた。


「一つはスターリングエンジンを自作して蒸気で動く近世の車を作るってのと、もう一つは電気で動くEVなら魔石でこのセーフハウスから充電させるって手だな。ただEVの車の中古がフリマに出回るかが問題だから、満天やナイルで出力の高いモーターとか買ってEVを自作する形になるだろうな。」


 簡単に口にするが棗も華音もマコもそんな技能を持っていないもちろん汐路もだ。


「棗はそんなことまで出来るのか凄いね。」


「出来るわけねぇだろ? そんなのはわかるやつに教えてもらいながらに決まってる。」


「この世界の人にわかるのかな?」


 「は? マコの配信見てる暇人共に聞くに決まってんだろ。どうせパソコンの前でエロ動画見るしかやることねぇ奴らだ。ならソイツで色々調べてもらう。さ、飯も食い終わったしそろそろ探索するぞ。早く人里見つけて魔石を手に入れて風呂に入りてぇ。」


  たった一日だが、シャワーを浴びていない。

モンスターの襲撃を受け、森の中を走り、何度も転んだ汐路はやや薄汚れていた。


そして、ワキガという呪われた体質の華音からは、苦みのある香りが漂い始めている。


Logistics Hell 物流の地獄

サプライチェーンにおいて複数の深刻な問題が同時に発生し、制御不能な混乱に陥った状態

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