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トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
A Place Filled with Gunsmoke
9/27

第八話 Chain of Command


「さてと、そろそろ夜も更けてきた。今日の配信はここまでだ。明日も適当な時間に始めるから、暇な奴は見に来いよ。ま、家でマスかくくらいしかすることのねぇテメーらは、どうせ暇だろうがな」


: ホントこいつ、最後まで口わりぃなww

: 性格以外は完璧なんだけどなー。

: 容姿だけは最高なんだよ、容姿だけは。

: でも華音ちゃんのワンルームに四人入れるの?

: 棗、もうそこまで汐路を信用してるのか。


「あー……。まぁ、アタシの『勘』が、汐路は大丈夫だと言ってる」


: 棗の勘って当てになるの?

: ヤバいくらい当たる。日本にいた頃から野性の第六感みたいなの持ってるからな。

: 経験則って言うには、ちょっとおかしいレベルなんだよな。

: それより、性欲モンスターの棗と同室で汐路は平気なのか?

: いや、普通に始めそうで怖いんだが。


「……えぇっ!? いや、流石にそれはないでしょ? ……え? ないよね?」


 汐路が不安げに視線を向けると、棗は華音とマコを両脇から抱き寄せ、ニマニマと下卑た笑みを浮かべていた。


「安心しろ。一日くらいなら、我慢してやるよ」


: 一日しか我慢できねぇのかよ! こっちは生まれてから三十六年我慢してんだぞ!

: それは我慢じゃなくてモテてないだけだ。俺なんか四十六年だぞ。

: おいやめろ、悲しくなるだろ。


「じゃあな。配信終了だ。マコ、能力を解け」


 棗の合図でマコが意識を向けると、浮遊していた眼球がふっと闇に溶けるように掻き消えた。


「さて……。配信も終わった。馬鹿話はここまでだ。汐路、ここからはガチの話をするぜ。遊びはなしだ」


 棗の表情から先程までの軽薄さが消え、その瞳には真剣な光が宿っていた。


「汐路の能力は『フリマ』。それで日本円を稼げる。それは間違いねぇな?」


「……ええ、嘘じゃないわ」


「なら、こっちの能力を整理する。華音とマコの力はもう見たな? マコは『配信』によるスパチャで現金を稼ぎ、華音は『居住区』を管理する。さらに華音の部屋は『魔石』さえありゃ、拡張も増築も、電気・ガス・水道のインフラ完備も可能になる」


 棗は一度言葉を切り、シガリロの煙を吐き出した。


「アタシらは魔石と日本円さえありゃ、この世界で最強の生活基盤を築ける。そして、アタシの『通販』能力だ。通販できるサイトはアタシが日本にいた時にブックマークしていたものに限られるんだが……」


「それが……あの銃を手に入れた秘密なの?」


 大手ECサイトである『ナイル』や『満天』に実銃など売っているはずがない。そのため通販以外の能力だと思っていたのだが、本当にブックマーク依存の通販だったことに汐路は驚きを隠せなかった。


「ざっくり言うとな、アタシは帰国子女で高校入学までテキサスで育った。だから銃の扱いには慣れてるし、向こうのガンショップのサイトも日常的に眺めてたってわけだ。……だが、悪いが汐路。アンタに今すぐ銃を渡すわけにはいかねぇ」


「……まだ信用できないからでしょ? 分かってるわよ」


「いや、それ以前の問題だ。まず『金』がねぇ。配信のスパチャを頼りにしてるが、それで生活必需品から何からすべてを賄わなきゃならねぇ。……それをクリアしたとしても、だ。ド素人に銃を持たせるのは、慣れた人間からすりゃ恐怖以外の何物でもねぇんだよ」


「恐怖……?」


「ああ。銃を扱う技術がねぇ奴に持たせりゃ、真っ先に撃たれるのは敵じゃなくアタシら身内だ。

ド素人でも比較的安全に扱える銃はある。だが構造が古かったり、

設計思想が玄人向けだったりで、値段も張る。」


「素人でも安全な銃なんてあるの?」


「一つはリボルバーだ。構造が単純で壊れにくい。もう一つは、マニュアルセーフティがしっかり付いているセミオートだな。……今主流のハンドガンは『ストライカー方式』のポリマーフレーム銃、つまり『トリガーセーフティ』がメインなんだ。引き金そのものに安全装置が付いてるタイプだな。これが、アタシが素人に渡すのを躊躇う最大の理由だよ」


 かつて、銃の扱いに習熟していたはずのアメリカの警察ですらやらかしている。グロックが普及し始めた頃、ホルスターから引き抜く際に焦ってトリガーに指をかけ、自分の足を撃ち抜くという事故が多発した。  だからこそ棗は、未経験者の汐路にはマニュアルセーフティを備えたハンドガン――それこそブローニング・ハイパワーやM1911のように、二段階のセーフティがある銃を持たせたいと考えていた。


 「いいか。金に余裕ができて、多少高くても信頼性の高い銃が買えたとしてもだ。まずはアタシらの目の前で、反吐が出るまで練習させてからだ。……映画みてぇに簡単にはいかねぇぞ。特に初射撃ってのは事故が起きやすい。反動で跳ね上がった銃口を制御できず、自分の頭に向けたまま次弾をぶっ放す奴だっている。流石に『セルフ・ヘッドショット』で退場なんて笑えねぇ話だろ?」


 実際、アメリカの初学者向け講習では、一発目の射撃時にはマガジンに一発しか装填させず、まずは反動の感覚だけを叩き込む。  特に多い事故は、子供の頃に二十二口径のライフルを撃った経験があるからと慢心し、講習も受けずに買った大口径の銃を片手で撃って、暴発や誤射で自傷してしまうケースだった。


 「そこまでやって、ようやく動かねぇターゲットを撃つ『的当て遊び』が許可できるレベルだ。実際に銃を持って戦闘や護身をこなすとなると、エアガンを使ったタクティカル・トレーニングを死ぬほど重ねて、やっとスタートライン。……十歳から退役軍人にしごかれてきたアタシですら、最近ようやく『及第点』だと思える程度なんだ。華音やマコだって、アタシから見りゃまだまだだぜ」


 もっとも、棗の判断基準は極めて厳格だ。体力のないマコはともかく、華音はサバゲーではかなり鋭い動きを見せる。それでも「及第点」と言い切らないのは、彼女の基準がボブたちアメリカ海兵隊の退役軍人にあるからだ。

 とはいえ、棗自身が軍人並みに動けるかといえば、そうではない。  射撃技術や「銃で人を撃つ」ことに躊躇しない精神性は備わっているし、持ち前の野性の勘もある。だが、彼女はあくまで一般人の女性だ。持久力は圧倒的に不足しているし、チームとして動くための戦術理解も、まだ発展途上だった。


 「……まぁ、偉そうなこと言ってるが、アタシらも銃に少し慣れてるだけのド素人だ。銃を手に入れてイキってるガキと、本質的にはそう変わらねぇよ」


 そう言って、棗は自嘲気味に笑って見せた。


 「ねぇ、棗さん。……それが、本当の貴女なの? さっきまでの『頭のおかしい人』みたいなのは、配信用に作ってる姿?」


 「はぁ? んなもん、どっちもアタシだよ。アタシは自己中心的なモラル欠乏症で、ガンフリークでトリガーハッピーな性欲強めのレズビアンだ。……それは一点の曇りもねぇ事実だよ。――そういや汐路。この先、安全そうな拠点を見つけたらどうするつもりだ? まぁ、今から考えても仕方ねぇがな」


 「どうするって……?」


 「アタシら三人は夫婦だから、ずっと一緒に暮らしていく。だが、アンタは違うだろ? アタシらから離れりゃ銃弾は補給できねぇし、日本で使ってた日用品も手に入らねぇ。特にお気に入りの化粧品なんてのはな。……汐路の『フリマ』、購入の方はどうなんだ?」


 「購入もできるけど、フリマで買えるものって大体は『今すぐ必要じゃないもの』だから……。個人出品の家具とか、趣味の品ばっかりだし」


 「確かに、異世界でギターや大型家電を買ってもな。……さて、そろそろ眠くなってきた。セーフハウスに入って寝るとするか。明日は日の出とともに行動するぞ」


 棗は立ち上がり、華音に「扉」を出現させて中へと入っていく。


 「汐路、当たり前だが寝具の予備なんてねぇ。アタシらは自前の寝袋があるが、流石にこの中に二人で入るなんて芸当は無理だ。……悪いが、アンタはそのまま床で寝てもらうことになるぞ」


 「……分かってるわよ。モンスターに怯えずに眠れるってだけで、今は十分すぎるくらい」


 LEDランタンの淡い光に照らされた六畳間。

 手際よく寝袋に潜り込む三人と、フローリングに横たわる汐路。

 静寂の中、異世界での初めての夜が更けていく――。


 Chain of Command

組織内で誰が誰に報告し、誰が指示を出すかを明確にする「指揮命令系統」や「命令系統」を指しますん。

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