No Safe Extraction
仕事が忙しく間が空いてしまいました。
「糞っ くそっ くそっ! 中世で文明が止まってる蛮族の分際でっ!」
シュウジは一回り近くも年下のエリオナに向けられた侮蔑の瞳を思い出し悪態をついていた。
自分にあの小娘の権力があればもっと洗練された日本での運営手法を使い富も名声も手に入れることができると
なんの根拠もない自信とちっぽけなプライドにとらわれていた。
「くそっ こんな底辺みたいな土を弄るような田舎じゃ俺の知能も知識も役に立たない。もっと、話の分かる文明人の居る所じゃなきゃ……。」
そういいながら開拓村の外に広がる森を見つめる。
「そうだ……。こんな所からさっさと移動してしまえば……。」
転移した初日にオークの群れと遭遇し逃げ出したことも忘れフラフラと開拓村の外へと足を踏み出す。
「運悪く初日にモンスターにであったがそのあとは遭遇しなかったじゃないか……。それにあの小娘の来たサレナとかいう大都市はここから1日って話じゃないか。
確率でいえばモンスターに出会う方が低いはず……。」
それに虚像を生み出す異能、攻撃力はなくともその生み出す幻はリアリティ溢れるものだ。モンスターと言えど強大な力を見せればきっと怯え逃げ出すに違いない
そう信じシュウジは宵闇の森の中へ駆け出して行った。
その結果がどういう結末になるのか想像もせずに。
翌朝、棗は広々としたセーフハウスのベッドルームでキングサイズのベッドから身を起こした。
7日ぶりの寝袋ではない寝具と愛する二人の嫁との同衾に、普段よりもずいぶんと遅い起床だった。
いつもは早く起き朝食を用意しているマコも華音も今はつぶれた蛙のような格好でベッドに横たわっていた。
「ふぁぁぁ、なんだよアタシが一番早く起きたのか……。」
大きなあくびをしながらベッドの脇に脱ぎ捨てられている下着を手に取り身に着けリビングに向かう。
インスタントコーヒーを飲みくつろいでいた汐路が棗を苦虫を潰したような顔で見ていた。
「ん?なんだよその不景気そうなツラは。 アタシにもコーヒーを入れてくれ。」
「あ……あんたねぇ……。居候させてもらってこんなこと言うのは間違ってるとは思うんだけど……。
一体どんだけしてんの!? 完全に防音ってわけじゃないんだから……それに華音の声大きすぎ!!」
「あー? なんだムラムラしちまったってか? 相手してやろうか?」
「違うわよ!! うるさくて寝不足なの!」
「まぁ そこは諦めろ。ここは華音の能力のセーフハウスの中だ。そしてアタシら3人の愛の巣でもある。 いくら仲間だからってそんなことまで気を使ってやる気にはならねぇ。
前に自分で言ったろ? モンスターに襲われない寝床があるだけで十分だってな。 それで満足しておけ。」
「まぁそうなんだけどさ……。ていうか、服ぐらい着なさいよ。」
「今からシャワー浴びてくんだよ。華音の脇汁でベタベタだしな。」
棗がシャワーに向かい暫くすると全裸の華音とマコがフラフラとリビングに現れ汐路はテーブルに突っ伏した。
「なんなの……。この三人、自由すぎでしょ……。」
「あ、汐路ちゃんおはよう。なっちゃんはシャワー?」
ムワっとキツイ匂いを漂わせた華音とまだ眠いのかフラフラと揺れるマコに汐路はチラリと目を向ける。
先ほど見た棗は健康的で引き締まりシックスパックもうっすらと浮き出るほどでスタイルもよかったが、華音も棗程筋肉質ではないが引き締まり見惚れるようなスタイルをしていた。
それとは別にマコも自分のことを胸の大きいだけのデブというがウエストはちゃんとくびれがあり太っているというより男が喜びそうな肉感を備えた身体つきをしていた。
「あ、うん。今シャワーを浴びに行ったとこだよ。 それよりスタイル良いわね……。羨ましい。」
「え?そう? まぁ私たちはなっちゃんに付き合ってるからねぇ。毎日トレーニングしてたら太らないよ。 なっちゃんのもってるM1Aなんか4キロはあるしフル装備したらかなりの重量だもん。
あんなの持って走り回るなっちゃんはすごいよねぇ。あとで一緒に汐路ちゃんもトレーニングしよ。」
「んん‥‥‥なっちゃん……。」
今だ寝ぼけているマコがフラフラと浴室に向かっていく。
「あ、マコちゃん壁にぶつかるよ? 私も汗かいてひどい臭いだろうしシャワー浴びてくるね。」
華音は足元のおぼつかないマコに寄り添い浴室へと向かっていく。
軽くシャワー浴びさっぱりとした3人が戻ってくる。
「さてと、今日のトレーニングは走り込みだ。アタシと華音はともかくマコと汐路は体力がないからな。モンスターから逃げるにしても戦うにしても体力は必須だし。
こんな世界じゃ移動手段も徒歩か馬だろ? アタシらは馬なんかに乗ったことはねぇしアーミッシュじゃあるまいし馬車で移動した経験もねぇだろ?
アタシはアメリカ育ちだからなアーミッシュの馬車に乗ったことはあるが、コンクリートの道路じゃない道を進む馬車なんかとてもじゃないが乗れたもんじゃぁね。
ケツがいてぇし乗り心地も最悪だ。」
「引っ越したりするの?
汐路は割と居心地の良いこの開拓村から出るという発想がなかった。
「あのなぁ アタシはこの世界にきてまだ一週間だぞ?この世界の何を知ってんだ?確かにあのガキンチョはまっとうな統治者だったし、おそらくその親この領土の領主もまともだろうな。 だが、アタシらは転移してきた転移者だぜ?異物が紛れ込んでんだ。王権制の中で民主主義や資本主義を語っても受け入れられねぇし異端の存在だ。それにアタシはお前もよく知る通りこんな性格だからな追われる身になることもあり得る。」
確かに棗は貴族相手には無礼すぎる態度だし、ほかの転移者の言う通りイカれた女だが……その力で略奪をしようとしたりそういった真似はしない。
配信であの転移者の日本にいる家族に迷惑をかけようとしたら怒るほどだ。
彼女の中のドクトリンに触れなければ、その銃口は人には向けられないと汐路は理解していた。
「棗がむやみやたらに暴力を振るったり銃口を向けたりするとは思わないけどね。」
「あ?アタシは既に騎士を撃ってるじゃないか。ま、先に抜いたのは向こうだがな。
それにだ アタシらはともかく もしこの世界のどこかに日本に帰れる方法がある 、そう聞いてもお前はこの村から出ないのか?」
「え……。」
「まぁ、あの女神もアタシらの身に降りかかったのは事故で異世界転移なんざありえないことだと言ってた。
だが、確かに異世界ってのが存在する以上突き詰めていきゃ科学でも魔法でもコストや難易度を考慮しなきゃ到達できるってこったぜ?」
そう言いながらいつものシュータースタイルに着替えると、ベルトやリグをつけ始める。
「あれ? 今日は走るんじゃなかったの?」
汐路が疑問に思い尋ねる。
「あん?普通に走ってどうすんだよ。走らにゃなんねぇ状況を想定してトレーニングするにきまってんだろ?
汐路は基礎体力がねぇからまずは普通に走って体力をつけるところからだが、アタシらはいざって時の体力作りだ。
汐路がアタシらと離れた場所に居てモンスターの襲撃があった時汐路はアタシらの到着まで逃げる体力を、アタシらは銃を担いで汐路のもとへ急ぐ脚力を鍛えるってところだな。」
「いろいろ考えてるのね。」
Extraction
軍事用語でいうところの 撤退、救出、回収を意味します。
アーミッシュ
アメリカのペンシルベニア州や中西部、カナダに居住するドイツ系移民のキリスト教徒(メノナイト系)の教団
現代社会で電気などを使用せずに中世のような生活をしてます。
アーミッシュの暮らす集落付近では観光客が馬車体験をできます。




