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The Measure of a Man

 「彼を少し借りていいかしら?」

 エリオナは哲平に興味がわき、開拓民に声をかけた。


 「は、はい。」


 「ん?誰? えっとひょっとして偉い人?」


 「私はエリオナ・アーデンベルグ。このアーデンベルグ領の南東を管理していますわ。」


 「あ、俺……いえ、ボクは哲平です。異世界から来ました。」


 「ええ、知っているわ。先ほど棗さんたちにも用があって会ってきました。

  一つ聞かせて。……あなたから見て、あのナツメという女性はどう映っているの?」


 その名を口にした瞬間、哲平の肩が微かに震えた。  彼は鍬を置き、遠くの森――棗が銃声鳴り響かせるキャンプの方向を、複雑な眼差しで見つめた。


 「……あいつは、『生存の最短距離』を迷わず撃ち抜く人です」


 哲平の声には、隠しきれない畏怖と、それ以上の諦念が混じっていた。


 「僕らみたいな中途半端な奴らは、この世界に来て『自分は主人公だ』なんて簡単に勘違いしちゃうんです。その甘っちょろい幻想を、あいつは銃弾一つつかうことなく粉々にぶち壊した。……僕も一度、あいつに心を折られました。でも、折られたからこそ、自分がただの『人間』だって自覚して、こうして土を掘ることができている」


 哲平は、自らの泥だらけの手を握りしめた。


 「あいつは悪魔ですよ。慈悲も容赦もない。……でも、あいつが牙を剥いて立っていてくれるから、僕みたいな小物が安心して泥にまみれていられる。……正直、怖くて直視できませんけどね」


 その言葉を聞き、エリオナは得心した。  棗という「壁」があるからこそ、その内側で哲平のような「芽」が育つ。二人は正反対でありながら、この過酷な異世界で生き残るための、不可欠な両輪なのだ。


 「テッペイ様。あなたの試行錯誤を、アーデンベルグは全面的に保護します。ところで、一つ聞くわ私に仕える気はない?

棗との交渉の件であなたにも相談をしたいの。」


 「相談ですか……。僕にそんな資格はあるのでしょうか? 今はこうしてこの村で迷惑をかけた皆さんの為にできる事したい。

それに……僕が居なければきっと死人が増える……。」


 そう言って彼は、やる気もなさげに開墾作業を手伝う他の転移者たちに目を向けた。


 「そう、貴方が緩衝材となってるってわけね。」


 エリオナは哲平に先ほどの棗との会話を聞かせどう思うと、問いかける。


 「怖いですね……僕たちの軽率な判断がこの領の未来を変えてしまうかもしれない。いろんな人の人生を狂わせてしまうかもしれない。

 棗が言う影響はあり得ると思いますよ。ボクはまず、影響の少ないところから始めたらいいと思います。」


 「たとえば?」


 「そうですね、幸いここは開拓を始めたばかりの村です。貧しく物資も少ない。

 この世界にだって鉄製の道具はありますがこの開拓村の道具のほとんどは木製です。

 まずはこの世界でも作れて、ただ予算が無い為に用意の出来なかった鉄製の鍬や鋤、ピッケルなどを少数取引してみてはどうでしょうか?

 この村ばかり恩恵を受けてしまいますが……。」


 「確かにこの世界でもあるものを少数この村の中で使う程度なら……。」


 「僕らの世界の技術に関しては、正直一般人の僕にはわかりません。僕らの中に技術者は居ませんし居たとしても僕らの世界の技術で作られた機材がなければ何もできないでしょう。 棗だったら何かしら特殊な技術を体得してそうではあります……物騒な物ばかりだとは思いますが。」


 「ええ……そうね……。」


エリオナと哲平の、どこか爽やかさすら感じさせるやり取り。それを、開墾地の端にある木陰から、どす黒い羨望の眼差しで見つめている男がいた。


 汐路しおじの元恋人、シュウジだ。


 彼は、棗に徹底的に叩きのめされ、家畜同然の扱いを受けてきた。今もこうして泥にまみれているが、哲平のように自ら進んでやっているわけではない。やらなければ飯が食えないから、仕方なく動いているだけだ。


 (……なんだよ、あの態度の違いは。哲平みたいな脳筋の「怪力」と、あやふやな農法があんなに評価されるのか?)


 シュウジは、エリオナの身なりや、背後に控える騎士たちの装備を見た。あれがこの地の「支配者」だ。あのご令嬢に気に入られれば、こんな泥だらけの生活からおさらばして、街で文化的な暮らしができるはずだ。


 エリオナが哲平に別れを告げ、馬車へ戻ろうとしたその瞬間。シュウジは意を決して、泥を払いながら駆け寄った。

浅薄な「売り込み」


 「――お待ちください!」


 「……何者かしら?」  エリオナが足を止めると、即座に護衛の騎士たちがシュウジの前に剣を突きつけた。


 「ひっ……! い、いえ、怪しい者ではありません! 私はシュウジ。テッペイやナツメと同じ世界から来た者です!」  シュウジは膝をつきながらも、必死に言葉を紡ぐ。その目は、エリオナという「脱出口」を逃すまいとギラついていた。


 「ナツメは暴力的で、テッペイはただの力自慢です。ですが、私は違います。私はあっちの世界で『経営』や『効率』を学んでいました。この村の今のやり方は非効率極まりない。私なら、もっと論理的に領地を豊かにするアドバイスができます!」


 エリオナは、冷ややかな視線でシュウジを見下ろした。  先ほどまでの哲平への柔らかな眼差しは、もうそこにはない。


 「……論理的? そうね、ナツメ様も同じようなことを言っていたわ」

 「あ、あんな女と一緒にしないでください! 私はもっと平和的に、貴族であるあなた様の役に立てる知識を持っています。街へ連れて行ってくだされば、すぐにでも帳簿の改善や、新しい商売の提案を……」

領主の眼、小物の価値


 「シュウジ、と言ったかしら」  エリオナの声が、秋風のように鋭くシュウジを刺した。


 「あなたは、自分の知識を『売ろう』としている。けれど、その前に自分の足元を見たことがあるのかしら?」


 「え……?」


 「ナツメ様は、自分の知識がこの世界を壊す可能性まで予見し、あえて悪役として『責任』をこちらに突きつけた。テッペイ様は、自分の知識の不完全さを認め、この地の民と共に泥にまみれて『信用』を積み上げた。……対して、あなたは何?」


 エリオナは一歩、シュウジに歩み寄る。


 「あなたが今語った言葉の中に、この地の民への敬意や、失敗を背負う覚悟がどこにあるの? 私に見えるのは、自分だけが助かりたいという卑屈な打算だけよ」


 「そ、それは……! 私はチャンスがなかっただけで!」


 「チャンスなら、今あなたの目の前にある土がそうでしょう。テッペイ様はそれを掴み、あなたはそれを『汚いもの』として蔑んだ。……グレッグ、行きましょう。これ以上、この男に割く時間は不要だわ」


 「はっ!」


 エリオナは二度と振り返ることなく馬車に乗り込んだ。  シュウジは、突きつけられた剣先が引かれるのを待って、地面に突っ伏した。


 「……クソッ……なんだよ、どいつもこいつも……ッ!」


 遠ざかる馬車のわだちを見つめながら、シュウジは拳を地面に叩きつける。  その様子を、少し離れた場所から哲平が、そしてキャンプの方から棗が――まるでゴミを見るような冷めた目で見つめていた。

サブタイトルは2018年 ミシェルフランコ監督の映画 邦題 母という名の女の

原題ですね

人間の価値・尊厳・選択を問う系の映画でA Few Good Menにしようか迷いましたがこちらを選びました。


後までお読みいただきありがとうございます。


『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、作品への応援お願いいたします!

正直な感想や好きな銃や出演させてほしい銃などで構いません。


また、ブックマークもしていただけると嬉ションしながら1911を握りしめます。



どうぞよろしくお願いします

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