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Devil’s Philosophy

 「棗様、ところで魔石なのですが……。」


 「あん?」


 「グレッグから聞いてるかと思いますが魔石には屑魔石というものがありまして……。」


 「ああ、ゴブリンとかいうクソ雑魚達の魔石の事だな。それがどうかしたのか?」


 「ええ、ゴブリンはとても繁殖力が強く、弱いとは言え集団で襲ってくるため定期的に間引いてるのですが、魔石をそのまま放置すれば魔物がその魔石を食べ続け特異個体として進化してしまうのです。」


 「ふーん。それで?」


 本題は何だと言わんばかりに棗は椅子に背をもたれかかせふんぞり返り煙草の煙を吐き出す。


 「そのため、アーデンベルグ領内……いえ、私の管理してるサレナだけでもかなりの量の屑魔石が大量に保管されてるのですが……棗様の使用用途によっては処分費用はお出しできませんが無償で提供しようかと思います。」


 「ソレは良いんだが、その屑魔石ってのは使用用途はまったくねぇのか?」


 「せいぜい魔術用の特殊なインクを作る程度でしょうか。それでも全然減らなく保管場所の確保だけで大変なのです。」


 「ふーん。アタシらとしては提供してもらえるなら嬉しいところだ。

 華音の能力セーフハウスって言うんだが、ソイツは魔石を使用して部屋を増やしたり広くしたり、部屋の中の明かりを灯したりできる。

 何より部屋を増やしゃぁ汐路が居るから今は我慢してる華音とマコとのレズセも毎晩やり放題、毎日風呂を楽しむことも出来る。」


 「あ、やっぱり我慢させてたんだ……じゃなくって、棗アンタ何言ってんのホントに……。」


 汐路は突っ込みと同時に呆れる。


 「おいおい、男だろうが女だろうが性欲はあるし、愛し合ってりゃやるこたぁやんだろーが。

 ソレこそエリオナなんかは貴族だぞ?ガキを作るのが仕事みてぇなもんだ。アタシら見てぇに18まで義務教育、そっから4年間大学に行くか行かねぇかみてぇなチンタラした人生を歩んじゃいねぇはずだ。16かそこいらにみえるがひょっとしたら既にガキの一人や二人作ってるかも知れねぇ、ガキは居なくとも結婚をしてるかもしんねぇだろ? で、どうなんだ?それともアタシら見てぇにレズビアンか?」


 「棗なんでそんなセンシティブな事聞いてんのよ。」


 「は?そりゃワンチャン一晩の火遊びできねぇかなって……。」


 「むぅ。なっちゃん。私たちの前でそういう事言う?ほら、マコちゃんも言って上げなさい。」


 「あ、あの。 わ、私も一緒に……。」


 「ははっ残念だったな華音。マコは混ざれれば問題ねぇ見てぇだぞ?」


 棗の言葉に華音は天を仰ぎ、汐路はマコが意外にも性に奔放であることに驚いていた。


 「いえ、私は未婚ですし出産経験もありません。ついでに言えばそういった趣味もありませんわ。しかし、そのグレッグから聞きましたが何故そこまで入浴にこだわりが?聞けばオークとの戦いも入浴のために行ったとか。」


 「別にオークの戦いは風呂に入りたかったってのもあるが、あんときゃこの世界にたどり着いたばかりでな。

 二日間かけてようやく見つけた人里だ情報収集できる貴重な場所だったし何より開拓村ってのがアタシらに都合が良かった。

 この世界のことを何も知らず、素性の知れないアタシらが潜り込むにはな。だから、この村が廃墟になるのは困るから手を貸したそんだけだよ。」


 「……徹底して合理的ですね」


 エリオナは棗と言う人物がどこまでも善意では動かない合理的な人物だと改めて認識する。


 「では棗様の世界では入浴はやはり入浴という意味しか持たず何らかの儀式とかというわけではないのですか?修道女の沐浴のようなものだったりとかは?」


 「ないない。強いて言うならアタシら日本人はあっちの世界でも、風呂好き、飯に異常なほどこだわりを持つ、っていう評価だったな。ま、アタシはどちらかというとアメリカ人的な感性だがな。そもそもアタシも華音もマコも無神論者だ。アタシに関してはよく使われる慣用句で『神』を口にするがそんなもんは信じちゃいねぇ。たとえこの世界に来るときにこの異能を神に授けられていたとしてもだ。」


 「神の御業を……その奇跡を目にしてもなお信じないのですか?」


 「あん? どこに信じられる要素がある? 信じるに値する神ならアタシらに異能を授ける前に、異世界への転移なんてもんはさせねぇだろ。

アタシが信じるのはアタシが自分で磨いた技術と嫁の二人だけだぜ。」


 エリオナは側に控えていた騎士の一人に声をかけサレナから持ってきていた屑魔石の入った木箱を持ってこさせる。


 「今回は棗様の人となりを見るためそこまでの量は持ってきていませんが……。」


 「つっても、棺桶みてぇにでかい木箱だ。こんだけありゃ当面は困らねぇはずだ。

あとで華音の能力で取り込んでアタシらにとっての価値に見合った分の食料をこの村に出すと約束するぜ。」


 「ええ、それでは今日はこの辺で失礼させていただきます。」





 棗のキャンプを後にしたエリオナ一行は、村の南側に広がる開拓地へと足を向けていた。

 先ほどまでの、耳を突き破るような銃声が嘘のように遠のいている。

 

 「エリオナ様、棗はああ言いましたが哲平はエリオナ様の助けにはなると思います。」


 案内をしていたグレッグはエリオナにそう進言した。


 「異世界人のほとんどがいまだ現実を受け入れられない中、一人この開拓村で手を取り合う人物です。

 棗のように対等な取引のみ行い普段は線を引くわけでもなく、この村の住人として信頼を勝ち取っています。

 正直なところ彼に棗と同じような能力があったらと願わなくもないですが……彼もまた棗の影響を受け心を折られたこそ今は地に足をつけているのです。」


 「そう。ままならないものね。 とはいえ棗はああして合理的で論理的だからこそこの世界にきても現実をみてああやって生き延びているのでしょうね。

報告によれば転移してきた異世界人は棗達を含めて約50名、この開拓村にたどり着いたのはたったの10名……。他はおそらく……。」


 「生きてはいないでしょうね……。」


 「――ですから、村長。ただ埋めるんじゃなくて、こう、空気を混ぜるようにひっくり返すんです。……たぶん」


 エリオナが近づくと、そこでは奇妙な議論が繰り広げられていた。  汗と泥で顔を汚した青年――哲平が、身振り手振りで何かを熱心に説いている。


 「哲平さんよ、だがそんな手間をかけなくても、うちは代々このやり方だ。腐った草を放り込んでおけば、そのうち土に還るだろう?」


 「いや、あっちの世界の動画……じゃなくて、知識だと、発酵の温度を上げると悪い菌が死んで、土がもっと元気になるんです。……ただ、僕も配合を間違えて、この前のはただの臭いゴミになっちゃったんですけどね」


 哲平は頭をかきながら苦笑いした。彼の語る知識は、決して完成されたものではない。  「これならどうだ?」「いや、それは試したけど駄目だった」と、村人たちと対等に、時には教えを請いながら試行錯誤を繰り返している。


「……見事なものね。ナツメ様が『地に足がついている』と評した理由が分かったわ」

 

 エリオナは哲平の作った、まだ未完成な堆肥置き場を見つめた。  棗が持ち込む「銃」や「既製品」は、この世界の既存の価値観を破壊し、飲み込んでしまう劇薬だ。対して、哲平がやろうとしているのは、この世界の素材を使い、住人と共に汗を流して生み出す「緩やかな進化」だった。


 

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