The Young Ruler's Gamble
アーデンベルグ領南東、巨大なラピス湖のほとりに築かれた水の都「サレナ」。 観光都市としての華やかさを誇るこの街の執務室で、末妹エリオナ・アーデンベルグは、開拓村から届けられた緊急報告書を前に深く椅子に背を預け、こめかみを押さえていた。
「……全く、なんて頭の痛い話かしら」
独りごちる彼女の瞳には、しかし微かな「熱」が宿っていた。
兄や姉たちが鉱山や穀倉地帯といった領土の要を治める中、末っ子の自分に与えられたのは平和な観光地。
やりがいはあるが、観光地。裏を返せば「失っても痛くない場所」だ。
どこか「おままごと」のように感じていた日々。
だが今、手元の紙面に記されているのは、歴史を塗り替えかねない異世界の脅威と可能性だった。
報告書によれば、開拓村を襲ったオークの群れを、異世界の少女たちは一蹴したという。
魔法も使わず、ただ「鉄の筒」を向け、雷鳴と共に死を撒き散らす未知の武器。
(オークを一瞬で沈める威力……。もしそれが軍隊として運用されれば、この国の騎士団などただの的に過ぎない。恐ろしい、なんて恐ろしい武器なの)
背筋を震わせる恐怖。しかし同時に、北の帝国との緊張が続くアーデンベルグにとって、それは「頼もしい盾」になり得ることも理解していた。
エリオナは、その最初に訪れた異世界人のリーダー格である「棗」という人物の行動を分析する。
報告書に記された彼女の口調は荒く、態度は不遜で、およそ淑女とは程遠い。だが……。
(言葉の粗雑さに騙されてはいけないわ。この棗という女性、驚くほど論理的に動いている。村との間に明確な「利害関係」を築くことで、自分たちの立場を守っている……。感情で動くタイプではないわね)
それゆえに、エリオナは彼女に強い「危険」を感じていた。
彼女の行動原理の根底にあるのは、法や秩序への忠誠ではなく、あくまで自己と仲間の安全だ。むしろ、権力者という存在そのものに強い嫌悪感を抱いている節すらある。
(権威を振りかざせば、彼女は迷わずその力をこちらに向けるでしょう。……扱いを間違えれば、この領地ごと吹き飛びかねない劇薬だわ)
その後、開拓村に現れた他の転移者たちについての記述に目を移すと、エリオナは深い溜息をついた。 自分たちを「お客様」だと勘違いし、救済を叫ぶだけの無能な群れ。開拓村の苦労を顧みない彼らの態度は、統治者として反吐が出る。
だが、その中にたった一人、異質な報告があった。
「……転移者の一名、名は哲平。彼は自らの不見識を真摯に謝罪し、午前中は泥にまみれて開拓作業を、午後は棗氏らの手伝いに奔走。その対価として得た食料を、自らが食べるのではなく村の備蓄として提供した」
「……ふふ、馬鹿正直な。でも」
エリオナの顔から、自然と険が取れた。 欲望が剥き出しになる極限状態で、なお「他者のために」動ける人間がいる。その事実が、凍りつきそうだった彼女の心を僅かに温めた。
報告書の端に記された決裁印の余白を、エリオナは無意識に指でなぞった。
ここに兄や姉の名が並ぶことはない。最初から、その予定はないのだから。
とはいえ父には報告だけは入れておくためペンを走らせた。
エリオナは立ち上がり、机の上の呼び鈴を鳴らした。 間を置かず、有能な侍女リーゼが姿を現す。
「お呼びでしょうか、エリオナ様」
「ええ、リーゼ。……旅の準備をしてちょうだい。視察に行くわ」
「水の都の行事に不備でも? それとも湖の清掃についてでしょうか」
「いいえ」
エリオナは窓の外、遥か西に広がる未開の森を見つめ、表情を引き締めた。
「開拓村よ。あそこに住まう『雷神の娘たち』に、直接会いに行くわ。……アーデンベルグの未来が、あの場所にあるかもしれないから」
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